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第9章 妖精の森
第6話 クタルの牢獄
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クタルの宮殿は世界で最も高いエリオス山の地下にある。
元々は破壊神ナルゴルの地下宮殿であったが、今はエリオスの神々の管理下になっている。
この宮殿の3階層には牢獄があり、エリオスの神々に逆らった者達が閉じ込められている。
死刑にする程ではない者もいれば、殺す事が難しい者もいる。
後者の多くは破壊神ナルゴルの配下だった神々等だ。
そして、その中でも特に凶悪な神が凶獣フェリオンである。
血塗られた狂神とも呼ばれたフェリオンには理性がなく破壊する事しか知らないとクロキは聞いていた。
その力は凄まじく、解放されたなら多くの命が奪われるだろう。
そのため、エリオスの神々はグレイプニルと呼ばれる強力な魔法の戒めでフェリオンを封じた。
ただ、このグレイプニルも7年に1度だけ戒めが緩む時がある。
その時はフェリオンの唸り声が地上まで聞こえてくる。
クロキとクーナは上方にあるヴェルンドから降りてそんなクタルの宮殿の入り口である巨大な門の前へと来ていた。
中に入らないのは宮殿の中は闇の気が充満しているので、弱い者は入るだけで死んでしまうような場所だからだ。
もっとも闇の属性を持つクロキならば平気で入れるだろうが、用心をして中に入らないようにしている。
門の前にはこの牢獄を管理しているドワーフの集落があり、クロキ達はそこに滞在している。
ここに住むドワーフ達は看守であり、自らが作ったゴーレムを使い、牢獄の中を管理しているのだ。
そのゴーレムは作業用だけでなく防衛も兼ねている。中にいる者達が地上に出てこないように見張っているのだ。
また、牢獄を襲って来る者がいても大丈夫なように、牢獄の門にも多数のゴーレムを配置している。
石ゴーレムに鉄ゴーレム、さらに自己再生能力を持つオリハルコンゴーレムもいる。
そして、ゴーレム以外にも燃える血を持つ金属生命体のタロスも多数配置されている。
タロスの戦士団はドワーフ達が有する戦力で最強である。
それが多数配置されている事からもこの牢獄の防衛が重要視されている事がわかる。
さらに門の前に城壁を築き、外からの襲撃者にも備えている。
外から見ると集落というより城塞であった。
そして、現在ドワーフの集落では現在ささやかな宴会が開かれている。
理由はクロキ達の歓迎のためだ。
集落の中心地ではドワーフ達が輪になって酒盛りをしている。
「麦酒をまわせ、麦酒をまわせ!
共に酒を酌み交わそう!
偉大なる父に祝福を!
蜜酒をまわせ、蜜酒をまわせ!
共に歌い!共に踊ろう!
