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第6章 魔界の姫君
第20話 雲海の上で
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ポレンとクーナとプチナはアルフォスの空飛ぶ船へと乗り込む。
「あの……。本当に行くのさ? ポレン殿下?」
ポレンの後ろでプチナが不安そうに言う。
周りの美女達から敵意が向けられている。
その視線が痛くて、ポレンは逃げ出したくなる。
「うっ、うん! 行くよ!! ぷーちゃん!!」
しかし、今更逃げるわけにはいかず、ポレンとプチナは船の上をおっかなびっくり歩く。
「ねえ? 何で私達の船に来るわけ?」
「本当、何でブタを乗せなきゃいけないのかしら?」
「何故? アルフォス様は乗船を許可したのかしら?」
「嫌だわ。臭いが移りそう」
ポレンの耳に美女達の話し声が聞こえる。
だけど、ポレンは顔を伏せて言いかえす事もできない。
情けないかもしれないが、ポレンに美女と争う度胸はない。
そんなポレンとは対照的にクーナは周りの敵意なんか気にしていなかのように堂々と胸を張って前を歩く。
ポレンよりもはるかに多くの敵意を向けられているにもかかわらずだ。
クーナはこの船の美女達を鼻で笑う。
そんなクーナの態度に美女達がイライラしているのがポレンにはわかる。
「何よ、あの子」
「すごい高慢な態度」
「ちょっと綺麗だからって……」
「ふんだ! あれぐらいだったらレーナ様の方が綺麗よ!!」
美女達がクーナを見て遠巻きに悪口を言う。
だけど、その声に含まれているのは敗北感。
この船の幾千もの美女達もクーナには敵わない。
クーナはこの船の誰よりも美しい。
たった一名でこの船の美女達を圧倒していた。
クーナはこの船の主のごとく進む。
「あの、できれば武器を降ろしてはいただけませんか? 怖がっている子がいますので」
ポレン達が進んでいると一名の美女がクーナに声を掛ける。
ポレンはこの美女の事は知っていた。
詩の女神ミューサ。
常にアルフォスの側にいる女神である。
アルフォスの事を気にする女性ならば嫌でも、その存在を知ってしまう女神だ。
他の美女がクーナを怖れて近づかない中でミューサだけが前に立つ。
「安心しろ。クロキから大人しくするように言われているからな。だから、今はまだ首をはねるつもりはないぞ」
クーナは安心しろとばかりに手を振る。
「今は? という事は後で首をはねるつもりなのですか?」
「もちろんだ。少なくとも戦いが終わるまで待ってやるぞ。そうでなければ貴様らの男が敗れて悔しがる顔を見る事ができないからな」
そう言ってクーナは笑う。
ミューサが目に見えて驚く表情をする。
美女達はクーナから逃げるように離れて、敵意をさらに強い敵意を向ける。
クーナはそんな美女達の様子を気にする事なく、ミューサを横切り進む。
その迫力の前に美女達は道をあけるしかなく。遮る者は誰もいない。
そして、甲板の上に供えられた長椅子まで行くと、その真ん中に座る。
クーナはその席からクロキとアルフォスの戦いを見守るつもりであった。
「そこは、アルフォス様の席……」
「あん?」
「ひいい!!!」
抗議をしようとした美女がクーナに睨まれて黙る。
(さすが、師匠! 美女を一睨みで黙らせちゃった、本当にすごい)
ポレンはクーナを心の中で称賛する。
「何者なの? あの子?」
「もしかして、こっちが魔王の子なんじゃないの?」
「嘘。あの醜い魔王からこんな綺麗な子が生まれるなんて……」
「でも、いかにもお姫様って感じだよ……」
「確かに……。にわかには信じがたいけど……」
美女達はひそひそ声で話す。
(あの~。魔王の娘は私なんですけど……。でも、どう見ても師匠の方が魔界のお姫様っぽいよね。 美しく、可憐で、妖しく、強く、怖ろしい。それが師匠だもの)
ポレンはクーナを見る。
理想とする姿がそこにあった。
(私もこんな風になりたい)
そんなクーナをポレンは眩しく思う。
「どうした? ポレン? 座らないのか?」
ポレンの思いに気付かないクーナが言う。
長椅子は複数名座る事ができるほど大きい。
普段はこの椅子の中央にアルフォスが座り美女達を横に侍らせ、竪琴を奏でるのである。
それはとても美しい光景なのだろう。
しかし、今この席に座っているのはアルフォスではなくクーナであった。
クーナはその長椅子に座り、すらりとした足を組む。
その態度は女王のごとし。
(私なんかが横に座っても良いのかな?)
