暗黒騎士物語

根崎タケル

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第4章 邪神の迷宮

第21話 迷宮都市ラヴュリュントス7 阻む者1

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 予期せぬ出来事があったが、チユキ達は地下4階層まで辿り着く。 
 更に奥に進むと広間に出る。
 そこは巨大な扉がそびえ立ち、広間の中心には1体の巨大な金属製の巨像ゴーレムらしきものが立っている。

「扉を守る門番と言ったところかな?」
「そうみたいね……」

 リノがゴーレムを見てそう言うとチユキは頷く。
 ゴーレムが守る扉の向こうに奥へと続く道があると思っていいだろう。

「まあ、ここまで誘導してくれたからな。素直に感謝すべきかな」

 そう言いつつレイジは笑う。
 迷宮はここへと誘導するように変化したからだ。

「どうする、レイジ君。あのゴーレムを倒す? それとも迂回する?」

 チユキはレイジに聞く。
 戦いを避けるのも1つの手だ。それに迷宮の奥まで行って帰って来た人がいない事から、この先の事を考えて、力を温存しておいた方が良いのかもしれない。

「いや、ここは戦おう。俺達なら横をすり抜ける事も可能だが、今後のために倒しておいて損はない」

 レイジが剣を抜く。
 レーナから貰った光の聖剣だ。鞘から抜くと黄金の光が剣身から溢れ出す。

「わかったっす。それじゃやるっすか」

 ナオがブーメランを構えると他の仲間も武器を構える。

「最初は誰が行くの?」
「私が行くわ、リノさん。この閉じられた空間では精霊の力を借りにくいでしょ」

 そう言ってチユキは前にでる。
 リノは精霊魔法と精神魔法が得意だ。 
 迷宮に入る際、火蜥蜴サラマンダー等の下位の精霊を連れて来ているからある程度は戦える。
 しかし、戦いとなると上位の精霊を使役したいが、閉じられた空間だと呼び出しにくい。
 また、相手は無生物のゴーレムであるため、精神魔法が通じない。
 リノがゴーレムとは戦うには相性が悪い。
 そう考えたチユキが先陣を切る事にした。
 ゴーレムは微動だにしない。
 ある程度近づかないと動かないようだ。
 近くで見るゴーレムは異様な姿をしている。
 手が4本に足が4本。2人の人間が背中合わせに繋がっているような姿だ。
 そして、4本の手にはそれぞれ大きな魔法の剣らしき物が握られていている。
 5メートルはある金属の体は鈍く光り硬そうである。
 チユキは魔法を発動させる。
 前方にチユキと同じ大きさの赤い光球が現れる。

「極大爆裂弾!!」

 赤い光球が勢いよく動きゴーレムに当たると爆発する。
 爆裂弾バーストバレットは、爆裂エクスプロージョンの威力を落さずに範囲を狭くしたチユキのオリジナルの魔法だ。
 その爆裂弾を強化してチユキは放つ。いくら強固なゴーレムでもただでは済まないだろう。
 爆発による煙が晴れると、ゴーレムの腕の1本が垂れ下がり全身にひびが入っている。 

「硬い。全部壊れなかったみたいね……」

 もう少し火力の高い魔法を使えば良かったとチユキは思う。
 室内だからと思って少々弱くしすぎた。
 それにゴーレムは何か特殊な金属で出来てるみたいだ。
 かなり硬いみたいである。
 それでもかなり破壊できた。後数発当てれば粉々になるだろう。
 ゴーレムの4つの目が赤く光る。攻撃を受けた事でチユキ達を認識したようである。
 すると突然部屋の壁と床に光の帯が現れる。

