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第6章 魔界の姫君
第8話 アマゾネスの少女
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ヴェロス王国は人間世界の最北の国家群で一番の大国である。
この周辺の王国のほとんどが貧しいのにも関わらず、このヴェロス王国だけは繁栄している。
ヴェロス王国は城壁が2重にあり、内側の城壁は人間の街を守り、外側の城壁は農地と果樹園を守る。
普通の国では住居を守るのが精いっぱいで、農地を守る城壁を作る余裕はない。
そのため、安心して農作業をする事は難しい。
農作業中に魔物に襲われる者は多いのである。
だけど、ヴェロスには農地を守る城壁があるので、他の国に比べて安心して農業をする事ができる。
また特産品のヴェロスの果実酒は遠い聖レナリア共和国にも輸出される程に人気がある。
以上の事が繁栄している理由だろう。
今チユキ達はヴェロスの王宮に来ている。
普通の一般人なら王様に会うのは難しいかもしれないが、レイジは女神に選ばれた勇者である。
そのため来訪を告げると、あっさりと面会を許可が下りた。
チユキ達は王宮の来客用の部屋に通される。
備え付けられた長椅子には柔らかい羽毛が詰められていて、とてもふかふかだ。
王宮に仕える侍女たちが飲み物を持って来てくれる。
飲み物はヴェロスの果実水だ。
少し甘酸っぱい果実水は喉越しが良く飲みやすい。
チユキ達はくつろぎながらヴェロス王エカラスを待つ事にする。
「結局、ここに来るのに時間が掛かったね。チユキさん」
長椅子に寝転んでいるリノはあくびをしながら言う。
「そうね。リノさん。本当に遅くなったわね」
そう言いながらシロネを見る。
シロネは遅くなった事に不満があるのか、不機嫌になっている。
窓から外を見ているので表情は見えないが、話に加わらず背中を向けているところからそれがわかる。
「まさかセンデア王国で騒動に巻き込まれるとは思わなかったっすからね~」
ナオは意味ありげな視線をレイジに向ける。
「仕方がないだろう。困っている人がいたら助けないといけない」
レイジは悪びれずに言う。
「困っている人ねえ……。だったら、その後の歓待は辞退しても良かったのじゃない」
チユキは嫌味っぽく言う。
チユキ達はヴェロス王国に行く途中で立ち寄ったセンデア王国の姫の頼みで、魔物退治をする事になってしまったのである。
魔物は簡単に倒せたが美しい姫の頼みでセンデア王国にしばらく滞在する事になった。
そのため数日をセンデア王国で過ごし、この国に来るのがさらに遅れてしまった。
そのおかげでシロネは機嫌が悪くなってしまったのである。
「そうは言ってもな、断りにくいじゃないか。それにリノもナオも乗り気だっただろ」
レイジはそう言ってリノとナオを見る。
話を振られて2人は「あはは」と笑ってごまかす。
(全く何しているのよ……。おかげでシロネさんが拗ねちゃったじゃない)
チユキは額を押さえ文句を言おうとした時だった。
王の来訪を伝える声がする。
レイジが返事をすると、扉が開かれ、この国の王であるエカラスが入って来る。
前よりも太ったようだが、いかにも人の良さそうな所は変わっていない。
そして後ろには王妃のコルフィナが付き従っている。
この夫婦は前に来た時も仲が良さそうだった。
それは今でも変わらないようだ。
「ようこそ、勇者様方。お久しぶりですな」
「お久しぶりです。勇者様方」
エカラスとコルフィナが礼をする。
「お久しぶりです。エカラス王陛下」
「久しぶりです。コルフィナ王妃」
チユキとレイジが礼をする。
「久しぶりです。ところでどうしてここに? 何か御用が有って来たようですが?」
エカラス達は客室に供えられた椅子に座ると尋ねる。
「ああ、その事なのですが、実は……」
チユキは御菓子の城の白銀の魔女の事を説明する。
「なんと!! それでは蒼の森の異変は、その魔女の仕業では!!?」
チユキの説明を聞くとエカラスは驚き大声を出す。
「蒼の森の異変?」
「はい。実は最近、蒼の森で異変が起こっているようなのです」
エカラスは説明する。
最初の事件が起こったのは2ヶ月前。
蒼の森の奥地に住む魔物達が街道に出没するようになったのだ。
最初は一時的なものだと思ったらしい。
しかし、街道に現れる魔物数は増えるばかりで減る様子はない。
しかも、今まで見た事もない蟲の魔物までも姿を見せるようになり、エカラス達は蒼の森で何かが起こっている事に感づいたのだ。
一応王国に所属する野伏が探索をしようとしたが、危険すぎて近づけなかったらしい。
野伏は危険な森等で狩猟や薬草採取を行う、野外活動のエキスパートだ。
彼らは魔物と戦う事を生業としているわけではないが、誰よりも森を熟知している。
その野伏達が近づけないとなると、よほど森は危険な状態になっているようであった。
