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第10章 紺碧の魔海
第21話 風雲鬼岩城
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少し休んだ後、クロキ達は鬼岩城に突入することする。
中に入るのはクロキとトヨティマ、そしてレイジとマーメイドの姫、それにシロネとチユキにリノとナオだ。
レイジ達の方が多いが、強さを基準に考えた結果である。
コマサ達マーマンの戦士やトリトンの戦士は同行したがったが、それぞれの姫が何とか説得した。
「さて、どうする? このまま行くか?」
「もちろん行くよ。自分が先行する」
レイジの問いにクロキは答える。
「良いのか?」
「うん、まあ。自分の防御力が一番高いだろうから」
クロキは自身の胸に手を置いて言う。
「確かにそうだろうな。海の中でも鎧姿だが、動きに問題はないのか」
「問題はないよ。この鎧は特別。ずっと着ていても良いとさえ思っているぐらいだよ」
この中で全身に鎧を着ているのはクロキだけだ。
鍛冶神ヘイボスの力作である暗黒騎士の魔法の鎧は重さを感じず、海の中でも問題なく動ける。
そのためクロキは自分が先行しようとする。
「私としてはその鎧は好きじゃないんだけどな。何もない時ぐらいは脱いでも良かったんじゃないの?」
シロネはクロキの鎧姿を見て嫌そうな顔をする。
「まあ、シロネさんは幼馴染の顔が見れなくて寂しいからね」
「ちょっとリノちゃん!? 別にそういうのじゃないよ!」
リノがそう言うとシロネが慌てる。
「まあ、シロネさんじゃないけど、少しは鎧を脱いでも良かったんじゃないの? 海の中で鎧は傍から見ると変な感じがするわ」
チユキは呆れた顔でクロキを見る。
レイジ達と合流してから鎧を脱いでいない。
魔法の鎧なので海の中でも問題ないと言っても傍から見ている者からしたら、何か変な感じがするのだろう。
しかし、クロキとしては脱げない理由があった。
「ええと、それはちょっと無理。この下全裸なんだよ」
「えっ……?」
それを聞いてチユキは後ろに下がる。
見るとシロネを含むレイジの仲間の女性達の目が一斉に冷たくなる。
「鎧の下は全裸って……。お兄さんもしかして変態っすか?」
ナオがちょっと引き気味に聞く。
この地域では男が裸になるのはそこまで問題ではないが、クロキ達の元居た世界である日本では鎧の下が全裸はかなり変であった。
特別製の鎧で裸の上に着ても痛くなく、むしろ着心地が良いが、シロネ達から見たらかなり変だと思われても仕方がなかった。
「ち、違うよ! 単純に海の中でも問題ない下着を忘れただけだよ!」
実は最近のクロキは旅に出ても現地で必要なものを現地で調達するようにしていた。
その方が品物を色々と見る事が出来て面白いからである。
しかし、今回はマーマン達の支配領域であり、生活様式があまりにも違うので着替えが手に入らなかったのだ。
しかも、海の中で普通の下着は濡れて使い物にならず、陸に上がり調達する暇もなく、結果鎧の下は全裸になってしまった。
このまま鎧を脱げば股間のブラブラが海中を漂う事になるだろう。
「はあ、全く何やってんのよ……」
シロネはさらに呆れた顔になる。
「ええと……。その下にはヘビがむき出し、ヘビがむき出し……」
そんな中でチユキはぶつぶつと何かを呟いている。
少し顔が赤い。
何を想像しているのだろうか、とクロキは考える。
「暗黒騎士。まだ、行かんのか?」
トヨティマは焦れた表情を見せる。
「申し訳ございません。姫。それでは行きましょう。そちらも良いかな」
クロキが聞くとレイジは頷く。
傍らのマーメイドの姫も弟を救うために速く行きたそうであった。
「それでは行きましょう」
そう言うとクロキ達は鬼岩城の口の中へと入るのだった。
◆
「殿下、閣下達が入って行くのさ」
プチナの言う通り、クロキ達が鬼岩城の口の中に入っていくのが見える。
ポレンはプチナやマーマンの戦士達と共に鬼岩城から少し離れた所で待機している。
「そうだね、ぷーちゃん。うーんやっぱり私も付いて行きたかったかな。待っているだけなのは何だか不安だもの」
