暗黒騎士物語

根崎タケル

文字の大きさ
上 下
277 / 431
第9章 妖精の森

第17話 不安材料

しおりを挟む
 いよいよ、蛇の者達が進撃を開始したので、クロキはコウキとの剣の修行を切り上げて、ドワーフ王アーベロンと共に作戦会議室へと行く。
 そこには数名のドワーフ達が待機している。
 全員アーベロンの側近で、ドワーフの将軍達だ。
 クロキに同行しているのはエルフの姫ルウシエンである。
 一応、エルフ側の代表者として来ているので当然だろう。
 ただ、ルウシエンはコウキと引き離された事を悲しんでいる。
 そのコウキはレーナと他のエルフ達と共にいる。
 クロキは一応レーナに来ないのかと聞いたが「貴方がいるから大丈夫でしょ」と言われてしまった。
 レーナがここに来た理由はコウキなので、特に手伝う気はない様子であった。

「クロキ殿がお見えだ。状況説明してくれ」

 アーベロンが言うと一名の将軍が頷く。

「わかりました。まずは映像を出しましょう」

 頷いた将軍がそう言うと魔法の鏡で何かを映し出す。
 そこにはオークとゴブリンの軍団が映し出されている。

「見ての通りオークとゴブリンの大軍です。奴らはエルフの都アルセイディアへと進撃しているようですな」
「なるほど、これ程の数がエルフの都に向かうなんて……。エルフ達は大丈夫でしょうか?」

 クロキは隣のルウシエンを見ながら言う。
 ルウシエンはこれ程の大軍がエルフの都に向かっているというのに平然としている。
 心配ではないのだろうかと首を傾げる。

「オークやゴブリン程度なら問題はありません。奴らの魔力では私達ハイエルフの迷い結界を超える事は不可能です」

 クロキの視線に気付いたのかルウシエンは胸を張って言う。
 レーナに比べれば小さいがエルフにしては大きい胸が揺れる。
 かなり余裕な態度だ。
 確かにハイエルフの魔法は強力だ。
 彼女達は都の周囲に迷いの結界を張り、中に入れないようにしているとクロキは聞いていた。
 オークやゴブリン程度なら防ぐ事ができるだろう。
 もっとも、それは敵がオークやゴブリンだけの場合だ。

「ふふん。エルフの姫よ。確かにオークやゴブリン程度なら問題はないだろう。しかし、これを見ても同じ事が言えるかな?」

 ルウシエンの余裕の態度を見てアーベロンは笑うと、映像のある一点を指し示す。
 そこにはオークやゴブリンとは違う種族がいる。

「あ、あれは蛇女?」

 ルウシエンの顔が青ざめる。
 オークやゴブリンの軍勢の中にラミアの妖術師の姿が見える。
 実はラミア等の蛇の眷属は探知能力に優れている。
 彼女達ならエルフの迷いの結界を破る事が出来るだろう。

「どうするのかね。蛇の王子が来ているのだから、蛇女がいて同然。このままではアルセイディアは危ないぞ~」

 アーベロンが意地悪そうに笑う。
 このあたりでエルフとドワーフの仲の悪さがわかる。

「ぐぬぬぬ! 例え結界が破られても、精強な妖精騎士がいます! 彼らがアルセイディアを守ります!」
「それは難しいのではないのかな? オークの猪騎兵隊ボアライダーズの突撃力は凄まじいと聞く。細長の妖精騎士では防げまい」

 アーベロンは楽しそうに笑う。
 確かにアーベロンの言う通りであった。
 オークはエルフに比べれば魔法力に劣るが、正面からの肉弾戦だとオークが勝っている。
 また、彼らの率いる猪騎兵隊ボアライダーズは弓騎兵主体の妖精騎士で防ぐのは無理だろう。

「うううう」

 ルウシエンは何も言い返せない。
 エルフの戦力だけでは防げないのは明白だから無理もない。

「アーベロン殿。そこまで言わなくても、そのためにクタルの戦力をアルセイディアに移したのでしょう」

 クロキはアーベロンに言う。
 猪騎兵隊ボアライダーズは強力だが、ドワーフが操るアイアンゴーレムなら防げる。
 だから、このクタルの戦力を動かしたのだ。
 エルフの女王タタニアがルウシエンに預けた書状には増援の要請が正式に依頼されていた。
 別にルウシエンに持ってこさせなくても良かったが、そこは形式を守ったのだろう。
 ルウシエンは書状の中身を知らなかった。
 ドワーフにお願いするのが嫌だから中身を知らされなかったようである。

(まあ、エルフの女王も乗り気ではなかったかもしれないな。エリオスの神々が協力するように言わなければどうなっていたかわからない)