「それでは、どうしようもないですね……」
「はい。しかしながら、何もしないでいる事も不安に思いましたので、自由戦士達を集めて、探索隊を作り森へ派遣しようと思っていた所だったのです」
チユキはなるほどと頷く。何もしないわけではないようだ。
「なるほど……。それで、街で自由戦士を多く見かけたのですね」
実はチユキは王宮に来るまでに以前に比べて自由戦士の数が多いなと思ったのである。
ヴェロス王国にも自由戦士はいるが、あれほどの数はいないはずであった。
おそらく、高額な報酬に釣られて、外から来た自由戦士達に違いないだろう。
言い方は悪いが自由戦士はこの世界における傭兵である。
自国の市民である騎士や兵士に比べて危険な仕事をさせやすい。
それに今の所、この国の存亡に関わる程の被害は出ていない以上、騎士団は動かしにくい。
だから、ヴェロス王国は自由戦士達を向かわせるのである。
エカラスは良い人間かもしれないが、自国の市民の為ならば冷酷な判断をするのかもしれない。
もしくはこの国の貴族達の意向だろうか?
チユキはそんな事を考える。
「はい。私共は10日程前から自由戦士達を集めています。名簿には既に約3000以上の者達が登録してくれているのですよ」
エカラスは嬉しそうに言う。
横で聞いていたリノとナオが「ほへ~」と驚きの声を出している。
この世界において3000というのはかなりの大軍だ。
人口の多い地域でならともかく、この貧しい国の多い地域では、これほどの人数を集める事は難しいはずであった。
また、多くの人間を動かすにはかなりの費用が必要である。
大国であるヴェロス王国だから可能のようであった。
「かなりの大軍ですね……。さすがはヴェロス王国といったところですね」
「いえ、これだけの人数を集める事ができたのは、他の国の方々の協力があったからです。蒼の森に隣接しているのは我が国だけではありませんから……」
エカラスは戦士募集の告知を他国に依頼したのである。
他国も蒼の森で異変は他人事ではない。
協力するのも当然であった。
「そうですか、他の国も異変に気付いているのですね」
チユキの言葉にエカラスは頷く。
「これだけの戦士が集まり、また勇者殿も来てくれたのですから、きっとすぐに問題は解決するでしょう」
そう言うとエカラスは楽しそうに笑う。
「ああ、善処するよ」
レイジは何時ものような余裕なセリフを吐かない。
それは珍しい事であった。
チユキ達はそもそも様子を見に来ただけだ。
シロネの幼馴染と戦うこと難しく、解決を約束する事は出来なかった。
「おお、さすが勇者殿だ。頼もしい」
エカラスはそんなチユキ達の様子に気付かないのか気楽に言う。
「そうですわ。あなた。勇者様に自由戦士の方々を紹介されてはいかがでしょう?」
それまで黙っていたコルフィナが提案する。
「うむ、それもそうだ。確か赤熊殿が宮殿に来ていたはずだ。誰か呼んで来てくれないか」
エカラスは部屋の外に控えている者に誰かを呼んでこさせる。
しばらくすると、扉が開かれ1人の男と1人の女性が入って来る。
男はいかにも戦士と言う風体の大男だ。
半裸であり、その上に熊の毛皮を被っていて、剥き出しの上半身には赤い刺青が描かれているのが見える。
おそらく、戦いの神トールズを信仰する獣戦士であった。
そして、後ろにいる女性はトールズの娘である女神アマゾナを信仰する女戦士のようであった。
なぜ、チユキがそう思ったかというと彼女はビキニアーマーを身に付けていたからだ。
アマゾナの信者は宗教上の理由からビキニアーマーを着る。
そのため、その信徒はトールズの戦士同様わかりやすい。
「紹介します。彼は赤熊の戦士団の団長アルカス殿。そして、そのご息女のカリス殿です」
エカラスは2人を紹介する。
「俺はアルカス! 仲間からは赤熊と呼ばれている! 光の勇者の噂は聞いてる! あんたに会えて光栄だ!! がはははははははは!!!」
大男であるアルカスは豪快に笑う。
「赤熊殿はこの近辺で高名な戦士です。赤熊殿には戦士団のまとめ役をお願いしているのですよ」
「そんなに褒めねえでくれ王様。さすがに光の勇者には負けるぜ」
アルカスは照れ臭そうに言う。
でかい図体の割に繊細な神経をしているのかもしれない。
チユキはアルカスの娘であるカリスを見る。
父親に似ず、なかなか、可愛い子で、年齢はリノやナオと同じぐらいのようであった。
しかし、腕に見えるいくつもの傷は、彼女が既に戦士としての経歴を積んでいる事を物語っている。
少し癖のある赤毛を後ろにまとめていて、すらりとした伸びやかな肢体はとても素早そうであった。
だけど、少し胸のボリュームが足りないようにチユキは思う。
ビキニアーマーだけを身に付けているからか体の線がはっきりとわかるので可哀想な事になっていた。
カリスはじっとシロネの方を見て少し笑っている。
その笑みには少し含みがあるように感じる?
