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第8章 幽幻の死都
第25話 カルンスタイン城
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カルンスタイン城の地下、クロキは囚われていたフルティン達を助け出していた。
薄暗い部屋の中で蝋燭の灯りにより、全裸の毛むくじゃらのおっさんの尻が浮かび上がる。
何とも言えない光景であった。
「どうやら、城が騒がしくなったようですな、クロキ殿」
フルティンの言うとおり、捕えられた者達が逃げ出した事で城のアンデッド達が騒ぎ始めたのだ。
どうやら、フルティン達の拘束が解かれると何らかの通知が入るようになっていたようで、ティベルの嫌な感じもそれが原因であった。
中に危険はないが、危険に陥る要因があったのである。
「無事に逃げる事が出来たら良いのですが……」
クロキはフルティンの方を見ずに答える。
フルティンとマルダスとその他3名を残し、捕えられた男達は城から脱出している。
ウェンディを救うために、彼等には囮になってもらった。
元々戦士である彼らは喜んで協力してくれた。
クロキは心の中で彼らの無事を祈る。
ザルキシスと太った男の絡みは、ザルキシス以外は誰も得をしないだろう。
クロキはもう一度、本当に心から無事を祈る。
やがて、騒がしさが消えていく。
城からアンデッドが少なくなったのかもしれなかった。
「そうですな。そろそろ我らも動きましょうか?」
その言葉にクロキは頷く。
また白頭巾の情報から、今この城にザファラーダとそのお付の吸血鬼はいない事がわかっている。
動くなら今しかない。
「そうですね。フルティン殿……」
クロキはフルティンに背を向けて答える。
クロキは今白い頭巾を被っている。
そして、フルティン達は逃げられなかった者の振りをしている。
つまり全裸で縛られている状態だ。さすがにV字ではないが正視に耐える事ができない。
そのため、クロキはこうして目を反らした状態で会話をしているのだ。
ティベルも何だかしらけた顔で黙ったままだ。
よく見ると鼻を押さえている。本当に嫌みたいだ。
(ごめんね、ティベル)
クロキは心の中で謝る。
この場には白い頭巾の者は他にもいるが、ティベルの魔法の支配下にある。
そして、アンデッド共がいなくなるのを確認させる。
クロキや他の白頭巾は城に追跡に行かず残る事になっている。
動きが鈍い改造人間ではなく、アンデッドが追跡する方が理に適っているからだ。
確認に行った白頭巾が戻って来て首を縦に振る。
どうやらアンデッドがいなくなったようだ。
フルティン達は武装する。
武装は白頭巾達が持っていた物だ。
武器を構えると様になっている。
全裸で足をV字開脚させられていたのが嘘みたいだ。
「さあ行こう。クロキ殿」
マルダスはにやりと笑う。
彼は今も全裸である。
狂戦士は鎧を着ない。
むしろ何も防具を装着せずに戦う事を誇りとしている。
だから、裸でも問題ないと思っているようであった。
鎧を着て戦う事は臆病者だと言わんばかりだ。
また、マルダスとその3名の仲間も全裸だ。
太ったおっさんの尻が三つ並ぶ。
クロキはできれば視界に入れたくないが、そんな事は言っていられない。
なぜなら、彼らが先行を買って出てくれたからだ。
おそらく、盾になるつもりなのだろう。
すごくありがたい事だ。
だけど、なぜかクロキは罰ゲームなような気がしていた。
フルティンを先頭にマルダスとその仲間、そしてクロキが続く。
フルティンを先頭にしたのはアンデッド感知の能力が有るからだ。
長い階段を上がる。
目の前でがに股で上る男達。
がに股で上るのは太っているからだ。
そのため股の間でぷるぷると震えているブツが丸見えであった。
(嫌、もう本当に勘弁してください……)
クロキがそう思った時だった、急にフルティンが止まる。
