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第5章 黒い嵐
第16話 首なし騎士1
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シロネは劇場の中でミダス団長から演劇の詳細について説明を受けている最中である。
説明は長くすっかり夜になってしまった。
すでに天に太陽の光はなくなっているが、リノが多数の鬼火を呼び出したので、昼間と同じ明るさである。
シロネは演劇の内容は先にチユキから聞いていたがベタベタな話であった。
内容は魔女にさらわれた王子様を助けに行くお姫様の物語だ。
男女は逆だが典型的なペルセウス型神話であり、日本神話でもスサノオのオロチ退治がこれにあたる。
いかにも万人に受けそうな内容であった。
「どうですかシロネ様」
「あの……。これ衣装としておかしくないですか?」
シロネは渡された衣装を見て言う。
薄いひらひらした服だ。露出が激しい。これを着たら大変な事になってしまうだろう。
「そうかしら? 普通だと思いますよ? シロネ様」
ミダスは首を傾げる。
シロネは頭を抱える。ミダス団長に言っても通じない。劇団員の女の子の中にはもっとすごい格好の子がいる。
よほど敬虔なフェリア信徒じゃなければ肌をさらす事にためらいはないのだろう。
「良く似合っていると思うぜシロネ」
「そうだよ。シロネさんは綺麗な足をしているから良く似合うよ」
レイジとリノが楽しそうに言う。
「ちょっとレイ君にリノちゃん。シロネさんに悪いよ」
この中で唯一の良心であるサホコが止める。
シロネは天を仰ぐ。
そして、チユキ達が無事にシェンナを見つけ出してくれる事を祈る。
チユキ達は過去視の魔法を使って、シェンナの行き先を探している。
うまく行けば、すぐに見つかるはずであった。
ただ、見つからなかった時は問題である。
チユキやナオの探索から逃れる相手であり、只者ではない事になる。
慎重に対策を考えて、相手が何者であるかを探らなければならない。
アイノエの監視を続け、シロネは代役を続ける事になる。
それが、シロネには憂鬱だった。
「あの、僕も似合うと思います」
シロネが嘆いていると、劇団員のアルトという少年が声をかける。
彼が攫われる王子役である。
女の子と間違いそうな顔の彼は王子様というよりも、むしろお姫様役が似合いそうである。
このお姫様っぽい王子を助ける姫騎士がシロネの役だ。
そのアルトはクリオの義理の息子で今は恋人である。
シロネ達は最初にそれを聞いた時は驚いたが、長命で姿が変わらないエルフだとそういう事も珍しくない事である。
可愛かったアルトをクリオが目を付けて、親と交渉した後で自身の養子にした。
だけど恋人にするのはどうなのだろうとシロネは思うが、当人が納得しているのなら外野がどうこう言う事ではない。
ちなみにエルフの中には人間の子供を無理やり攫う者もいる。
いわゆる取り替え子だ。ある日突然自分の子供が丸太に変わっていたらそれはエルフの仕業である。
無理やりそんな事をしないだけクリオはましと言えた。
アルトはきらきらした瞳でレイジを見ている。
勇者であるレイジに憧れているのだ。
その様子はレイジの側にいる女の子と変わらない。
良く考えたら男性から慕われるのは珍しいのではないだろうかとシロネやチユキは思う。
もっとも当のレイジは少し戸惑い、彼をどう扱って良いのか困っているようにシロネには見えた。
「う~ん。できればもう少し抑えて欲しいのだけど……」
シロネは衣装を見て再び悩む。
「大丈夫だ! シロネ! もしシロネに変な目で見る奴がいたら俺が何とかしてやる! 俺がシロネを守る! だから安心してくれ!!」
レイジはフッっと笑うとシロネの肩に手を置いて真剣な目をして言う。
するとシロネは何も言えなくなる。
(こういう所が私の弱い所だ。押しに弱い……。結局私が自分の意思を通せる相手はクロキぐらいよね。クロキは今何をしているのだろう?)
