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第6章 魔界の姫君
第18話 狙撃手
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朝になり陣幕のまわりに戦士達が集まる。
この陣幕の中には魔法の照明があるから暗くはないが、外の空模様は曇りで薄暗く、深くて霧が出ている。
そして、森の中はもっと暗いだろう。
これから戦士達が突入するが大丈夫だろうかとチユキは心配になってくる。
「お帰りなさい。シロネさん」
「ただいま。チユキさん。ところでお空のあれは何?」
翌朝になりアルゴア王国からシロネは戻ってくると空を指差す。
おそらくこの場にいるチユキ達以外の人には見えないだろうが、実は雲の上には空船が浮かんでいるのだ。
「ああ、気にしないで良いわ。ただの見学よ」
「?」
チユキは額を押さえて言うとシロネが首を傾げる。
「シロネさん! アルフォスっていう、すっごい!!美形の神様が来てるの! さっきナオちゃんと一緒に御舟を見に行って来たんだよ!!」
リノが興奮したように言う。
空船は歌と芸術の神アルフォスのものだ。
アルフォスはチユキ達の戦いぶりを見学するつもりらしい。
チユキはその姿を思い出す。
とんでもない美男子だった。
リノが興奮するのもわかる。あれが真剣な目をして言い寄って来たらどんな女性も心が揺らぐかもしれない。
チユキはレーナに夢中になる男性の気持ちが少しわかったような気がする。
アルフォスは間違いなくレーナの男性バージョンであった。
「確かに。ものすごい美男子だったすね~。それに側にいる女性達も美人揃いだったっす。まさに天国のような光景だったっすよ」
ナオもうんうんと頷く。
空船にいるのはアルフォスだけではなく、その妻達もいる。
その数は千名を超えるらしい。
全員が美女で、神族に女性天使にハイエルフに、中には元人間の女性もいるそうだ。
ナオの話によると一応男性もいるらしいが、リノは「そんなのいたっけ?」と言っていたから、かなり影が薄かったのだろう。
しかし、美女達に加えて護衛もいるのでかなりの大所帯である。
それが雲の上で見物している。
「全く見ているだけでなく、手伝ってくれても良いのに……」
チユキは思わず呟く。
人間が困っているのだから、彼が出て来て戦えば良いのにと思うが、そんなつもりはないようだ。
神のごとく見ているだけなのである。
「別に良いさ。見させて置けば。勇者である俺の戦いぶりを見たいだろ。だったらたっぷりと見せてやるさ」
レイジは不敵に笑う。
おそらくレーナが絡んでいるからだろう。レイジはやる気だ。
だけど、チユキは不安に思う。
アルフォスの話しぶりからして、この森の中には何かが待ち構えているような気がするのだ。
「勇者殿。戦士達がそろいましたので、できれば彼らに激励の言葉を述べていただけないでしょうか?」
ポルトスがチユキ達のいる陣幕にやって来る。
「わかりましたポルトス将軍殿。すぐに伺います」
チユキ達が外に出ると戦士達が勢ぞろいしている。
勢揃いしているが並び方は整然としておらずただ集まっただけといった感じだ。
特に軍事訓練を受けていない自由戦士なので仕方がないだろう。
そして、そんな自由戦士達の装備もまたバラバラだ。
皮鎧を身に付けている者もいれば、ただ服を着て剣と盾を持っている者もいる。
特に戦神トールズの信徒はほとんど裸である。
