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第3章 白銀の魔女
第36話 ナルゴルの星
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「どうする、リジェナ? 人の世界に戻る?」
百腕の巨人を倒したクロキはアルゴアに戻りリジェナに尋ねる。
クロキとしてはナルゴルに戻るよりもオミロスの側にいた方が良いと思っている。
ナルゴルは人の住む世界ではない。
ナルゴルの者達は決してリジェナ達を仲間とは思わない。
だからリジェナは人の世界に戻るべきだとクロキは思っている。
「リジェナさん。あなたはともかく他の方達は人の世界の方が良いのではなくて?」
キョウカもまたリジェナを人の世界に戻そうとする。
「ですが旦那様……」
リジェナはクロキを見て言いにくそうにする。
(もしかして恩を感じてナルゴルから出て行き難く思っているのだろうか? 自分がリジェナを助けたのはただ気紛れだ。恩に感じる事でもないのだけど……)
そう思ったクロキはリジェナの後押しをする事にする。
「リジェナ。自分自身がもっとも良いと思う道を進めば良いよ。自分はそれを後押しする」
クロキがそう言うとリジェナは何かを決心するように頷く。
「わかりました、旦那様。人の世界に戻りたいと思います」
リジェナはクロキを真っすぐ見る。
(どうやらリジェナの心は決まったようだ。オミロスと幸せになりたまえ、はっはっは)
クロキはリジェナを心の中で祝福する。
「キョウカ様。あなたの申し出をお受けしたいと思います」
リジェナがキョウカに頭を下げる。
(あれ? 思っていたのと違うような)
クロキは首を傾げる。
「そう、では私達と共に聖レナリア共和国に行きましょう」
キョウカは笑いながら言う。
(あるぇー? 何だかリジェナはアルゴアではなく聖レナリアに行くみたいだ。いつの間にそういう話になったのだろう? それじゃあオミロスはどうなるの?)
クロキはそう思いオミロスを見ると、オミロスもまた頷いている。
「今までありがとう、オミロス。私にはもうすでに心に決めた人がいるの……。だから、あなたの思いには応えられない。だけど、あなたは最高の友達だわ。たまには聖レナリアに会いに来てね」
リジェナがオミロスに言う。
その言葉にクロキは驚く。
(リジェナにはすでに心に決めた人がいたなんて知らなかった。そして、それはオミロスではない。では誰なのだろう?)
そこまで考えてクロキは気づく。
なぜリジェナがアルゴアではなく聖レナリアに行く事になったのか?
考えられる理由は一つしかない。
それは光の勇者レイジだ。
リジェナの好きな人はレイジしか考えられない。
(そういえば過去に会った事があったんだっけ。またですか……。これじゃあ、レイジのためにリジェナを守ったみたい。でも、リジェナが望むなら祝福してあげないと……)
クロキは少し凹むと床に四つん這いになりそうになる。
「ああ、必ず行くよ」
オミロスは笑いながら答える。
その顔は無理をしているようにクロキには思えた。
「旦那様。その前に一度ナルゴルに戻って皆に説明をしたいのですが……」
リジェナが今度は自分の方を向いて言う
「ああ、良いともさ……」
クロキは出来る限り平静を装った声を出す。
兜を被っているからリジェナは気付いていないが、顔が引きつっている。
「じゃあ行こうか、リジェナ……」
クロキは少し落ち込みながらグロリアスを呼ぶ。すると城壁の外に降りていたグロリアスが飛び上がる。
「お待ちなさい、クロキさん。そう言えばシロネさんはどうしましたの?」
クロキが行こうとすると、キョウカが呼び止める。
「えーっと、シロネにはその……、自分が謝っていたと伝えて下さい……」
