暗黒騎士物語

根崎タケル

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第7章 砂漠の獣神

第14話 知識と書物の女神トトナ

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 トトナはクロキと初めて会った時、とても驚いたのを覚えている。
 想像していた者とあまりにも違ったからだ。
 トトナは猪のような顔をした、戦う事しか知らない武骨な男性を想像していたのである。
 だから、師匠であるルーガスから暗黒騎士に本を見せて欲しいとお願いされた時は、正直不安だった。
 それほど、暗黒騎士の噂は良くないものばかりだった。
 美しい光の勇者を打ち破った暗黒騎士は女神達から嫌われている。
 レーナの恋人である光の勇者レイジはエリオスの女神達の間で話題の男性である。
 歌と芸術の神アルフォス並みの美男子で、強い。
 そして、トトナの父親であるオーディスしか使えなかった神威の光砲を使うとんでもない能力の持ち主である。
 引きこもりで、外の事にあまり関心を向けなかったトトナでも興味が出てくる相手だった。
 レーナとトトナは母フェリアの元で一緒に育った。
 レーナは子供の時から美しく、トトナは歌も踊りも裁縫もレーナには敵わなかった。
 同世代だったトトナはレーナと比べられるのが嫌で引きこもるようになった。
 絶対に敵わない存在、それがレーナである。
 トトナ達は大きくなり、さらに美しくなったレーナには多くの男が求婚した。
 しかし、レーナは誰も相手にしなかった。
 そのレーナが恋人に選んだ相手なのだから、興味が出て当然だろう。 
 そこで魔法の映像を入手して見た。
 トトナの好みではないが、噂通りの美男子であった。
 女神達が騒ぐのも理解できた。
 天上の美姫と呼ばれるレーナの恋人としてふさわしいのだろう。
 光の勇者レイジはエリオスの男神の反対がなければエリオスの神に迎えられていたかもしれない。
 その光の勇者がナルゴルの暗黒騎士に敗れたのだから、女神達の嘆きはトトナの住む書庫にまで響いて来るほどであった。
 女神達は光の勇者の安否を気遣い、その彼を傷つけた暗黒騎士を罵った。
 女神達の話ではモデスの仲間なのだから、容姿がぐちゃぐちゃのキモイ奴に決まっているそうだ。
 以上は女神達の勝手な想像だけど、モデスが気持ち悪いのは否定できず、また、ルーガスを除き、魔王の盟友である男神がキモチワルイのは確かだ。
 だから、女神達が暗黒騎士も気持ち悪い外見をしているという想像も仕方がないのである。
 その暗黒騎士が来ると聞いて、トトナが不安になるのも仕方がない事であった。
 トトナはレーナの光の勇者を倒した事は良い仕事をしたとは思うが、正直会いたくないと思ったのである。
 しかし、元々この書庫はルーガスの物で、トトナはそれを預かっているにすぎない。
 また、恩義のある師の頼みを断るのも悪いと思ったので、渋々受け入れる事にした。
 だけど、それはクロキと会う事で杞憂に終わる。
 クロキはとても物静かで、大人しそうだった。

「よろしくお願いします。女神トトナ殿」

 そう言ってクロキが頭を下げた時は戸惑った。
 とても強そうに見えない。
 これが、本当に光の勇者を倒した暗黒騎士だろうかと思い、戸惑う。
 戸惑うといえばクロキの容姿もモデスの仲間の男神らしくなかった。
 クロキはエリオスの男神に引けを取らない顔立ちである。
 いや、むしろ他の神に比べて顔がトトナの好みであった。
 特にレーナに尻尾を振る男ではない所がトトナの中で高評価である。
 クロキはレーナと敵対しているのだから当然であった。
 トトナはクロキと会うたびに心臓が高鳴る。
 だけど、トトナは今まで男性と付き合った事がない。
 男性だけではない。
 何しろ書庫にはほとんど誰も近づかない。
 元モデスの領域のため、誰も近寄らなくなってしまったのだ。
 来るのは母親と姉の使い、もしくはネルだけであった。
 そのため、書庫に籠ってばかりのトトナは他者との付き合いを忘れてしまっていたのである。
 他者から無表情と呼ばれるのも仕方がない事であった。
 そのため、クロキとどう接すれば良いのかわからず、最初の頃は意に反して冷たい態度を取ってしまった。
 だけど、本の事を話すうちにしだいにうまく話せるようになった。
 それは、トトナが今までにない幸せな時間だった。
 クロキも同じように本が好きらしく、トトナは知らない本の事を聞く事は楽しかった。
 ただ、クロキとたまに一緒に居る銀髪の娘クーナがいるので、それ以上の関係になる事はなかった。
 もっとも、トトナはそれでも良かった。
 クロキと本の事を語れるだけで良かったのである。
 おそらく、何もしなければ、ずっとこのままの関係が続いただろう。
 イシュティアが変な事を言わなければ、何もしなかっただろう。
 だけど、今はクーナもいない。
 少しだけ頑張ってみよう。
 トトナはそう思ったのである。
 