ポレンは呟く。
クロキは頼りにしていると言っていたが、やはり姫であるポレンを安全な場に置きたかったのではないかとも思うのだ。
折角一緒に来たのだからクロキと一緒にいたかった。
ポレンがそう言うとプチナは驚いた顔をしてポレンを見る。
「どうしたのさ!? 殿下!? 引き篭もりの食っちゃ寝だったのに!? 何か変なものでも拾って食べたのさ?」
「ちょっと、ぷーちゃん……。私を何だと思っているの?」
ポレンは目を細め横目でプチナを見る。
流石に拾い食いまではしない、ちゃんと我慢しているのである。
ポレンがそう言い返そうとした時だった、マーマン達が騒がしくなる。
見ると勇者レイジの妹であるキョウカとその従者カヤが近づいてくる。
師匠であるクーナに匹敵する、美女なのでマーマン達が騒がしくなるのも当然であった。
彼女達もポレンと同じように外で待機だ。
マーメイドの姫の代わりにマーマン達の指揮を取るらしかった。
「ポレンさん。互いに残ることになったのですから、少しお話をしません? どうかしら?」
キョウカはそう提案する。
彼女は囚われている時に少し話をした。
こちらに敵意がないのは確認している。
「ええと別に構いませんけど……」
ポレンはそう答える。
実はポレンはクーナ並みの美女が苦手だったりする。
自身の容姿に自信がないこともあり、また母親やクーナの威圧的だった事もあり、ものすごい美女を見るとつい萎縮しまうのだ。
「ふふ、ありがとうございますわ」
キョウカはポレンの側の岩に座る。
動くと大きな胸が揺れてマーマン達から小さい歓声が上がる。
そんなマーマン達をトリトン達は面白くなさそうな顔で見ている。
まだまだ、両者が仲良くするのは無理のようである。
(すごい胸だな~、羨ましい……。私だってお母様の血を引いているんだもの。いつかぽよよんになってやる!)
ポレンは自身の胸とキョウカの胸を見比べてそう誓う。
ポレンの胸は小さい。
しかし、母であるモーナは巨乳であり、その血を引いているポレンにも可能性はあるはずだった。
「ポレンさん。前はよく話せなかったので、もっとお話をしましょう」
ポレンの様子に気付かないキョウカはにこやかに笑うのだった。
◆
クロキ達は鬼岩城の中に泳いで入る。
「うう。不気味ね。私こういうの苦手なんだけど」
鬼岩城の中に入るとチユキが嫌そうな声を出す。
鬼岩城の口の中、岩には無数のイソギンチャクで覆われていた。
イソギンチャクは淡い光を放ち、城の中を照らしている。
そのため城の中は暗視の力がなくても見る事が出来た。
「確かに不気味~。でも何だろう変な感じがする……」
「変な感じがする? どういう事だ、リノ?」
「ええとね、レイジさん。命をいっぱい感じるのに意思をあまり感じないの……。何だか変な感じ」
リノは首を傾げる。
イソギンチャクの意思を感じる事が出来ないクロキには何が変なのかわからない。
しかし、レイジ達はリノの言葉を疑う事もせず、警戒する様子を見せる。
おそらく彼女の感覚はこれまでも仲間達を助けて来たのだろう。
彼らの強い絆をクロキは感じる。
「少し近づいてみようっすか?」
「ううん、やめた方が良いと思う、ナオちゃん。この光は誘惑の魔力が宿っている。たぶん近づいて来た生き物を食べちゃうための光だよ。ナオちゃんなら大丈夫かもしれないけど、近づかない方が良いかも」
リノはナオを止める。
「なるほどっす。止めとくっす」
ナオは大人しく引き下がる。
「誘惑の魔力があるんか、どうりで何か変な感じがすると思ったわ」
「ええ、私も……」
トヨティマが言うとマーメイドの姫はレイジに体をよせながら頷く。
もしかするとこの光は海の民により強く作用するのかもしれない。
「ねえ、今気付いたのだけど、この城の周りって魚が泳いでいなかったよね。もしかして……」
シロネはイソギンチャクを見て呟く。
「ええ、そうね。おそらく捕食されたんだわ」
チユキも顔が青ざめる。
「確かに長くいたくないな……。先に進みましょう」
クロキは先へと泳ぐ。
暫くすると特に何事もなく広い空間へと出る。
その広い空間の中央部には岩で出来た巨大な玉座があり、そこに座っている者がクロキ達を見る。
