暗黒騎士物語

根崎タケル

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第3章 白銀の魔女

第7話 白銀の魔女

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 オミロス達が振り返るとそこには美しい少女が1人立っている。
 透き通るような白い肌に白銀の髪がとても美しく。
 黒いドレスに身を包み、その手には巨大な鎌が握られている。
 オミロスはこれ程の綺麗な少女に出会うのは初めてだった。
 彼女のいる場所だけ、まるで別世界のようだと思った。
 その場の全員が少女に見惚れてしまう。

「お前達がアルゴアから来た者か?」

 少女は大鎌を向けるとオミロス達に尋ねる。

「確かに私達はアルゴアから来ました。ところで、お嬢さんは何用でしょうか? 只者ではないみたいですが」

 誰もが動けない中で、唯一パルシスだけが動く。

「そうか、やはりアルゴアから来た者か。それではヘルペスは誰だ?」

 その少女の言葉にオミロス達は顔を見合わせる。
 ヘルペスという名の仲間はいない。

「いないの? アルゴアの英雄と聞いている……」

 その言葉にオミロスはようやく合点が行く。

「アルゴアの英雄ならヘルペスでは無く、パルシスだぜお嬢ちゃん」

 マキュシスが訂正する。

「そう……じゃあそのパルぺスは誰?」

 マキュシスが訂正したのにも関わらず、銀髪の少女は名前を覚える気がない様子だ。

「パルシスは私ですよお嬢さん」

 パルシスが長い髪をキザったらしく触りながら名乗り出る。

「ゴブリン顔……。お前がヘルペスなのか?」
「ヘルペスではなく、パルシスなのですが……。私がそうですよ」

 名前が最初に戻っているが、訂正するのが面倒なのかパルシスは頷く。
 それにしてもゴブリン顔とは妙な事を言うとオミロスは思う。
 パルシスは男から見ても美形だ。醜いゴブリンとは似ても似つかないはずであった。

「そうか、やはりお前がそのパ……何とかだな。ならばクーナと戦え。鍛錬の成果を確かめたいぞ」

 そう言うと少女は大鎌を構える。
 その態度にオミロス達は驚く。

「なぜあなたと戦わねばならないのですか?」
「クーナが鍛錬の成果を見たいからだ」
「よくわかりませんね……。もしかしてナルゴルの者ですか?」

 パルシスの言葉に少女は頷く。

「確かにクーナはナルゴルに住んでいる」

 その言葉に再びオミロス達は驚く。

「ナルゴルに住んでいるって? 魔物の住む場所だ。人間じゃないのか?」
「もしかして伝説の魔族……。魔女か?」
「魔族の女は恐ろしい姿だと聞いている。だけど美しいぞ……」
「確かに人間とは思えない美しさだ」

 口々に少女の事を言い出す。
 少女がナルゴルの者なら人間の敵であるはずだった。
 だからこちらに攻撃しようとしているのだろうか?
 オミロスは首を傾げる。

「おかしいですね魔族の女性はもっとこう……。本当に魔族なのですか?」

 そのパルシスの言葉にオミロスはおやっと思う。
 パルシスは魔族を見たことがあるのだろうかと思ったからだ。

「クーナは魔族じゃない。クーナはクーナだ」

 クーナと名乗る少女の表情は変わらないが。かなり焦れているようだ。

「いい加減剣を取れ。こないならこちらからいくぞ」

 少女は今にも襲ってきそうである。

「女性と戦う気はないのですが……。やむをえませんね。申し訳ないですが、私は強いですよ」

 パルシスが剣を抜き盾を構える。

「いくぞ!!」

 少女が鎌で突いて来る。

「ふふん、その程度……」

 その少女の鎌をパルシスは笑いながら盾で受け止め……

「……ゴブウウウウウウウウ!!」

 ……られず。そのまま弾き飛ばさる。
 パルシスは変な叫び声を上げながら飛ばされ後ろの岩に激突する。
 その様子にオミロス達はあっけに取られてしまう。

「パルシス様!!」
「パルシス殿!!」

 しばらくして我に返った自分達がパルシスに駆け寄る。

「ゴブ……なんて力なんですか……」

 岩に体をぶつけたが、パルシスは何とか起き上がる。
 しかし、足取りがおぼつかない。
 今にも倒れそうであった。

「嘘だろ……あのパルシス様が……」
「あんな小さな体で……」
「アルゴアの戦士が何人がかりでも、パルシス様には勝てないのに」

 アルゴア最強の戦士であるパルシスが、力負けしているという事実にオミロス達は衝撃を受ける。

「なんだ、今のは? クーナは軽く突いただけだぞ」

 その言葉にオミロス達はさらに恐怖を覚える。
 先程の突きは本気ではなかったようだ。

「見た目とは違って中々の力のようですね……。ですがまだ終わりませんよ」

 パルシスがふらつきながら。盾と剣を再び構える。

「力は強いみたいですが、これならどうです! 火弾!!!」

 パルシスの手から火の玉が放たれる。
 火の玉は少女の足元に当たり、土煙を上げる。
 わざと当てずに、相手の視界を塞いだのだ。

「はっ!!!」

 掛け声とともにパルシスは加速ヘイストの魔法を使う。
 土煙が上がると、その動きは風のようであった。
 動きを加速させたパルシスは少女を迂回すると後ろに立ち、背中に剣を突き付けていた。

