暗黒騎士物語

根崎タケル

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第10章 紺碧の魔海

第20話 海底鬼岩城

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 鬼岩城の中、フェーギルはセアードの額環を待つ。

「ゴンズルの気配が消えた……。やはり、混沌の力に耐えられなかったか」

 ゴンズルは蛇の女王ディアドナから混沌の力をもらった。
 混沌の力は強大だが、その力を使えば代償もある。
 しかし、それでも力を求めずにはいられない者もいる。
 それはフェーギルも同じである。
 フェーギルは過去を思い出す。
 フェーギルはこの海域からはるか南の深海の巨人オアネスの小さな部族に生まれた。
 生まれた時フェーギルは体が小さく弱かった、本来なら長く生きられなかっただろう。
 それでも生きられたのは彼の部族が彼を見捨てなかったからだ。
 深海の巨人オアネスは理知的な種族であり、弱いフェーギルを笑う者はいなかった。
 しかし、フェーギル自身は部族のお荷物になり、誰かの手を借りなければ生きられないような境遇を良くは思わなかった。
 そんな時だった。
 フェーギルがディアドナに出会ったのは。
 そして、フェーギルはディアドナから混沌の力を与えられた事により強くなった。
 フェーギルは自身の部族を皆殺しにしてディアドナの配下となる。
 弱く何もできない自身を知る者を残しておくことがフェーギルは許せなかったのだ。
 そして、さらなる力を得る為にもディアドナに従っているのである。
 フェーギルは横を見る。
 その傍らには石となったトルキッソスが立っている。
 石にした以外は特に何もしていない。嘘を見抜く者もいるので額環を手に入れるまでは傷つけるつもりはない。
 なぜ、このトライデンの子がダラウゴンの娘を守ったのかはフェーギルにはわからない。
 しかし、額環が手に入るのならどうでも良い事であった。

「さて、そろそろ来る頃か……。私達がお前らを出迎えてやるぞ」



 バーゴ海、蛇の女王ディアドナの支配する海域に近づくとその城は見えて来る。
 城は人型生物の巨大な顔の形をして、建造物というよりはただ岩を掘っただけのようだ。
 本来太陽の光が届かない海底であるが、城の目と口の部分が光り、周囲には輝くクラゲ達漂い、城を照らしているので、見る事には困らない。
 クロキ達は少し離れた場所から、鬼岩城の様子を見る。

「あれが鬼岩城か、あそこに額環を持って行けば良いんやな。それじゃ、皆行こうか」
「「「へい!」」」

 トヨティマは額環を持ってさっそく行こうとすると、マーマン達が後に続こうとする。

「ちょっと待ってトヨちゃん!? 何だか嫌な予感がするよ……」

 先に進もうとするポレンがトヨティマ達を止める。
 確かにポレンの言う通りクロキもまた嫌な予感がしていた。
 あの城の中に入りたくないのだ。
 そのため、クロキも入るのを躊躇してしまう。

「確かにポレンちゃんの言う通りだね。あの光には精神に干渉する魔力が込められているよ」

 側に来ているリノがポレンに抱き着きながら言う。
 側にいるのはリノだけではないレイジにシロネにキョウカ等の勇者の仲間達も側に来ていた。
 先程のイシマッツの救助で両陣営の距離が近くなった結果である。
 そのため、ある程度雑談ができるほどには距離が縮まっている。
 もっともマーマンとトリトンにはまだまだわだかまりがあるようであった。
 ただ、シロネ達女性陣は水着のようなものを着ているので薄着であり、近くに寄られると目のやり場に困る。
 海の種族は薄着であり、マーメイド達も水着に近い格好なので違和感はない。
 しかし、シロネを除く同年代の水着姿の女の子が近くにいたことがないのでクロキはどうしても意識をしてしまう。 

「そうっすね。ありゃ捕食者が持つ気配と同じ感じっす。ナオ達を誘っている様子っすね、このまま突撃するのは危険っすね」

 ナオもリノの意見に同意する。
 ちなみにナオの水着は面積が少なくかなり際どい、もっと胸が大きかったらすごい事になっていただろう。
 可愛らしい水着のリノとは対照的である。

(自分よりも感覚が優れている、この2人が言うのだから、間違いなく危険だろうな……。それにしても捕食者か……)

 クロキはナオの言葉が気になる。
 鋭い彼女はきっと何かに気付いている。しかし、直接的に言わないのが彼女の流儀のようであった。

「なるほど、まあ罠を仕掛けている方が当たり前だな」

 レイジが鬼岩城を見て言う。
 レイジの格好はトリトン族と同じであり、上半身がほぼ裸で左腕に防具を付けている、均整の取れた体を惜しみなく見せている。
 もっとも全身に鎧を着けているのはクロキだけであったりする。
 そんな、レイジの隣にはマーメイドの姫が不安そうしている。
 あの中には弟が囚われているのだから当然だろう。