チユキが疑問に思っていると突然カリスが前に出て来る。
「ねえ、あんたが剣の乙女なんだろ? あたしと手合せしてくれない?」
カリスはシロネを指差して言い放つ。
突然の事にチユキ達は言葉が出ないのだった。
◆
時刻は昼過ぎ、ヴェロス王国の郊外で吟遊詩人が竪琴を奏でる。
その音色は美しく、空を舞う鳥達も翼を休め聞きほれる。
音色は風に乗り、ヴェロス王国の宮殿にも届きそうであった。
通りを歩く者達はその音色に酔いしれ、時折足を止める。
吟遊詩人の目元はつばの広い旅行帽の影に隠れて見えにくい。
しかし、あごの部分だけでもその顔が整っている事がわかるだろう。
側にいる女性達はその吟遊詩人の見惚れて溜息を吐く。
吟遊詩人は女性達とその後ろのヴェロスの王宮を眺める。
王宮には光の勇者レイジとその仲間がいるはずであった。
「勇者か……、先ほど実物を見たけど、あれは違うね。さて、真実は誰なのかな?」
吟遊詩人は竪琴を奏で、呟くのだった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
更新です。
少しだけ加筆しました。
古代ギリシャでもペタソスというつばの広い旅行帽があったそうです。
また、前回言い忘れましたが、ノソイにいるオーク達の名前の由来は逆から読むとわかります。
オスマの仲間にゴナアとかいます。
この周辺の王国のほとんどが貧しいのにも関わらず、このヴェロス王国だけは繁栄している。
ヴェロス王国は城壁が2重にあり、内側の城壁は人間の街を守り、外側の城壁は農地と果樹園を守る。
普通の国では住居を守るのが精いっぱいで、農地を守る城壁を作る余裕はない。
そのため、安心して農作業をする事は難しい。
農作業中に魔物に襲われる者は多いのである。
だけど、ヴェロスには農地を守る城壁があるので、他の国に比べて安心して農業をする事ができる。
また特産品のヴェロスの果実酒は遠い聖レナリア共和国にも輸出される程に人気がある。
以上の事が繁栄している理由だろう。
今チユキ達はヴェロスの王宮に来ている。
普通の一般人なら王様に会うのは難しいかもしれないが、レイジは女神に選ばれた勇者である。
そのため来訪を告げると、あっさりと面会を許可が下りた。
チユキ達は王宮の来客用の部屋に通される。
備え付けられた長椅子には柔らかい羽毛が詰められていて、とてもふかふかだ。
王宮に仕える侍女たちが飲み物を持って来てくれる。
飲み物はヴェロスの果実水だ。
少し甘酸っぱい果実水は喉越しが良く飲みやすい。
チユキ達はくつろぎながらヴェロス王エカラスを待つ事にする。
「結局、ここに来るのに時間が掛かったね。チユキさん」
長椅子に寝転んでいるリノはあくびをしながら言う。
「そうね。リノさん。本当に遅くなったわね」
そう言いながらシロネを見る。
シロネは遅くなった事に不満があるのか、不機嫌になっている。
窓から外を見ているので表情は見えないが、話に加わらず背中を向けているところからそれがわかる。
「まさかセンデア王国で騒動に巻き込まれるとは思わなかったっすからね~」
ナオは意味ありげな視線をレイジに向ける。
「仕方がないだろう。困っている人がいたら助けないといけない」
レイジは悪びれずに言う。
「困っている人ねえ……。だったら、その後の歓待は辞退しても良かったのじゃない」
チユキは嫌味っぽく言う。
チユキ達はヴェロス王国に行く途中で立ち寄ったセンデア王国の姫の頼みで、魔物退治をする事になってしまったのである。
