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第10章 紺碧の魔海
第9話 妖霧の街ウォグチ4
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クロキ達が宴の間に戻るとちょうど踊り子達が現れるところだった。
どうやら踊りに間に合ったらしい。
踊り子達が現れるとマーマン達が立ち上がり、歓声を上げる。
マーマン達は服を着ない事が多いので、一目見て興奮しているのがわかる。
クロキはマーマン達の興奮している個所をなるだけ見ないようしながら、踊り子達を観察しようとする。
マーマン達が壁になっているためかクロキのいる場所から見えにくく、わずかに隙間から見るのがやっとであった。
(こりゃ見えにくいな。殿下が座っている高台なら見えるかもしれないけど、さすがにあの中に入れないよ……)
クロキはポレンが座っている所を見る。
そこにはポレンとトヨティマとプチナ、それに先程助けた踊り子がいる。
クロキも座ろうと思えば座れるが、それだと少しだけせまくなるので下に降りたのだ。
もちろん女性同士の場所にいるのも居心地が悪いという理由もある。
立ち上がれば見えるが、後ろのマーマンに悪い気がするので、隙間から様子を見るだけにする。
薄衣を纏った踊り子達が動き出す。
音楽を奏でるのは御者の男だ。
楽師でもあるらしい。
音楽に合わせて踊り子が動くたびに艶めかしい素足が露わになる。
少し気になるが、今注意すべきは別にあった。
(いないな……)
クロキは首を傾げる。
踊っている者達は全員背が低い。
あの背の高い踊り子の姿は見えなかった。
どこに行ったのだろうと疑問に思った時だった。
宴の間の入り口から新たな踊り子が姿を現す。
新たに現れた踊り子は背が高い。間違いなく気になっていた踊り子であった。
背の高い踊り子は両手に剣を持ち、踊りながら、宴の間の中央へと進む。
その動きは力強くしなやかで、見る者の視線を釘付けにする。
そして、踊り子の持つ剣を見た時、クロキは寒気がする。
(えっ!? あの剣は!? なるほど、そういう事か……)
兜の下、クロキの目が険しくなる。
クロキは全てを察するとダラウゴンの元へと移動することにする。
マーマン達が壁になっているが、クロキは足を滑らせるように進み、マーマンにぶつからないように動く。
その自然な動きにマーマン達はクロキがすり抜けた事に気付かないまま踊り子に見入っている。
(急がないと)
クロキは駆ける。
宴の終幕まであと少しであった。
◆
「おお~。綺麗~」
ポレンはトヨティマと共に踊り子達を見る。
このように美しい舞を見るのは初めてであった。
ナルゴルにも美しい女性はいる。
女性のデイモンにダークエルフ等がそうだ。
しかし、彼女達はナルゴルでも上位の種族にあたり、宴の席で踊る事はない。
オークやゴブリンの女性の踊りは需要がないのか見る事はない。
そのため、綺麗な女性が踊るのを見るのは新鮮なのである。
それはトヨティマも同じで見惚れている。
トヨティマは変身できるようになったのは最近で、それまでは誰の目にも入らないように引き籠る事が多かったので踊り子達を見たことがなかったのだ。
「ほんとやな~。なかなか良いもの見せてくれるわ~。もぐもぐ」
トヨティマはイカのゲソを干したものを食べながら頷く。
イカのゲソ干しはお酒に良く合うのでポレンも食が進む。
「本当に綺麗だね、トヨちゃん。もぐもぐ、ごくごく」
ポレンは左手にナツメヤシ酒、右手にゲソ干しを持ち寝ころびながら答える。
ナツメヤシ酒は度数が軽く飲みやすい。