陽気なドワーフに祝福を!」
クロキの目の前ではフォーンの少年が踊りながら笛を吹いている。
その軽快な音色は聴く者達を楽しくさせ、音色につられた者達が躍り出す。
フォーンはこの樹海に住む種族で、両足が鹿であり、頭から鹿の角が生えている。
その姿は優美で、ゴブリンやオークと違い、人間やエルフとは敵対関係にはない。
そもそも、エリオスの神々は全てのナルゴルの眷属全てを滅ぼそうとはしておらず、フェアリーやマーメイド等と同じく、存在を認めている種族もいる。
フォーンもまたそんな種族の1つで、目の前で笛を吹いている彼は度々ドワーフの所に出入りしているようであった。
笛に音に合わせてドワーフ達も歌っている。
とても楽しそうだ。
もしかすると歓迎するというのは建前で、ただ飲みたかっただけかもしれないとクロキは思う。
「どうだ? クロキ? 似合うか?」
猫耳のアクセサリーを付けたクーナが甘えてくる。
それは凶悪的な可愛さだった。
クロキはすごくペロペロしたくなるのを自制する。
ドワーフ達の目もあるので我慢しなければならない。
だから、頭を撫でるだけに留める。
「うん、すごく可愛いよ、クーナ」
クロキが頭を撫でるとクーナは嬉しそうにする。
なぜ、クーナが猫耳を付けているのかというと、ここに住むドワーフの妻に猫人が多いからだ。
そのため、猫人でない妻達も猫耳を付けるのが流行った。
そして、クーナも猫耳を付けたのである。
猫人は元ジプシールの民で獅子の女王セクメトラと猫の王女ネルフィティの眷属だ。
そして、ドワーフの神であるヘイボス神はセクメトラの夫とされていて、ネルフィティは両者の娘である。
自分達の信仰する神がそうだからか、猫人は外見の悪いドワーフに嫁ぐ事に抵抗がない。
猫人は伴侶を見つけるのに苦労するドワーフの助けになっているのだ。
フォーンと一緒に猫人の踊り子も踊っている。
ジプシールの踊りはベリーダンスに似ていて、この世界で最古の踊りの1つだ。
クロキはよく見たいと思うが、クーナがいるのでやめておく。
「騎士殿。飲んでいますかな?」
1名のドワーフが酒瓶を抱えてクロキ達の方に来る。
ドワーフは金糸が入った豪奢な外套を纏い、頭には大きな宝石が入った冠を被っている。
ドワーフの名はアーベロン。
ヘイボス神から地上のドワーフのまとめ役を任されているドワーフだ。
その事から大ドワーフともドワーフロードとも呼ばれている。
このクタルの牢獄のドワーフ達の長でもあり、北西のカウフの地のドワーフ達の指導者でもある。
「はい、アーベロン殿。宴を開いて下さりありがとうございます」
そう言って杯を差し出すとアーベロンは瓶から酒を注ぐ。
注がれているのは麦酒ではなく果実酒だ。
何でもエルフの国であるアルセイディアで醸成されたらしい。
技巧の民であるドワーフはなぜか食料品を造るのは苦手だ。そのため、ほとんどの食料を外部から輸入している。
その大部分は近いからか、エルフの国アルセイディアからだそうだ。
エルフの国は少し気になるので見に行きたいが、ナルゴルの者である自分には少し難しいだろう。
クロキは注がれたお酒を飲む。
いつもは飲まないが、友好の酒を断る事は難しい。
例えばケンタウロス族のように勧めた馬乳酒を断った者を敵とみなす事があるからだ。
だから、最初だけは飲むようにしている。
この世界では飲酒をして良い年齢に明確な定めはない。
だからだろうか飲酒を始める年齢は日本に比べてはるかに早い。
飲料水を得られないので仕方なく飲む場合もあるが、それでも全体的に早いだろう。
最近、クロキも仕方がない場合は飲酒をするようにしている。
しかし、お酒を飲むと確実に戦闘力は下がるので、なるべく飲むべきではない。
