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第2章 聖竜王の角
第25話 闇を払う者と光を照らす者2
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何体のゾンビを倒しただろう。
シロネは20体を倒したところで数えるのやめる。
そもそも、数えるのは意味がない。
斬り刻んでもゾンビ達は失った部位を別のゾンビと合体する事で補っていく。
つまり、きりがないのである。
また、燃やしても、スケルトンになるだけで、またこれも斬っても集合する。
そのため、シロネの目の前には集合したスケルトン達の巨人がいくつもいる。
「もうだめだ……。あんただけでも逃げるんだ……」
シロネの後ろでガリオスがきつそうな顔をして言う。
力があるうちに家を何軒か壊し、バリケード作ってゾンビを防いでいるが、正直もう限界かもしれない。
「そうですよ、シロネ様。私達はもう逃げられそうにありませんがあなたならきっと逃げられます」
ニムリが言う。
「貴方達……。だけどダメ。逃げる事はできないわ」
シロネは断る。
勇者の仲間として、恥ずかしい真似はできなかった。
それに、この国全体に結界が張られているのを感じていた。
おそらく逃げる事は出来ないだろう。
「それに大丈夫よ、みんなレイジ君が何とかしてくれる!!」
シロネはガリオス達を元気づけるように言う。
(レイジ君を信じるしかない。レイジ君はヒーローだ。こんな危機なんか跳ね飛ばしてくれるに違いない)
これまでもシロネ達は何度も危機的な状況に陥った事があった。
しかし、勇者であるレイジの力によって乗り越えてきたのである。
「何とかなる。クロキと喧嘩したまま終わるなんて嫌だもの」
こんな時だというのに、シロネは幼馴染の事を考える。
シロネの幼馴染であるクロキはレイジのようにワクワクはさせてくれない。
だけど、穏やかでほっとさせてくれる。
シロネはそんな彼にもう一度会いたいのである。
それが今みたいなピンチの時はシロネの心を勇気付ける。
(こんな所で終わってたまるか!!)
シロネは剣を取る。
黒い霧の影響だろうか力が出なくなっていた。
それでも、シロネは最後まで戦うつもりであった。
「みんな、もう少しだけ耐えて!!」
シロネは声を出す。
その声に何人かが這ってでも動こうとする。
(私も体がだるい。先程から剣を振るうのがやっとだ。だけど私だけ倒れるわけにはいかない)
仲間達を思い出す。
他の仲間も頑張っているはずであった。
「光だ!!」
突然、誰かの声がする。
シロネは頭上に暖かい何かを感じる。
「黒い霧が消えていくぞ」
周りを見ると黒い霧が消えていくのがわかる。
そして頭上にはレイジの太陽が輝いていた。
その光を浴びると、シロネは力が湧いてくるのがわかる。
黒い霧が晴れた今、その光は国中を照らしている。
その光を浴び、倒れていた人達も起き上がる。
そして、この光でゾンビ達も消滅していく。
どうやら助かったみたいだ。
「やっぱり、レイジ君に助けられちゃった」
シロネは嬉しそうに笑うのだった。
◆
「ごめんなさい力が使えないの……」
サホコがチユキに謝る。
「精霊さんが呼んでも来ないの……」
リノが悲しそうに言う。
「そう……」
チユキは残念そうに首を振る。
横には意識を失ったナオが寝かされている。
チユキは地上に戻り、サホコ達と合流した。
ナオの回復を頼んだが、サホコは力が使えなくなっていた。
(おそらく、この黒い霧をなんとかしないとどうにもならないみたい。この霧を発生させている原因を何とかしないとどうしようもないわね。やっぱり地下かしら?)
そう考えたチユキは再び地下に戻る事にする。
「2人ともナオさんをお願いね」
「どこに行くのチユキさん?」
「地下通路に戻るわ。そこにこの黒い霧を生み出している何かがあると思う」
2人と違いまだチユキはまだ魔法が使える。
だからここは自身が何とかしなければならないと考える。
「1人じゃ危ないよチユキさん! ナオちゃんをこんな目に会わせた人がいるんでしょ!!」
「ごめんなさいサホコさん。地下には1人で戦っている人がいるの。彼を助けてあげないと」
「「えっ?」」
サホコとリノが驚いた声を出す。
「戦っている人がいる……? みんな力が出なくなっているのに……」
「リノ達でもきついのに」
サホコとリノが信じられないという顔をする。
「おそらく……探していた変質者じゃないかな、彼は」
チユキは推測する。
今この国にはチユキ達以外に異世界の人間がいる。
地下で見せたあの力。彼がその変質者なら納得であった。
(でも、なぜ姿を隠すのかわからない。何か事情があるのだろうか? でも、その彼が地下で1人戦っている。あの仮面の男は危険だ。助けにいかないと……)
チユキが地下の入り口に入りかけた時だった。
「あっ、光が……」
チユキの後ろからリノの声がする。
その声でチユキは空を見上げる。
黒い霧でぼんやりとしか見えなかったレイジの太陽が完全に姿を現しチユキ達を照らす。
周りを見ると黒い霧が消えていくのがわかる。
(彼が地下で何かをしたのだろうか?)