シロネは窓の外を見ながらそんな事を考えるのだった。
◆
月夜の街を馬に乗った騎士が走る。
カティアはその騎士に抱きかかえられて夜の外出を楽しむ。
カティアにとってザンドの物になり、首だけの存在となった事は大変光栄な事なのだが、手足がないのは不便であった。
だからこそ、自身のためだけの騎士を作ってお出かけをするのである。
「どうかしらマルシャスさん、騎士になった感想は? 本来なら貴方みたいな人が着る事できない鎧なのよ」
カティアは自身を抱き抱えている騎士を見て言う。
騎士は立派な鎧を着ている。
そして乗っている馬も良いものだ。
これらは全て自らの主人から貰った物であり、人間の騎士が身に付ける物と同じである。
カティアの騎士となった男は本来なら騎士になれるような男ではない。
それをカティアは特別に騎士にしてあげたのだ。
当然感謝の言葉をいうべきであった。
だけど騎士は何も答える事はなかった。
「ふふ、まあ何も答えられないでしょうね」
カティアは笑う。
騎士から感謝の言葉ないのは当然であった。
何しろ首がないのだ。
答えられるはずがない。
首のない騎士は首のない馬に乗り夜を走る。
カティアは夜の風を心地良く感じる。
この体になってからカティアは太陽の光が苦手になってしまった。
だからこそ、夜の中を思いっきり走ろうと思う。
人に見られても構わなかった。
見られた時は首を斬れば良い。
先程も2人の首を首のない騎士に斬らせた所だ。
人間という脆弱な生き物は首と胴を離しただけで死んでしまう。
本当に可哀そうな種族だとカティアは思う。
そして、カティアはあんな弱い生物から生まれ変わらせてくれた主人に感謝する。
生まれ変わったカティアは強くなり、強力な魔法だって使えるようになった。
首のない騎士を使わなくても、強そうな男性も前にひれ伏す程だ。
強者となったカティアの行く手を遮る事ができる人間はいるはずがなかった。
「あら? また誰かいるのかしら?」
カティアは再び進行方向に誰かがいるのを感じると、騎士に命じて剣を抜かせる。
通り抜けると同時に首を斬り落とす。
首のない馬は速い。人間ごときでは避ける事は出来ないはずであった。
しかし、カティアの意志に反して突然首のない騎士は止まる。
「え?どうしたの? さあ首を刈りなさい」
カティアは慌てた声を出す。
騎士に命じるが騎士は動こうとしない。
何があったのかとカティアは目の前にいる者達を見る。
漆黒の鎧兜を纏った者だ。
その姿はまるで主人から聞かされた暗黒騎士のようであった。
カティアは目の前の暗黒騎士から強い圧力を感じる。
この暗黒騎士が首のない騎士の動きを止めたようであった。
その暗黒騎士は後ろに一人の女を連れている。
「あの~、申し訳ないですが止まっていただけないでしょうか?」
暗黒騎士は一礼すると静かに言う。
物腰は丁寧だけど有無を言わさない迫力がある。
「何の用かしら?」
「え~と……。用と言うか……。その体はマルシャスで間違いないですよね?」
「ええ、そうだけど。なぜそんな事を知っているのかしら?」
疑問に思いカティアは暗黒騎士を睨む。
兜のため顔が見えないので何を考えているのかわからない。
「あー、やっぱりか……。マルシャスの身に何か起こった事は感じたけど。まさかこんな事になっているなんて……」
暗黒騎士は額を押えて首を振る。
「あなた、マルシャスさんの知り合いかしら?」
「まあ……。知り合いと言えば知り合いなんですけどね……。はあ……どうしたものかな?」
暗黒騎士は戸惑った声で答える。
困惑しているようであった。
カティアは何しに来たのかわからない態度に少しイライラする。
そして、ふと暗黒騎士と一緒にいる女を見る。
女はカティアを見て震えている。
そこで気付く。
「あら、あなたは? ひさしぶりね。マルシャスと同じ劇団に所属している方よね。顔を見た事があるわ」
カティアは震えている女に笑いかける。
女は目を大きく開いてカティアを見ている。
その顔はとても青くなっている。
「シェンナ? 彼女を知っているのかい?」
暗黒騎士が訊ねると、シェンナと呼ばれた女は震えながら頷く。
「はっ! はい! まっ前に! 劇団へ入団希望に! きっ来た女の子ですっ!!」
「その時から首だけだったの?」
「いっいえ! そ、そ、その時は普通の人間でした!!」
シェンナの言葉を聞き暗黒騎士は頷く。
「なるほどね……。彼女をこんな姿にした者がいるみたいだね。申し訳ないですが、あなたを首だけにした者の事を教えていただけませんか?」