当然マルダス達のアレの揺れも止まる。
「どう……?」
クロキがどうしたのかと聞こうとしたところでフルティンが口に手を当てる。
静かにというジェスチャーだ。
階段を上がった所に扉がある。
どうやら一階へたどり着いたようだ。
フルティンの様子から、おそらくその先にアンデッドがいるのだろう。
「クロキ殿。ここは我らが暴れて城内の敵を引き付けます。その間に先に進んで下され。よろしいですかな、マルダス殿?」
「ああ、大丈夫だ。行くぜ。ケッツノ。アナガ。モロ」
マルダスが頷くと仲間の男達も頷く。
そして、クロキはこの3人の名前は絶対に繋げて呼んではいけないような気がする。
「おうよ」
「任せな」
「ああ、今こそ漢を見せる時だぜ」
頼もしく笑うケッツノ、アナガ、モロ。
正直に言うと男の部分はこれ以上見たくなかったが、それは言わないでおく。
「わかりました。お気をつけて……」
クロキがそう言うと男達はフッっと笑う。それは死を覚悟した顔だ。
とても男前である。
「行くぞ!」
「おう!」
フルティン達は突撃する。
その様子を扉の隙間から眺める
「滅びるが良い! 死の君主の眷属め! 裁きの鉄槌を受けよ!」
フルティンの持つ小振りなメイスの先端が光り輝く。
フルティンは神又は天使から加護の力を得ている。
裁きの鉄槌の魔法は打撃の威力を高めると同時に武器又は拳に光属性の力を付与する。
アンデッドが相手なら特に有効な魔法だ。
「俺も行くぜ! 拳よ鉄の如くなれ!」
マルダスもまた魔法を使う。
トールズの拳闘士が好んで使う鉄拳の魔法であった。
拳を鉄の如く硬くする事で鉄の打撃武器と同等の威力を持たせることが出来る。
筋力を上げると同時に防御にも使える鉄腕の魔法と併用して使われる事が多かったりする。
魔法を使ったフルティンとマルダス達は次々とアンデッドを倒していく、正に歴戦の勇士である。
そのフルティン達の戦いを眺めているとクロキは横の脇のところに階段を見付ける。
そこから、アンデッドがどんどん降りて来る。
そして、しばらくすると降りて来るアンデッドはいなくなる。
数はそんなに多くない。
彼等だけで大丈夫そうであった。
「よし! 行くよ! ティベル!」
「はい! クロキ様! ようやく、臭い人間とおさらばです~」
余程嫌だったのかティベルは嬉しそうに言う。
クロキはすばやく扉を出て壁伝いに動き階段へと向かう。
途中で幽鬼追いかけられそうになるが、マルダスがそれを阻む。
「ありがとう」
お礼を言うとクロキは先へと進む。
進む先には敵の気配は感じない。
白頭巾からの情報ではウェンディ達がいるのはかなり上の階のはずである。
やがて先に進むと白頭巾の男が立っている場所へとたどり着く。
その男の立つ扉の奥の部屋にウェンディ達がいるようであった
「うん? どうした?」
白頭巾の男はクロキを見ると何があったのかと問いかける。
もちろん、構っている場合ではない。
「眠れ」
クロキが睡眠の魔法を使うと白頭巾は倒れる。
そして、男が立っていた扉の中に入るとそこは広い部屋だった。
綺麗な絨毯が敷き詰められ、天井は高い。
その天井から何か巨大な鳥籠が吊り下げられている。
「ティベルちゃん! クロキさん!」
声がするので、よく見ると鳥籠からウェンディが顔を出している。
「ウェンディ。助けに来た。ちょっと待ってて」
「待って! 床には変なのがいるの!」
ウェンディが言うとおり、鳥籠の下には複数の何かが蠢いている。
それはヌメヌメとした赤い塊である。
赤い塊は人間の赤ん坊を程の大きさで、床中に広がっている。
「巨大ヒル? 逃げ出さないようにしているのか?」
クロキは赤い塊達を見て言う。
赤い塊は巨大ヒルである。
巨大ヒルはナルゴルの沼地にもいるので珍しくない。
しかし、目の前の巨大ヒルは何処かが違っていた。
口のある所が人間の顔のように見えるのだ。