「えっ!! あれ? ねえ再生してない?」

 サホコが驚きの声を出す。
 部屋の壁や床の光に呼応するようにゴーレムの体が光り、垂れ下がっていた腕が徐々に元に戻ろうとしている。全身のひびが少しづつ消えていく。

「まさか自己修復機能があるなんてね。おそらく、この部屋全体に仕掛けられた魔法の装置の影響でしょうね」

 チユキは部屋にある魔方陣を見て、かなりやっかいな敵のようだと思う。
 ゴーレムは動き出すと剣を掲げてこちらに向かって来る。
 レイジが前に出る。

「させるかよ! 閃光烈破!!」

 レイジの光速の連続攻撃によりゴーレムの動きが止まる。

「避けて、レイジ君! 三重極大爆裂弾!!」

 チユキはレイジが横に避けた瞬間に強化した爆裂弾を3発放つ。
 爆発によりゴーレムは後ろへと吹き飛ぶ。

「やったの?」
「いえ、まだよ!!」

 チユキはサホコの声を否定する。
 見るとゴーレムが持つ4本の剣が光り、防御の姿勢を取っている。最初の時のようにはいかないようだ。
 ダメージは与えられたみたいだけど、倒す事はできない。
 ゴーレムが動きを止めると再び部屋が光りだし、ゴーレムが回復していく。
 生半可なダメージでは倒せないみたいだ。だけど、これ以上火力が高い魔法を撃てば部屋が壊れかねない。 

「これでも喰らうっす!!」

 ナオがブーメランを放つ。
 ブーメランは鎌鼬を発生させながら巨像にせまる。
 再びゴーレムの持つ4つの剣が光る。
 するとゴーレムの周りに金色の光の膜が現れる。
 ブーメランは光の膜に当たると動きが鈍り、ゴーレムが持つ剣によって跳ね返される。

「およっ?! 中々硬いっすね」

 ナオが感心して言う。
 ナオは素早く探知能力に優れているが、攻撃力が弱いためダメージが通りにくいようであった。 

「ナオさんとリノさんは下がって! 私とレイジ君で倒すわ!!」

 チユキはそう言ってリノとナオを下がらせる。
 リノとナオでは相手にダメージを与える事は難しい。
 だから自身とレイジで戦う事を主張する。

「いや、チユキも下がってくれ。ここは俺が1人でやる」

 そう言ってレイジはチユキを下がらせる。

「良いの、レイジ君? あのゴーレムはかなり強いみたいよ」
「大丈夫だ、チユキ。それに試したい事もあるからな」

 そう言ってレイジは不敵な笑みを浮かべる。
 背中からもう1本の剣を抜く。レーナから貰った聖剣程ではないが、名のあるドワーフが作った1品だ。 
 レイジは2本の剣を構える。二刀流である。

(この姿はシロネには見せられないわね)

 チユキは溜息を吐く。
 なぜなら、これはシロネの幼馴染に勝つための物だからだ。
 敗北したレイジは強くなるために考えて二刀流に行きついた。
 レイジは進化する化け物だ。今度戦えばシロネの幼馴染に勝つだろう。
 そして、もう2度とレイジには敵わない。
 チユキはそう考えている。
 レイジがゴーレムに突撃する。
 ゴーレムは4本の剣を構え迎え撃つ。
 レイジは2本の剣で巧みにさばいていく。 

「すごいっすね、レイジ先輩は。あんな動きはナオじゃ無理っすよ」

 ナオが感嘆の声を上げる。
 ナオはレイジを除く仲間達の中で一番身体能力が高い。
 そのナオでも真似できない動きをするレイジは本当に化け物だとチユキは思う。
 実はレイジは両利きであり、両手にペンを持ち同時に文字を書く事ができる。
 チユキは最初にそれを見た時は驚いた。
 そのためか、2本の剣を違和感無く同時に操る事ができる。
 ゴーレムはレイジよりも巨体で剣を4本も持っているのに対して、レイジは2本しか剣を持っていない。
 それにも関わらずゴーレムは押されている。
 レイジの息もつかせぬ連続攻撃によりゴーレムは壊されていく。
 チユキからはレイジの顔は見えないが笑っているのがわかる。

(あれは楽しんでいる? レイジにとってあの程度の敵は遊び相手にしかすぎないようね)

 チユキの目の前でゴーレムが壊されていく。
 だけど、体を壊されても部屋が光るたびにゴーレムが回復していく。
 あれでは倒しきれないだろう。

「さすがに面倒くさいな……。ならこれならどうだ!!」

 そして、レイジは後ろに跳びゴーレムから少し離れる。

「くらえ!!光翼天破!!」

 レイジは剣を低く構えると、全身をバネのようにしならせて相手に向かって飛ぶ。その速度は凄まじく、まるで1本の光の矢のようであった。
 チユキはあの技を過去に見た事がある。
 全身をバネのように弾かせ飛ぶ体当り攻撃だ。予備動作が大きいから避けられ易いが、当たればどんな物でも貫く程の威力がある。
 レイジの攻撃が巨像に当たり打ち貫かれる。
 そして通り過ぎた後には、ゴーレムの体に大穴が開いている。そして、その穴を中心にひびが入りゴーレムは砕ける。
 再び部屋が光る。
 しかし、ゴーレムが回復する様子はない。
 粉々にされてしまい、もう再生はしないみたいだった。