ポレンはついためらってしまう。
クーナを怖れ椅子に座っていた美女達が席を外したのでポレンとプチナも座る事ができそうであった。
ポレンは一瞬だけ悩みそうになるが首を振る。
(怖気づいちゃ駄目だ!)
ポレンは何故クーナに付いて来たのかを考える。
この船にポレンが来たのはクーナが指定したからだ。
クロキは安全な場所でポレン達を降ろすつもりだったようだけど、クーナが反対した。
理由は両者の戦いを落ち着いて見る事ができないからだ。
クロキ先生は渋ったが、師匠は譲らず。結局この船で見る事になった。
クロキはポレンだけでも安全な場所に降ろそうとしたが、ポレンはクーナに付いて行く事に決めたのである。
それは当たり前の事だった。
(先生は私のために怒ってくれた。その先生の戦いを見ないで済まされるわけがないよ……)
ポレンはクーナの横に座る。
座ると美女達の敵意がより強く感じられる。
だけど逃げるわけにはいかなかった。
ポレンの視線の先、空船からかなり離れた場所で2匹の竜が飛んでいる。
黒い魔竜と白い聖竜。
その2匹の竜の上にはそれぞれ暗黒騎士と聖騎士が乗り対峙している。
(ごめんなさいクロキ先生。先生は怒ってくれたけど、私は先生に庇ってもらえるような子じゃないんです!! クラーケンを退治した時も下心があっただけで、先生が思っているような優しい子じゃないんです!! ごめんなさい!! ごめんなさい!! 私がんばります!!心を入れ替えます!! 部屋から出ます!!強くなります!! 食っちゃ寝てばかりしません!! 少しでも綺麗になれるようにがんばります!! だから……、だから勝ってください先生えー!!)
ポレンは心の中で泣きながら謝るのだった。
◆
「大丈夫かな? クーナ達は……?」
クロキは竜のグロリアスの上から遠く離れた空船を見る。
「白銀の髪の子を心配しているのなら大丈夫だよ。彼女には手を出さないように言ってあるからね」
白い聖竜に乗り兜を脇に抱えたアルフォスが答える。
「だと良いのだけど……」
クロキは一応アルフォスの許可を取ってから船に降ろした。
あの船に乗る美女達はアルフォスの言う事を聞くみたいだから大丈夫だとは思う。しかし、それでも不安は消えない。
「まだ、不安かい? だけど君は自分の心配をした方が良いと思うけどね」
アルフォスが見下すようにフッと笑う。
クロキはアルフォスがかなりの強者である事に気付いていた。
自信があるからこそ喧嘩を売ってきたのだ。
しかし、なぜ喧嘩を売ってきたのかクロキにはわからなかった。
「ところで君は知っているかい? 御菓子の城でレーナを巡って男神達が光の勇者と争っている事を?」
「えっ? 何それ? そんなの知らない初耳だ。御菓子の城で何が起こっているの?」
「君は参加しなくて良いのかい? レーナを巡る争いにさ」
クロキはそのアルフォスの言葉に首を傾げる。
「いや、参加しないよ。その争いには意味がない。レーナを巡って争っても、選ぶのはレーナだ。レーナの意思が存在しない争いなら意味がない。レーナは物じゃないよ」
「確かにね。レーナは他の女の子とは違う。この僕を唯一罵れる存在さ。さすがに君はわかっているね。だけど彼らは彼女を他の男に奪われるのが我慢ならないのさ。君は好きな女性が他の男に奪われるのを黙って見ているのかい?」
アルフォスは挑戦的に質問を投げかける。
「う~ん。その彼女が自分じゃなく、違う男性を選ぶのなら諦めるしかないんじゃ……」
好きになった女性が選んだ男性を傷つけても好きになった女性が不幸になるだけだ。
涙をこらえて幸せを祈るべきだとクロキは思う。
「へえ、君は好きになった子を奪おうとは思わないのかい? 僕なら奪うよ。そうやって何名もの女の子を奪ってきたしね」
「ええと……。それじゃあ彼女の意志は?」
「何を言っているのだい? そんなの関係ないよ。最終的には僕を選んでくれるからね。君はそうしないのかい?」
アルフォスは何を当然と言う顔をする。
クロキはそれを聞いて「すごい!!」と素直に感心する。
クロキには絶対に言えないセリフである。
