暗黒騎士物語

根崎タケル

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第4章 邪神の迷宮

第17話 迷宮都市ラヴュリュントス3 いざ地下迷宮へ

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 迷宮都市ラヴュリュントスの都市となった地表部分の中心には巨大な神殿が建てられている。
 神殿の奥には牛頭六腕人身の魔物の像がある。
 この迷宮を支配する邪神の姿であるらしいとチユキは聞いていた。
 その神殿にレイジとチユキ達は集まる。

「どうやら地表部分には誰も捕らわれていなかったようだな」
「そうね、ナオさんとシロネさんにも探索してもらったけど人の気配はなかったわ」

 レイジがそう言うとチユキは頷く。
 ナオは地表を回り、シロネは空から探索した。
 結果、人の気配はなかった。
 地表には多くの建物がある。
 しかし、ゴブリン以外の人型の種族がいる気配はないそうだ。

「地上に捕らわれた人の気配はないっす」
「上空から見たけど、捕まった人はいないみたいだよ」

 ナオとシロネも頷く。

「やっぱり、連れ去られた人は地下にいるみたいだね? どうする? 人数も減っちゃったみたいだけど?」

 リノが集まった戦士を見て言う。
 すでに4分の1の自由戦士が脱落してしまった。
 ゴブリンだけならこんなに被害は出ないはずだ。
 しかし、急にゴブリンが大量に来た事でコカトリスが興奮して暴れていた。
 コカトリス達はゴブリンを追い払うべく、地表部分にいるゴブリンを攻撃していた。
 チユキ達はそんな状態の時に迷宮に来た。そのため、これほどの被害が出た。
 石化した自由戦士はサホコの魔法で治癒している。
 そして、チユキは邪神像の足元を見る。
 巨大な神像の下は大きな扉が開いている。
 その先には地下へと続く階段がある。
 ここから地下に行けるみたいであった。

「ナオさん、戻って来て早々悪いのだけど。ここを多くの人が通ったかわかる?」

 チユキが言うとナオが床を見る。

「間違いないっす。少し前に多くの人がここを通ったみたいっすね。パシパエアの人達は地下に連れ去られたと見て間違いないっす」

 そのナオの言葉に全員がやっぱりという顔をする。
 これで地下に入らねばならない。 
 チユキは頭が痛くなる。

「決まりですわね。さっさと中に入りましょう」

 キョウカが持って来た扇であおぎながら言う。

「お待ち下さい。お嬢様。中はさらに危険だと思います。まずは自由戦士の方々に先導してもらいましょう。そうですねチユキ様」

 そう言ってカヤが自由戦士達を見る。

「そうね、まずは自由戦士のみなさんにお願いするわ。シズフェさん、地下は複雑な迷路になっているって聞いたのだけど、地図はあるのかしら?」

 チユキが聞くとシズフェは首を振る。

「いえ、それが、地図はないのです」
「地図がない。どういう事なの? 何十年もの間一体何をしていたの?」

 チユキは首を傾げる。
 この迷宮は最近になって発見されたわけではない。
 それに、何人もの人間がこの迷宮に入って帰って来ている。
 入った場所の地図ぐらいは作ってもよさそうであった。

「この迷宮は時々、中の形状が変わるのです。今まで行けた所に壁が出来たり、それまで壁になっていたところが通路になっていたりなどです」

 シズフェのその説明にチユキ達は驚く。

「形を変える迷宮かやっかいだな……」
「そうっすね。中に入ってから形を変えられたら、どうするっすか?」

 レイジとナオが悩む。

「あの、その点は大丈夫です。変化は数日おきで、一度形を変えると数日は変化しないみたいなのです。定期的に迷宮を探索している者によると、2日前に迷宮が変化しているみたいです。しばらくは形を変えないはずです」

 レイジの様子を見てシズフェが説明する。

「そうなの? それじゃあ、奥までは行かなくても、最初の方はわかるのよね」
「はい、賢者様。それに、形は変えますが、そこまで大きくは変わりません。また、出てくる魔物はある程度わかりますので、案内できると思います」

 シズフェは説明する。

「それなら、入る事にしよう。先行は頼めるかな」

 レイジはゴーダンの方を見る。

「わかりました。勇者様。行くぜお前達!」

 ゴーダンが号令をかけると戦士達が声を出し動き始める。

「さあ、私達も行きましょう」

 ゴーダン達が入ったのを見て、チユキも動く事にする。
 先頭はシズフェ達とレイジとナオ。
 中間にチユキとリノとサホコ。
 最後はキョウカとカヤとシロネだ。
 この配置を考えたのはチユキだ。
 シズフェ達が案内して、ナオが不審な所がないかどうか感知する。
 強敵が出た時はレイジが対応する。
 次にチユキとリノとサホコ等の直接戦闘が苦手な者を配置して、
 最後にレイジの次に強いシロネとカヤが後ろから来る者が出てこないか警戒する。
 キョウカはカヤのおまけとして最後になった。
 チユキ達は地下へと足を踏み入れる。
 チユキは中から嫌な気配を感じるのだった。
 