一応アルコールを無効にする魔法もあるが、普段から飲みなれないクロキはその魔法を使えないので、なるべく酒を断らなければならない。
「少し甘味があって飲みやすいですね」
そういうとアーベロンは苦笑する。
「確かに飲みやすいですが、我らドワーフにはものたりません。出来ればもっと辛いのを欲しいのですが、エルフ達が作る酒はこのようなのばかりなのですよ。森に異変が起きているので、人間達が作る酒が入ってきません。辛い酒は先日飲み切ってしまったのです。暗黒騎士殿には申し訳ない」
「いえ、気になさらずとも大丈夫です。宴を開いてくれるだけでも嬉しく思います」
クロキは心底そう思う。申し訳ないが、酒の味がわからないのである。
エルフは甘めの酒を、ドワーフは辛い酒を好む。
辛い酒は人間の国から輸入しているが、ダハーク達が森に攻めてきているので、輸入が難しくなった。そのため、近いエルフの国から酒を輸入しているが、ドワーフの好みではないみたいだ。
クロキとしてはどうでも良い事だが、酒好きのドワーフ達には大問題のようであった。
「ところでアーベロン殿。エルフ達はどうしているのでしょう? 森の地上部分は彼女達が防衛をしていると聞いていますが?」
クロキ達はダハーク達の事を聞く。
ダハーク等の強敵はアルフォスや天使達が応戦するだろう。
しかし、彼らが連れて来ている下位種族の兵士達は森の管理者であるエルフ達が相手をするはずであった。
「わかりませぬ。エルフ共は我らに教えてくれませぬから」
アーベロンは溜息を吐く。
エルフとドワーフは共にエリオスの神々の眷属だが、仲が良いわけではない。
交流はあるが、必要な情報交換を全く行っておらず、アーベロンは何も知らないとの事だった。
「アーベロン殿。今回はあの蛇の王子も出て来ています。一応エルフ達の戦況がどうなっているのかを確認した方が良いのでは? もちろん、相手の状況によっては教えてくれない事もあるでしょうが……」
「確かに気になりますな。しかし、素直に教えてくれるかどうか? う~ん、ならばこうしましよう。 近々、食料を得るために我らの使者がアルセイディアに行きます。その時に様子を見てもらいましょう」
アーベロンはうんうんと頷いて言う。
クロキは少し落胆する。
ドワーフとエルフの不仲はかなりのもので、得られる情報は少なそうであった。
クロキもその使者達に付いて行きたいと思うが、ドワーフでない男がいたら目立つ。
正体を隠して来ている以上はそんな行動は出来ない。
(だけど、ダハーク達の動きが少し気になるな。何とかエルフの様子を調べられないだろうか?)
クロキがそんな事を考えていると隣にいるクーナが袖を引っ張る。
「どうしたの? クーナ?」
「なあ、クロキ。良かったらクーナがエルフの国の様子を見てくるぞ? クーナならエルフ達が何をしているのかすぐにわかる」
「えっ? でも、使者の中にクーナがいたら目立つんじゃ……」
クロキはクーナを見る。
クーナは美少女だ。目立つだろう。
それにクーナの顔を知っている者がいるかもしれない。
それに魔法で姿を変えても、エルフ達はそういった魔法を見破る力に長けている。
クーナの魔力は強いが、変身系の魔法には疎い。
見破られる可能性がある。
「もしかすると大丈夫かもしれないぞ。なあ、その使者の中に猫娘達はいないのか? 髪を隠し、外見だけ猫人の娘はいないのか? いるのなら、髪を隠して、変装すればバレないだろう。そして、近づいて蝶を放つ」
クーナがそう言うと光輝く蝶が周囲に現れる。
クーナの使う幻夢の蝶だ。
無限の距離を飛ぶ事は出来ないが、近い所なら次元を超えて侵入できる。
