暗黒騎士物語

根崎タケル

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第5章 黒い嵐

第10話 宴の翌日

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「シズフェ! 何で俺だけ呼ばれねーんだよ!!!」

 ノヴィスが大声でシズフェに文句を言う。
 その声が大きかったのでアリアディア共和国の中央広場にいた人達の視線がシズフェ達に集まる。

「そんな事を言われても知らないわよ!!」

 シズフェは言い返す。
 時刻は昼であり、人も多い。
 そんな大声を出さないで欲しいとシズフェは思う。
 昨夜の晩餐に呼ばれなかった事をノヴィスが怒っているのだ。

「ごめんね、ノヴィ君。私達だけで楽しんじゃって」

 一緒にいるマディが謝る。だけどマディが謝る必要はない。
 そもそも、ノヴィスを呼んだら宴が台無しになる事は目に見えている。
 だからこそ呼ばれなかったのだ。
 また、自分だけが呼ばれなかった事を知ればノヴィスが怒る事もわかっていた。
 シズフェはなるべく秘密にしようとしたがケイナがうっかり喋ってしまった。
 そして、今日その事を知ったノヴィスはここに来たのである。

「マディが謝る必要はないわよ。もうケイナ姉が喋るから……」

 シズフェはケイナを睨む。

「悪いなシズフェ、喋っちまった。わはははは」

 ケイナは謝るが、これっぽっちも悪いと思ってなさそうだ。

「そもそも何しに来たのよ! ノヴィス!!まさか文句を言いにだけ来たわけじゃないわよね」

 もし、ノヴィスが文句を言いに来たのならかなり暇な奴だとシズフェは思う。

「いや……。だってよ、お前あの勇者に頼まれて何かするって言うじゃねーか」

 ノヴィスは何か言い難そうにそっぽを向く。
 確かにシズフェ達はこれから捜査の打ち合わせにレイジ達に会いに行く予定だ。
 だけどバラバラで行くのではなく、仲間達で一旦集まってから行く事にした。
 待ち合わせは中央の広場であり、今の所レイリアを除いて全員集まっている。

「何それ? 意味がわからないわ」

 シズフェは首を傾げる。 
 ノヴィスが本当に何が言いたいのかわからないのだ。

「ああ~。何だかノヴィ君が可哀そうになってきた」
「そうだな……」

 マディとケイナが何か言い合っている。
 ちなみにノーラは興味がないのか会話には参加していない。

「何よ2人共。何か知っているの?」

 シズフェは2人を見る。

「ま~、何だ。ノヴィスはシズフェを手伝いたいんだよ」

 ケイナはノヴィスを見ながら言う。
 ノヴィスは不機嫌そうにそっぽを向いている。

「えっ!? そうだったのノヴィス! ありがとう助かるわ」

 シズフェはノヴィスにぎゅっと抱き着いてお礼を言う。
 ノヴィスは探索向きではないが、戦闘では頼りになる。だから来てくれてシズフェは素直に嬉しくなる。

「おお……。別にいいって事よ!!」

 ノヴィスは嬉しそうに言う。先程のふてくされていたのが嘘ようであった。

「うわー。ちょろいね」

 マディが呆れた声を出す。

「さて、後はレイリアさんだけね」

 そう言ってシズフェがレイリアが来ていないか周りを見た時だった。
 1人の男性に目を奪われる。
 若い男性だ。
 顔立ちは良い。だけど目を引く程ではないはずの容姿である。
 しかし、シズフェはその男性から目が離せなかった。