トールズの戦士はその教義から原則的に裸だ。
ただ例外として大型の獣に魔獣の皮ならば身に付ける事が許される。
そのためトールズの戦士を見ると動物の仮装をしているように見える。
狼に熊に猪。
ちょっとした、どうぶつの森である。
もっとも、おいでと言われても行きたい者はいないだろう。
それに対してポルトス将軍の側に控える騎士や兵士達の装備は整っている。
騎士達は鎖帷子と部分的な板金の鎧を身に着け、腰には長剣に、馬に乗った時に脚部まで守るための凧型の盾を左手に持っている。
兵士達は鎖帷子に長い槍、そして直径60センチメートル程の円形の盾を左手に持っている。
どちらも自由戦士に比べれば装備がかなり充実している。
だけど、騎士も兵士も後方に待機して、森に突入はしない。
つまり、装備が貧弱な者が突撃して、装備が充実している者が後ろにいる事になる。
しかし、誰も疑問に思わない。
むしろトールズの戦士達は真っ先に突撃したがっている様子であった。
「戦士達よ! いよいよ突撃である! ここには女神レーナ様の寵愛を受ける勇者レイジ殿がおられる! 勝利は必ず得られるであろう! 貴君らの戦いぶりは必ず戦乙女の目に留まる! 勇敢な者は必ずエリオスの園へと導かれるであろう! さあ今こそ戦いの時である!!」
ポルトスが叫ぶと戦士達が一斉に叫びだす。
教義ではレーナの信徒もトールズの信徒も勇敢に魔物と戦って死ぬと、その魂は戦乙女によってエリオスに運ばれる所は共通である。
エリオスでは美しい天女達が歓迎してくれるらしいので、死を恐れる戦士は少ない。
目の前の戦士達は喜んで戦いに赴こうとしている。
チユキはその光景を見て宗教の恐ろしさを感じるのだった。
◆
「外の様子はどうだいゴズ?」
ゴズが魔法の鏡で結界の外を眺めていると母親であるダティエが後ろから声を掛ける。
「母上。どうやら、いよいよ突入してくるようです」
ゴズはそう言って後ろを振り返る。
御菓子の城の大広間。そこには多くの男神が集まっている。
「そうかいよいよか! 我が妻になるべきレーナを奪おうとする愚か者め! このハルセスが消してくれようぞ!!」
黄金細工の装身具で身を飾った褐色の肌をした男が言う。
その姿は翼が生えている所を除けば人間と同じ姿にみえる。
しかし、もちろん人間ではない。魔法で人間の姿になっているだけだ。
このハルセスと名乗る男は遥か西の黄金砂漠に住む光の神である。
この神が住まうジプシールの地は貴族階級であるスフィンクス族を頂点に犬人族に猫人族、隼人族に蛙人族、鰐人族にフンコロガシ人族等の多くの獣人が住んでいる。
ハルセスはそんな獣人が崇める神なのである。
「貴様に出来るかな? 砂漠の小僧」
最後に来た黒い獅子頭の男神がハルセスを馬鹿にするように言う。
「どういう意味だ? 貴様? 黒い獅子の被り物をしているが貴様の正体はわかっているぞ!! 悪しき戦争の神め!!」
「吠えるじゃないか! いいだろう相手になってやる!」
黒い獅子頭の男が背中から大剣を抜くと構える。
大剣には七つの宝石が嵌められ輝き、ハルセスを威嚇する。
「望むところだ! 貴様には我が父を殺された借りがある! 今この地で決着をつけてやる!!」
そう言うとハルセスの背中の翼が輝きはじめる。
巻き込まれないようにゴズは後ろに下がる。
「ふん! イシュティアに手を出した貴様の父ウシャルスが悪い。貴様がイシュティアの子とは認めん。バラバラにしてやったのに復活するとはな……」