魔物は簡単に倒せたが美しい姫の頼みでセンデア王国にしばらく滞在する事になった。
そのため数日をセンデア王国で過ごし、この国に来るのがさらに遅れてしまった。
そのおかげでシロネは機嫌が悪くなってしまったのである。
「そうは言ってもな、断りにくいじゃないか。それにリノもナオも乗り気だっただろ」
レイジはそう言ってリノとナオを見る。
話を振られて2人は「あはは」と笑ってごまかす。
(全く何しているのよ……。おかげでシロネさんが拗ねちゃったじゃない)
チユキは額を押さえ文句を言おうとした時だった。
王の来訪を伝える声がする。
レイジが返事をすると、扉が開かれ、この国の王であるエカラスが入って来る。
前よりも太ったようだが、いかにも人の良さそうな所は変わっていない。
そして後ろには王妃のコルフィナが付き従っている。
この夫婦は前に来た時も仲が良さそうだった。
それは今でも変わらないようだ。
「ようこそ、勇者様方。お久しぶりですな」
「お久しぶりです。勇者様方」
エカラスとコルフィナが礼をする。
「お久しぶりです。エカラス王陛下」
「久しぶりです。コルフィナ王妃」
チユキとレイジが礼をする。
「久しぶりです。ところでどうしてここに? 何か御用が有って来たようですが?」
エカラス達は客室に供えられた椅子に座ると尋ねる。
「ああ、その事なのですが、実は……」
チユキは御菓子の城の白銀の魔女の事を説明する。
「なんと!! それでは蒼の森の異変は、その魔女の仕業では!!?」
チユキの説明を聞くとエカラスは驚き大声を出す。
「蒼の森の異変?」
「はい。実は最近、蒼の森で異変が起こっているようなのです」
エカラスは説明する。
最初の事件が起こったのは2ヶ月前。
蒼の森の奥地に住む魔物達が街道に出没するようになったのだ。
最初は一時的なものだと思ったらしい。
しかし、街道に現れる魔物数は増えるばかりで減る様子はない。
しかも、今まで見た事もない蟲の魔物までも姿を見せるようになり、エカラス達は蒼の森で何かが起こっている事に感づいたのだ。
一応王国に所属する野伏が探索をしようとしたが、危険すぎて近づけなかったらしい。
野伏は危険な森等で狩猟や薬草採取を行う、野外活動のエキスパートだ。
彼らは魔物と戦う事を生業としているわけではないが、誰よりも森を熟知している。
その野伏達が近づけないとなると、よほど森は危険な状態になっているようであった。
「それでは、どうしようもないですね……」
「はい。しかしながら、何もしないでいる事も不安に思いましたので、自由戦士達を集めて、探索隊を作り森へ派遣しようと思っていた所だったのです」
チユキはなるほどと頷く。何もしないわけではないようだ。
「なるほど……。それで、街で自由戦士を多く見かけたのですね」
実はチユキは王宮に来るまでに以前に比べて自由戦士の数が多いなと思ったのである。
ヴェロス王国にも自由戦士はいるが、あれほどの数はいないはずであった。
おそらく、高額な報酬に釣られて、外から来た自由戦士達に違いないだろう。
言い方は悪いが自由戦士はこの世界における傭兵である。
自国の市民である騎士や兵士に比べて危険な仕事をさせやすい。
それに今の所、この国の存亡に関わる程の被害は出ていない以上、騎士団は動かしにくい。
だから、ヴェロス王国は自由戦士達を向かわせるのである。
エカラスは良い人間かもしれないが、自国の市民の為ならば冷酷な判断をするのかもしれない。
もしくはこの国の貴族達の意向だろうか?