「来たようだな。ダラウゴンの娘。約束の物は持ってきたか?」
玉座に座るフェーギルはトヨティマを見るとにやりと笑う。
「ああ、持って来たで、フェーギル! さあ返してもらおうか」
トヨティマはセアードの額環を前に突き出す。
「ああ、もちろん返してやる。こいつとな」
フェーギルは横に置いてある石化したトルキッソスを掴む。
それを見たマーメイドの姫が小さく悲鳴を上げる。
「安心しろ、石にした以外は特に何もしていない。それに簡単に元に戻せる。さあ、その額環をこちらに投げろ。同時にこちらも投げよう」
フェーギルはそう言ってトルキッソスを掲げる。
「わかった、同時やな」
トヨティマとフェーギルは同時に額環とトルキッソスを投げる。
「トルキッソス!」
マーメイドの姫はトルキッソスを受け止める。
「チユキ! リノ! 戻せるか?」
「こんな時にサホコさんがいれば良かったのだけど……。何とか解呪してみる」
「リノも頑張る!」
レイジ達がトルキッソスの石化を解こうとする。
「姫、これで良かったのでしょうか?」
「別にええわ、暗黒騎士。元々奥にしまって使おうてなかったんやからな。まあ、少し惜しい気もするが」
トヨティマはフェーギルの方を見て言う。
フェーギルは額環を眺めている。
「強い魔力。まあ、偽物ではなさそうだな。これで女王も喜ぶだろう」
フェーギルは目的の物が手に入ったので嬉しそうにする。
横を見るとトルキッソスが元の姿に戻っている。
意識はないようだが、特に問題はなさそうである。
あったらもっと大騒ぎしていただろう。
「さて、それじゃあ、用はすんだから戻ろうか」
トヨティマがそう言って広間から出ようとした時だった。
広間の入り口が何かの触手で覆われ閉じられる。
「えっ? どういうつもり?」
クロキはフェーギルを睨む。
「互いに欲しいものは交換した。しかし、その後について何も約束はしていない」
フェーギルはそう言うとゆっくりと立ち上がる。
「ふん、まあそう来ると思っていたよ。お前しかいないようだが、俺達に勝てると思っているのか?」
レイジは剣を抜くとフェーギルに向ける。
「なめているのはお前達だ。この場でなら勝てるのだよ。のこのこと入ってきたのは迂闊だったな」
そう言うとフェーギルの体が膨れていく。
「レイジ君。ここは相手の領域、油断はできないわよ」
「わかっている、チユキ。だが、それでも俺達は負けない。そっちも用意は出来ているよな?」
レイジがこちらに聞く。
しかし、言われるまでもない事であった。
「ああ、もちろんだよ」
クロキは魔剣を構える。
鬼岩城の中、フェーギルとの決戦が始まるのであった。
中に入るのはクロキとトヨティマ、そしてレイジとマーメイドの姫、それにシロネとチユキにリノとナオだ。
レイジ達の方が多いが、強さを基準に考えた結果である。
コマサ達マーマンの戦士やトリトンの戦士は同行したがったが、それぞれの姫が何とか説得した。
「さて、どうする? このまま行くか?」
「もちろん行くよ。自分が先行する」
レイジの問いにクロキは答える。
「良いのか?」
「うん、まあ。自分の防御力が一番高いだろうから」
クロキは自身の胸に手を置いて言う。
「確かにそうだろうな。海の中でも鎧姿だが、動きに問題はないのか」
「問題はないよ。この鎧は特別。ずっと着ていても良いとさえ思っているぐらいだよ」
この中で全身に鎧を着ているのはクロキだけだ。
鍛冶神ヘイボスの力作である暗黒騎士の魔法の鎧は重さを感じず、海の中でも問題なく動ける。
そのためクロキは自分が先行しようとする。
「私としてはその鎧は好きじゃないんだけどな。何もない時ぐらいは脱いでも良かったんじゃないの?」
シロネはクロキの鎧姿を見て嫌そうな顔をする。
「まあ、シロネさんは幼馴染の顔が見れなくて寂しいからね」
「ちょっとリノちゃん!? 別にそういうのじゃないよ!」
リノがそう言うとシロネが慌てる。
「まあ、シロネさんじゃないけど、少しは鎧を脱いでも良かったんじゃないの? 海の中で鎧は傍から見ると変な感じがするわ」
チユキは呆れた顔でクロキを見る。
レイジ達と合流してから鎧を脱いでいない。