「勝負ありですね。降伏するなら命だけは助けて上げますよ」

 パルシスは笑いながら少女に言う。

「何を言っている。それで全力?」

 少女がそう言うと突然姿が消える。

「えっ!!」

 パルシスの驚く声。
 消えた少女はパルシスの後ろにいた。

「いっ、何時の間に!!」

 パルシスが振り返り驚愕する。

「今度はこちらの番」

 少女が鎌を振るう。

「なにっ!!」

 パルシスは驚く。
 少女の持つ一本の鎌がいくつも分裂して、襲い掛かってきたからだ。

「うわああああああ!!!」

 パルシスは叫ぶだけで何もできない。
 何本もの鎌がパルシスの体を通りすぎていく。
 数秒の後。鎌は消える。

「えっ?」
 
 鎌が消えた後、パルシスは間抜けな声を出す。
 鎌は何本も体を通りすぎたように見えたのに、全く斬られていない。
 パルシスは何が起きたのかわからなかった。

「安心しろ命は取らない。鎧を斬っただけだ」

 少女が言うとパルシスの鎧が、その体から外れ地面に落ちて行く。
 少女の放った鎌はパルシスの体を斬らずに、鎧の部分だけを正確に狙ったのだ。
 パルシスの鎧は全て外されてしまった。
 だが、外されたのは鎧だけではなかった。パルシスの鎧の下の服が裂けてずり落ちる。

「失敗……少し手元が狂った。もっと練習しないと」

 少女がそう言った瞬間、パルシスのズボンがずり落ちる。
 斬られたのはズボンだけではなかった。
 上着も下着も布切れになって落ちる。

「小さい……。豆?」

 少女が目線を下げ呟く。
 その言葉にオミロス達はパルシスに同情する。
 この一言は痛恨の一撃だった。

「ううっ……ここは撤退です! 行きますよ! 皆さん!!!」

 パルシスが股間を押さえて、我先にと逃げ出す。
 その姿は格好悪かった。

「化け物だ!!!」
「魔女だ! 白銀の魔女だ!!」
「逃げろ!!」

 オミロスの配下もまた逃げ出す。

「オミロス!こっちも逃げるぞ!!」
「わかった!!」

 オミロス達も背を向け逃げ出す。
 逃げながら、後ろを振り向く。
 少女は追ってこない。
 ただ、その少女の傍らにもう一人誰かがいる気がした。




「弱すぎ。これじゃ上達したのかわからない」

 クーナが不満を言う。

「しかたないよ。クーナが強いんだよ……」

 クロキはクーナの頭をなでる。するとクーナの表情が少し和らぐ。

「あいつら逃げた。どうするクロキ?」
「本当……どうしようか……」

 クロキは腕を組んで考え込む。
 グロリアスに乗って飛んでいる時に、ゴブリンの巣穴から人間が出て来るのが見えた。
 きっと、彼らの誰かが英雄パルシスなのだろうと思い接触する事にした。
 けれどグロリアスで近づくと巣穴に逃げられると思ったので、少し離れた所に降ろしてから、気配を消して近づく事にした。
 なぜ、こんな所に来ているのか理由を聞くべきかクロキは迷った。
 しかし、もしアルゴアの者達ならリジェナをゴブリンの巣穴に追放した者達である可能性もあった。
 もし、そんな奴らなら碌な理由じゃないかもしれない。
 それなら聞かない方が良いだろうと判断する。
 だから、少し痛い目を見てもらって、2度とこの地に来ない事を約束させる事にしたのである。
 そう思って行こうとすると、クーナが相手をしたいと言い出した。
 どうやら大鎌の練習の成果を見たいらしい。
 大鎌は見た目通り使いにくい武器である。
 実戦で練習の成果を見た方が良いのは確かであった。
 だけど、クロキはクーナに戦わせる事をためらう。
 もしかすると危険かもしれないからだ。
 しかし、どうしてもと言うクーナの頼みを駄目だとは言えなかった。
 不正確だが、この世界でのクロキはある程度なら相手の力を計る能力がある。
 彼らから感じる力は弱い。
 最終的に問題はないだろうと、行く事を了解する。
 そして、クーナ1人が彼ら近づいて行ったのである。
 もちろんクロキは危ない時はいつでも助けに行けるように隠れる。
 しかし、予想以上に彼らは弱く、簡単に逃げ出してしまった。
 結局、ここに来ない事を約束させる事はできなかった。
 クロキは追うべきだろうか迷ったが、結局見逃してしまう。 

「そう言えば、彼らは何かを話していたみたいだけど、何を話していたか聞こえたかい?」

 この世界に来てクロキの耳は良くなっている。
 しかし、彼らの声は待機していた場所までは届かなかった。

「確か……リ……」
「リ?」

 クーナが言いかけてやめる。そして何か考え込む。

「ううん、何でもない。すまないクロキ。クーナはあいつらの声が良く聞こえなかった」

 クーナはそう答える。

「しかたがないよ、クーナ。聞こえなかったんなら」

 仕方がないとクロキは首を振る。
 それに、あまり知りたいとは思わなかった。
 もし、理由を聞くとしたら今度にしようと思う。
 もっとも、素直に話してくれるとは限らない。
 その時はクーナは支配の魔法や魅了の魔法が使えるし、また虚偽判別の魔法も使える。
 彼らの魔力なら抵抗できないだろうから、理由はすぐにわかるはずであった。

「それじゃあ、魔王城に戻ろうか」
「わかった、クロキ」

 そして、クロキはクーナと共にグロリアスの所まで戻る事にする。

「クロキ……」

 すぐ後ろを歩くクーナがクロキの名を呼ぶ。

「何だい、クーナ?」
「クロキは大きいな……」
「そうかな……」

 クロキは首を傾げる。

(何が大きいのかな? クーナにとって自分の背中は大きく見えるのだろうか?)

 そんなやり取りをしながら、クロキとクーナは帰るのだった。
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