「うう~。気持ち悪いですう~。ここは気持ち悪いものだらけですう~」
ティベルはクロキの服から顔を出すと、ヒル達を見て泣き声を出す。
ヒル達は顔に見える部分をクロキ達に向ける。
その顔はどこか笑っているようであった。
新しい獲物が現れた事を喜んでいるように見えた。
ヒル達は床を這ってクロキを取り囲むように動く。
その動きは連携が取れている。まるで知性があるかのようであった。
クロキはヒル達を見て何か嫌なものを感じる。
そんなクロキの心情に構わずヒル達はクロキ達に飛びかかってくる。
襲いかかってくるのならば火の粉を払わねばならない。
クロキはヒル達を排除する事にする。
それに死の眷属は瘴気を撒き、汚す。
そうなれば、ティベル等の小さい生き物はもちろん人間等も絶滅してしまうだろう。
残るのは死の眷属の生き物と亡者だけだ。
クロキの望む世界を守るため、クロキとクーナの生きる世界を守るため、死の眷属とクロキは相入れない。
クロキは黒い炎を出すとヒル達を瞬時に焼く。
その時に人間の子どもの泣き声が聞こえてしまい心に影が刺す。
(何なんだ? このヒル達はまるで人間の子どもが間違ってヒルとして生まれてきたような気がする)
クロキはヒル達の残骸を見て、嫌な気分になる。
「クロキ様~。早くここから離れた方が良いですう~。危険が近づいているですよ~」
クロキの服から出たティベルが慌てた声で言う。
どうやら、考えている暇はないようであった。
クロキは部屋を見る。
部屋を見渡すと滑車を見付ける。
それを操作して、鳥籠を降ろす。
鳥籠が降りるとウェンディと子供達がこちらを見ている。
すごく目がキラキラしている。
鳥籠はそれ程丈夫にはできてなさそうだ。
これなら、簡単に破れるだろう。
鳥籠を破るとウェンディと子供達が飛び出して来る。
「ありがとうクロキさん! それにティベルちゃんも! 助けに来てくれたんだね!」
ウェンディがティベルに飛びかかる。
「ちょ! なにするですか!」
ティベルが慌てて逃げる。
子ども達もティベルの所に行く。
「すごい! 小妖精だ!」
「ホントだ! ホント!」
「すごい、綺麗な羽だ~! ねえ! さわっても良い!」
「すごいやウェンディおねえちゃんの言っていた事は本当だったんだ」
子ども達がはしゃぐ。
ティベルはとても人気であった。
綺麗な瑠璃色の羽がキラキラと粒子を落して飛ぶので、目を引かれる。
子どもでもなくても見惚れるのも無理はない。
それに対してティベルはとても嫌そうである。
「ちょっと! 寄るなですよ! チビ人間!」
ティベルは飛ぶとクロキの後ろに隠れる。
残念そうな顔をする子ども達。
しかし、ティベルが嫌がっている以上は無理に前に出す訳にもいかない。
「別に助けたくて助けたわけじゃないですよ!」
ティベルは頬を膨らませて怒る。
確かにティベルはウェンディを助けたいとは思っていなかった。
クロキに付き合わされただけだ。
しかし、ウェンディにとってそんな事はどうでも良いみたいである。
「でも、結局は助けに来てくれたんだよね。ありがとうティベルちゃん……」
ウェンディは目から大粒の涙を流し喜ぶ。
それを見ると自分の心の中が暖かくなる。
綺麗な光景だ。先程までおっさんの尻やヒルを相手にしていたのが嘘みたいであった。
「さて、ウェンディ。そろそろ脱出するよ。良いかい?」
「ぐすっ。はい……。逃げるよ、みんな! リリ。みんなをまとめて」
「わかったよ、ウェンディ。よろしくね、おじさん」
「えっ……。おじ……」
おじさんと呼ばれて、ちょっと傷つく。
まあ、これぐらいの歳の子なら自分はおじさんと呼ばれても仕方がないだろう。
しかし、これぐらいで傷ついてはいられない。
「じゃあみんな。自分について来て」
そう行ってクロキが扉に向かおうとすると何者かが近づく気配を感じる。
「クロキ殿! ご無事ですか!?」
入って来たのはフルティン達だ。マルダスとその仲間も一緒だ。
