暗黒騎士物語

根崎タケル

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第9章 妖精の森

第14話 クロキとコウキ

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 翌日になり、クロキはコウキと共に修練場に入る。
 本来なら、この修練場はドワーフの戦士達が武芸の腕を磨く場所である。
 しかし、今はクロキ達だけが使わせてもらっている。
 これからクロキは約束通りコウキに剣を教える予定である。
 クロキは弟子を取るつもりはないが、このクタルにいる間だけでも、基礎的な事を教えようと思ったのだ。
 
「よろしくお願いします。クロキ先生」

 コウキが頭を下げる。
 なかなか礼儀正しくて良い。
 コウキの目が輝いている。
 その目は剣を教えてもらえる事が嬉しいだけじゃないみたいであった。

「よろしく。コウキ。何だか良い事があったみたいだけど。どうしたの?」
「はい、昨夜母様に会えたのです。母様は自分をいつも見守っているそうなんです」

 コウキが嬉しそうに言う。
 その言葉にクロキは首を傾げる。

(あれ? コウキの母は死んでいるんじゃ? もしかして、母親の夢を見て、その夢の中で会えたと言う事だろうか? 大丈夫そうに見えて本当はすごく母親に会いたいのだろうな……)

 その事を考えるとクロキは少し涙が出てきそうになる。
 当然それは夢だよとは伝える事は出来ない。
 コウキはまだ幼い。
 まだまだ母親が恋しいのだろう。
 だからこそ真実を伝える事は出来なかった。

「そうか、良かったね、コウキ。きっと頑張っている所を母親が見ていると思うから、剣の練習を始めようか」
「はい! 先生! 母様に頑張っている所を見せたいと思います」

 コウキは嬉しそうに頷く。

(きっと、コウキの母親も見ているに違いない……。頑張れ、コウキ)

 クロキは天を見上げると、次に横を見る。
 少し離れた所でこちらをじっと見守っている女性がいる。
 物陰に隠れているが、バレバレである。
 隠れている女性は光り輝く美貌を持つ女神レーナである。
 実はこの練習場には、クロキとコウキ以外にも女神レーナとここに来ているエルフ達4名がいる。
 なぜ、ここにレーナがいるのかクロキにはわからない。
 アーベロンも驚いていたが、どうもお忍びらしい。
 そのため、アーベロンを除きドワーフ達はレーナが来ている事を知らない。
 クロキはレーナの存在を感じ取れるので、ここに来ている事はわかっていた。
 レーナは何故か目をキラキラさせてクロキとコウキの練習風景を見ている。

(それにしても何やってんの、レーナは? それから、あのエルフの姫は何で泣いているの?)

 クロキはレーナ達の事が少しだけ気になる。
 レーナの足元では簀巻きにされて涙をながしているエルフの姫ルウシエンがいる。
 その後ろには恐怖の表情を浮かべているテス達3名のエルフ。

(何があったの? すごく気になるけど、知りたいような、知りたくないような。まあ、良いか関わらないでおこう)

 クロキは気になったが怖かった。 
 レーナ達も見ているだけで、何かするわけではないようなので、ほっといてコウキと練習する事にする。

「さて、コウキ。まずは剣を振ってごらん」
「はい! クロキ先生!」
 
 コウキは元気よく返事をすると木剣を振るう。
 木剣はドワーフが用意してくれたものだ。
 普通ドワーフの武器はヘイボス神の象徴であるハンマーと、ドワーフの戦神スプリグの象徴である斧だ。
 そのため剣を使うドワーフはほぼいない。
 そのドワーフ達はコウキのためにわざわざ木剣を作ってくれた。
 ただの木の枝でも良かったのだが、技巧の民であるドワーフが作るだけあって木剣でも丁寧な造りだ。
 コウキの身長に合わせて振りやすそうであった。

「やっぱり、力が入りすぎているね、普段は力を抜いて握り、斬るその瞬間だけ力を入れるんだ」

 クロキは片膝を床に付き、コウキの手に触る。
 コウキは剣をガチガチに握りしめている。
 それを解きほぐす。

「はい! 先生!」
 
 コウキが教えに従って剣を振るう。
 動きがぎこちない。
 だけど、後は反復練習して体で覚えるしかない。
 他にもクロキは体の動きや、相手の動きを良く見る事を教える。
 これはクロキが師匠と呼べる人から教わった事だ。
 それをコウキに教える。
 もちろんクロキの数少ない経験を元にした事も教える。
 全てをすぐに吸収する事は出来ないだろう。
 しかし、コウキは必死にクロキの教えた事を吸収しようとしている。

(きっと良い剣士になるだろうな)