チユキはそんな事を考える。
「はい。私共は10日程前から自由戦士達を集めています。名簿には既に約3000以上の者達が登録してくれているのですよ」
エカラスは嬉しそうに言う。
横で聞いていたリノとナオが「ほへ~」と驚きの声を出している。
この世界において3000というのはかなりの大軍だ。
人口の多い地域でならともかく、この貧しい国の多い地域では、これほどの人数を集める事は難しいはずであった。
また、多くの人間を動かすにはかなりの費用が必要である。
大国であるヴェロス王国だから可能のようであった。
「かなりの大軍ですね……。さすがはヴェロス王国といったところですね」
「いえ、これだけの人数を集める事ができたのは、他の国の方々の協力があったからです。蒼の森に隣接しているのは我が国だけではありませんから……」
エカラスは戦士募集の告知を他国に依頼したのである。
他国も蒼の森で異変は他人事ではない。
協力するのも当然であった。
「そうですか、他の国も異変に気付いているのですね」
チユキの言葉にエカラスは頷く。
「これだけの戦士が集まり、また勇者殿も来てくれたのですから、きっとすぐに問題は解決するでしょう」
そう言うとエカラスは楽しそうに笑う。
「ああ、善処するよ」
レイジは何時ものような余裕なセリフを吐かない。
それは珍しい事であった。
チユキ達はそもそも様子を見に来ただけだ。
シロネの幼馴染と戦うこと難しく、解決を約束する事は出来なかった。
「おお、さすが勇者殿だ。頼もしい」
エカラスはそんなチユキ達の様子に気付かないのか気楽に言う。
「そうですわ。あなた。勇者様に自由戦士の方々を紹介されてはいかがでしょう?」
それまで黙っていたコルフィナが提案する。
「うむ、それもそうだ。確か赤熊殿が宮殿に来ていたはずだ。誰か呼んで来てくれないか」
エカラスは部屋の外に控えている者に誰かを呼んでこさせる。
しばらくすると、扉が開かれ1人の男と1人の女性が入って来る。
男はいかにも戦士と言う風体の大男だ。
半裸であり、その上に熊の毛皮を被っていて、剥き出しの上半身には赤い刺青が描かれているのが見える。
おそらく、戦いの神トールズを信仰する獣戦士であった。
そして、後ろにいる女性はトールズの娘である女神アマゾナを信仰する女戦士のようであった。
なぜ、チユキがそう思ったかというと彼女はビキニアーマーを身に付けていたからだ。
アマゾナの信者は宗教上の理由からビキニアーマーを着る。
そのため、その信徒はトールズの戦士同様わかりやすい。
「紹介します。彼は赤熊の戦士団の団長アルカス殿。そして、そのご息女のカリス殿です」
エカラスは2人を紹介する。
「俺はアルカス! 仲間からは赤熊と呼ばれている! 光の勇者の噂は聞いてる! あんたに会えて光栄だ!! がはははははははは!!!」
大男であるアルカスは豪快に笑う。
「赤熊殿はこの近辺で高名な戦士です。赤熊殿には戦士団のまとめ役をお願いしているのですよ」
「そんなに褒めねえでくれ王様。さすがに光の勇者には負けるぜ」
アルカスは照れ臭そうに言う。
でかい図体の割に繊細な神経をしているのかもしれない。
チユキはアルカスの娘であるカリスを見る。
父親に似ず、なかなか、可愛い子で、年齢はリノやナオと同じぐらいのようであった。
しかし、腕に見えるいくつもの傷は、彼女が既に戦士としての経歴を積んでいる事を物語っている。
少し癖のある赤毛を後ろにまとめていて、すらりとした伸びやかな肢体はとても素早そうであった。
だけど、少し胸のボリュームが足りないようにチユキは思う。
ビキニアーマーだけを身に付けているからか体の線がはっきりとわかるので可哀想な事になっていた。
カリスはじっとシロネの方を見て少し笑っている。
その笑みには少し含みがあるように感じる?
チユキが疑問に思っていると突然カリスが前に出て来る。
「ねえ、あんたが剣の乙女なんだろ? あたしと手合せしてくれない?」
カリスはシロネを指差して言い放つ。
突然の事にチユキ達は言葉が出ないのだった。
◆
時刻は昼過ぎ、ヴェロス王国の郊外で吟遊詩人が竪琴を奏でる。
その音色は美しく、空を舞う鳥達も翼を休め聞きほれる。
音色は風に乗り、ヴェロス王国の宮殿にも届きそうであった。
通りを歩く者達はその音色に酔いしれ、時折足を止める。
吟遊詩人の目元はつばの広い旅行帽の影に隠れて見えにくい。
しかし、あごの部分だけでもその顔が整っている事がわかるだろう。
側にいる女性達はその吟遊詩人の見惚れて溜息を吐く。
吟遊詩人は女性達とその後ろのヴェロスの王宮を眺める。
王宮には光の勇者レイジとその仲間がいるはずであった。
「勇者か……、先ほど実物を見たけど、あれは違うね。さて、真実は誰なのかな?」
吟遊詩人は竪琴を奏で、呟くのだった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
更新です。
少しだけ加筆しました。
古代ギリシャでもペタソスというつばの広い旅行帽があったそうです。
また、前回言い忘れましたが、ノソイにいるオーク達の名前の由来は逆から読むとわかります。
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