「やったっす!!」
「レイジさん!!」
「レイ君!!」

 3人がレイジの所に駆け寄ると、すごいすごいと言いながらレイジに抱き着く。
 チユキも素直にすごいと思う。
 あのゴーレムを実質たった1人で倒してしまった。
 しかも、まだレイジは本気を出していないようにチユキには見えた。
 チユキもレイジに駆け寄る。
 さすがに抱き着きはしないが賞賛せずにはいられない。

「やるわね、レイジ君!!」
「当然。惚れ直しただろ?」

 レイジはチユキを見て笑う。

(本当に調子に乗らなければ最高なのに、まあそれがレイジなのだから仕方がないか)

 チユキは苦笑する。

「もう、何を言っているのよ! 先に行きましょ」

 そう言ってチユキはゴーレムが守っていた扉を見る。
 ここから先は何が待っているのかわからない。
 扉を開けると下に降りる階段がある。
 階段を降りると大きな部屋へと行きつく。
 先程の広間よりも小さいが中々の広さで、中央に魔法陣がある。

「これは転移の魔法陣? ここから先に行くにはこの魔法陣で移動しないと駄目みたいね」

 チユキは魔法陣に近づいて言う。

「チユキさん。靴が落ちてるっす」

 ナオが何かを見つけたみたいだ。
 みんながナオの所に行く。

「これ、子供の靴みたいだね」

 リノが靴を見て言う。
 チユキも釣られて見るが、確かに小さく子供用みたいだ。

「やっぱり連れ去られた人達の中にいた子供の物なのかな?」
「間違いなくそうだろうな、サホコ。おそらく魔法陣でどこかに移動させられたんだろう」 

 レイジの言葉にチユキは頷く。

「どうする、レイジ君。転移先がどうなっているのかわからないのだけど……」
「行くしかないだろうな。生きたまま連れ去るくらいだ。人間が生きられないような場所じゃないはずだ」
「確かにそうね……」

 生きたまま連れ去るのだ。人間がすぐに死んでしまうような危険な罠とは考えにくい。例えば転移先が炎の中というような事はないだろう。
 魔法陣を調べると転移は一方通行になっている。転移したら戻って来れないかもしれない。だが、行かなければ何もわからないだろう。
 誰かを1人を残しておくと良いのかもしれない。 最大の戦力であるレイジは残せない。
 魔法の仕掛けがあるかもしれないから私も行く必要がある。
 探知能力に優れたナオも連れて行きたい。
 サホコの治癒魔法は外せない。
 リノは適任だが仲間外れは嫌がるだろう。
 だから全員で行くしかない。
 チユキ達は顔を見合わせると頷く。
 そして、全員で魔法陣に入る。
 魔法陣が光り出すし、景色が歪む。
 歪みが収まると私達はさっきと違う部屋に飛ばされている。 
 部屋は密室では無く、部屋の外から光が差し込んでくる。

「明るい。どうなってるの?」

 サホコの言葉でチユキ達は外へと向かう。

「すごい広いっすね……。迷宮の中とは思えないっす」

 ナオの言う通り、広い空間がそこにあった。都市が10個以上は入るような広さで、天井は非常に高い。
 そして天井には1つの都市と同じぐらいの巨大な水晶が突き出ている。光はその水晶から出ている。
 その光のおかげで、この広い空間は迷宮の中とは思えない明るさだ。

「森や湖もある。まるで外にいるみたいだよ」

 リノが驚きの声をあげる。
 チユキも驚きだった。迷宮の中にこんな場所があるとは思えなかったのだ。

「畑があるな。誰か住んでいるみたいだな」

 レイジが遠くを見ながら言う。
 チユキ達が飛ばされた部屋は祠のような建物だった。
 その祠は少し丘になっている所に建てられている。そのため、広い空間全体を見る事ができ、森や湖に畑があるのがわかる。 