「お待たせクロキ」

 そう言うとトトナは部屋に入り、クロキの隣に座る。
 クロキはトトナの姿に目を奪われる。
 薄地の白いジプシール風の衣装は面積が小さく、腰の所まで切れ込みのあるスリットは彼女の白い脚を際立たせている。
 トトナは普段は厚いローブに身を包んでいるためか、クロキは今までわからなかった。
 トトナの胸はかなり大きい。
 レーナやイシュティアに比べると小さいが、これはこれでクロキは目のやり場に困る。

(ええと、これは一体どういう状況なの? 一体なぜ、急にこんな格好を?)

 クロキはトトナをまともに見ることが出来ずにいる。
 トトナは普段から表情を出さないので、その考えがわからない。
 考えはわからないが、心の中でクロキはお礼を言おう。

(ありがてえ!! ほんに!! ありがてえだ!! って!! なんで農民みたいになっているんだ!!?  鎮まれ!!お前の出番はない!!)

 クロキは素数を数える事で自身の中の邪竜を鎮める。

「どうしたの? クロキ?」

 トトナはそんなクロキを不思議そうな顔をして聞く。
 その表情はいつもと変わらないようにクロキには見えた。
 そして頭をクロキの胸の所に寄せて来る。

(やばい!! これはやばい!!)

 クロキは慌てる。

「えーっと?トトナさんどうしたのですか?」

 クロキは思わず「さん」づけで呼んでしまう。

「イシュティア様に言われて。頑張ってみようと思った?」
「えーっと……。何をがんばるのでしょうか?」

 クロキはそこで気付く。
 トトナの吐息から発せられるお酒の匂い。

「トトナ? もしかして飲んでる?」

 しかし、答えたのはクロキのもう片方に座ったネルだ。

「トトナんは、この部屋に入る直前に、獅子の乳をいっぱい飲んでるのにゃあ。トトナんはお酒を飲むほど、静かに壊れるのにゃあ」

 ネルは説明する。

(静かに壊れるって何!!?)

 クロキは心の中で叫ぶ。
 今まででこんな姿のトトナは初めてであった。
 この獅子の乳は神族用に作られた神酒だ。
 神でも確実に酔ってしまう。
 表情を出さないからわかりづらいが、トトナは明らかに酔っている。
 
「何か、ちょっと暑い」

 トトナは服のあたりをぱたぱたとする。
 クロキは思わず目を動かしてしまう。

「お兄さん。どうしたのにゃん?」

 横からネルが不思議そうな顔をする。
 無邪気な目で見られ、クロキは困る。
  
「クロキ。お酒。今夜は飲む」

 トトナが杯を取ると獅子の乳を注ぎ、クロキに渡す。

(まずい、 何とかして断らないと)

 クロキは酒を大量に飲めば理性を失う。
 それは避けたいのでクロキは断る理由を探す。
 その時、猫の一団が部屋の隅で何かしている。もめている様子であった。

(どうしたのだろう?)

 クロキは騒がしい方向を見る。
 クロキの視線に気付いたのかネルとトトナもそちらを見る。

「どうしたのにゃあ? 何をしているにゃあ?」

 ネルがもめている声を掛けると猫達がビクッと震える。
 すると中心にいた茶トラの毛並の猫が突然出て来る。

「姫様!! お願いですにゃあ!! うちの兄を助けて欲しいにゃあ!!」

 中心にいた猫がネルの方へと駆け寄る。
 しかし、途中で他の猫に取り押さえられる。

「どうしたのにゃあ!!? いきなり!!? どういう事にゃあ!!? ヴァロン!!? 説明するにゃあ!!?」

 すると服を着ていない猫達の中でただ一匹上着を着ている黒猫が前に出る。
 この黒猫がヴァロンのようであった。

「申し訳ございません。姫様。お客様が来ているので止めたのですが……。さあ、早く下さがらせなさい。お客様が見えられているのですよ」

 ヴァロンは他の猫に命じて、茶トラの猫を下がらせようとする。
 黒猫の執事ヴァロンはネルの側近であり、ケットシーの統率者である。
 他の猫達と違い、語尾に「にゃあ」をつけずに喋る事が出来る。