「なぜ、私が教えなければならないのかしら?」
当然カティアは拒否する。
目の前の暗黒騎士から強い敵意を感じていた。
その敵意はカティアに向けられたものではない。
カティアの大好きな主人に向けられたものだ。
そう感じたカティアは首のない騎士の腕から離れ空を舞う。
逃げるつもりであった。
「悪いけど!!力づくでも吐いてもらうよ!!」
暗黒騎士が一歩踏み出す。
「首のない騎士よ! 私が逃げる間! あの者を足止めしなさい!!」
カティアは首のない騎士に先程よりも強く命じる。
首のない騎士の首をなくした所から黒ずんだ血が吹き出す。
黒ずんだ血は独立した意思があるかのように青い光を発しながら首のない騎士の周りを飛ぶ。
黒ずんだ血は呪いの血と呼ばれる物だ。
この血を浴びた者は死の宣告を受け7日の間に苦しみながら死ぬ事になる。
呪いの血が鞭のようにしなりながらシェンナへと向かう。
カティアはシェンナを狙わせて隙を作ろうとしたのだ。
「させるか! 黒炎よ!」
暗黒騎士の体から黒い炎が噴き出しシェンナを守る。
本来のカティアなら魔法で援護する所だが、暗黒騎士はとても強そうに見えた。
束になっても敵わないだろう。
だから、今は逃げるべきと判断して距離を取る。
(あの首のない騎士の事は諦めよう。また作れば良いわ)
そう思いカティアは空を飛び急いで離れようとする。
首のない騎士はカティアが無事である限り、何度でも作る事が出来る。
使い捨てても問題はない。
「逃げられると思っているのか?」
突然声がするとカティアの目の前に何者かが現れる。
「えっ!?」
カティアは驚きの声を出す。
目の前に現れたのはとんでもない美女であった。
白銀の髪に白い肌。
カティアはこれ程の美しい女性を見た事がなかった。
白銀の美女は素早い動きでカティアの頭を掴む。
その細腕からは信じられない程の力であった。
カティアは何とかその手から逃れようとするが、全く動く事は出来ない。
「ザンド様!!」
カティアは自らの主人に助けを求める。
精神が繋がっているので、すぐに応答があるはずであった。
しかし、何も答えがない。
まるで繋がりが断ち切られているようであった。
「助けを呼ぼうとしても無駄だぞ。おまえは逃げる事ができない。さあクロキに全て喋ってもらうぞ」
そう言うと白銀の美女はカティアに冷たく笑うのだった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
更新です。
前回は長すぎたので短くなっています。
大体3000~6000字ぐらいを目指します。
説明は長くすっかり夜になってしまった。
すでに天に太陽の光はなくなっているが、リノが多数の鬼火を呼び出したので、昼間と同じ明るさである。
シロネは演劇の内容は先にチユキから聞いていたがベタベタな話であった。
内容は魔女にさらわれた王子様を助けに行くお姫様の物語だ。
男女は逆だが典型的なペルセウス型神話であり、日本神話でもスサノオのオロチ退治がこれにあたる。
いかにも万人に受けそうな内容であった。
「どうですかシロネ様」
「あの……。これ衣装としておかしくないですか?」
シロネは渡された衣装を見て言う。
薄いひらひらした服だ。露出が激しい。これを着たら大変な事になってしまうだろう。
「そうかしら? 普通だと思いますよ? シロネ様」
ミダスは首を傾げる。
シロネは頭を抱える。ミダス団長に言っても通じない。劇団員の女の子の中にはもっとすごい格好の子がいる。
よほど敬虔なフェリア信徒じゃなければ肌をさらす事にためらいはないのだろう。
「良く似合っていると思うぜシロネ」
「そうだよ。シロネさんは綺麗な足をしているから良く似合うよ」
レイジとリノが楽しそうに言う。
「ちょっとレイ君にリノちゃん。シロネさんに悪いよ」
この中で唯一の良心であるサホコが止める。
シロネは天を仰ぐ。
そして、チユキ達が無事にシェンナを見つけ出してくれる事を祈る。
チユキ達は過去視の魔法を使って、シェンナの行き先を探している。
うまく行けば、すぐに見つかるはずであった。
ただ、見つからなかった時は問題である。
チユキやナオの探索から逃れる相手であり、只者ではない事になる。
慎重に対策を考えて、相手が何者であるかを探らなければならない。
アイノエの監視を続け、シロネは代役を続ける事になる。
それが、シロネには憂鬱だった。
「あの、僕も似合うと思います」
シロネが嘆いていると、劇団員のアルトという少年が声をかける。