(まあ、これほどのイケメンが迫れば乗り換える女性もいるかもしれないな。自分がやったら鼻で笑われるだけだよね)
クロキはアルフォスがちょっと羨ましくなってくる。
「いや、とてもそんな事はできないよ。そこまで自信を持って生きられない」
クロキは首を振って言うと、これまでの自分を思い出す。
クロキは目立たなく、地味だ。
よほど、積極的に行かなければ女性の目にはとまらない。
そして、クロキは女性と話すのはどちらかと言えば苦手だ。
そのため、この世界に来るまでまともに女の子と触れ合えた経験はないのである。
クロキは自分で言っていて悲しくなる。
「驚いた。すごく自信がないのだね、君は。光の勇者とは大違いだ。いや、もう何て言って良いのかな……」
アルフォスは戸惑う声を出す。
「そんな事を言われても……」
「君は自分がレーナに愛されているとは思わないのかい?」
「そりゃ、あんな美人から好かれたら人生大勝利だけど……。愛されるなんて大それた事は考えないよ」
実はクロキはロクス王国での記憶に実感が持てないでいる。
(良く考えてもおかしい。あれほどの美人なら、どんな男も選び放題だよね。なぜ自分に……)
今まで女性から好意を寄せられた事のない、クロキはどうしても罠を疑ってしまうのだ。
「全く調子が狂うね、君と話していると……。僕の予想では君のはずなのだけどね。レーナがおかしくなったのは」
「えっ?」
「最近のレーナはおかしい。以前ならありえない行動している。それに、あれほど殺したがっていたモデスの命を急に諦めているみたいだ」
そのアルフォスの言葉にクロキは首を傾げる。
この世界に来る前のレーナの事をクロキは知らない。
レーナが変わったと言われてもわからないのは当然であった。
だけど、モデスを倒す事を諦めてくれるなら良い事だと思う。
「最初は光の勇者君の影響かと思った。だけど、違う。彼が迷宮に捕らわれた時に話したけど、レーナの態度は普段通りだった。好きな男が危ない目に会っているにしては普通すぎる」
そう言ってアルフォスは首を振る。
「そして、アリアディア共和国だったかな。レーナと君が向かい合っている映像を見た時に気付いたんだ。レーナを変えたのは君だとね」
アルフォスはクロキを指さす。
「だから気になったんだよ。兄としてはね。あのレーナを変えた相手がどんな奴かをね」
アルフォスは穏やかな声で言う。
だけど、クロキはその声から敵意を感じる。
「だからこそ、君に勝負を挑むよ。レーナに相応しい存在だというのなら僕を打ち負かしてからにしてもらおうか」
アルフォスは剣を抜きこちら向ける。
「勝手な事を言う。わからないと言っているのに。しかし、お前達はポレン殿下を侮辱した。だから、打ち負かさせてもらう!!」
クロキもまた剣をアルフォスに向ける。
「はは!! 良い返事だよ、暗黒騎士!!」
アルフォスはそう言うと白い兜を被る。
「さあ行こうヴァルジニアス! 蒼天で僕達に敵う者はいない事を教えてやろうじゃないか!!」
白い竜が翼を羽ばたかせると突然こちらに向かって飛んでくる。
「グロリアス!!」
クロキは急いでグロリアスに指示を出して、白い竜を躱す。
白い竜はクロキ達がいた所を高速で素通りする。
「全く勝手な奴。ごめんね、グロリアス。戦いに付き合わせてしまって」
クロキはそう言ってグロリアスの首をなでる。
首をなでるとグロリアスが咆哮する。
グロリアスから強い戦意が伝わってくる。
その戦意は白い竜に向けられている。
グロリアスはクロキの為に戦うつもりなのだ。
「ありがとうグロリアス。それじゃあ行こうか。蒼天を黒い嵐で塗りつぶしてやろう」
グロリアスは再び咆哮して黒い翼を羽ばたかせる。
雲海の上、2匹の竜の咆哮が鳴り響いた。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
更新です。
前回出てきたヒヤシスは男の娘だったりします。
まあ元ネタはヒュアキントスなので……。
「あの……。本当に行くのさ? ポレン殿下?」
ポレンの後ろでプチナが不安そうに言う。