アンデッドの数は多くなかった。
全て倒して追いかけて来たのだろう。
しかし、丁度良かった。
「良く来てくれましたフルティン殿。ここにいる子供達を逃がすのを協力してください」
「なるほど、そちらが吸血鬼に捕らわれていた子供達ですか。もちろん協力しますぞ。そうですな、マルダス殿」
「ああ、もちろんだ。そうだろお前達」
「ああ、俺は子どもが好きなんだ」
「へへ、安心しな。こんな場所よりも良い所に連れて行ってやるぜ」
「ああ、おじさん達にまかせな」
男前な表情をするおっさん達。
しかし、裸のおっさんと子どもが並ぶ光景はどう見ても、犯罪である。
これが日本だったら、警察を呼ばなければならないだろう。
「さて、行こうか……」
クロキがそう言った時だった。ティベルが突然羽を大きくバタつかせる。
「大変です~! 危険が来たですう~!」
そして、次の瞬間だった。
巨大な何かが窓から入って来る。
「きゃあああ!」
「なんだ!?」
子ども達とおっさんが慌てる。
煙が治まり、クロキは入って来た何かを見る。
それは船の船首部分だ。
「ふふ……。鳥籠が開いたという通知が来から、窓から来たけど……。どうやら間に会ったみたいね。逃げだそうだなんて、いけない子ども達ね」
船の船首部分に誰かが立っている。
クロキはその姿を見て背筋が冷たいものが走る。
赤い豪華な衣装を纏った女性だ。
ただし、眼が赤く輝き、左腕が大きく膨れ上がり、その指先は鉤爪のようになっている。
「ザファラーダ……」
クロキは思わず呟く。
死神ザルキシスの娘、鮮血の姫ザファラーダがそこにいる。
(間に合わなかった……)
クロキは頬に冷や汗が流れるのを感じるのだった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
この世界ではゲナの拳闘術とトールズの拳闘術があります。
ゲナは護身術として、トールズは相手を積極的に殺すための拳だったりします。
薄暗い部屋の中で蝋燭の灯りにより、全裸の毛むくじゃらのおっさんの尻が浮かび上がる。
何とも言えない光景であった。
「どうやら、城が騒がしくなったようですな、クロキ殿」
フルティンの言うとおり、捕えられた者達が逃げ出した事で城のアンデッド達が騒ぎ始めたのだ。
どうやら、フルティン達の拘束が解かれると何らかの通知が入るようになっていたようで、ティベルの嫌な感じもそれが原因であった。
中に危険はないが、危険に陥る要因があったのである。
「無事に逃げる事が出来たら良いのですが……」
クロキはフルティンの方を見ずに答える。
フルティンとマルダスとその他3名を残し、捕えられた男達は城から脱出している。
ウェンディを救うために、彼等には囮になってもらった。
元々戦士である彼らは喜んで協力してくれた。
クロキは心の中で彼らの無事を祈る。
ザルキシスと太った男の絡みは、ザルキシス以外は誰も得をしないだろう。
クロキはもう一度、本当に心から無事を祈る。
やがて、騒がしさが消えていく。
城からアンデッドが少なくなったのかもしれなかった。
「そうですな。そろそろ我らも動きましょうか?」
その言葉にクロキは頷く。
また白頭巾の情報から、今この城にザファラーダとそのお付の吸血鬼はいない事がわかっている。
動くなら今しかない。
「そうですね。フルティン殿……」
クロキはフルティンに背を向けて答える。
クロキは今白い頭巾を被っている。
そして、フルティン達は逃げられなかった者の振りをしている。
つまり全裸で縛られている状態だ。さすがにV字ではないが正視に耐える事ができない。
そのため、クロキはこうして目を反らした状態で会話をしているのだ。
ティベルも何だかしらけた顔で黙ったままだ。
よく見ると鼻を押さえている。本当に嫌みたいだ。
(ごめんね、ティベル)
クロキは心の中で謝る。
この場には白い頭巾の者は他にもいるが、ティベルの魔法の支配下にある。