彼が攫われる王子役である。
女の子と間違いそうな顔の彼は王子様というよりも、むしろお姫様役が似合いそうである。
このお姫様っぽい王子を助ける姫騎士がシロネの役だ。
そのアルトはクリオの義理の息子で今は恋人である。
シロネ達は最初にそれを聞いた時は驚いたが、長命で姿が変わらないエルフだとそういう事も珍しくない事である。
可愛かったアルトをクリオが目を付けて、親と交渉した後で自身の養子にした。
だけど恋人にするのはどうなのだろうとシロネは思うが、当人が納得しているのなら外野がどうこう言う事ではない。
ちなみにエルフの中には人間の子供を無理やり攫う者もいる。
いわゆる取り替え子だ。ある日突然自分の子供が丸太に変わっていたらそれはエルフの仕業である。
無理やりそんな事をしないだけクリオはましと言えた。
アルトはきらきらした瞳でレイジを見ている。
勇者であるレイジに憧れているのだ。
その様子はレイジの側にいる女の子と変わらない。
良く考えたら男性から慕われるのは珍しいのではないだろうかとシロネやチユキは思う。
もっとも当のレイジは少し戸惑い、彼をどう扱って良いのか困っているようにシロネには見えた。
「う~ん。できればもう少し抑えて欲しいのだけど……」
シロネは衣装を見て再び悩む。
「大丈夫だ! シロネ! もしシロネに変な目で見る奴がいたら俺が何とかしてやる! 俺がシロネを守る! だから安心してくれ!!」
レイジはフッっと笑うとシロネの肩に手を置いて真剣な目をして言う。
するとシロネは何も言えなくなる。
(こういう所が私の弱い所だ。押しに弱い……。結局私が自分の意思を通せる相手はクロキぐらいよね。クロキは今何をしているのだろう?)
シロネは窓の外を見ながらそんな事を考えるのだった。
◆
月夜の街を馬に乗った騎士が走る。
カティアはその騎士に抱きかかえられて夜の外出を楽しむ。
カティアにとってザンドの物になり、首だけの存在となった事は大変光栄な事なのだが、手足がないのは不便であった。
だからこそ、自身のためだけの騎士を作ってお出かけをするのである。
「どうかしらマルシャスさん、騎士になった感想は? 本来なら貴方みたいな人が着る事できない鎧なのよ」
カティアは自身を抱き抱えている騎士を見て言う。
騎士は立派な鎧を着ている。
そして乗っている馬も良いものだ。
これらは全て自らの主人から貰った物であり、人間の騎士が身に付ける物と同じである。
カティアの騎士となった男は本来なら騎士になれるような男ではない。
それをカティアは特別に騎士にしてあげたのだ。
当然感謝の言葉をいうべきであった。
だけど騎士は何も答える事はなかった。
「ふふ、まあ何も答えられないでしょうね」
カティアは笑う。
騎士から感謝の言葉ないのは当然であった。
何しろ首がないのだ。
答えられるはずがない。
首のない騎士は首のない馬に乗り夜を走る。
カティアは夜の風を心地良く感じる。
この体になってからカティアは太陽の光が苦手になってしまった。
だからこそ、夜の中を思いっきり走ろうと思う。
人に見られても構わなかった。
見られた時は首を斬れば良い。
先程も2人の首を首のない騎士に斬らせた所だ。
人間という脆弱な生き物は首と胴を離しただけで死んでしまう。
本当に可哀そうな種族だとカティアは思う。
そして、カティアはあんな弱い生物から生まれ変わらせてくれた主人に感謝する。
生まれ変わったカティアは強くなり、強力な魔法だって使えるようになった。
首のない騎士を使わなくても、強そうな男性も前にひれ伏す程だ。
強者となったカティアの行く手を遮る事ができる人間はいるはずがなかった。
「あら? また誰かいるのかしら?」
カティアは再び進行方向に誰かがいるのを感じると、騎士に命じて剣を抜かせる。
通り抜けると同時に首を斬り落とす。
首のない馬は速い。人間ごときでは避ける事は出来ないはずであった。
しかし、カティアの意志に反して突然首のない騎士は止まる。
「え?どうしたの? さあ首を刈りなさい」
カティアは慌てた声を出す。
騎士に命じるが騎士は動こうとしない。
何があったのかとカティアは目の前にいる者達を見る。
漆黒の鎧兜を纏った者だ。
その姿はまるで主人から聞かされた暗黒騎士のようであった。
カティアは目の前の暗黒騎士から強い圧力を感じる。
この暗黒騎士が首のない騎士の動きを止めたようであった。
その暗黒騎士は後ろに一人の女を連れている。