魔法の鎧なので海の中でも問題ないと言っても傍から見ている者からしたら、何か変な感じがするのだろう。
しかし、クロキとしては脱げない理由があった。
「ええと、それはちょっと無理。この下全裸なんだよ」
「えっ……?」
それを聞いてチユキは後ろに下がる。
見るとシロネを含むレイジの仲間の女性達の目が一斉に冷たくなる。
「鎧の下は全裸って……。お兄さんもしかして変態っすか?」
ナオがちょっと引き気味に聞く。
この地域では男が裸になるのはそこまで問題ではないが、クロキ達の元居た世界である日本では鎧の下が全裸はかなり変であった。
特別製の鎧で裸の上に着ても痛くなく、むしろ着心地が良いが、シロネ達から見たらかなり変だと思われても仕方がなかった。
「ち、違うよ! 単純に海の中でも問題ない下着を忘れただけだよ!」
実は最近のクロキは旅に出ても現地で必要なものを現地で調達するようにしていた。
その方が品物を色々と見る事が出来て面白いからである。
しかし、今回はマーマン達の支配領域であり、生活様式があまりにも違うので着替えが手に入らなかったのだ。
しかも、海の中で普通の下着は濡れて使い物にならず、陸に上がり調達する暇もなく、結果鎧の下は全裸になってしまった。
このまま鎧を脱げば股間のブラブラが海中を漂う事になるだろう。
「はあ、全く何やってんのよ……」
シロネはさらに呆れた顔になる。
「ええと……。その下にはヘビがむき出し、ヘビがむき出し……」
そんな中でチユキはぶつぶつと何かを呟いている。
少し顔が赤い。
何を想像しているのだろうか、とクロキは考える。
「暗黒騎士。まだ、行かんのか?」
トヨティマは焦れた表情を見せる。
「申し訳ございません。姫。それでは行きましょう。そちらも良いかな」
クロキが聞くとレイジは頷く。
傍らのマーメイドの姫も弟を救うために速く行きたそうであった。
「それでは行きましょう」
そう言うとクロキ達は鬼岩城の口の中へと入るのだった。
◆
「殿下、閣下達が入って行くのさ」
プチナの言う通り、クロキ達が鬼岩城の口の中に入っていくのが見える。
ポレンはプチナやマーマンの戦士達と共に鬼岩城から少し離れた所で待機している。
「そうだね、ぷーちゃん。うーんやっぱり私も付いて行きたかったかな。待っているだけなのは何だか不安だもの」
ポレンは呟く。
クロキは頼りにしていると言っていたが、やはり姫であるポレンを安全な場に置きたかったのではないかとも思うのだ。
折角一緒に来たのだからクロキと一緒にいたかった。
ポレンがそう言うとプチナは驚いた顔をしてポレンを見る。
「どうしたのさ!? 殿下!? 引き篭もりの食っちゃ寝だったのに!? 何か変なものでも拾って食べたのさ?」
「ちょっと、ぷーちゃん……。私を何だと思っているの?」
ポレンは目を細め横目でプチナを見る。
流石に拾い食いまではしない、ちゃんと我慢しているのである。
ポレンがそう言い返そうとした時だった、マーマン達が騒がしくなる。
見ると勇者レイジの妹であるキョウカとその従者カヤが近づいてくる。
師匠であるクーナに匹敵する、美女なのでマーマン達が騒がしくなるのも当然であった。
彼女達もポレンと同じように外で待機だ。
マーメイドの姫の代わりにマーマン達の指揮を取るらしかった。
「ポレンさん。互いに残ることになったのですから、少しお話をしません? どうかしら?」
キョウカはそう提案する。
彼女は囚われている時に少し話をした。
こちらに敵意がないのは確認している。
「ええと別に構いませんけど……」
ポレンはそう答える。
実はポレンはクーナ並みの美女が苦手だったりする。
自身の容姿に自信がないこともあり、また母親やクーナの威圧的だった事もあり、ものすごい美女を見るとつい萎縮しまうのだ。
「ふふ、ありがとうございますわ」
キョウカはポレンの側の岩に座る。
動くと大きな胸が揺れてマーマン達から小さい歓声が上がる。
そんなマーマン達をトリトン達は面白くなさそうな顔で見ている。
まだまだ、両者が仲良くするのは無理のようである。
(すごい胸だな~、羨ましい……。私だってお母様の血を引いているんだもの。いつかぽよよんになってやる!)