そうとしかチユキは考えられなかった。
「やるじゃん、変質者……」
◆
「レイジ様……」
後ろでアルミナの不安そうな声が聞こえる。
だけど、今のレイジには答える余裕はない。
対峙している戦士ザグバーは強敵であった。
もちろん、レイジを倒した暗黒騎士に比べれば弱い。
いつものレイジなら簡単に倒せていただろう。
しかし、今のレイジは本来の力を出せないでいる。
そのため苦戦している。
「ほう? さすがにやるな勇者? まだこれ程の力を残しているとはな。オルアよ力を貸せ」
「はいザグバー様」
ストリゲスのオルアが魔法を唱える。
黒い影がザグバーを覆う。
夜の衣の魔法を重ね掛ける事で光の魔法に対してより強い耐性を持つ事が出来る。
レイジは光の魔法に特化しているが他の属性の魔法は得意ではない。
そのため、自身の得意とする魔法を封じられた事で、歯噛みする。
「よく調べているじゃないか。だが、これぐらいではやられはしないぜ」
レイジは自身の剣に魔力を込める。
すると剣がさらに光り輝く。
レイジは剣を構えると相手に迫る。
ザグバーは当然大剣で迎え撃つ。
「はあ!」
レイジは大剣をくぐり抜け、光の剣で相手の胴を斬る。
しかし、胴を斬られたはずのザグバーは気にする事なく、懐に入ったレイジを斬ろうとする。
レイジは大剣を避け、後ろに下がる。
「何度やっても無駄だ、勇者よ。黒い霧はこの国の者達の生命力を吸い取り、この身を復元してくれる。この国の者共が死滅しない限り、この身は不死身なのだよ」
ザグバーが笑う。
レイジの斬った箇所の鎧が復元していく。
それは、何度も見た光景だ。
レイジはザグバーを何度も斬っても鎧は元に戻る。
「成程、回復でなく復元か……。なるほどな、その鎧は装備じゃなくて、本体か?」
リビングメイルという生きた鎧の魔物がいる。
レイジはザグバーの正体を突き止める。
「いかにもその通りだよ勇者。そして、この下には幾人もの人間の戦士達が詰まっている。貴様もこの中に入れてやるぞ。さてそろそろ終わりにしようか、オルア!!」
そう言うとザグバーは振り返りオルアの胸に剣を突き立てる。
いきなりの事にオルアは何も出来ない。
「な、なぜ……。ザグバー様」
「貴様の力を吸わせてもらう。安心しろ、貴様の復讐は必ず果たしてやる」
ザグバーの大剣に纏わりつく霊気が脈打つ。
オルアの魔力を吸っているのだ。
オルアの体が干からびていく。
そして、ザグバーが剣を引き抜いた時には、完全にミイラと化す。
「勇者がよほど憎かったのだろうな。かなりの魔力を貯めていたようだ。有効に使ってやるから安心しろ」
そう言うとザグバーの鎧が形を変えて大きくなる。
胸甲の部分の飾りが顔に変化して笑い出す。
兜の部分に顔があるのではない、これがザグバーの本当の顔であった。
「いくぞ勇者!」
オルアの力を吸ったザグバーがレイジに向かう。
「くっ! さっきよりも速い!」
レイジは大剣を何とか受け止める。
いつもなら簡単に受け流せるのだが、今のレイジは体が鉛のように重くなっている。
防ぐのがやっとだった。
「どうした勇者? これで終わりか? ん?」
そこでザグバーは異変に気付く。
自らの力が落ちている事に。
そして、レイジも周囲の気配が変わっている事に気付く。
黒い霧が薄くなっているのだ。
「馬鹿な!? どういう事だ!?」
ザグバーが驚きの声を出す。
「決まってるだろう! チユキ達が何かしたのさ! 俺の女達は全員優秀なんだよ!!」
レイジは自らの内から力が湧いて来るのを感じる。
(さすがチユキだ! 愛してるぜ!)