その探知能力は高く、使役する者に多くの情報をもたらしてくれる。
確かにクロキが行くより、多くの事を知る事が出来るだろう。
「はい。奥方殿、我々ドワーフよりも彼女達の方が食料品の目利きが優れていますので、いつも付いて来てもらっています」
アーベロンの言葉にクーナは頷く。
「ならば決まりだな。後ろに隠れて目立たないようにすれば大丈夫のはずだぞ。だから、クロキ。クーナはちょっと行ってくるぞ」
「ありがとうクーナ。でも良いのかい?」
「クロキの役に立てるのなら、クーナの喜びだぞ。それにエルフ程度が相手なら危険はないはずだぞ。大した事はない」
そう言ってクーナはクロキの膝に乗ると、頭をクロキの胸に預ける。
「うーん。確かにクーナは強いけど……、でもそれしかないか。わかった、気を付けてね、クーナ」
ちょっと不安だけど、クロキはクーナに任せる事にする。
「ああ、任せておけ、クロキ」
そう言うとクーナは笑うのだった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
更新しました。
クタルの名はメソポタミア神話の冥府クタとギリシャ神話のタルタロスが元だったりします。
誤字脱字があったら報告してくださると嬉しいです。
元々は破壊神ナルゴルの地下宮殿であったが、今はエリオスの神々の管理下になっている。
この宮殿の3階層には牢獄があり、エリオスの神々に逆らった者達が閉じ込められている。
死刑にする程ではない者もいれば、殺す事が難しい者もいる。
後者の多くは破壊神ナルゴルの配下だった神々等だ。
そして、その中でも特に凶悪な神が凶獣フェリオンである。
血塗られた狂神とも呼ばれたフェリオンには理性がなく破壊する事しか知らないとクロキは聞いていた。
その力は凄まじく、解放されたなら多くの命が奪われるだろう。
そのため、エリオスの神々はグレイプニルと呼ばれる強力な魔法の戒めでフェリオンを封じた。
ただ、このグレイプニルも7年に1度だけ戒めが緩む時がある。
その時はフェリオンの唸り声が地上まで聞こえてくる。
クロキとクーナは上方にあるヴェルンドから降りてそんなクタルの宮殿の入り口である巨大な門の前へと来ていた。
中に入らないのは宮殿の中は闇の気が充満しているので、弱い者は入るだけで死んでしまうような場所だからだ。
もっとも闇の属性を持つクロキならば平気で入れるだろうが、用心をして中に入らないようにしている。
門の前にはこの牢獄を管理しているドワーフの集落があり、クロキ達はそこに滞在している。
ここに住むドワーフ達は看守であり、自らが作ったゴーレムを使い、牢獄の中を管理しているのだ。
そのゴーレムは作業用だけでなく防衛も兼ねている。中にいる者達が地上に出てこないように見張っているのだ。
また、牢獄を襲って来る者がいても大丈夫なように、牢獄の門にも多数のゴーレムを配置している。
石ゴーレムに鉄ゴーレム、さらに自己再生能力を持つオリハルコンゴーレムもいる。
そして、ゴーレム以外にも燃える血を持つ金属生命体のタロスも多数配置されている。
タロスの戦士団はドワーフ達が有する戦力で最強である。
それが多数配置されている事からもこの牢獄の防衛が重要視されている事がわかる。
さらに門の前に城壁を築き、外からの襲撃者にも備えている。
外から見ると集落というより城塞であった。
そして、現在ドワーフの集落では現在ささやかな宴会が開かれている。
理由はクロキ達の歓迎のためだ。
集落の中心地ではドワーフ達が輪になって酒盛りをしている。
「麦酒をまわせ、麦酒をまわせ!
共に酒を酌み交わそう!
偉大なる父に祝福を!
蜜酒をまわせ、蜜酒をまわせ!
共に歌い!共に踊ろう!