「あれ? あの人は確か?」

 シズフェは首を傾げる。
 最初に出会った時と違う姿だが、シズフェにはその男性が何者かわかってしまったのだ。

「どうしたんだ? シズフェ? あの男に何かあるのか?」

 ケイナ姉がシズフェの視線を辿って、同じように男性を見付ける。

「何かあるってわけじゃないけど、あれ多分鉄仮面の人だよ……。」

 シズフェがそう言うとその場にいた仲間達が驚いて男性を見る。

「ええ? おい嘘だろ。なんでわかるんだよ? シズフェ?」
「う~ん。なぜだろうねケイナ姉。なぜかわからないけど、わかっちゃったの」

 シズフェの言葉に仲間達が顔を見合わせる。

「まあ、シズフェが言うのなら間違いないな。それにしてもあいつ、あんな顔をしていたのか? 俺に勝ったぐらいだから、もっとごつい男だと思ったぜ」

 ノヴィスが男を見て呟く。
 その顔はまだ信じられないという表情をしている。
 もちろん、それは無理のない事だ。

「でも女の人を連れているよ。誰かな?」

 マディの言う通り男性は顔を隠した女性を連れている。顔を隠しているがその豊かな胸の膨らみは間違いなく女性である事が誰の目から見てもわかった。

「ほう……。顔を隠しているが、あれはかなりの美人だな」
「確かにそうだね。ノーラさん。きっとすごい美人だよ」

 シズフェにも彼女が美人である事がわかる。
 女性の着ている服は一緒に歩いている男性に比べてかなり上等な物だ。顔を隠しているヴェールには綺麗な金糸の刺繍が施され陽光を反射して輝いている。
 その貴婦人は顔を隠して誰かわからない。だけど、シズフェは彼女をなぜか身近な存在に感じた。

「見る限り、主と従者みたいだが、何か親密そうだな。おい」

 ノヴィスは下卑た笑いを浮かべて2人を見る。
 貴婦人の格好がとても良いのに対して男性の服はあまり上等ではないので、普通なら2人の関係は主人と従者だと思うだろう。
 しかし、貴婦人は男性の腕にしがみ付いて歩いている。
 主従関係だとすれば2人は親密すぎる。
 2人は広場を仲良さそうに歩いている。

「いや、もしかすると夫婦なのかもしれないよ。そうは見えないけどね」

 マディが言うと仲間達がそれはないだろうという顔をする。

「まあ、仮に夫婦だったら、すごく仲が良さそうで羨ましいわね」

 シズフェは2人を見てそう言う。
 シズフェは結婚の女神の信徒でもあるので、仲の良い夫婦には憧れる。

「おいおい、シズフェならすぐに良い相手が見つかると思うぜ……」

 ケイナが何故かノヴィスを見ながら言う。

「もう、私よりもケイナ姉が先でしょ! 結婚しないの?」
「あたいには結婚は無理だな……。それよりもレイリアは遅いな」

 ケイナが話題を反らすとシズフェは溜息を吐く。
 だけど、シズフェも結婚の話を振られたくないので、それ以上は追及しない。
 シズフェもまだ結婚をする気になれなかった。
 以前に、母親から何件もお見合いの話しを進められた事を思い出す。
 相手は20も30も年上で、お世辞にも美男子とは言えないが、全員お金持ちで誠実そうだった。
 シズフェは若い美男子じゃないと嫌だと言うつもりはない。
 同じお金持ちでも若い男性は数が少ない上に、もっと良い所のお嬢様と結婚する。
 よって、そんな事を言っていたら結婚できないからである。
 彼らは若い時に、苦労して金持ちになり、ようやく結婚できるようになったのだ。
 本当ならかなり良いお相手と言える。
 だけどシズフェは結婚する気になれず断った。
 もったいない事をしたなと思う時もあるが、後悔はしていない。
 シズフェは違う話題を持ち出す。
 みんなで延期された歌劇の話しをしている時だった。レイリアさんがやって来る。

「皆さん。遅くなりました」
「もう遅いよ! レイリアさん!!」

 シズフェは冗談っぽく言う。

「すみませんシズフェさん。おや……」

 レイリアがシズフェの頭を見る。

「へへ、どう似合うかな?これで私も戦乙女よ」

 シズフェは自分の兜を触って言う。
 今、シズフェの兜の両側には翼の飾りが付いている。
 この兜の翼の飾りは戦乙女が付ける物だ。
 勝利の女神レーナから加護をもらったシズフェは正式に信徒となり、レーナ神殿から戦乙女の称号をもらった。
 兜はその時に渡された物だ。
 シズフェは結婚の女神フェリアの信徒でもあるが問題はない。女神レーナは女神フェリアの義理の娘であり、同時に信徒になる事は許される。
 戦乙女は本来ならレーナに仕える天使の事を指すが、特別な信徒に対して神殿が同じ称号を授けたりする。
 そして、神殿は戦乙女の称号を持つ者に魔法の兜を授けるのである。
 この兜は敵を感知する能力がある上に着用者に勇気をくれる。
 また、この翼の飾りは戦乙女の称号を持つ者のみが付けて良い物ではないわけではないので、個人で勝手に付けても特に問題はなかったりする。