ポレンは自身の胸とキョウカの胸を見比べてそう誓う。
ポレンの胸は小さい。
しかし、母であるモーナは巨乳であり、その血を引いているポレンにも可能性はあるはずだった。
「ポレンさん。前はよく話せなかったので、もっとお話をしましょう」
ポレンの様子に気付かないキョウカはにこやかに笑うのだった。
◆
クロキ達は鬼岩城の中に泳いで入る。
「うう。不気味ね。私こういうの苦手なんだけど」
鬼岩城の中に入るとチユキが嫌そうな声を出す。
鬼岩城の口の中、岩には無数のイソギンチャクで覆われていた。
イソギンチャクは淡い光を放ち、城の中を照らしている。
そのため城の中は暗視の力がなくても見る事が出来た。
「確かに不気味~。でも何だろう変な感じがする……」
「変な感じがする? どういう事だ、リノ?」
「ええとね、レイジさん。命をいっぱい感じるのに意思をあまり感じないの……。何だか変な感じ」
リノは首を傾げる。
イソギンチャクの意思を感じる事が出来ないクロキには何が変なのかわからない。
しかし、レイジ達はリノの言葉を疑う事もせず、警戒する様子を見せる。
おそらく彼女の感覚はこれまでも仲間達を助けて来たのだろう。
彼らの強い絆をクロキは感じる。
「少し近づいてみようっすか?」
「ううん、やめた方が良いと思う、ナオちゃん。この光は誘惑の魔力が宿っている。たぶん近づいて来た生き物を食べちゃうための光だよ。ナオちゃんなら大丈夫かもしれないけど、近づかない方が良いかも」
リノはナオを止める。
「なるほどっす。止めとくっす」
ナオは大人しく引き下がる。
「誘惑の魔力があるんか、どうりで何か変な感じがすると思ったわ」
「ええ、私も……」
トヨティマが言うとマーメイドの姫はレイジに体をよせながら頷く。
もしかするとこの光は海の民により強く作用するのかもしれない。
「ねえ、今気付いたのだけど、この城の周りって魚が泳いでいなかったよね。もしかして……」
シロネはイソギンチャクを見て呟く。
「ええ、そうね。おそらく捕食されたんだわ」
チユキも顔が青ざめる。
「確かに長くいたくないな……。先に進みましょう」
クロキは先へと泳ぐ。
暫くすると特に何事もなく広い空間へと出る。
その広い空間の中央部には岩で出来た巨大な玉座があり、そこに座っている者がクロキ達を見る。
「来たようだな。ダラウゴンの娘。約束の物は持ってきたか?」
玉座に座るフェーギルはトヨティマを見るとにやりと笑う。
「ああ、持って来たで、フェーギル! さあ返してもらおうか」
トヨティマはセアードの額環を前に突き出す。
「ああ、もちろん返してやる。こいつとな」
フェーギルは横に置いてある石化したトルキッソスを掴む。
それを見たマーメイドの姫が小さく悲鳴を上げる。
「安心しろ、石にした以外は特に何もしていない。それに簡単に元に戻せる。さあ、その額環をこちらに投げろ。同時にこちらも投げよう」
フェーギルはそう言ってトルキッソスを掲げる。
「わかった、同時やな」
トヨティマとフェーギルは同時に額環とトルキッソスを投げる。
「トルキッソス!」
マーメイドの姫はトルキッソスを受け止める。
「チユキ! リノ! 戻せるか?」
「こんな時にサホコさんがいれば良かったのだけど……。何とか解呪してみる」
「リノも頑張る!」
レイジ達がトルキッソスの石化を解こうとする。
「姫、これで良かったのでしょうか?」
「別にええわ、暗黒騎士。元々奥にしまって使おうてなかったんやからな。まあ、少し惜しい気もするが」
トヨティマはフェーギルの方を見て言う。
フェーギルは額環を眺めている。
「強い魔力。まあ、偽物ではなさそうだな。これで女王も喜ぶだろう」
フェーギルは目的の物が手に入ったので嬉しそうにする。
横を見るとトルキッソスが元の姿に戻っている。
意識はないようだが、特に問題はなさそうである。
あったらもっと大騒ぎしていただろう。
「さて、それじゃあ、用はすんだから戻ろうか」
トヨティマがそう言って広間から出ようとした時だった。
広間の入り口が何かの触手で覆われ閉じられる。
「えっ? どういうつもり?」
クロキはフェーギルを睨む。
「互いに欲しいものは交換した。しかし、その後について何も約束はしていない」
フェーギルはそう言うとゆっくりと立ち上がる。
「ふん、まあそう来ると思っていたよ。お前しかいないようだが、俺達に勝てると思っているのか?」
レイジは剣を抜くとフェーギルに向ける。
「なめているのはお前達だ。この場でなら勝てるのだよ。のこのこと入ってきたのは迂闊だったな」
そう言うとフェーギルの体が膨れていく。
「レイジ君。ここは相手の領域、油断はできないわよ」
「わかっている、チユキ。だが、それでも俺達は負けない。そっちも用意は出来ているよな?」
レイジがこちらに聞く。
しかし、言われるまでもない事であった。
「ああ、もちろんだよ」
クロキは魔剣を構える。
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