そして、アンデッド共がいなくなるのを確認させる。
クロキや他の白頭巾は城に追跡に行かず残る事になっている。
動きが鈍い改造人間ではなく、アンデッドが追跡する方が理に適っているからだ。
確認に行った白頭巾が戻って来て首を縦に振る。
どうやらアンデッドがいなくなったようだ。
フルティン達は武装する。
武装は白頭巾達が持っていた物だ。
武器を構えると様になっている。
全裸で足をV字開脚させられていたのが嘘みたいだ。
「さあ行こう。クロキ殿」
マルダスはにやりと笑う。
彼は今も全裸である。
狂戦士は鎧を着ない。
むしろ何も防具を装着せずに戦う事を誇りとしている。
だから、裸でも問題ないと思っているようであった。
鎧を着て戦う事は臆病者だと言わんばかりだ。
また、マルダスとその3名の仲間も全裸だ。
太ったおっさんの尻が三つ並ぶ。
クロキはできれば視界に入れたくないが、そんな事は言っていられない。
なぜなら、彼らが先行を買って出てくれたからだ。
おそらく、盾になるつもりなのだろう。
すごくありがたい事だ。
だけど、なぜかクロキは罰ゲームなような気がしていた。
フルティンを先頭にマルダスとその仲間、そしてクロキが続く。
フルティンを先頭にしたのはアンデッド感知の能力が有るからだ。
長い階段を上がる。
目の前でがに股で上る男達。
がに股で上るのは太っているからだ。
そのため股の間でぷるぷると震えているブツが丸見えであった。
(嫌、もう本当に勘弁してください……)
クロキがそう思った時だった、急にフルティンが止まる。
当然マルダス達のアレの揺れも止まる。
「どう……?」
クロキがどうしたのかと聞こうとしたところでフルティンが口に手を当てる。
静かにというジェスチャーだ。
階段を上がった所に扉がある。
どうやら一階へたどり着いたようだ。
フルティンの様子から、おそらくその先にアンデッドがいるのだろう。
「クロキ殿。ここは我らが暴れて城内の敵を引き付けます。その間に先に進んで下され。よろしいですかな、マルダス殿?」
「ああ、大丈夫だ。行くぜ。ケッツノ。アナガ。モロ」
マルダスが頷くと仲間の男達も頷く。
そして、クロキはこの3人の名前は絶対に繋げて呼んではいけないような気がする。
「おうよ」
「任せな」
「ああ、今こそ漢を見せる時だぜ」
頼もしく笑うケッツノ、アナガ、モロ。
正直に言うと男の部分はこれ以上見たくなかったが、それは言わないでおく。
「わかりました。お気をつけて……」
クロキがそう言うと男達はフッっと笑う。それは死を覚悟した顔だ。
とても男前である。
「行くぞ!」
「おう!」
フルティン達は突撃する。
その様子を扉の隙間から眺める
「滅びるが良い! 死の君主の眷属め! 裁きの鉄槌を受けよ!」
フルティンの持つ小振りなメイスの先端が光り輝く。
フルティンは神又は天使から加護の力を得ている。
裁きの鉄槌の魔法は打撃の威力を高めると同時に武器又は拳に光属性の力を付与する。
アンデッドが相手なら特に有効な魔法だ。
「俺も行くぜ! 拳よ鉄の如くなれ!」
マルダスもまた魔法を使う。
トールズの拳闘士が好んで使う鉄拳の魔法であった。
拳を鉄の如く硬くする事で鉄の打撃武器と同等の威力を持たせることが出来る。
筋力を上げると同時に防御にも使える鉄腕の魔法と併用して使われる事が多かったりする。
魔法を使ったフルティンとマルダス達は次々とアンデッドを倒していく、正に歴戦の勇士である。
そのフルティン達の戦いを眺めているとクロキは横の脇のところに階段を見付ける。
そこから、アンデッドがどんどん降りて来る。
そして、しばらくすると降りて来るアンデッドはいなくなる。
数はそんなに多くない。
彼等だけで大丈夫そうであった。
「よし! 行くよ! ティベル!」
「はい! クロキ様! ようやく、臭い人間とおさらばです~」
余程嫌だったのかティベルは嬉しそうに言う。