「ええ、とても良くお似合いです」

 レイリアは笑って答える。

「それじゃあ、行きましょうか」

 シズフェが言うと皆が掛け声を上げるのだった。






「クロキ、人が多くて歩きにくいぞ。吹き飛ばしても良いか?」

 何度目だろうか、再びクーナが物騒な事を言う。

「駄目だよ、クーナ。吹き飛ばしたりしたらさ……」

 クロキはやんわりとクーナを止める。

(そういえば前にも同じ事をレーナが言っていたな。元が同じだから行動も同じなのだろうか?)

 昼になり、陽光の中をクロキとクーナは一緒にアリアディア共和国を歩いている。
 アリアディア共和国は世界最大の都市であり人が多い。
 元々、アリアディア共和国は中央大陸の東側と西側の境にある国だ。
 そのため、外の国に比べて旅人の数が多いのである。
 クロキはアリアディア共和国を歩いている旅人らしき者達を見る。
 ズボンを履いて、丈夫そうなブーツを履いているのはおそらく東から来た者だろう。
 大陸の東側は森や山が多い。そのため歩く時に肌を傷つけないようにズボンを履く者が多い。
 逆にセアードの内海がある西側はズボンを履かずに、素足にサンダルを履くものが多い。
 もちろん例外もある。
 東側でも海の近くにある国は素足にサンダルで、西側でも山や森が多い所はズボンに靴を履くだろう。
 この東西が入り混じるアリアディアはこの世界の服装の坩堝である。
 その東西の旅人が多く来ているために中央広場は歩きにくかった。
 しかも、クーナは顔や体を隠すヴェールを被っているために余計に歩きにくい。
 そのためか、少しいらいらしている様子を見せていた。

「クーナ。戻るかい?」

 クロキが尋ねるとクーナは首を振る。

「いや、クーナはもっとクロキと歩きたい」

 クーナがぎゅっとクロキの左腕を掴んでくる。
 左腕を通して柔らかい胸の感触がクロキに伝わって来る。

(どうやら自分は勘違いをしていたようだ。クーナは歩きにくくていらいらしていたけど、一緒に歩く事が嫌なのではない。むしろクーナも楽しんでいるみたいだ)

 その事に気付きクロキはほっとする。

「そう、じゃあ行こうか」

 クロキは歩きだす。
 この先に氷菓子を売っている所がある。
 レーナと一緒に食べた場所だ。そこへ向かう事にする。

「むっ? そういえばこの道は知っているぞ。夢の中でクロキと氷菓子を食べた場所だ」

 クーナのその言葉を聞いてクロキは驚く。

(どういう事だろう? もしかして、レーナとクーナは精神的な何かが繋がっているのかもしれない)

 そこで、クロキはある事に気付く。

(クーナがレーナの夢を見るのなら、その逆もあるのではないだろうか? だとすれば、何故レーナが自分の行動を把握していたのかも理解できる)

 レーナはクーナを通して知っていたのだとクロキは判断する。

「どうしたのだ?クロキ?」

 突然クロキが黙りこんだのでクーナが下から覗き込む。

「いや、何でもないよ」

 クロキは首を振る。
 考えた所でどうにもならない。
 クロキは今更クーナなしの人生は考えられなかった。
 情報が筒抜けだったとしてもどうしようもない。

「そうか、行こうクロキ!!」

 クーナはクロキを引っ張る。
 その笑顔を見てまあ良いかとクロキは思う。

(別に知られて困るような情報は特にない。むしろ見せつけてくれるわっ!!)

 そう思いながらクロキはクーナと歩くのだった。


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