「ふん。貴様の妹トトナ殿とヘルカート殿で我が父は蘇る事ができた。しかし、それで終わったと思うなよ! 悪神め! それにこの左目の借りもある! ここで決着をつけてくれよう!!」
ハルセスが自身の左目の黄金細工の眼帯を触る。
「我が妹とカエル婆も余計な事をする。もっとも、あっちの方は蘇らなかったようだがな。今度は右目も潰してやる」
黒獅子とハルセスが向き合う。
このままでは戦いになるだろう。
「やめな! 今は争うんじゃないよ!!」
突然ヘルカートが大声を出す。
ハルセスと黒獅子がヘルカートを見る。
「ヘルカート殿。止めないでくれ、この悪神とは決着をつけねばならない」
「ハルセス。ウシャルスとイシュティアの子よ。今は優先順位を守りな。周りを見てみなよ。他の神が、お前達が潰し合ってくれるのを待ち望んでいるよ」
ヘルカートは笑いながら周囲を見る。
他の男神達がにやにやしながら二神が争うのを見ている。
ここにいる神達は勇者を倒す事で一致しているが、本来同じ天上の美姫レーナを狙う敵同士だ。
敵が減ってくれた方が良いのである。
「全く。ヘルカート殿。争いたければ争わせておけばよいではありませんか。ここにいる者達等いなくても勇者など私だけで充分ですよ」
そう言って赤銅色の肌をした男が前に出る。
この男も蠍の尾が有る事を除けば人間の姿をしている。
蠍の尾を持った男神の名はギルタル。
愛称でギルターと呼ばれる事もある。
ギルタルはハルセスとは違う砂漠に住み、妹であるブルウルと共に蠍人達に崇められる神だ。
これで遥か西に住む砂漠の神がここに二柱もいる事になる。
「どういう意味だ!? ギルタル! 砂漠の死の神よ!!」
ハルセスはギルタルに噛みつく。
ギルタルはかつて死神ザルキシスに従属していた神だ。
そのためギルタルも死神と呼ばれる事もある。
「言った通りの意味ですよ。私だけで充分です。もちろん、あの麗しいレーナに相応しいのもね」
気障っぽくギルタルが笑う。
「ふん!! レーナに相応しいだと! 貴様には蜘蛛女のアトラナクアだけで充分だ!!」
黒獅子もまた怒りを隠そうとはしない。
「アトラナとは今は別居中なのですよ。聞けば今はナルゴルに保護されているようですね。近況をモデスから教えてもらいましたよ。ヘルカート殿。妻がお世話になっています」
ギルタルはヘルカートに礼を言う。
「ああ、アトラナクアはこのヘルカートが預かっているよ。いずれお前の所に返してやるさ。それから、ギルター。お前さんも今は争わないで欲しんだがね」
ヘルカートがやれやれと首を振る。
「わかりましたよ。貴方には世話になっています。今は勇者を倒す事に協力しましょう」
ギルタルの言葉にヘルカートが満足そうに頷く。
「そういう事だよ! 争いはレーナの恋人である勇者を倒してからにするんだね! その後でいくらでもレーナを巡って争いな!!」
ヘルカートの言葉に男神が頷く。
彼らはレーナを狙っている所では一致している。
最大の障害である勇者を倒す事では共闘するつもりである。
「それからダティエにゴズ!!」
ヘルカートはゴズとダティエを見る。
「な!? なんでしょうか!? ヘルカート様?」
ダティエは慌ててヘルカートに寄って行く。
「人間共の相手はお前達がするんだよ!! それぐらいはできるだろうね?!!」
ゴズとダティエはその言葉に頷くしかなかった。
◆
「あれは何? レイジ達だけじゃなかったの?」
暗黒騎士の姿となっているクロキは目の前に浮かぶ空船を見る。