クロキはすばやく扉を出て壁伝いに動き階段へと向かう。
途中で幽鬼追いかけられそうになるが、マルダスがそれを阻む。
「ありがとう」
お礼を言うとクロキは先へと進む。
進む先には敵の気配は感じない。
白頭巾からの情報ではウェンディ達がいるのはかなり上の階のはずである。
やがて先に進むと白頭巾の男が立っている場所へとたどり着く。
その男の立つ扉の奥の部屋にウェンディ達がいるようであった
「うん? どうした?」
白頭巾の男はクロキを見ると何があったのかと問いかける。
もちろん、構っている場合ではない。
「眠れ」
クロキが睡眠の魔法を使うと白頭巾は倒れる。
そして、男が立っていた扉の中に入るとそこは広い部屋だった。
綺麗な絨毯が敷き詰められ、天井は高い。
その天井から何か巨大な鳥籠が吊り下げられている。
「ティベルちゃん! クロキさん!」
声がするので、よく見ると鳥籠からウェンディが顔を出している。
「ウェンディ。助けに来た。ちょっと待ってて」
「待って! 床には変なのがいるの!」
ウェンディが言うとおり、鳥籠の下には複数の何かが蠢いている。
それはヌメヌメとした赤い塊である。
赤い塊は人間の赤ん坊を程の大きさで、床中に広がっている。
「巨大ヒル? 逃げ出さないようにしているのか?」
クロキは赤い塊達を見て言う。
赤い塊は巨大ヒルである。
巨大ヒルはナルゴルの沼地にもいるので珍しくない。
しかし、目の前の巨大ヒルは何処かが違っていた。
口のある所が人間の顔のように見えるのだ。
「うう~。気持ち悪いですう~。ここは気持ち悪いものだらけですう~」
ティベルはクロキの服から顔を出すと、ヒル達を見て泣き声を出す。
ヒル達は顔に見える部分をクロキ達に向ける。
その顔はどこか笑っているようであった。
新しい獲物が現れた事を喜んでいるように見えた。
ヒル達は床を這ってクロキを取り囲むように動く。
その動きは連携が取れている。まるで知性があるかのようであった。
クロキはヒル達を見て何か嫌なものを感じる。
そんなクロキの心情に構わずヒル達はクロキ達に飛びかかってくる。
襲いかかってくるのならば火の粉を払わねばならない。
クロキはヒル達を排除する事にする。
それに死の眷属は瘴気を撒き、汚す。
そうなれば、ティベル等の小さい生き物はもちろん人間等も絶滅してしまうだろう。
残るのは死の眷属の生き物と亡者だけだ。
クロキの望む世界を守るため、クロキとクーナの生きる世界を守るため、死の眷属とクロキは相入れない。
クロキは黒い炎を出すとヒル達を瞬時に焼く。
その時に人間の子どもの泣き声が聞こえてしまい心に影が刺す。
(何なんだ? このヒル達はまるで人間の子どもが間違ってヒルとして生まれてきたような気がする)
クロキはヒル達の残骸を見て、嫌な気分になる。
「クロキ様~。早くここから離れた方が良いですう~。危険が近づいているですよ~」
クロキの服から出たティベルが慌てた声で言う。
どうやら、考えている暇はないようであった。
クロキは部屋を見る。
部屋を見渡すと滑車を見付ける。
それを操作して、鳥籠を降ろす。
鳥籠が降りるとウェンディと子供達がこちらを見ている。
すごく目がキラキラしている。
鳥籠はそれ程丈夫にはできてなさそうだ。
これなら、簡単に破れるだろう。
鳥籠を破るとウェンディと子供達が飛び出して来る。
「ありがとうクロキさん! それにティベルちゃんも! 助けに来てくれたんだね!」
ウェンディがティベルに飛びかかる。
「ちょ! なにするですか!」
ティベルが慌てて逃げる。
子ども達もティベルの所に行く。
「すごい! 小妖精だ!」
「ホントだ! ホント!」
「すごい、綺麗な羽だ~! ねえ! さわっても良い!」
「すごいやウェンディおねえちゃんの言っていた事は本当だったんだ」
子ども達がはしゃぐ。
ティベルはとても人気であった。
綺麗な瑠璃色の羽がキラキラと粒子を落して飛ぶので、目を引かれる。