陽気なドワーフに祝福を!」
クロキの目の前ではフォーンの少年が踊りながら笛を吹いている。
その軽快な音色は聴く者達を楽しくさせ、音色につられた者達が躍り出す。
フォーンはこの樹海に住む種族で、両足が鹿であり、頭から鹿の角が生えている。
その姿は優美で、ゴブリンやオークと違い、人間やエルフとは敵対関係にはない。
そもそも、エリオスの神々は全てのナルゴルの眷属全てを滅ぼそうとはしておらず、フェアリーやマーメイド等と同じく、存在を認めている種族もいる。
フォーンもまたそんな種族の1つで、目の前で笛を吹いている彼は度々ドワーフの所に出入りしているようであった。
笛に音に合わせてドワーフ達も歌っている。
とても楽しそうだ。
もしかすると歓迎するというのは建前で、ただ飲みたかっただけかもしれないとクロキは思う。
「どうだ? クロキ? 似合うか?」
猫耳のアクセサリーを付けたクーナが甘えてくる。
それは凶悪的な可愛さだった。
クロキはすごくペロペロしたくなるのを自制する。
ドワーフ達の目もあるので我慢しなければならない。
だから、頭を撫でるだけに留める。
「うん、すごく可愛いよ、クーナ」
クロキが頭を撫でるとクーナは嬉しそうにする。
なぜ、クーナが猫耳を付けているのかというと、ここに住むドワーフの妻に猫人が多いからだ。
そのため、猫人でない妻達も猫耳を付けるのが流行った。
そして、クーナも猫耳を付けたのである。
猫人は元ジプシールの民で獅子の女王セクメトラと猫の王女ネルフィティの眷属だ。
そして、ドワーフの神であるヘイボス神はセクメトラの夫とされていて、ネルフィティは両者の娘である。
自分達の信仰する神がそうだからか、猫人は外見の悪いドワーフに嫁ぐ事に抵抗がない。
猫人は伴侶を見つけるのに苦労するドワーフの助けになっているのだ。
フォーンと一緒に猫人の踊り子も踊っている。
ジプシールの踊りはベリーダンスに似ていて、この世界で最古の踊りの1つだ。
クロキはよく見たいと思うが、クーナがいるのでやめておく。
「騎士殿。飲んでいますかな?」
1名のドワーフが酒瓶を抱えてクロキ達の方に来る。
ドワーフは金糸が入った豪奢な外套を纏い、頭には大きな宝石が入った冠を被っている。
ドワーフの名はアーベロン。
ヘイボス神から地上のドワーフのまとめ役を任されているドワーフだ。
その事から大ドワーフともドワーフロードとも呼ばれている。
このクタルの牢獄のドワーフ達の長でもあり、北西のカウフの地のドワーフ達の指導者でもある。
「はい、アーベロン殿。宴を開いて下さりありがとうございます」
そう言って杯を差し出すとアーベロンは瓶から酒を注ぐ。
注がれているのは麦酒ではなく果実酒だ。
何でもエルフの国であるアルセイディアで醸成されたらしい。
技巧の民であるドワーフはなぜか食料品を造るのは苦手だ。そのため、ほとんどの食料を外部から輸入している。
その大部分は近いからか、エルフの国アルセイディアからだそうだ。
エルフの国は少し気になるので見に行きたいが、ナルゴルの者である自分には少し難しいだろう。
クロキは注がれたお酒を飲む。
いつもは飲まないが、友好の酒を断る事は難しい。
例えばケンタウロス族のように勧めた馬乳酒を断った者を敵とみなす事があるからだ。
だから、最初だけは飲むようにしている。
この世界では飲酒をして良い年齢に明確な定めはない。
だからだろうか飲酒を始める年齢は日本に比べてはるかに早い。
飲料水を得られないので仕方なく飲む場合もあるが、それでも全体的に早いだろう。
最近、クロキも仕方がない場合は飲酒をするようにしている。
しかし、お酒を飲むと確実に戦闘力は下がるので、なるべく飲むべきではない。
一応アルコールを無効にする魔法もあるが、普段から飲みなれないクロキはその魔法を使えないので、なるべく酒を断らなければならない。
「少し甘味があって飲みやすいですね」
そういうとアーベロンは苦笑する。
「確かに飲みやすいですが、我らドワーフにはものたりません。出来ればもっと辛いのを欲しいのですが、エルフ達が作る酒はこのようなのばかりなのですよ。森に異変が起きているので、人間達が作る酒が入ってきません。辛い酒は先日飲み切ってしまったのです。暗黒騎士殿には申し訳ない」