クロキ達はレイジが近づいているという報告を受けて、竜のグロリアスに乗り御菓子の城へと向かっている最中である。
レイジ達の動きがクロキにはわからない。だけど、クーナの話では大魔女のヘルカートが御菓子の城にいるらしかった。
なぜ、ヘルカートが御菓子の城にいるのかクロキは疑問に思う。
ゴブリンの女王ダティエはヘルカートの弟子らしいからヘルカートがダティエの所に行っても不思議ではないが、前もってレイジ達が来ることがわかっていたような動きであった。
しかし、ヘルカートがいるなら安心できるのも確かであった。
だからクロキは疑問に思うが、気にしない事にする。
そして、御菓子の城に向かう途中で、雲の上に空飛ぶ船が浮かんでいるのが見えたのだ。
空船を見かけたクロキ達は慌てて雲の中に隠れる。
そして、現在に至る。
既にレイジ達が御菓子の城に突入している頃かもしれない。
だけど、目の前の空船が気になって動けない。
「レイジ達の仲間だろうか? だとしたらやっかいだ」
レイジ達だけでなく、援軍がいたのでは、ちょっときついかもしれない。
「どうするのだ?クロキ?」
クーナが心配そうに言う。
本当は突入すべきかもしれない。
しかし、ダティエ比べてクーナや魔王の御子であるポレンの方が優先順位は高い。
危険な目に会わせるわけにはいかない。
クロキは振り返りクーナの後ろを見る。
後ろではポレンがグロリアスの背中で「もう、食べれない……むにゃ…むにゃ…」といかにもな寝言を言いながら寝ている。
ポレンはグロリアスに乗っている間に眠くなり寝てしまったのだ。
一緒に寝ているプチナが抱き着かれて苦しそうであった。
「本当どうするかな?」
クロキは悩む。
とにかく、あの空船に乗っている者がどうしてここにいるのか知りたい。
(レイジの味方をしに来たのではないなら、何とかなるかもしれない)
クロキはグロリアスをもう少しだけ空船に近づける事にする。
そして、雲に隠れながら、ある程度近づいた時だった。
強烈な敵意を空船から感じ取る。
「まずい!!!」
クロキは瞬時に魔剣を呼び出し振るう。
雲を斬り裂き、クロキに向かって真っすぐ飛んで来た矢は魔剣によって二つに斬り裂かれて黒い炎によって燃やされて消える。
グロリアスが低く唸る。
クロキの後ろではクーナが大鎌を手に取る気配がする。
「すまないクロキ。防御が間に合わなかった」
クーナが詫びるが仕方がない。
敵意を感じてから矢の飛んで来る速さがとんでもなかった。
あれでは防御魔法を展開する暇もなかっただろう。
「クロキ先生? どうしたのですか?」
異変を感じて飛び起きたポレンが不安そうな顔をする。
「敵です。殿下」
クロキは断言する。
これほどの敵意を向けている相手が敵でないはずがない。
クロキは空船を睨む。
魔力を帯びた矢によって目の前の雲が消えたので視界を遮るものは何もない。
遠い空船の上では弓を構えた男が立っている。
男の自分から見ても、とんでもない美男子だ。
その男の側には多くの美女達が取り巻いている。
男と美女を乗せた空船が近づいて来る。
クロキは油断なく構える。
「すまないね、巨大な竜が近づいているから、思わず攻撃してしまったよ。まさか誰かが乗っているとは思わなかった。怪我は無かったかい?」
クロキはそれを聞いてぬけぬけと言うなと思う。
矢は間違いなくグロリアスではなく、クロキの心臓に向かって飛んで来た。
つまり、この男はクロキが乗っている事に気付いていたのだ。
(何者だろう?)