他にも揚げたソラマメ団子等が美味しく、いつまでも飲んで食べていられそうだった。
「殿下~。行儀が悪いのさ」
「良いじゃない。ぷーちゃん、先生もいないんだし」
プチナが窘めるとポレンは小さなおならを出して答える。
クロキは女性だけで話せるようにと気遣い、席を外している。
ポレンとしては残念だったりするが、気が抜けるのも確かであった。
「まったく、酷い匂いやなあ。でもまあ、いつものポレの字で安心したわ」
自身の鼻の前で手を振ってトヨティマは答える。
「う~ん。変わってないと言われるのも……。ん? あっ踊り子さん大丈夫?」
一緒にいる踊り子は丁度ポレンのプチナと同じようにポレンの後ろにいたので、おならの匂いでむせている。
嗅覚が鋭いプチナのようにぐったりしていないが、苦しそうであった。
「ゲホッ! ゲホッ! あ、はい大丈夫です」
踊り子の顔色は悪いが何とか大丈夫そうであった。
「ポレの字~。気いつけんといかんよ。それにしても、さっきから仲間の踊りを見とらんようやけど大丈夫なん?」
トヨティマは一緒にいる踊り子を見て首を傾げる。
踊り子は耳の巻貝の首飾りを触り、あまり仲間の踊りに集中していない様子であった。
何か気になる事でもあるのか宴の間の入口ばかりを見ている。
「そうだね、さっきからちらちらと入口ばかりを見ているみたい。ん、そういえば背の高い踊り子さんがいないね。どこに行ったんだろう?」
ポレンは踊り子達を見る。
踊り子達の中に背の高い者はいない。
ポレン達と離れているクロキは気になっているだろう。
「そうやな、あの背の高い踊り子はどこや。何か知っとるん? もしかして、あんさんと同じように踊れへんの?」
「えっ、あっ、そ、そんな事はないです。ぼ……、いえ私と違って踊りは上手いです……。はい、その……」
踊り子はそういうと俯く。
何か後ろめたいところでもありそうであった。
「う~ん。何や。変やなあ。さっきから落ち着きがないみたいやし」
トヨティマは踊り子を眺めて言う。
今のトヨティマは美人であり、美しい踊り子と並ぶととても絵になるなとポレンは思う。
「あっ、トヨちゃん! 背の高い踊り子さんが出て来たよ!」
ポレンが視線を戻した時だった。
宴の間の入口に背の高い踊り子が現れる。
その背の高い踊り子は両手に剣を持ち、静かに中央へと進む。
「おっ!? なんや? 剣舞でも見せてくれるんか?」
トヨティマがそう言った時だった。
背の高い踊り子は軽く飛び、体を回転させて踊りだす。
思った通りの剣舞であった。
その踊りは力強く、軽やかで見る者の目を引く。
「おお~。これは凄いで!」
背の高い踊り子の剣舞にトヨティマは身を乗り出して見入る。
それはポレンも同じであった。
背の高い踊り子は他のどの踊り子よりも存在感があった。
背の高い踊り子が腕を振ると腕の飾りの翠玉達が跳ね、足を上げると足の飾りの黄玉が揺れる。
その躍動的な踊りにマーマン達も声が出せずに見入っている。
この場の主役は彼女であった。
「すごい、踊りに詳しくない私でもすごさがわかるよ……」
「はい、本当にすごいです……」
一緒にいた踊り子も頷く。
いつの間にか前に出てきて、食い入るように剣舞を見ている。
先程まで上の空だったのが嘘のようであった。
背の高い踊り子は音楽に合わせ舞ながら次第に奥へと足を進める。
そして、音楽が止んだ時だった。
「海神ダラウゴン!! その首もらった!!」
掛け声と共に背の高い踊り子が飛ぶ。
その動きはまさに閃光であった。
「お父ちゃん!!」
トヨティマの悲痛な叫び。
側近のマーマン達は突然の事に動けない。
背の高い踊り子の剣がもう少しで届きそうな時、一つの影が閃光のような一撃を阻む.