「いえ、気になさらずとも大丈夫です。宴を開いてくれるだけでも嬉しく思います」
クロキは心底そう思う。申し訳ないが、酒の味がわからないのである。
エルフは甘めの酒を、ドワーフは辛い酒を好む。
辛い酒は人間の国から輸入しているが、ダハーク達が森に攻めてきているので、輸入が難しくなった。そのため、近いエルフの国から酒を輸入しているが、ドワーフの好みではないみたいだ。
クロキとしてはどうでも良い事だが、酒好きのドワーフ達には大問題のようであった。
「ところでアーベロン殿。エルフ達はどうしているのでしょう? 森の地上部分は彼女達が防衛をしていると聞いていますが?」
クロキ達はダハーク達の事を聞く。
ダハーク等の強敵はアルフォスや天使達が応戦するだろう。
しかし、彼らが連れて来ている下位種族の兵士達は森の管理者であるエルフ達が相手をするはずであった。
「わかりませぬ。エルフ共は我らに教えてくれませぬから」
アーベロンは溜息を吐く。
エルフとドワーフは共にエリオスの神々の眷属だが、仲が良いわけではない。
交流はあるが、必要な情報交換を全く行っておらず、アーベロンは何も知らないとの事だった。
「アーベロン殿。今回はあの蛇の王子も出て来ています。一応エルフ達の戦況がどうなっているのかを確認した方が良いのでは? もちろん、相手の状況によっては教えてくれない事もあるでしょうが……」
「確かに気になりますな。しかし、素直に教えてくれるかどうか? う~ん、ならばこうしましよう。 近々、食料を得るために我らの使者がアルセイディアに行きます。その時に様子を見てもらいましょう」
アーベロンはうんうんと頷いて言う。
クロキは少し落胆する。
ドワーフとエルフの不仲はかなりのもので、得られる情報は少なそうであった。
クロキもその使者達に付いて行きたいと思うが、ドワーフでない男がいたら目立つ。
正体を隠して来ている以上はそんな行動は出来ない。
(だけど、ダハーク達の動きが少し気になるな。何とかエルフの様子を調べられないだろうか?)
クロキがそんな事を考えていると隣にいるクーナが袖を引っ張る。
「どうしたの? クーナ?」
「なあ、クロキ。良かったらクーナがエルフの国の様子を見てくるぞ? クーナならエルフ達が何をしているのかすぐにわかる」
「えっ? でも、使者の中にクーナがいたら目立つんじゃ……」
クロキはクーナを見る。
クーナは美少女だ。目立つだろう。
それにクーナの顔を知っている者がいるかもしれない。
それに魔法で姿を変えても、エルフ達はそういった魔法を見破る力に長けている。
クーナの魔力は強いが、変身系の魔法には疎い。
見破られる可能性がある。
「もしかすると大丈夫かもしれないぞ。なあ、その使者の中に猫娘達はいないのか? 髪を隠し、外見だけ猫人の娘はいないのか? いるのなら、髪を隠して、変装すればバレないだろう。そして、近づいて蝶を放つ」
クーナがそう言うと光輝く蝶が周囲に現れる。
クーナの使う幻夢の蝶だ。
無限の距離を飛ぶ事は出来ないが、近い所なら次元を超えて侵入できる。
その探知能力は高く、使役する者に多くの情報をもたらしてくれる。
確かにクロキが行くより、多くの事を知る事が出来るだろう。
「はい。奥方殿、我々ドワーフよりも彼女達の方が食料品の目利きが優れていますので、いつも付いて来てもらっています」
アーベロンの言葉にクーナは頷く。
「ならば決まりだな。後ろに隠れて目立たないようにすれば大丈夫のはずだぞ。だから、クロキ。クーナはちょっと行ってくるぞ」
「ありがとうクーナ。でも良いのかい?」
「クロキの役に立てるのなら、クーナの喜びだぞ。それにエルフ程度が相手なら危険はないはずだぞ。大した事はない」
そう言ってクーナはクロキの膝に乗ると、頭をクロキの胸に預ける。
「うーん。確かにクーナは強いけど……、でもそれしかないか。わかった、気を付けてね、クーナ」
ちょっと不安だけど、クロキはクーナに任せる事にする。
「ああ、任せておけ、クロキ」
そう言うとクーナは笑うのだった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
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