 クロキはコウキが剣を振る姿を見てそう思う
 事実コウキの剣の筋は良い。 
 それに何よりもやる気がある。
 ただ、継続して練習する根気があるかどうかは今のところわからない。
 剣に限らず、何事も一朝一夕では上達しない。
 だけど、そればかりはクロキにもどうする事もできない。
 出来る事は誠実に教える事だけだ。
 子どもだからと言って、雑な対応はしない。
 年齢なんか関係ない。
 男と男の約束であり、コウキの目は真剣だ。
 クロキもそれに応えるだけであった。

「そろそろ休もうか、コウキ」

 教えを初めてから1時間後、クロキは休憩するように言う。
 
「いえ! 先生! まだやれます!」

 コウキは首を振る。
 だけど、なれない事をしているのに加えて、コウキは必要以上に頑張っている。
 見た目にも疲れているのがクロキにはわかる。

「駄目だよ、コウキ。すぐに強くはなるのは難しいんだ。何度も何度も練習しなければならない。だから、適度に休息をしないと駄目だよ」

 クロキは床に膝を付いて、コウキの目線に合わせると優しく諭す。
 無理をして体を壊したら意味がない。
 そもそも、やる気がある子に厳しくする必要もない。
 だから、無理やり休ませる。
 クロキはコウキと共に休憩用の長椅子に座る。
 椅子に座ると気が抜けたのか、コウキの頭が前後に揺らぐ。
 予想以上に疲れている様子であった。

「コウキ。横になりなさい。最初なのだから無理をしたら駄目だ。それよりも、長く続ける事が大事なんだ。休みながらでもね」
「はい、クロキ先生……」

 コウキは椅子に横になると眠り出す。
 クロキはコウキの寝顔を見る。

(年齢はいくつぐらいだろうか? 4歳? いや、5歳? まあ、年齢なんかどうでも良いか。小さいのに良く頑張る)

 クロキはコウキを褒める。
 1時間でも飽きずに練習をしている事はすごい事だ。
 よく頑張ったとコウキの頭を撫でる。 

「中々、良い先生ね。クロキ」

 休憩に入ったのを見たレーナがクロキ達の側に来る。

「レーナ? どうしてここに?」
「あら、私がここにいるのは当然よ」
「えっ? どういう意味……?」
 
 疑問に思うクロキを無視して、レーナはクロキの隣に座るとコウキの頭を太ももに乗せる。
 その行為を見てクロキは驚く。
 レーナは子どもに優しくするタイプとは思えなかったからだ。
 しかし、レーナには頼みたい事があるので、その疑問を口にすることはしなかった。
 
「レーナ。この子の事なのですが、エルフ達に攫われてここまで来たようなのです。元の国に戻してくれませんか?」

 クロキはレーナにお願いをする。
 コウキは母親との約束のために、元の国に戻りたがっている。
 エルフ達の上位者であるレーナなら元に戻すのも簡単だろう。

「もちろん、そのつもりよ。そもそもエルドにコウキを送ったのは私だもの」
「えっ? そうなの?」
「それにしても、血の絆って強いわね。本当はコウキにシロネの剣を学ばせるつもりだったのよ、それがまさか貴方から直接教わるなんて……。ルウシエンにもっときついお仕置きをしようと思ったけど、軽いので済ませてあげたわ」

 レーナはコウキを愛おしそうに抱きしめながら、エルフ達を見る。
 最初にレーナがいた場所からこちらを見ている。

(ええと、レーナに何をされたの?)

 クロキはルウシエンを見る。
 ルウシエンの顔は先程と同じように恐怖で引きつっている。

「母様……」

 夢の中で母親に抱きしめられているのだろうか、コウキは寝言を言う。

「本当に可愛い子。きっと、立派な騎士になってくれるわ」

 レーナはコウキの顔を愛おしそうに撫でる。

(何だろう? さっきから、すごい違和感。レーナとコウキはどういう関係なの? コウキはただの人の子ではないのかもしれない)

 クロキはコウキと出会った時の事を思い出す。
 コウキは狼人ウルフマンを突き飛ばしていた。
 良く考えたら、いくら不意をついたとはいえ、普通の人間なら難しいはずであった。

「あの~、レーナ。コウキの事ですが……」

 クロキはコウキの事を聞こうする。
 聞こうとするとレーナはクロキを見てニコリと笑う。
 すごく嬉しそうな笑みだ。 



「もちろん、コウキは私と貴方の子よ」 
「えっ?」 



 その言葉を聞いた時だった、クロキの思考が停止する。
 そして、レーナとコウキを交互に見る。
 良く見るとレーナとコウキは似ている。
 その後、クロキは考え込み、やがてレーナの言葉の意味を理解する。


「えええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」



 クロキは間抜けな声が練習場に響くのだった。  

 
 ★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★

 ようやく気付くクロキ。

 短く、今回は後書きで書くことがないや……。
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