暗黒騎士物語

根崎タケル

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第10章 紺碧の魔海

第10話 妖霧の街ウォグチ5

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「た、た、大変や! ポレの字っ! 勇者や! お父ちゃんが襲われた!」

 ポレンの横にいるトヨティマが慌てた声を出す。
 自身の父親が襲われたのだから慌てるのも当然だろう。
 背の高い踊り子の正体は光の勇者であったのである。
 その背の高い踊り子が長い髪のかつらと上半身の衣服を脱ぎ青年の姿へと変わっている。
 両手にはそれぞれ剣を握り、不敵な笑みを浮かべている。
 周囲は敵ばかりなのに怖れを知らない姿はまさに勇者であった。
 正体を現した勇者を前にして、ダラウゴンやマーマン達をも驚いている。

「落ち着いてトヨちゃん。先生がいるから大丈夫だよ」
「なんや、落ち着いとるなあ。ポレの字、そんなにあの暗黒騎士は頼りになるんか?」

 トヨティマはポレンに訝し気な視線を向ける。

「もちろんだよ。先生は強いもの。すっごく頼りになるんだもの。ダラウゴンおじ様が先生を呼んだのは正解だよ」

 トヨティマの問いにポレンは誇らしげに答える。
 ポレンももちろん驚いたが、クロキがいたので落ち着きを取り戻すのも早かったのだ。
 光の勇者の前には暗黒騎士が立ち、トヨティマの父親であるダラウゴンを守っている。
 先程の光の勇者の奇襲も暗黒騎士がいなければ防げなかっただろう。

(ムフフフフ、先生は最強だもの。光の勇者になんか負けるものか。先生は私の騎士様だもの)
 
 そんな事を考えてポレンは笑いながら暗黒騎士を眺める。

「また、変な妄想をしているのさ……」

 ポレンが変な笑みを浮かべたのでプチナが溜息を吐く。
 それを聞いたポレンは慌てて表情を元に戻す。

「まあ、ええわ。お手並み拝見させてもらうわ」
 
 ポレンを見て落ち着きを取り戻したトヨティマは宴の間の中央に視線を向ける。
 暗黒騎士と光の勇者が対峙している。
 これから戦いが始まるのだ。

「全く、どこにでも現れるな。そこをどいてもらおうか」
「駄目だよ、それは出来ない」
「なら! 押し通る!」

 光の勇者はそう言うと暗黒騎士に向かう。
 左右に飛び跳ね、体を回転させて光の勇者は剣を振るう。
 凄まじい速さの連続攻撃。
 まるで舞っているようであった。
 しかし、暗黒騎士はその攻撃を漆黒の剣で全て防ぐ。
 光の剣と闇の剣がぶつかるたびに宴の間に衝撃波が広がる。
 何度目の斬り結びの後、光の勇者は下がり暗黒騎士と距離を取る。

「今だ! 加勢するぜ! お前らも手伝え!」
「おうよ!」
「まかせろ!」

 好機と見た、3名のマーマンが後ろから光の勇者に襲いかかる。

「ふん!」

 しかし、光の勇者はマーマン達を軽く横に躱すと暗黒騎士の方へと蹴り飛ばす。
 その後、光の勇者はマーマンを盾にして距離を詰める。

「「「え!!」」」

 周囲から驚きの声。
 何と暗黒騎士は3名のマーマンをすり抜け、光の勇者の正面に立ったのだ。
 その暗黒騎士の動きに周囲は驚いたのである。
 暗黒騎士は下段から剣を振るう。
 光の勇者は虚を突いたつもりが、虚を突かれ慌てて両手の剣で受け止める。

「勇者様!」

 ポレンの後ろにいた踊り子が悲鳴を上げる。
 ポレンは踊り子を見る。
 他の踊り子達は戦いが始まると、まるで夢遊病にかかったかのように宴の間の端で固まって立っているのに対して、この踊り子には意識がしっかりしている。
 明らかに他の踊り子とは違うようであった。

「ふん!!」

 暗黒騎士は掛け声と共に剣を振りきり、光の勇者を弾き飛ばす。
 飛ばされた勇者はそのまま空中で一回転すると床に着地する。
 その攻防に周囲は息をのむ。

「く、何て動きだ。やはり強いな……」

 光の勇者は再び剣を構える。
 両者共にとんでもない動きであった。

「お前達! 手を出すな! 暗黒騎士の邪魔になっとる!」

 ダラウゴンはマーマン達を止める。
 そのため、再び中央には暗黒騎士と光の勇者だけになる。
 
「すごいな……。ポレの字が頼りにするだけあるわ」
「でしょ~。先生は強いんだよ。ムフフフフ」

 トヨティマは驚きの声を聞いてポレンはそれを聞いて誇らしげな気持ちになる。
 戦いはまだ続いている。
 しかし、暗黒騎士の方が優勢である。
 このまま何もなければ戦いはこちらの勝ちだろう。
 そんな時だった。
 熱風が宴の間に吹き荒れる。