周りの美女達から敵意が向けられている。
その視線が痛くて、ポレンは逃げ出したくなる。
「うっ、うん! 行くよ!! ぷーちゃん!!」
しかし、今更逃げるわけにはいかず、ポレンとプチナは船の上をおっかなびっくり歩く。
「ねえ? 何で私達の船に来るわけ?」
「本当、何でブタを乗せなきゃいけないのかしら?」
「何故? アルフォス様は乗船を許可したのかしら?」
「嫌だわ。臭いが移りそう」
ポレンの耳に美女達の話し声が聞こえる。
だけど、ポレンは顔を伏せて言いかえす事もできない。
情けないかもしれないが、ポレンに美女と争う度胸はない。
そんなポレンとは対照的にクーナは周りの敵意なんか気にしていなかのように堂々と胸を張って前を歩く。
ポレンよりもはるかに多くの敵意を向けられているにもかかわらずだ。
クーナはこの船の美女達を鼻で笑う。
そんなクーナの態度に美女達がイライラしているのがポレンにはわかる。
「何よ、あの子」
「すごい高慢な態度」
「ちょっと綺麗だからって……」
「ふんだ! あれぐらいだったらレーナ様の方が綺麗よ!!」
美女達がクーナを見て遠巻きに悪口を言う。
だけど、その声に含まれているのは敗北感。
この船の幾千もの美女達もクーナには敵わない。
クーナはこの船の誰よりも美しい。
たった一名でこの船の美女達を圧倒していた。
クーナはこの船の主のごとく進む。
「あの、できれば武器を降ろしてはいただけませんか? 怖がっている子がいますので」
ポレン達が進んでいると一名の美女がクーナに声を掛ける。
ポレンはこの美女の事は知っていた。
詩の女神ミューサ。
常にアルフォスの側にいる女神である。
アルフォスの事を気にする女性ならば嫌でも、その存在を知ってしまう女神だ。
他の美女がクーナを怖れて近づかない中でミューサだけが前に立つ。
「安心しろ。クロキから大人しくするように言われているからな。だから、今はまだ首をはねるつもりはないぞ」
クーナは安心しろとばかりに手を振る。
「今は? という事は後で首をはねるつもりなのですか?」
「もちろんだ。少なくとも戦いが終わるまで待ってやるぞ。そうでなければ貴様らの男が敗れて悔しがる顔を見る事ができないからな」
そう言ってクーナは笑う。
ミューサが目に見えて驚く表情をする。
美女達はクーナから逃げるように離れて、敵意をさらに強い敵意を向ける。
クーナはそんな美女達の様子を気にする事なく、ミューサを横切り進む。
その迫力の前に美女達は道をあけるしかなく。遮る者は誰もいない。
そして、甲板の上に供えられた長椅子まで行くと、その真ん中に座る。
クーナはその席からクロキとアルフォスの戦いを見守るつもりであった。
「そこは、アルフォス様の席……」
「あん?」
「ひいい!!!」
抗議をしようとした美女がクーナに睨まれて黙る。
(さすが、師匠! 美女を一睨みで黙らせちゃった、本当にすごい)
ポレンはクーナを心の中で称賛する。
「何者なの? あの子?」
「もしかして、こっちが魔王の子なんじゃないの?」
「嘘。あの醜い魔王からこんな綺麗な子が生まれるなんて……」
「でも、いかにもお姫様って感じだよ……」
「確かに……。にわかには信じがたいけど……」
美女達はひそひそ声で話す。
(あの~。魔王の娘は私なんですけど……。でも、どう見ても師匠の方が魔界のお姫様っぽいよね。 美しく、可憐で、妖しく、強く、怖ろしい。それが師匠だもの)
ポレンはクーナを見る。
理想とする姿がそこにあった。
(私もこんな風になりたい)
そんなクーナをポレンは眩しく思う。
「どうした? ポレン? 座らないのか?」
ポレンの思いに気付かないクーナが言う。
長椅子は複数名座る事ができるほど大きい。
普段はこの椅子の中央にアルフォスが座り美女達を横に侍らせ、竪琴を奏でるのである。
それはとても美しい光景なのだろう。
しかし、今この席に座っているのはアルフォスではなくクーナであった。
クーナはその長椅子に座り、すらりとした足を組む。
その態度は女王のごとし。
(私なんかが横に座っても良いのかな?)