クロキは男を見る。
穏やかに笑っているように見えるが、先ほどから強烈な敵意を放っている。
美男子に恨みを持つことはあっても、美男子に恨まれる事があるとはクロキには思えない。
男の周囲にいる美女達は体のラインが透けて見える白い衣に金銀細工の美しい装飾品を身に付けている。
大きく開いた胸元やスリットからは魅力的な谷間と白い足が見える。
男はそんな美女に囲まれて笑っている。
美女達は男を見て瞳を潤ませている。
クーナが生まれる前だったら、クロキは涙が出る程羨ましくて泣き叫んでいたに違いない。
美女達はクロキを嘲るように見ている。
「嘘!! あ、あれはアルフォス様です! 先生! まさか!実物を見る事ができるなんて!!」
ポレンはイケメンの顔を見て嬉しそうに叫ぶ。
クロキはアルフォスという名は聞いた事があった。
何しろレーナの兄である。
人間から歌と芸術の神と崇められているアルフォスはクロキを真っすぐ見ている。
クロキはよくわからないが、避けては通れないような気がするのだった。
この陣幕の中には魔法の照明があるから暗くはないが、外の空模様は曇りで薄暗く、深くて霧が出ている。
そして、森の中はもっと暗いだろう。
これから戦士達が突入するが大丈夫だろうかとチユキは心配になってくる。
「お帰りなさい。シロネさん」
「ただいま。チユキさん。ところでお空のあれは何?」
翌朝になりアルゴア王国からシロネは戻ってくると空を指差す。
おそらくこの場にいるチユキ達以外の人には見えないだろうが、実は雲の上には空船が浮かんでいるのだ。
「ああ、気にしないで良いわ。ただの見学よ」
「?」
チユキは額を押さえて言うとシロネが首を傾げる。
「シロネさん! アルフォスっていう、すっごい!!美形の神様が来てるの! さっきナオちゃんと一緒に御舟を見に行って来たんだよ!!」
リノが興奮したように言う。
空船は歌と芸術の神アルフォスのものだ。
アルフォスはチユキ達の戦いぶりを見学するつもりらしい。
チユキはその姿を思い出す。
とんでもない美男子だった。
リノが興奮するのもわかる。あれが真剣な目をして言い寄って来たらどんな女性も心が揺らぐかもしれない。
チユキはレーナに夢中になる男性の気持ちが少しわかったような気がする。
アルフォスは間違いなくレーナの男性バージョンであった。
「確かに。ものすごい美男子だったすね~。それに側にいる女性達も美人揃いだったっす。まさに天国のような光景だったっすよ」
ナオもうんうんと頷く。
空船にいるのはアルフォスだけではなく、その妻達もいる。
その数は千名を超えるらしい。
全員が美女で、神族に女性天使にハイエルフに、中には元人間の女性もいるそうだ。
ナオの話によると一応男性もいるらしいが、リノは「そんなのいたっけ?」と言っていたから、かなり影が薄かったのだろう。
しかし、美女達に加えて護衛もいるのでかなりの大所帯である。
それが雲の上で見物している。
「全く見ているだけでなく、手伝ってくれても良いのに……」
チユキは思わず呟く。
人間が困っているのだから、彼が出て来て戦えば良いのにと思うが、そんなつもりはないようだ。
神のごとく見ているだけなのである。
「別に良いさ。見させて置けば。勇者である俺の戦いぶりを見たいだろ。だったらたっぷりと見せてやるさ」
レイジは不敵に笑う。
おそらくレーナが絡んでいるからだろう。レイジはやる気だ。
だけど、チユキは不安に思う。
アルフォスの話しぶりからして、この森の中には何かが待ち構えているような気がするのだ。
「勇者殿。戦士達がそろいましたので、できれば彼らに激励の言葉を述べていただけないでしょうか?」
ポルトスがチユキ達のいる陣幕にやって来る。
「わかりましたポルトス将軍殿。すぐに伺います」
チユキ達が外に出ると戦士達が勢ぞろいしている。
勢揃いしているが並び方は整然としておらずただ集まっただけといった感じだ。
特に軍事訓練を受けていない自由戦士なので仕方がないだろう。
そして、そんな自由戦士達の装備もまたバラバラだ。