「レイジ君どうするの? 期限はまだあるから、1日ぐらい少し様子を見る?」

 黒い髪が綺麗なチユキが提案する。
 彼女は海の中だからか綺麗な髪を後ろに纏めている。
 水着も露出が少なく、一番安心して見ることができた。

「そうだな、チユキ……。しかし俺達はあくまで同行者だ。そちらの意見を聞いた方が良いだろうな」

 レイジはトヨティマを見る。
 
「ええとな。どないしようか暗黒騎士?」 
 
 トヨティマはクロキを見る。
 どうやら判断をクロキに任せたいようだ。
 その場の全員の視線がクロキに集中する。

「1日様子を見るのは賛成です。また、全員で中に入るのはやめた方が良いと思います。外で様子を見ている者と中に入る者を選別しましょう」
 
 クロキは思っている事を口にする。
 
「どうして、全員で中に入ったらダメなのクロキ?」

 近くにいるシロネがクロキに聞く。
 シロネはビキニ姿であり、近くよられると目のやり場に困る。
 久しぶりに近くで見る幼馴染の姿は新鮮であった。

「フェーギルの言葉を思い出して欲しい。もしかすると奴は大勢で来ることを望んでいるかもしれない。だから、相手の思惑に乗ってはいけないと思うんだ」

 クロキはフェーギルの言葉を思い出し、シロネに説明する。
 フェーギルは大勢で来ても良いと言っていた。
 あれはこちらを甘く見ているのではなく、大勢で来てもらった方が都合が良いのかもしれなかった。
 だとしたら、大勢で行かない方が良いのかもしれない。
 クロキはそう提案する。

「なるほど、あのフェーギルという方がそれを望んでいるのなら、少数で行った方が良いかもしれませんわね」

 キョウカがクロキの側に近づき賛成する。
 この場の女性の中で一番胸が大きく、レーナに匹敵する容姿の彼女が薄着で近づいてくるのでクロキはシロネ以上に目のやり場に困る。

「お嬢様、あまり近づいていけません。その兜の下でどのような目で見られているかわかりませんからね」
「ちょっとカヤ!?」

 カヤはクロキを睨みつけると抗議するキョウカを無視して引き離す。
 クロキは少し残念に思うが安心する。
 
「まあ、暗黒騎士がそう言うのなら全員で行くのはかえって危険かもしれへんな。さて、どうしようか?」
 
 トヨティマは周囲を見る。
 
「もちろん、私は行きます。トルキッソスが心配ですから」

 そう言ったのはマーメイドの姫だ。
 そして、マーメイドの姫がそう言うとトリトンの戦士達も当然ついて行こうとする。

「それじゃあ、全員で行くのと変わらないぜ。まあ、姫様2名に俺と暗黒騎士、そして後数名が妥当だな」 

 レイジはそう言って周囲を見る。
 レイジの案にクロキも賛成であった。
 しかし、当然反対の声も上がる。
 ここまで来て共に行けないのだから当然であった。

「まあ、少し休んでから決めようか。それに、ただ額環と交換してそれで終わりとは思えへんし、心構えも必要やろ」

 トヨティマがそう言うとマーマン達も従う事にする。
 トヨティマが行かないのなら当然レイジ達も動けない。
 クロキ達は休憩を取る事にするのだった。




 鬼岩城から少し離れた場所で休憩をする事になり、それぞれの陣営は分かれて軽食を取る事にする。
 レイジ達が食べているのは上半身がヤギで下半身が魚になっているカプリコルヌスの乳から作られたチーズだ。
 チーズはヤシの果実水で味付けされているため甘い。
 お裾分けでもらったのをクロキも食べる。
 もちろん、クロキ達も持ってきたものを渡してある。
 クロキ達が持ってきたのは巨大蟹カルキノスの蟹味噌に魚のわたと切り身を混ぜたものだ。
 塩気が強く、酒の肴によく合う。
 両陣営の持ってきたものを見てそれぞれの文化がわかる。
 マーマン達は主にカルキノスを家畜として育て、マーメイド達はカプリコルヌスを家畜として飼っているのだ。
 住んでいる海もマーマンが海底なのに対して、マーメイドは海面近くで暮らす。
 食文化が違ってくるのも当然であった。
 元は同じ種族であるはずなのに、住む場所で変化していく、それはクロキが元いた世界とかわらない。
 
「ええ、何で私が残ることになるんですか?」

 ポレンはカプリコルヌスの乳から作られたチーズを食べながらクロキに抗議をする。
 既にマーマンが持ってきた蟹味噌と槍イカの和物は食べ尽くしている。
 普通では軽食とは言えない量だが、ポレンは一瞬で食べてしまった。
 トヨティマとプチナが呆れた視線を向けているが、本人は気付いていないようだ。

「はい殿下には残っていただきたいのです」
「それは危険だからですか? 私が先生の足を引っ張るのではと……」

 ポレンはそう言ってクロキを見る。
 足手纏いと思われているのが嫌なようであった。
 しかし、クロキはポレンを危険な場所に連れて行きたくないと思っているのは確かだが、足手纏いと思ってはいない。
 むしろ、ここにいる女性達の中で一番強いはポレンだと思っている。

「いえそうではありません殿下。中に入ると何が起きるのかわかりません。もしもの時には殿下にマーマン達の指揮を取りトヨティマ姫の脱出を手伝って欲しいのです。おそらく一番の適任は殿下です。頼りにしています」

 クロキはそう言ってポレンに微笑む。
 軽食を取るために兜を外している状態であり、すごく信頼しているという表情をクロキは意図的に作る。
 
(これで納得してもらえただろうか?)

 クロキは少し不安に思う。
 クロキは演技が苦手だ。しかし、ポレンには外に残ってもらった方が良いので納得してもらいたかった。

「にょほほ。先生からそう言われたら、仕方がないです! 頑張ります!」


 ポレンはそう言って嬉しそうにする。
 
「ちょろいのさ」 
「ちょろいなあ、ポレの字。まあでも気持ちはわかるわ。そんな甘い表情で見つめられたら落ちるわなあ……」

 プチナとトヨティマがさらに呆れた視線をポレンに向けるのだった。
 


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