弾き飛ばされた背の高い踊り子は空中で一回転すると床に立つ。
周りにいる誰もが声も出せず、ただ宴の間の中央を眺めるだけだ。
「ク、クロキ先生……」
ポレンは思わず呟く。
背の高い踊り子の前に立っているのは黒い剣を持つ暗黒騎士。
ほとんどの者が動けない中で唯一動くことが出来た者。
暗黒騎士は背の高い踊り子に剣を向ける。
背の高い踊り子は敵対する者であった。
ポレンには何者かわからない。
しかし、只者ではないだろう。
暗黒騎士と踊り子は剣を構え相手を見る。
「全くどこにでも現れるな……」
背の高い踊り子はそう言って笑う。
どこか楽しそうである。
「光がある所には影があるんだよ。まさか光の勇者が踊り子に扮して侵入するとは思わなかったけどね……」
踊り子に対して暗黒騎士の言葉は淡々としたものである。
中央に立った両者は睨みあい対峙するのであった。
どうやら踊りに間に合ったらしい。
踊り子達が現れるとマーマン達が立ち上がり、歓声を上げる。
マーマン達は服を着ない事が多いので、一目見て興奮しているのがわかる。
クロキはマーマン達の興奮している個所をなるだけ見ないようしながら、踊り子達を観察しようとする。
マーマン達が壁になっているためかクロキのいる場所から見えにくく、わずかに隙間から見るのがやっとであった。
(こりゃ見えにくいな。殿下が座っている高台なら見えるかもしれないけど、さすがにあの中に入れないよ……)
クロキはポレンが座っている所を見る。
そこにはポレンとトヨティマとプチナ、それに先程助けた踊り子がいる。
クロキも座ろうと思えば座れるが、それだと少しだけせまくなるので下に降りたのだ。
もちろん女性同士の場所にいるのも居心地が悪いという理由もある。
立ち上がれば見えるが、後ろのマーマンに悪い気がするので、隙間から様子を見るだけにする。
薄衣を纏った踊り子達が動き出す。
音楽を奏でるのは御者の男だ。
楽師でもあるらしい。
音楽に合わせて踊り子が動くたびに艶めかしい素足が露わになる。
少し気になるが、今注意すべきは別にあった。
(いないな……)
クロキは首を傾げる。
踊っている者達は全員背が低い。
あの背の高い踊り子の姿は見えなかった。
どこに行ったのだろうと疑問に思った時だった。
宴の間の入り口から新たな踊り子が姿を現す。
新たに現れた踊り子は背が高い。間違いなく気になっていた踊り子であった。
背の高い踊り子は両手に剣を持ち、踊りながら、宴の間の中央へと進む。
その動きは力強くしなやかで、見る者の視線を釘付けにする。
そして、踊り子の持つ剣を見た時、クロキは寒気がする。
(えっ!? あの剣は!? なるほど、そういう事か……)
兜の下、クロキの目が険しくなる。
クロキは全てを察するとダラウゴンの元へと移動することにする。
マーマン達が壁になっているが、クロキは足を滑らせるように進み、マーマンにぶつからないように動く。
その自然な動きにマーマン達はクロキがすり抜けた事に気付かないまま踊り子に見入っている。
(急がないと)
クロキは駆ける。
宴の終幕まであと少しであった。
◆
「おお~。綺麗~」
ポレンはトヨティマと共に踊り子達を見る。
このように美しい舞を見るのは初めてであった。
ナルゴルにも美しい女性はいる。
女性のデイモンにダークエルフ等がそうだ。
しかし、彼女達はナルゴルでも上位の種族にあたり、宴の席で踊る事はない。
オークやゴブリンの女性の踊りは需要がないのか見る事はない。
そのため、綺麗な女性が踊るのを見るのは新鮮なのである。
それはトヨティマも同じで見惚れている。
トヨティマは変身できるようになったのは最近で、それまでは誰の目にも入らないように引き籠る事が多かったので踊り子達を見たことがなかったのだ。
「ほんとやな~。なかなか良いもの見せてくれるわ~。もぐもぐ」
トヨティマはイカのゲソを干したものを食べながら頷く。
イカのゲソ干しはお酒に良く合うのでポレンも食が進む。
「本当に綺麗だね、トヨちゃん。もぐもぐ、ごくごく」
ポレンは左手にナツメヤシ酒、右手にゲソ干しを持ち寝ころびながら答える。
ナツメヤシ酒は度数が軽く飲みやすい。
他にも揚げたソラマメ団子等が美味しく、いつまでも飲んで食べていられそうだった。
「殿下~。行儀が悪いのさ」
「良いじゃない。ぷーちゃん、先生もいないんだし」
プチナが窘めるとポレンは小さなおならを出して答える。