皮鎧を身に付けている者もいれば、ただ服を着て剣と盾を持っている者もいる。
特に戦神トールズの信徒はほとんど裸である。
トールズの戦士はその教義から原則的に裸だ。
ただ例外として大型の獣に魔獣の皮ならば身に付ける事が許される。
そのためトールズの戦士を見ると動物の仮装をしているように見える。
狼に熊に猪。
ちょっとした、どうぶつの森である。
もっとも、おいでと言われても行きたい者はいないだろう。
それに対してポルトス将軍の側に控える騎士や兵士達の装備は整っている。
騎士達は鎖帷子と部分的な板金の鎧を身に着け、腰には長剣に、馬に乗った時に脚部まで守るための凧型の盾を左手に持っている。
兵士達は鎖帷子に長い槍、そして直径60センチメートル程の円形の盾を左手に持っている。
どちらも自由戦士に比べれば装備がかなり充実している。
だけど、騎士も兵士も後方に待機して、森に突入はしない。
つまり、装備が貧弱な者が突撃して、装備が充実している者が後ろにいる事になる。
しかし、誰も疑問に思わない。
むしろトールズの戦士達は真っ先に突撃したがっている様子であった。
「戦士達よ! いよいよ突撃である! ここには女神レーナ様の寵愛を受ける勇者レイジ殿がおられる! 勝利は必ず得られるであろう! 貴君らの戦いぶりは必ず戦乙女の目に留まる! 勇敢な者は必ずエリオスの園へと導かれるであろう! さあ今こそ戦いの時である!!」
ポルトスが叫ぶと戦士達が一斉に叫びだす。
教義ではレーナの信徒もトールズの信徒も勇敢に魔物と戦って死ぬと、その魂は戦乙女によってエリオスに運ばれる所は共通である。
エリオスでは美しい天女達が歓迎してくれるらしいので、死を恐れる戦士は少ない。
目の前の戦士達は喜んで戦いに赴こうとしている。
チユキはその光景を見て宗教の恐ろしさを感じるのだった。
◆
「外の様子はどうだいゴズ?」
ゴズが魔法の鏡で結界の外を眺めていると母親であるダティエが後ろから声を掛ける。
「母上。どうやら、いよいよ突入してくるようです」
ゴズはそう言って後ろを振り返る。
御菓子の城の大広間。そこには多くの男神が集まっている。
「そうかいよいよか! 我が妻になるべきレーナを奪おうとする愚か者め! このハルセスが消してくれようぞ!!」
黄金細工の装身具で身を飾った褐色の肌をした男が言う。
その姿は翼が生えている所を除けば人間と同じ姿にみえる。
しかし、もちろん人間ではない。魔法で人間の姿になっているだけだ。
このハルセスと名乗る男は遥か西の黄金砂漠に住む光の神である。
この神が住まうジプシールの地は貴族階級であるスフィンクス族を頂点に犬人族に猫人族、隼人族に蛙人族、鰐人族にフンコロガシ人族等の多くの獣人が住んでいる。
ハルセスはそんな獣人が崇める神なのである。
「貴様に出来るかな? 砂漠の小僧」
最後に来た黒い獅子頭の男神がハルセスを馬鹿にするように言う。
「どういう意味だ? 貴様? 黒い獅子の被り物をしているが貴様の正体はわかっているぞ!! 悪しき戦争の神め!!」
「吠えるじゃないか! いいだろう相手になってやる!」
黒い獅子頭の男が背中から大剣を抜くと構える。
大剣には七つの宝石が嵌められ輝き、ハルセスを威嚇する。
「望むところだ! 貴様には我が父を殺された借りがある! 今この地で決着をつけてやる!!」
そう言うとハルセスの背中の翼が輝きはじめる。
巻き込まれないようにゴズは後ろに下がる。
「ふん! イシュティアに手を出した貴様の父ウシャルスが悪い。貴様がイシュティアの子とは認めん。バラバラにしてやったのに復活するとはな……」
「ふん。貴様の妹トトナ殿とヘルカート殿で我が父は蘇る事ができた。しかし、それで終わったと思うなよ! 悪神め! それにこの左目の借りもある! ここで決着をつけてくれよう!!」
ハルセスが自身の左目の黄金細工の眼帯を触る。
「我が妹とカエル婆も余計な事をする。もっとも、あっちの方は蘇らなかったようだがな。今度は右目も潰してやる」
黒獅子とハルセスが向き合う。
このままでは戦いになるだろう。
「やめな! 今は争うんじゃないよ!!」