「遠くに街があるみたいっすね……」

 ナオが見ている方角を見ると、いくつかの建物が見える。

「行くしかないな。おそらくこの場所に連れ去られた人達がいるんだろう。だから進もう、みんな」

 レイジの言葉に全員が頷く。
 何が待っているのかわからない。だけど今は進むしかないだろう。
 チユキ達は街に向かって歩き始めた。



 迷宮のもっとも深い地下13階層でラヴュリュスは4階を守るゴーレムが倒された事を知る。
 ゴーレムが倒された事を近くで聞いていたラヴュリュスの子供達がどよめく。
 ゴーレムは強く、ラヴュリュスの子でも勝つことは難しいからだ。

「ふん!4階のゴーレムが倒されたか。少しはやるようだな……。まあ良い、5階層は牢獄だ。そこから抜け出すことは出来まい。レーナに対する交渉の材料としてやる。エウリア!」 
「はい、御父様」

 父親に呼ばれ1人の女性が出てくる。
 ラヴュリュスの娘のエウリアだ。
 母親はパシパエアの女王であり、その彼女に少し似て来た。
 ラヴュリュスは当時の事を思い出す。
 美しかったが婚約者がいた。そこで父王を操り、捧げものにさせたお気に入りの女であった。だが、所詮下等な生き物だ。今は老いて美しくない。
 最高の美しさを持ち、衰える事がない女神レーナとは比べ物にならない。
 絶対に手に入れてやろうとラヴュリュス思う。

「お前が勇者の面倒を見てやれ。もし、レーナが手に入ったらお前にくれてやろう」
「本当ですか御父様!」

 エウリアが喜びの声を出す。
 レーナが手に入ったら勇者は用済みだ。エウリアに渡しても良い。
 もっとも手に入らなかったら見せしめに殺すつもりである。
 エウリアは喜び、他の姉妹達が羨ましがっている。
 ラヴュリュスはそれを見て少しだけ不快に思う。

(あんな男のどこが良いのだ。雄々しい俺の方が百倍も良い男だろうに、レーナにもわからせてやる)

 そんな事をラヴュリュスが考えている時だった。

「父上!? 勇者の女達はどうするのです!? 良かったら俺にいただけないでしょうか?」

 息子でありミノタウロスの1匹が叫ぶ。
 エウリアの兄である。
 妹と違いミノタウロスとして生まれ、迷宮都市の書記官となっている。
 そしてエウリアの兄が叫ぶと他の兄弟達も騒ぎ出す。

「ずるいぞ! 俺も欲しい!」
「俺もだ!」

 次々に騒ぎ出す。

「黙れ息子共! まずはレーナを手に入れてからだ! その後は俺が最初に味見をする。気に入らなかったらくれてやる!」

 たまらずラヴュリュスは叱りつける。
 叱られた息子達は口を閉ざす。
 勇者の女達も上物揃いだった。

(レーナが手に入ったら、ついでに相手にしてやろう)

 ラヴュリュスはほくそ笑む。

「大変だ! 父上!」
「今度は何だ!?」

 再び息子の誰かが叫び、ラヴュリュスは叫ぶ。

「迷宮を操作していたムネスキとチチスキがいない。奴らどこかに行きやがった」
「何!?」

 ムネスキとチチスキには迷宮を操作して勇者を奥へと誘導する役目を与えていた。
 すると今は迷宮を操作する者がいない事になる。

「何をしているんだ? まあ、勇者は5階の牢獄へ入ったから、もはやどうでも良いが?」

 ラヴュリュスは首を捻る。

「あいつら、俺達を出し抜いて女を手に入れようとしているんじゃないだろうな?」

 息子達が小声で話すが聞こえる。

「後で問い詰める。ムネスキとチチスキが戻ったら俺の所に連れてこい」

 ラヴュリュスは息子達に命令する。

(ふん! 役に立たないようなら処分しなければならないな) 

 ラヴュリュスは命令を守らなかった2人の息子の事を考える。
 実はラヴュリュスは過去に自身の息子達を皆殺しにした事があった。
 理由は反逆もしくは逃亡しようとしたからだ。 
 今の息子達はその後に生まれた子だ。
 永遠の時を生きるラヴュリュスにとって下等な人間の女との間に生まれた子は消耗品でしかない。
 また、人間の女を孕ませれば良いのだ。
 役に立たないのなら殺すだけだ。
 目の前の息子達は兄がいた事を知らない。
 
(レーナに俺の息子を生ませれば、こいつらは要らないな)

 ラヴュリュスはそんな事を考えて笑うのだった。
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