「た、大変でしゅ! ぼくちんの霧が消えていくでしゅ!」

 クランポンの慌てた声。
 ウォグチの街を覆っていた霧が乾いた熱風により、消えてしまったのだ。

「ダラウゴン殿! 気を付けて下さい! 勇者の仲間が来ます!」

 暗黒騎士が叫んだ時だった。
 宴の間に武装した女性達が現れる。
 いずれも美女ばかりだ。
 突然現れた美女達にマーマン達はそちらに注目する。

「さて、状況は……。失敗っすね……」
「みたいですわね。これは予想外ですわ」
「うん、クロキがいるなんて聞いてないよ……」

 美女達は暗黒騎士を見て驚きの声を出す。

「どうします。明らかに奇襲は失敗ですが?」
「わかっているわ。カヤさん。レイジ君! 急いで撤退するわよ!」

 黒髪の美女が光の勇者に声をかける。
 
「踊り子もいて、敵のど真ん中。仕方がないか……。わかったチユキ。脱出するぞ!」
「ええ、リノさん! 踊り子さんをお願い!」
「わかった! 踊り子さんはこっちに来て!」

 髪を頭の両端でまとめた美少女が叫ぶと踊り子達が美女達の元に集まる。
 マーマンが止めようとするが、剣を持った美女が邪魔をして、阻まれる。

「ええと、トルキッソス君はそこね! こっちに来なさい!」

 黒髪の美女がそう叫んだ時だった。
 強い魔力がポレン達の元へと流れてくる。
 魔力を感じたポレンは思わず、身構えてしまう。
 そして、引っ張られる何かを感じた時だった。
 ポレンの視界が歪み、光に包まれる。
 そして、視界が普通に戻った時だった。
 その目に映ったのは宴の間ではなく、どこかの建物の部屋の中である。
 隣にいたはずのトヨティマもいない。
 代わりにいるのは光の勇者の美女達である。

(えっ、あれ? ここどこ? 先生は? ぷーちゃんは?)

 ポレンは周囲を見て慌てる。

「みんないる? 大丈夫? 脱出できたわね」

 黒髪の美女が仲間達に確認を取る。

「あの~。チユキさん。トルキッソス君がいないみたいっすけど」
「えっ、どういう事? ちゃんと転移されるように引き寄せたはずだけど、あれ?」

 黒髪の美女はポレンを見る。
 美少女形態になっていないポレンは背が低い。
 そのため、すぐに視界に入らなかったようであった。

「あっ! あの時のピンクのブタちゃんだ~! どうしてここにいるの!?」

 髪を頭の両端で結んだ美少女が興味深そうにポレンを見る。

「ええと……」

 ポレンは何と言って良いかわからなくなる。
 側にいた踊り子の代わりに転移魔法に巻き込まれた。
 それがポレンの置かれた状況である。
 光の勇者とその仲間の美女達もポレンに注目している。
 
(ど! どうしよう~~~~~!!!)

 ポレンは心の中で絶叫するのだった。



「つまり、殿下は光の勇者の仲間に連れ去られたわけですね」
「そうなのさ、突然引っ張られて、光に包まれて消えちゃったのさ」

 プチナの説明を聞いてクロキは頭が痛くなる。

「すまんな、暗黒騎士。止める暇もなかったわ」

 ポレンと一緒にいたトヨティマが謝る。
 そのトヨティマの横には拘束された踊り子がいる。
 他の踊り子達は転移魔法で脱出したので、残ったのはこの踊り子だけだ。
 御者の男も残っているが、彼は今ダラウゴン達の尋問を受けている最中だ。
 おそらく、踊り子を転移させるつもりが、間違って近くにいたポレンを連れ去ってしまったのだろう。 
 クロキの目の前で踊り子は震えている。
 当然だろう敵の中に取り残されたのだから、またポレンも同じ状況のはずだった。

「困りました。何とか殿下を助け出さないといけません」

 クロキは歯軋りをする。
 レイジ達と戦いたくないから、転移するのを見逃したのである。
 しかし、そのためにポレンを危険な状況に陥らせてしまった。
 自分の責任である。
 ポレンの魔法の首飾りによるとすぐ近くの人間の国へと転移したようだ。
 すぐに助けに行かねばならないだろう。

(不安に思っているに違いない。すぐに助けに行かないと……)

 クロキはそう思うとポレンのいる方向を見るのだった。
 
 
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