ポレンはついためらってしまう。
クーナを怖れ椅子に座っていた美女達が席を外したのでポレンとプチナも座る事ができそうであった。
ポレンは一瞬だけ悩みそうになるが首を振る。
(怖気づいちゃ駄目だ!)
ポレンは何故クーナに付いて来たのかを考える。
この船にポレンが来たのはクーナが指定したからだ。
クロキは安全な場所でポレン達を降ろすつもりだったようだけど、クーナが反対した。
理由は両者の戦いを落ち着いて見る事ができないからだ。
クロキ先生は渋ったが、師匠は譲らず。結局この船で見る事になった。
クロキはポレンだけでも安全な場所に降ろそうとしたが、ポレンはクーナに付いて行く事に決めたのである。
それは当たり前の事だった。
(先生は私のために怒ってくれた。その先生の戦いを見ないで済まされるわけがないよ……)
ポレンはクーナの横に座る。
座ると美女達の敵意がより強く感じられる。
だけど逃げるわけにはいかなかった。
ポレンの視線の先、空船からかなり離れた場所で2匹の竜が飛んでいる。
黒い魔竜と白い聖竜。
その2匹の竜の上にはそれぞれ暗黒騎士と聖騎士が乗り対峙している。
(ごめんなさいクロキ先生。先生は怒ってくれたけど、私は先生に庇ってもらえるような子じゃないんです!! クラーケンを退治した時も下心があっただけで、先生が思っているような優しい子じゃないんです!! ごめんなさい!! ごめんなさい!! 私がんばります!!心を入れ替えます!! 部屋から出ます!!強くなります!! 食っちゃ寝てばかりしません!! 少しでも綺麗になれるようにがんばります!! だから……、だから勝ってください先生えー!!)
ポレンは心の中で泣きながら謝るのだった。
◆
「大丈夫かな? クーナ達は……?」
クロキは竜のグロリアスの上から遠く離れた空船を見る。
「白銀の髪の子を心配しているのなら大丈夫だよ。彼女には手を出さないように言ってあるからね」
白い聖竜に乗り兜を脇に抱えたアルフォスが答える。
「だと良いのだけど……」
クロキは一応アルフォスの許可を取ってから船に降ろした。
あの船に乗る美女達はアルフォスの言う事を聞くみたいだから大丈夫だとは思う。しかし、それでも不安は消えない。
「まだ、不安かい? だけど君は自分の心配をした方が良いと思うけどね」
アルフォスが見下すようにフッと笑う。
クロキはアルフォスがかなりの強者である事に気付いていた。
自信があるからこそ喧嘩を売ってきたのだ。
しかし、なぜ喧嘩を売ってきたのかクロキにはわからなかった。
「ところで君は知っているかい? 御菓子の城でレーナを巡って男神達が光の勇者と争っている事を?」
「えっ? 何それ? そんなの知らない初耳だ。御菓子の城で何が起こっているの?」
「君は参加しなくて良いのかい? レーナを巡る争いにさ」
クロキはそのアルフォスの言葉に首を傾げる。
「いや、参加しないよ。その争いには意味がない。レーナを巡って争っても、選ぶのはレーナだ。レーナの意思が存在しない争いなら意味がない。レーナは物じゃないよ」
「確かにね。レーナは他の女の子とは違う。この僕を唯一罵れる存在さ。さすがに君はわかっているね。だけど彼らは彼女を他の男に奪われるのが我慢ならないのさ。君は好きな女性が他の男に奪われるのを黙って見ているのかい?」
アルフォスは挑戦的に質問を投げかける。
「う~ん。その彼女が自分じゃなく、違う男性を選ぶのなら諦めるしかないんじゃ……」
好きになった女性が選んだ男性を傷つけても好きになった女性が不幸になるだけだ。
涙をこらえて幸せを祈るべきだとクロキは思う。
「へえ、君は好きになった子を奪おうとは思わないのかい? 僕なら奪うよ。そうやって何名もの女の子を奪ってきたしね」
「ええと……。それじゃあ彼女の意志は?」
「何を言っているのだい? そんなの関係ないよ。最終的には僕を選んでくれるからね。君はそうしないのかい?」
アルフォスは何を当然と言う顔をする。
クロキはそれを聞いて「すごい!!」と素直に感心する。
クロキには絶対に言えないセリフである。