 迷宮の最奥にラヴュリュスの玉座はある。
 天井は高く、装飾が施されたいくつもの円柱が支えている。
 円柱の間に敷かれた赤い絨毯をザルキシスは歩く。
 その奥にはラヴュリュスが玉座に座っている。
 牛頭六腕の本当の姿ではなく、角の生えた人のような姿になり、周りには美女を侍らせている。
 美女は全て下等生物の人間だ。
 ラヴュリュスも本当はエリオスの女神を侍らせたいはずだが、本性を知る神族等の女性は近づかないので仕方なく人間の女を侍らせているのだ。
 その近くにはラヴュリュスの子ども達がいる。
 男は全てミノタウロスで女は全て人間の娘である。
 娘達の多くは地上で巫女となり、人の社会の裏でミノタウロス達のための活動している。
 その中にいるエウリアもその1人だ。

「どうやら来たようだぞ、ラヴュリュス」
「そのようだな、ザルキシス」

 玉座に近づきザルキシスはそう言うとラヴュリュスは笑う。

「後は5階層まで誘導すれば完璧だ。あの檻に閉じ込めればもう抜け出せまい」

 ザルキシスも笑いながら言う。
 普通に進む者は5階層から先には進めなくなる。
 そして、5階層は牢獄である。侵入して来た者を閉じ込める仕組みになっている。
 特別な方法を使わなければ6階層以下には行くことができないのである。

「くくくく、そうだな。俺のレーナを奪おうとするクソ勇者。どうしてくれようか?」

 ラヴュリュスは笑いながら、勇者をどうしようか思案を巡らせる。

「おお、そういえばラヴュリュスよ。どうやらこの地にレーナが降臨しているらしいぞ。やはり光の勇者が気になるようだ」
「何!? それは本当か? ザルキシス?」
「ああ、おそらくな。アトラナクアが勇者達からそう聞いたそうだ」
「なるほど、それでアトラナクアはどうしているのだ?」
「もちろん、レーナを探しに行ったよ。奴にとっては夫を寝取った憎い女だからな」

 ザルキシスは笑う。
 本当に寝取られたわけではない。
 アトラナクアの夫である蠍神ギルタルが一方的にレーナに熱を上げているだけだ。
 しかし、当のアトラナクアにとっては面白いはなしではない。
 レーナに逆恨みをしているのである。

「それはまずいな。アトラナクアにはレーナを傷つけるなと言え。無傷で捕らえられるのなら、ここの兵を貸すぞ」
「ほう、良いのか? もしもの時に勇者に対する戦力が減るぞ」
「構わん。この迷宮でなら俺に敵う奴はいない。いくらでも貸すぞ」
「そうか、ならばアトラナクアに連絡しよう」
 
 そう言ってザルキシスはアトラナクアに連絡するために背を向ける。
 
(レーナか。ふん、罪深きミナの子の何処が良いのやら)
 
 ザルキシスは舌打ちする。
 ザルキシスにとってミナの子は抹殺しなければならない対象だ。
 しかし、今はラヴュリュスの言う事を聞かなくてはいけない。
 
(さて、レーナはどこにいる?)

 ザルキシスはそんな事を考えながらラヴュリュスの元を離れるのだった。




 自由都市テセシアの近くの上の丘から迷宮都市ラヴュリュントスをクロキは眺める。

「あれが、迷宮都市か? レーナ、あの中にレイジ達は入っていったのですね?」

 クロキはそう言って振り返る。
 そこにはベールで顔を隠した婦人が1人いる。
 一見普通の人間に見るがその正体は女神レーナである。
 クロキはアリアディア共和国でレーナと会い、レイジ達が迷宮へ向かった事を聞かされて後を追いかけたのである。
 しかし、一歩遅くレイジ達は迷宮に入ったしまった。

「ええ、そうよクロキ。おそらく既に中に入っているでしょうけどね」
「よりにもよってあの迷宮にか、困ったな」

 クロキは頭を悩ませる。
 この地に来る時に迷宮が危険である事をモデスから聞いていた。
 問題はその地にナットとシロネが入った事である。 

「この騒動を起こしたのはラヴュリュスに間違いないわ。だとしたら、レイジ達を迷宮に誘うのは当たり前よね。どうするのクロキ?」
「もちろん。助けに行きますよ」

 そもそも、ここに来たのはナットの救出が目的だ。
 レイジ達がナットを連れて入った以上、クロキも入らなくていけない。

「そう、私は迷宮の事は知らないけど、危険みたいね。もっとも貴方なら大丈夫でしょうけど。そうだわ、何だったらラヴュリュスを倒してくれないかしら。あいつしつこいのよね。私があいつのものになったら貴方も困るでしょ」
「ええ……」

 クロキは何で自分が困るんだよと言いそうになるのをこらえる。

「それから、レイジ達の事を教えて上げたのだから、戻ってきたら私に付き合いなさい。良いわね?」

 レーナがうふふと笑いながらクロキを見る。
 正直に言うと間に合わなかったのだから、情報は役に立っていない。
 しかし、それでも教えてくれたのは確かであった。

「わかりました。何に付き合って欲しいのかわかりませんが、内容次第ではお供します」
「それで良いわ、クロキ。それじゃあ気を付けてね」
「はいレーナ」

 そう言うとクロキも迷宮へと向かうのだった。
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