実はクロキはシロネを森の中に置いてきたのである。
(あの時、シロネも緊急事態だとわかっていたから、自分を離してくれた……。だけど、それでも置いていった事を怒るだろうなあ)
そう思うとクロキは震える。
シロネはクロキに対しては理不尽な事で怒る。
それは、親しさの現れなのだが、それでも怒られるのは怖かったりする。
「あの、リジェナ!!」
今度はリエットがリジェナを呼び止める。
「さっき、は助けてくれてありがとう! 冷たい態度をとってごめんなさい!!」
リエットがリジェナに頭を下げる。
「別に良いわ、リエット! あなたも元気でね!!」
リジェナは笑う。
それは魅力的な笑顔だとクロキは思った。
「行きましょう、旦那様!!」
「うん。わかった」
クロキは頷くと、リジェナを抱えてグロリアスに乗る。
オミロスが手を振ると、リジェナもそれに応えて手を振る。
結ばれる事はなかったが、クロキは強い絆を2人から感じた。
そして、きっと2人は再び会えるだろうと思う。
グロリアスが飛びアルゴアが小さくなる。
「さようなら、私の故郷……」
リジェナが小さく呟く。
その声は少し泣いて、そして笑っているみたいだ。
やがて、クロキ達はアケロン山脈を越えてナルゴルへと入る。
「リジェナ。暗いナルゴルの空に戻ったよ」
クロキは笑いながら言う。
「いえ、旦那様……。ナルゴルは暗くなどございません。だって旦那様がいますもの」
グロリアスの上でリジェナがクロキに抱き着く。
「リジェナ……?」
いきなり抱きつかれたのでクロキは少しびっくりする。
「確かにナルゴルは夜のように暗いかもしれません……。ですが旦那様は夜に瞬く星のように私を照らしてくださいました。旦那様……、私はナルゴルを一度も暗いとは思った事はありません」
リジェナは抱き着いたままクロキを見つめて微笑む。
(なんだかすごく恥ずかしい事を言われたような気がする。きっと自分に対する感謝の言葉なのだろう。だけど、それでもちょっと恥ずかしい)
クロキは少し照れる。
グロリアスが星空を飛ぶ。
ナルゴルの空は暗いけど、クロキの心はとても明るかった。
百腕の巨人を倒したクロキはアルゴアに戻りリジェナに尋ねる。
クロキとしてはナルゴルに戻るよりもオミロスの側にいた方が良いと思っている。
ナルゴルは人の住む世界ではない。
ナルゴルの者達は決してリジェナ達を仲間とは思わない。
だからリジェナは人の世界に戻るべきだとクロキは思っている。
「リジェナさん。あなたはともかく他の方達は人の世界の方が良いのではなくて?」
キョウカもまたリジェナを人の世界に戻そうとする。
「ですが旦那様……」
リジェナはクロキを見て言いにくそうにする。
(もしかして恩を感じてナルゴルから出て行き難く思っているのだろうか? 自分がリジェナを助けたのはただ気紛れだ。恩に感じる事でもないのだけど……)
そう思ったクロキはリジェナの後押しをする事にする。
「リジェナ。自分自身がもっとも良いと思う道を進めば良いよ。自分はそれを後押しする」
クロキがそう言うとリジェナは何かを決心するように頷く。
「わかりました、旦那様。人の世界に戻りたいと思います」
リジェナはクロキを真っすぐ見る。
(どうやらリジェナの心は決まったようだ。オミロスと幸せになりたまえ、はっはっは)
クロキはリジェナを心の中で祝福する。
「キョウカ様。あなたの申し出をお受けしたいと思います」
リジェナがキョウカに頭を下げる。
(あれ? 思っていたのと違うような)
クロキは首を傾げる。
「そう、では私達と共に聖レナリア共和国に行きましょう」
キョウカは笑いながら言う。
(あるぇー? 何だかリジェナはアルゴアではなく聖レナリアに行くみたいだ。いつの間にそういう話になったのだろう? それじゃあオミロスはどうなるの?)