突然ヘルカートが大声を出す。
ハルセスと黒獅子がヘルカートを見る。
「ヘルカート殿。止めないでくれ、この悪神とは決着をつけねばならない」
「ハルセス。ウシャルスとイシュティアの子よ。今は優先順位を守りな。周りを見てみなよ。他の神が、お前達が潰し合ってくれるのを待ち望んでいるよ」
ヘルカートは笑いながら周囲を見る。
他の男神達がにやにやしながら二神が争うのを見ている。
ここにいる神達は勇者を倒す事で一致しているが、本来同じ天上の美姫レーナを狙う敵同士だ。
敵が減ってくれた方が良いのである。
「全く。ヘルカート殿。争いたければ争わせておけばよいではありませんか。ここにいる者達等いなくても勇者など私だけで充分ですよ」
そう言って赤銅色の肌をした男が前に出る。
この男も蠍の尾が有る事を除けば人間の姿をしている。
蠍の尾を持った男神の名はギルタル。
愛称でギルターと呼ばれる事もある。
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これで遥か西に住む砂漠の神がここに二柱もいる事になる。
「どういう意味だ!? ギルタル! 砂漠の死の神よ!!」
ハルセスはギルタルに噛みつく。
ギルタルはかつて死神ザルキシスに従属していた神だ。
そのためギルタルも死神と呼ばれる事もある。
「言った通りの意味ですよ。私だけで充分です。もちろん、あの麗しいレーナに相応しいのもね」
気障っぽくギルタルが笑う。
「ふん!! レーナに相応しいだと! 貴様には蜘蛛女のアトラナクアだけで充分だ!!」
黒獅子もまた怒りを隠そうとはしない。
「アトラナとは今は別居中なのですよ。聞けば今はナルゴルに保護されているようですね。近況をモデスから教えてもらいましたよ。ヘルカート殿。妻がお世話になっています」
ギルタルはヘルカートに礼を言う。
「ああ、アトラナクアはこのヘルカートが預かっているよ。いずれお前の所に返してやるさ。それから、ギルター。お前さんも今は争わないで欲しんだがね」
ヘルカートがやれやれと首を振る。
「わかりましたよ。貴方には世話になっています。今は勇者を倒す事に協力しましょう」
ギルタルの言葉にヘルカートが満足そうに頷く。
「そういう事だよ! 争いはレーナの恋人である勇者を倒してからにするんだね! その後でいくらでもレーナを巡って争いな!!」
ヘルカートの言葉に男神が頷く。
彼らはレーナを狙っている所では一致している。
最大の障害である勇者を倒す事では共闘するつもりである。
「それからダティエにゴズ!!」
ヘルカートはゴズとダティエを見る。
「な!? なんでしょうか!? ヘルカート様?」
ダティエは慌ててヘルカートに寄って行く。
「人間共の相手はお前達がするんだよ!! それぐらいはできるだろうね?!!」
ゴズとダティエはその言葉に頷くしかなかった。
◆
「あれは何? レイジ達だけじゃなかったの?」
暗黒騎士の姿となっているクロキは目の前に浮かぶ空船を見る。
クロキ達はレイジが近づいているという報告を受けて、竜のグロリアスに乗り御菓子の城へと向かっている最中である。
レイジ達の動きがクロキにはわからない。だけど、クーナの話では大魔女のヘルカートが御菓子の城にいるらしかった。
なぜ、ヘルカートが御菓子の城にいるのかクロキは疑問に思う。
ゴブリンの女王ダティエはヘルカートの弟子らしいからヘルカートがダティエの所に行っても不思議ではないが、前もってレイジ達が来ることがわかっていたような動きであった。
しかし、ヘルカートがいるなら安心できるのも確かであった。
だからクロキは疑問に思うが、気にしない事にする。
そして、御菓子の城に向かう途中で、雲の上に空飛ぶ船が浮かんでいるのが見えたのだ。
空船を見かけたクロキ達は慌てて雲の中に隠れる。
そして、現在に至る。
既にレイジ達が御菓子の城に突入している頃かもしれない。
だけど、目の前の空船が気になって動けない。
「レイジ達の仲間だろうか? だとしたらやっかいだ」
レイジ達だけでなく、援軍がいたのでは、ちょっときついかもしれない。