「待って!! 話を聞くぐらい良いのでは!!」

 何があったのか気になり、クロキは慌てて止める。
 
「しかし、お客様……」
「いえ、ヴァロン。クロキの言う通り。話を聞くべき」

 トトナもクロキに同意する。

「ヴァロン。トトナん達も良いといっているにゃあ。説明するにゃあ」

 ネルが言うとヴァロンは溜息を吐く。

「わかりました。姫様。実はアポフィスの蛇達が奪ったピラミッドの偵察に行った者達が帰って来ないのです。その偵察に行った者の中にこの者の兄がいたのでございます」

「偵察? そんな事を命じた覚えはないにゃあ!!」
「ご命じになられたのはハルセス様でございます。姫様。このヴァロンもつい先ほどまで知りませんでした……。どうやら、最高級のオクシリンコスにつられて偵察に行ったようでございます。もしかすると捕えられているのかもしれません」

「オクシリンコス!? そんにゃ!? それを出されたら動くのは当たり前にゃ!! ハル君!! ネルに内緒でうちの子達を!!!」

 ネル怒った顔になる。
 オクシリンコスはナイアル川で獲れる最大で全長2メートル に達する魚だ。
 淡水魚としては大型の部類に入る。
 肉質は癖がない白身であり、美味であり、ケットシーにとっては最上級の報酬である。
 クロキはまだ食べてないが目の前の食べ物の中にはオクシリンコスのフライがあり、周りにいる猫達がそれを物欲しそうに見ている。
 行方不明になったケットシーはオクシリンコスに釣られたようであった。

「お願いですにゃあ!! 兄を助けて下さいにゃあ!!」

 茶トラの猫が訴える。

「わかった。まかせて」

 突然トトナは立ち上がると、クロキに渡そうとしていた獅子の乳をぐいっと飲む。

(ええと、そんな風に飲んで大丈夫なの?)

 獅子の乳はアルコール度数が高い。
 よほど水を混ぜなければ先程のトトナのように飲むのは危険である。
 クロキはそんなトトナを心配する。

「ここにいるクロキが解決してくれる」
「えっ自分が!?」

 急に指名されてクロキは驚く。

「大丈夫クロキならできる」

 そう言ってトトナはクロキの頭をぎゅっと抱きしめ、胸を顔に押し付ける。

「ちょ? トトナさん?」

 かなり立派な胸の感触にクロキはドキドキする。

「クロキは私の勇者だから、安心していい。必ず貴方達の仲間を助けてくれる」

 そのトトナの言葉にその場の猫達が喜びの声を上げる。

「おおっ!! トトナんがここまで言うのにゃら!! お兄さんはきっととっても強いのにゃあ!! さあ!! みんなお兄さんにお酒をじゃんじゃん注ぐにゃあ!!」
「姫様!! わかりましたにゃあ!!」

 猫達がお酒の入った瓶を沢山持って来る。

(ちょっと待て! そんな量は飲めない!!)

 クロキは戸惑うがネル達はお構いなしであった。

「クロキ。飲もう」

 トトナの吐息がクロキの顔にかかる。
 濃厚な酒の匂いが鼻腔をくすぐる。

(これ絶対かなり飲んでる!! どうしたのトトナ!?)

 クロキはトトナの顔尾を見る。
 表情は普段と変わっていない。
 しかし、その行動は明らかに変であった。

「よし!! ネルも踊るにゃあ!!」

 白い尻尾をふりふりしてネルが踊る猫達に加わる。
 クロキはそれを見て吹きそうになる。
 ネルは下着を履いていなかったのである。
 ネルの衣装も露出が多いが、色気があまりなく、無邪気で健康的すぎてクロキは特に気にしてはいなかった。
 そのため、突然の不意打ちにびっくりしてしまう。
 獣人は下着を身に付けない。
 特に獣に近い者は裸でも気にしない方が多い。
 だけど、ネルはどちらかと言えば人間の姿の方に近いので下着を履くべきであった。
 ネルが猫達と一緒に尻尾をふりふりして踊っている。

「どうしたのクロキ? 飲み物を飲む?」

 トトナは飲み物が入った杯を渡してくれる。
 とりあえず落ち着くために水が欲しいと思ったので、クロキはもらう事にする。

「ありがとうトトナ」

 クロキは杯を受け取ると、ごくごく飲む。

(って酒じゃーーーーーん!!!!!! これーーーーーー!!!!!!!!!!)