クロキはそう思いオミロスを見ると、オミロスもまた頷いている。
「今までありがとう、オミロス。私にはもうすでに心に決めた人がいるの……。だから、あなたの思いには応えられない。だけど、あなたは最高の友達だわ。たまには聖レナリアに会いに来てね」
リジェナがオミロスに言う。
その言葉にクロキは驚く。
(リジェナにはすでに心に決めた人がいたなんて知らなかった。そして、それはオミロスではない。では誰なのだろう?)
そこまで考えてクロキは気づく。
なぜリジェナがアルゴアではなく聖レナリアに行く事になったのか?
考えられる理由は一つしかない。
それは光の勇者レイジだ。
リジェナの好きな人はレイジしか考えられない。
(そういえば過去に会った事があったんだっけ。またですか……。これじゃあ、レイジのためにリジェナを守ったみたい。でも、リジェナが望むなら祝福してあげないと……)
クロキは少し凹むと床に四つん這いになりそうになる。
「ああ、必ず行くよ」
オミロスは笑いながら答える。
その顔は無理をしているようにクロキには思えた。
「旦那様。その前に一度ナルゴルに戻って皆に説明をしたいのですが……」
リジェナが今度は自分の方を向いて言う
「ああ、良いともさ……」
クロキは出来る限り平静を装った声を出す。
兜を被っているからリジェナは気付いていないが、顔が引きつっている。
「じゃあ行こうか、リジェナ……」
クロキは少し落ち込みながらグロリアスを呼ぶ。すると城壁の外に降りていたグロリアスが飛び上がる。
「お待ちなさい、クロキさん。そう言えばシロネさんはどうしましたの?」
クロキが行こうとすると、キョウカが呼び止める。
「えーっと、シロネにはその……、自分が謝っていたと伝えて下さい……」
実はクロキはシロネを森の中に置いてきたのである。
(あの時、シロネも緊急事態だとわかっていたから、自分を離してくれた……。だけど、それでも置いていった事を怒るだろうなあ)
そう思うとクロキは震える。
シロネはクロキに対しては理不尽な事で怒る。
それは、親しさの現れなのだが、それでも怒られるのは怖かったりする。
「あの、リジェナ!!」
今度はリエットがリジェナを呼び止める。
「さっき、は助けてくれてありがとう! 冷たい態度をとってごめんなさい!!」
リエットがリジェナに頭を下げる。
「別に良いわ、リエット! あなたも元気でね!!」
リジェナは笑う。
それは魅力的な笑顔だとクロキは思った。
「行きましょう、旦那様!!」
「うん。わかった」
クロキは頷くと、リジェナを抱えてグロリアスに乗る。
オミロスが手を振ると、リジェナもそれに応えて手を振る。
結ばれる事はなかったが、クロキは強い絆を2人から感じた。
そして、きっと2人は再び会えるだろうと思う。
グロリアスが飛びアルゴアが小さくなる。
「さようなら、私の故郷……」
リジェナが小さく呟く。
その声は少し泣いて、そして笑っているみたいだ。
やがて、クロキ達はアケロン山脈を越えてナルゴルへと入る。
「リジェナ。暗いナルゴルの空に戻ったよ」
クロキは笑いながら言う。
「いえ、旦那様……。ナルゴルは暗くなどございません。だって旦那様がいますもの」
グロリアスの上でリジェナがクロキに抱き着く。
「リジェナ……?」
いきなり抱きつかれたのでクロキは少しびっくりする。
「確かにナルゴルは夜のように暗いかもしれません……。ですが旦那様は夜に瞬く星のように私を照らしてくださいました。旦那様……、私はナルゴルを一度も暗いとは思った事はありません」
リジェナは抱き着いたままクロキを見つめて微笑む。
(なんだかすごく恥ずかしい事を言われたような気がする。きっと自分に対する感謝の言葉なのだろう。だけど、それでもちょっと恥ずかしい)
クロキは少し照れる。
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