「どうするのだ?クロキ?」
クーナが心配そうに言う。
本当は突入すべきかもしれない。
しかし、ダティエ比べてクーナや魔王の御子であるポレンの方が優先順位は高い。
危険な目に会わせるわけにはいかない。
クロキは振り返りクーナの後ろを見る。
後ろではポレンがグロリアスの背中で「もう、食べれない……むにゃ…むにゃ…」といかにもな寝言を言いながら寝ている。
ポレンはグロリアスに乗っている間に眠くなり寝てしまったのだ。
一緒に寝ているプチナが抱き着かれて苦しそうであった。
「本当どうするかな?」
クロキは悩む。
とにかく、あの空船に乗っている者がどうしてここにいるのか知りたい。
(レイジの味方をしに来たのではないなら、何とかなるかもしれない)
クロキはグロリアスをもう少しだけ空船に近づける事にする。
そして、雲に隠れながら、ある程度近づいた時だった。
強烈な敵意を空船から感じ取る。
「まずい!!!」
クロキは瞬時に魔剣を呼び出し振るう。
雲を斬り裂き、クロキに向かって真っすぐ飛んで来た矢は魔剣によって二つに斬り裂かれて黒い炎によって燃やされて消える。
グロリアスが低く唸る。
クロキの後ろではクーナが大鎌を手に取る気配がする。
「すまないクロキ。防御が間に合わなかった」
クーナが詫びるが仕方がない。
敵意を感じてから矢の飛んで来る速さがとんでもなかった。
あれでは防御魔法を展開する暇もなかっただろう。
「クロキ先生? どうしたのですか?」
異変を感じて飛び起きたポレンが不安そうな顔をする。
「敵です。殿下」
クロキは断言する。
これほどの敵意を向けている相手が敵でないはずがない。
クロキは空船を睨む。
魔力を帯びた矢によって目の前の雲が消えたので視界を遮るものは何もない。
遠い空船の上では弓を構えた男が立っている。
男の自分から見ても、とんでもない美男子だ。
その男の側には多くの美女達が取り巻いている。
男と美女を乗せた空船が近づいて来る。
クロキは油断なく構える。
「すまないね、巨大な竜が近づいているから、思わず攻撃してしまったよ。まさか誰かが乗っているとは思わなかった。怪我は無かったかい?」
クロキはそれを聞いてぬけぬけと言うなと思う。
矢は間違いなくグロリアスではなく、クロキの心臓に向かって飛んで来た。
つまり、この男はクロキが乗っている事に気付いていたのだ。
(何者だろう?)
クロキは男を見る。
穏やかに笑っているように見えるが、先ほどから強烈な敵意を放っている。
美男子に恨みを持つことはあっても、美男子に恨まれる事があるとはクロキには思えない。
男の周囲にいる美女達は体のラインが透けて見える白い衣に金銀細工の美しい装飾品を身に付けている。
大きく開いた胸元やスリットからは魅力的な谷間と白い足が見える。
男はそんな美女に囲まれて笑っている。
美女達は男を見て瞳を潤ませている。
クーナが生まれる前だったら、クロキは涙が出る程羨ましくて泣き叫んでいたに違いない。
美女達はクロキを嘲るように見ている。
「嘘!! あ、あれはアルフォス様です! 先生! まさか!実物を見る事ができるなんて!!」
ポレンはイケメンの顔を見て嬉しそうに叫ぶ。
クロキはアルフォスという名は聞いた事があった。
何しろレーナの兄である。
人間から歌と芸術の神と崇められているアルフォスはクロキを真っすぐ見ている。
クロキはよくわからないが、避けては通れないような気がするのだった。
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保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
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毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
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