 ネルの事で油断したクロキは獅子の乳を飲み干してしまう。

「はいクロキ。ジプシールレタス。精力がつく」

 今度はトトナからレタスを無理やり口に突っ込まれる。
 ジプシールレタスの茎から出る白い液は精力剤になる事で有名である。
 それを口の中にクロキはつっこまれてしまう。
 トトナの顔はいつも通り無表情だ。
 本当に静かに壊れている。
 クロキは次第に頭が朦朧としてくる。
 獅子の乳が回って来たのだ。
 クロキは体の中で眠る酒好きの竜の何匹かが喜び暴れている。

(ああ!! もう何やっているんだよーーーー!!!)

 めちゃくちゃな状況にクロキは頭を抱える。
 目の前ではネルと猫達が楽しそうに踊っている。

「はいクロキ。あーん」

 クロキの隣ではトトナは無表情で酒と食べ物を無理やり飲ませ食べさせようとしている。
 混沌とした饗宴はまだまだ続くのであった。

 




 知恵と勝利の女神アルレーナは空船でジプシールへと向かう。
 現在は中央山脈をちょうど越えたあたりである。
 急いで向かっているが、まだまだジプシールは遠い。
 トトナ達とは違い、レーナにはジプシールに転移する門がない。
 そのため一気にジプシールに行くことが出来ない。
 ハルセスに頼めば、作ってくれそうだけど、後が面倒なのでそれはできなかった。

「レーナ様。偵察に行っていた者達が戻りました」

 甲板の上でニーアが報告する。
 偵察に出た戦乙女が戻ったようであった。
 レーナ達はいつものように周囲にエリオスに敵対する邪神がいないか偵察を出しながら進んでいる。
 特に強くない者ならば戦乙女で対応できるが、中にはかなり強敵もいる。
 そのため、腕に自信のないエリオスの一部の神達は安全なエリオスから出なかったりする。

「そう。で? どうなの? ニーア」
「特に問題はないようです。レーナ様。邪神の気配はありません。順調です」
「そう……。ここまで、静かなんて、スルシャの情報である、多くの邪神がアポフィスに集まっているというのも確かかもしれないわね」

 監察天使スルシャとその配下の天使達は世界を監察してエリオスに報告するのが仕事だ。
 スルシャの情報では多くの邪神がアポフィスに集まっているらしい。
 そのため、この辺りにはいないのかもしれない。

「はい。レーナ様の予想の通りですね。アポフィスはジプシール南。イシュティア様やレイジ達が危険かもしれません」
「えっ? そんな予想してたかしら?」
「えっ? もしかすると危ないかもしれないから、ジプシールに行くとおっしゃったのはレーナ様では?」

 ニーアは意外そうな顔をする。

「ああ……。その事ね……。確かにそんな事言ったわね」

 レーナは眉間を押さえる。
 実はレーナの考えている、危険の対象は違うのである。
 危険なのはトトナであった。
 トトナは根暗だから、大胆な事をしないとレーナは思っている。
 だけど、油断はできなかった。
 レーナは何だか嫌な予感がした。

(考えてみればフェリア様もファナケアも意外と行動力があるわ)

 フェリアもファナケアも夫を得るために、他の女性を蹴落とした。
 トトナにもその血が流れている。
 だからこそレーナはジプシールに向かうのだ。
 もっとも、レーナの心中がわからないニーアは勘違いをする。

「まあ、良いわ、ニーア。急ぐわよ、空船の速度を上げなさい」
「はい、レーナ様」

 レーナがそう言うとニーアが戦乙女達に指示を出し行く。
 クーナの指輪の反応からクロキの居場所はわかる。
 今はアルナックにいるようであった。
 こうしてレーナ達は黄金の都に向かって大空を進むのだった。

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