「あの~、申し訳ないですが止まっていただけないでしょうか?」
暗黒騎士は一礼すると静かに言う。
物腰は丁寧だけど有無を言わさない迫力がある。
「何の用かしら?」
「え~と……。用と言うか……。その体はマルシャスで間違いないですよね?」
「ええ、そうだけど。なぜそんな事を知っているのかしら?」
疑問に思いカティアは暗黒騎士を睨む。
兜のため顔が見えないので何を考えているのかわからない。
「あー、やっぱりか……。マルシャスの身に何か起こった事は感じたけど。まさかこんな事になっているなんて……」
暗黒騎士は額を押えて首を振る。
「あなた、マルシャスさんの知り合いかしら?」
「まあ……。知り合いと言えば知り合いなんですけどね……。はあ……どうしたものかな?」
暗黒騎士は戸惑った声で答える。
困惑しているようであった。
カティアは何しに来たのかわからない態度に少しイライラする。
そして、ふと暗黒騎士と一緒にいる女を見る。
女はカティアを見て震えている。
そこで気付く。
「あら、あなたは? ひさしぶりね。マルシャスと同じ劇団に所属している方よね。顔を見た事があるわ」
カティアは震えている女に笑いかける。
女は目を大きく開いてカティアを見ている。
その顔はとても青くなっている。
「シェンナ? 彼女を知っているのかい?」
暗黒騎士が訊ねると、シェンナと呼ばれた女は震えながら頷く。
「はっ! はい! まっ前に! 劇団へ入団希望に! きっ来た女の子ですっ!!」
「その時から首だけだったの?」
「いっいえ! そ、そ、その時は普通の人間でした!!」
シェンナの言葉を聞き暗黒騎士は頷く。
「なるほどね……。彼女をこんな姿にした者がいるみたいだね。申し訳ないですが、あなたを首だけにした者の事を教えていただけませんか?」
「なぜ、私が教えなければならないのかしら?」
当然カティアは拒否する。
目の前の暗黒騎士から強い敵意を感じていた。
その敵意はカティアに向けられたものではない。
カティアの大好きな主人に向けられたものだ。
そう感じたカティアは首のない騎士の腕から離れ空を舞う。
逃げるつもりであった。
「悪いけど!!力づくでも吐いてもらうよ!!」
暗黒騎士が一歩踏み出す。
「首のない騎士よ! 私が逃げる間! あの者を足止めしなさい!!」
カティアは首のない騎士に先程よりも強く命じる。
首のない騎士の首をなくした所から黒ずんだ血が吹き出す。
黒ずんだ血は独立した意思があるかのように青い光を発しながら首のない騎士の周りを飛ぶ。
黒ずんだ血は呪いの血と呼ばれる物だ。
この血を浴びた者は死の宣告を受け7日の間に苦しみながら死ぬ事になる。
呪いの血が鞭のようにしなりながらシェンナへと向かう。
カティアはシェンナを狙わせて隙を作ろうとしたのだ。
「させるか! 黒炎よ!」
暗黒騎士の体から黒い炎が噴き出しシェンナを守る。
本来のカティアなら魔法で援護する所だが、暗黒騎士はとても強そうに見えた。
束になっても敵わないだろう。
だから、今は逃げるべきと判断して距離を取る。
(あの首のない騎士の事は諦めよう。また作れば良いわ)
そう思いカティアは空を飛び急いで離れようとする。
首のない騎士はカティアが無事である限り、何度でも作る事が出来る。
使い捨てても問題はない。
「逃げられると思っているのか?」
突然声がするとカティアの目の前に何者かが現れる。
「えっ!?」
カティアは驚きの声を出す。
目の前に現れたのはとんでもない美女であった。
白銀の髪に白い肌。
カティアはこれ程の美しい女性を見た事がなかった。
白銀の美女は素早い動きでカティアの頭を掴む。
その細腕からは信じられない程の力であった。
カティアは何とかその手から逃れようとするが、全く動く事は出来ない。
「ザンド様!!」
カティアは自らの主人に助けを求める。
精神が繋がっているので、すぐに応答があるはずであった。
しかし、何も答えがない。
まるで繋がりが断ち切られているようであった。
「助けを呼ぼうとしても無駄だぞ。おまえは逃げる事ができない。さあクロキに全て喋ってもらうぞ」
そう言うと白銀の美女はカティアに冷たく笑うのだった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
更新です。
前回は長すぎたので短くなっています。
大体3000~6000字ぐらいを目指します。
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