 クロキはそう推測する。
 オークやゴブリンの軍団の次にエルフの防衛部隊が映し出される。
 そこにはドワーフの戦士団と鉄ゴーレム部隊の姿もある。
 鉄ゴーレム部隊は強いが弱点はある。
 それは機動力だ。
 鈍重なドワーフ戦士以上に足が遅い。
 しかし、そこは妖精騎士達がサポートするだろう。
 ケリュネイアの鹿に乗る妖精騎士は機動力が高く、移動しながら弓を射る彼らは遊撃兵としてはとても優秀だ。
 エルフとドワーフ、互いに足りない部分を補う事が出来たらすごく良いのだが、中々難しい状況だった。

「それについては感謝をしてます、アーベロン王」

 しぶしぶ、ルウシエンはお礼を言う。
 エルフの姫にお礼を言われアーベロンは上機嫌だ。

「ところでアーベロン殿。このクタルから兵力を動かしすぎているような気がします。ここの守りは大丈夫でしょうか?」

 クロキは不安を口にする。
 どう考えても敵の狙いはここである。
 アルセイディアに向かう敵はここの戦力を減らすためだと考えられる。
 すでに多くのドワーフの戦士とゴーレム部隊が出撃している。
 また、ゴーレムを動かすには微調整が必要なのでドワーフの技師達の多くも外に出ている。
 そのため、このクタルのドワーフの里は守りが薄くなっている。

「確かにこのクタルの兵力は半減しています、クロキ殿。しかし、それでもかなりのゴーレム達が守っております。まあ心配ないでしょう」

 そう言ってアーベロンは笑う。
 すると別の将軍が前に出てくる。

「お待ちを! 確かにゴーレムは十分すぎる程残っています。しかし、ゴーレムを調整するための技師が足りておりません」
「わかっておるよ。ああ、こんな時にリベザルがいてくれたら……」

 そう言ってアーベロンは遠くを見る。

「リベザル?」

 クロキは首を傾げる。
 初めて聞く単語である。

「ああ、クロキ殿。リベザルとは優秀なゴーレム技師だった者です。しかし、ある時にクタルから出奔したのですよ。今でも奴の作ったゴーレムはこの地で働いております」
「そうなのですか……」
「リベザルはとある理由で手足がなくしましてな。手足をなくしたあとは鋏のような義手を付けましたが、技師としての腕は落ちました。それを嘆いて行方をくらませたようです。例え腕を落としてもリベザルの腕は一流、こういう時にいてくれたら」

 アーベロンは遠くを見て言う。
 リベザルの事を思い出しているようであった。

(リベザルか、かなり優秀な技師だったみたいだな)

 クロキがそんな者がいたのかと考えていると誰かが入って来る。
 忍者のような恰好をした猫女だ。

 夜目衆ナイトアイズ

 そう呼ばれる猫女で構成された斥候部隊である。
 野伏レンジャーはいるがドワーフは基本的に隠密や斥候は得意ではない。
 そんな彼らのために妻や娘である猫女達が代わりに探索に動くのである。
 このクタルで狼人ウルフマンの隠密部隊である影走りシャドウランナーに対抗できるのは彼女達だけだろう。

「王様。狼達が取り囲んでいるみたいにゃあ」

 彼女がそう言うと映像に狼人ウルフマン達が映し出される。
 多くの狼達がこのクタルを取り囲んでいる。

「御夫人。奴らの数はどれくらいだね」
「1000匹程にゃ、多いけどここを落とせる程じゃないにゃあ。取り囲むだけで攻めてくる様子はないみたいだにゃあ。何かを狙っているみたいだにゃあ」

 猫女が説明する。
 映し出された映像では狼人が森の中でクタルの様子を窺う姿が見える。
 こちらに攻めてくる様子はない。
 何かを待っているみたいであった。

「ふうむ気になるな。しかし、屋外での戦闘はこちらが不利。攻めてこないのなら様子を見るしかない。御婦人方には引き続き情報収集をお願いします」
「わかったにゃあ、王様」

 そう言うと猫の彼女は笑う。
 相手が動いてこないのなら、積極的に動く必要はない。
 もしかすると、こちらが出てくるのを待っているのかもしれない。
 引き続き守りに徹した方が良いだろう。
 だけど、相手の動きが気になる。
 クロキは何となく不安を感じるのだった。

 ★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★

 更新です。

 ちなみにリベザルは元ネタがあります。
 リベザルはポーランドとチェコスロバキアの近くにそびえるルゼンベルク山の山頂に棲んでいるといわれ、山頂を雲で覆い隠したり、大嵐を起こしたりします。一説にはノームの王とも言われています。 

 web小説サイトで書籍化小説が読めるようになる事が増えました。
 今後、紙の書籍化が衰退するかもしれません。
 そもそも、投げ銭と広告収入が普及したら、書籍化する意味がなくなるような気がします。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...