クロキは女性だけで話せるようにと気遣い、席を外している。
ポレンとしては残念だったりするが、気が抜けるのも確かであった。
「まったく、酷い匂いやなあ。でもまあ、いつものポレの字で安心したわ」
自身の鼻の前で手を振ってトヨティマは答える。
「う~ん。変わってないと言われるのも……。ん? あっ踊り子さん大丈夫?」
一緒にいる踊り子は丁度ポレンのプチナと同じようにポレンの後ろにいたので、おならの匂いでむせている。
嗅覚が鋭いプチナのようにぐったりしていないが、苦しそうであった。
「ゲホッ! ゲホッ! あ、はい大丈夫です」
踊り子の顔色は悪いが何とか大丈夫そうであった。
「ポレの字~。気いつけんといかんよ。それにしても、さっきから仲間の踊りを見とらんようやけど大丈夫なん?」
トヨティマは一緒にいる踊り子を見て首を傾げる。
踊り子は耳の巻貝の首飾りを触り、あまり仲間の踊りに集中していない様子であった。
何か気になる事でもあるのか宴の間の入口ばかりを見ている。
「そうだね、さっきからちらちらと入口ばかりを見ているみたい。ん、そういえば背の高い踊り子さんがいないね。どこに行ったんだろう?」
ポレンは踊り子達を見る。
踊り子達の中に背の高い者はいない。
ポレン達と離れているクロキは気になっているだろう。
「そうやな、あの背の高い踊り子はどこや。何か知っとるん? もしかして、あんさんと同じように踊れへんの?」
「えっ、あっ、そ、そんな事はないです。ぼ……、いえ私と違って踊りは上手いです……。はい、その……」
踊り子はそういうと俯く。
何か後ろめたいところでもありそうであった。
「う~ん。何や。変やなあ。さっきから落ち着きがないみたいやし」
トヨティマは踊り子を眺めて言う。
今のトヨティマは美人であり、美しい踊り子と並ぶととても絵になるなとポレンは思う。
「あっ、トヨちゃん! 背の高い踊り子さんが出て来たよ!」
ポレンが視線を戻した時だった。
宴の間の入口に背の高い踊り子が現れる。
その背の高い踊り子は両手に剣を持ち、静かに中央へと進む。
「おっ!? なんや? 剣舞でも見せてくれるんか?」
トヨティマがそう言った時だった。
背の高い踊り子は軽く飛び、体を回転させて踊りだす。
思った通りの剣舞であった。
その踊りは力強く、軽やかで見る者の目を引く。
「おお~。これは凄いで!」
背の高い踊り子の剣舞にトヨティマは身を乗り出して見入る。
それはポレンも同じであった。
背の高い踊り子は他のどの踊り子よりも存在感があった。
背の高い踊り子が腕を振ると腕の飾りの翠玉達が跳ね、足を上げると足の飾りの黄玉が揺れる。
その躍動的な踊りにマーマン達も声が出せずに見入っている。
この場の主役は彼女であった。
「すごい、踊りに詳しくない私でもすごさがわかるよ……」
「はい、本当にすごいです……」
一緒にいた踊り子も頷く。
いつの間にか前に出てきて、食い入るように剣舞を見ている。
先程まで上の空だったのが嘘のようであった。
背の高い踊り子は音楽に合わせ舞ながら次第に奥へと足を進める。
そして、音楽が止んだ時だった。
「海神ダラウゴン!! その首もらった!!」
掛け声と共に背の高い踊り子が飛ぶ。
その動きはまさに閃光であった。
「お父ちゃん!!」
トヨティマの悲痛な叫び。
側近のマーマン達は突然の事に動けない。
背の高い踊り子の剣がもう少しで届きそうな時、一つの影が閃光のような一撃を阻む.
弾き飛ばされた背の高い踊り子は空中で一回転すると床に立つ。
周りにいる誰もが声も出せず、ただ宴の間の中央を眺めるだけだ。
「ク、クロキ先生……」
ポレンは思わず呟く。
背の高い踊り子の前に立っているのは黒い剣を持つ暗黒騎士。
ほとんどの者が動けない中で唯一動くことが出来た者。
暗黒騎士は背の高い踊り子に剣を向ける。
背の高い踊り子は敵対する者であった。
ポレンには何者かわからない。
しかし、只者ではないだろう。
暗黒騎士と踊り子は剣を構え相手を見る。
「全くどこにでも現れるな……」
背の高い踊り子はそう言って笑う。
どこか楽しそうである。
「光がある所には影があるんだよ。まさか光の勇者が踊り子に扮して侵入するとは思わなかったけどね……」
踊り子に対して暗黒騎士の言葉は淡々としたものである。
中央に立った両者は睨みあい対峙するのであった。
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