(まあ、これほどのイケメンが迫れば乗り換える女性もいるかもしれないな。自分がやったら鼻で笑われるだけだよね)
クロキはアルフォスがちょっと羨ましくなってくる。
「いや、とてもそんな事はできないよ。そこまで自信を持って生きられない」
クロキは首を振って言うと、これまでの自分を思い出す。
クロキは目立たなく、地味だ。
よほど、積極的に行かなければ女性の目にはとまらない。
そして、クロキは女性と話すのはどちらかと言えば苦手だ。
そのため、この世界に来るまでまともに女の子と触れ合えた経験はないのである。
クロキは自分で言っていて悲しくなる。
「驚いた。すごく自信がないのだね、君は。光の勇者とは大違いだ。いや、もう何て言って良いのかな……」
アルフォスは戸惑う声を出す。
「そんな事を言われても……」
「君は自分がレーナに愛されているとは思わないのかい?」
「そりゃ、あんな美人から好かれたら人生大勝利だけど……。愛されるなんて大それた事は考えないよ」
実はクロキはロクス王国での記憶に実感が持てないでいる。
(良く考えてもおかしい。あれほどの美人なら、どんな男も選び放題だよね。なぜ自分に……)
今まで女性から好意を寄せられた事のない、クロキはどうしても罠を疑ってしまうのだ。
「全く調子が狂うね、君と話していると……。僕の予想では君のはずなのだけどね。レーナがおかしくなったのは」
「えっ?」
「最近のレーナはおかしい。以前ならありえない行動している。それに、あれほど殺したがっていたモデスの命を急に諦めているみたいだ」
そのアルフォスの言葉にクロキは首を傾げる。
この世界に来る前のレーナの事をクロキは知らない。
レーナが変わったと言われてもわからないのは当然であった。
だけど、モデスを倒す事を諦めてくれるなら良い事だと思う。
「最初は光の勇者君の影響かと思った。だけど、違う。彼が迷宮に捕らわれた時に話したけど、レーナの態度は普段通りだった。好きな男が危ない目に会っているにしては普通すぎる」
そう言ってアルフォスは首を振る。
「そして、アリアディア共和国だったかな。レーナと君が向かい合っている映像を見た時に気付いたんだ。レーナを変えたのは君だとね」
アルフォスはクロキを指さす。
「だから気になったんだよ。兄としてはね。あのレーナを変えた相手がどんな奴かをね」
アルフォスは穏やかな声で言う。
だけど、クロキはその声から敵意を感じる。
「だからこそ、君に勝負を挑むよ。レーナに相応しい存在だというのなら僕を打ち負かしてからにしてもらおうか」
アルフォスは剣を抜きこちら向ける。
「勝手な事を言う。わからないと言っているのに。しかし、お前達はポレン殿下を侮辱した。だから、打ち負かさせてもらう!!」
クロキもまた剣をアルフォスに向ける。
「はは!! 良い返事だよ、暗黒騎士!!」
アルフォスはそう言うと白い兜を被る。
「さあ行こうヴァルジニアス! 蒼天で僕達に敵う者はいない事を教えてやろうじゃないか!!」
白い竜が翼を羽ばたかせると突然こちらに向かって飛んでくる。
「グロリアス!!」
クロキは急いでグロリアスに指示を出して、白い竜を躱す。
白い竜はクロキ達がいた所を高速で素通りする。
「全く勝手な奴。ごめんね、グロリアス。戦いに付き合わせてしまって」
クロキはそう言ってグロリアスの首をなでる。
首をなでるとグロリアスが咆哮する。
グロリアスから強い戦意が伝わってくる。
その戦意は白い竜に向けられている。
グロリアスはクロキの為に戦うつもりなのだ。
「ありがとうグロリアス。それじゃあ行こうか。蒼天を黒い嵐で塗りつぶしてやろう」
グロリアスは再び咆哮して黒い翼を羽ばたかせる。
雲海の上、2匹の竜の咆哮が鳴り響いた。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
更新です。
前回出てきたヒヤシスは男の娘だったりします。
まあ元ネタはヒュアキントスなので……。
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