子どもでもなくても見惚れるのも無理はない。
それに対してティベルはとても嫌そうである。
「ちょっと! 寄るなですよ! チビ人間!」
ティベルは飛ぶとクロキの後ろに隠れる。
残念そうな顔をする子ども達。
しかし、ティベルが嫌がっている以上は無理に前に出す訳にもいかない。
「別に助けたくて助けたわけじゃないですよ!」
ティベルは頬を膨らませて怒る。
確かにティベルはウェンディを助けたいとは思っていなかった。
クロキに付き合わされただけだ。
しかし、ウェンディにとってそんな事はどうでも良いみたいである。
「でも、結局は助けに来てくれたんだよね。ありがとうティベルちゃん……」
ウェンディは目から大粒の涙を流し喜ぶ。
それを見ると自分の心の中が暖かくなる。
綺麗な光景だ。先程までおっさんの尻やヒルを相手にしていたのが嘘みたいであった。
「さて、ウェンディ。そろそろ脱出するよ。良いかい?」
「ぐすっ。はい……。逃げるよ、みんな! リリ。みんなをまとめて」
「わかったよ、ウェンディ。よろしくね、おじさん」
「えっ……。おじ……」
おじさんと呼ばれて、ちょっと傷つく。
まあ、これぐらいの歳の子なら自分はおじさんと呼ばれても仕方がないだろう。
しかし、これぐらいで傷ついてはいられない。
「じゃあみんな。自分について来て」
そう行ってクロキが扉に向かおうとすると何者かが近づく気配を感じる。
「クロキ殿! ご無事ですか!?」
入って来たのはフルティン達だ。マルダスとその仲間も一緒だ。
アンデッドの数は多くなかった。
全て倒して追いかけて来たのだろう。
しかし、丁度良かった。
「良く来てくれましたフルティン殿。ここにいる子供達を逃がすのを協力してください」
「なるほど、そちらが吸血鬼に捕らわれていた子供達ですか。もちろん協力しますぞ。そうですな、マルダス殿」
「ああ、もちろんだ。そうだろお前達」
「ああ、俺は子どもが好きなんだ」
「へへ、安心しな。こんな場所よりも良い所に連れて行ってやるぜ」
「ああ、おじさん達にまかせな」
男前な表情をするおっさん達。
しかし、裸のおっさんと子どもが並ぶ光景はどう見ても、犯罪である。
これが日本だったら、警察を呼ばなければならないだろう。
「さて、行こうか……」
クロキがそう言った時だった。ティベルが突然羽を大きくバタつかせる。
「大変です~! 危険が来たですう~!」
そして、次の瞬間だった。
巨大な何かが窓から入って来る。
「きゃあああ!」
「なんだ!?」
子ども達とおっさんが慌てる。
煙が治まり、クロキは入って来た何かを見る。
それは船の船首部分だ。
「ふふ……。鳥籠が開いたという通知が来から、窓から来たけど……。どうやら間に会ったみたいね。逃げだそうだなんて、いけない子ども達ね」
船の船首部分に誰かが立っている。
クロキはその姿を見て背筋が冷たいものが走る。
赤い豪華な衣装を纏った女性だ。
ただし、眼が赤く輝き、左腕が大きく膨れ上がり、その指先は鉤爪のようになっている。
「ザファラーダ……」
クロキは思わず呟く。
死神ザルキシスの娘、鮮血の姫ザファラーダがそこにいる。
(間に合わなかった……)
クロキは頬に冷や汗が流れるのを感じるのだった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
この世界ではゲナの拳闘術とトールズの拳闘術があります。
ゲナは護身術として、トールズは相手を積極的に殺すための拳だったりします。
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ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
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