レイジはチユキが黒い霧を払ったと思っている。
そもそも、レイジがこれまで戦ってこれたのは仲間達を信じているからだ。
「行くぜ!」
レイジは光の剣を掲げザグバーに挑む。
ザグバーは大剣で受け止めようとするが、本来の速さを取り戻したレイジの剣には間に合わない。
先程と同じように胴を斬り裂かれる。
「ぐうううううう!」
ザグバーは苦悶の声を上げる。
もはや、黒い霧による守りはない。
例え夜の衣の魔法があっても、レイジの光の剣を防ぐ事は出来なかった。
ザグバーは後退する。
「レイジ先輩!!」
「レイ君!!」
間を置かずレイジの名を呼ぶ声がする。
リノとサホコの声だ。
もちろんレイジの加勢に来たのである。
「形勢逆転だな」
レイジはにやりと笑う。
もはや、勝利を疑っていない笑みであった。
それはザグバーも同じだ。
敗北を確信したザグバーは逃げる事にする。
「喰らえ!」
ザグバーは落ちているルクルスの剣をレイジの方に蹴る。
狙いはレイジの後ろにいるアルミナだ。
「おっと!」
当然レイジはアルミナに向かう剣を落とす。
そこに一瞬の隙が生まれる。
浮遊の魔法で浮かぶと天上を突き破る。
「大丈夫か、アルミナ」
レイジはアルミナに微笑む。
既にアルミナは回復しており、立ち上がる事が出来るようになっていた。
「レイジ様……。魔物が……」
「大丈夫だ、アルミナ姫。奴は、もはや俺の敵ではない。だから、ここで待っていてくれ」
「わかりました。レイジ様。ご武運を」
レイジとアルミナが見つめあう。
「レイ君!!!」
「レイジ先輩!!」
いつの間にかリノとサホコがたどりついていた。
2人は見つめあっているレイジとアルミナを見て不機嫌そうだ。
「サホコ、リノ。魔物を追う。アルミナを頼むぜ!!」
そう言うとレイジはアルミナから離れザグバーが突き破った天井から空へと飛びだす。
「ちょっとレイジ先輩!!」
「もうレイ君ったら……」
2人の文句を言う声が聞こえるが構っている暇はなかった。
レイジはザグバーを追うために飛翔の魔法で飛ぶ。
残されたリノとサホコは上を見上げるしかない。
「ううっ……」
そんな中でレンバーは呻き声を上げる。
2人はその声に気付きこちらを見る。
「あれっ。サホコさんこの人怪我してるよ?」
「この人……確かレンバー卿って人じゃないかしら?大丈夫ですか?」
ようやく気付いてもらえた事にレンバーは安どする。
はっきり言って大丈夫ではない。
先程も勇者やアルミナから忘れられていたようにレンバーは思う。
正直死にそうであった。
サホコが治癒魔法を唱えると、レンバーの体から痛みが消えていく。
何とか命だけは助かりそうだと泣くしかないのだった。
◆
「ナオさん、大丈夫?」
チユキが聞くとナオは頷く。
黒い霧が晴れ、ナオは目を覚ました。
サホコの魔法である程度は回復したが、まだきつそうだった。
サホコとリノはまだ戦いが続いているようであろう、王宮へと向かった。
そして、チユキとナオはまだ地下通路の入り口にいる。
それはチユキ達を助けた彼を出迎えるためだ。
(おそらく彼が、あの仮面の男を撃退したのだわ、彼のおかげで助かったわ)
チユキとナオは彼に礼を言おうと思い、待ち構えているのだった。
本当は地下に入ろうかと思ったが、回復していないナオを連れていけないし、1人にもできなかった。
そのため、入り口で待っているのだ。
もちろん、あまり時間がかかるようなら地下に入ろうとも思っている。
「チユキさん……」
ナオがチユキを呼ぶ。
チユキが横を見るとナオが空を見上げている。
ナオが見上げた先に黒い何かが飛んでいるのがわかる。
「あれは何? 鎧?」
レイジの太陽の下、黒い靄を纏った何かが飛んでいる。
明るい中を飛んでいるのでその鎧は目立っていた。
「あっ、レイジ先輩!!」
ナオが指差す。
鎧が出てきた所から光を纏った1人の人物が出て来る。
出てきたのはレイジであった。
鎧はレイジから逃げようとしているみたいだが、飛ぶのは苦手らしくすぐに追いつかれる。
黒い鎧と対峙するレイジ。
「このままやられると思うな勇者! この国の人間ごとぶっ飛ばしてやる!」
鎧は叫ぶと、その体が膨れ上がる。
その声に含まれる暗い感情はこの国の人々を恐怖させるのだろう、所々で怖れる声がする。
ロクス王国の人々全体が空を見上げている事にチユキは気付く。
「この俺がいるかぎり! そんな事をさせるか―――!!!」
今度はレイジが叫ぶ。
レイジの声はとても良く響く。
チユキは以前歌を聞かせてもらったが、本当にうまかった事を思い出す。
「これでも喰らえ!」
鎧から複数の闇の塊がレイジに向かう。
「そんな物が効くかよ―――! 千列の光弾!」
レイジの周りに沢山の光の球が浮かぶ。
その光の球が飛び巨大な羽矢を撃ち落とす。
レイジの魔法である千列の光弾だ。
「今度はこっちの番だ!!!」
レイジが叫ぶと、その前に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
「あれは……」
チユキは思わず呟く。
レイジが使おうとしている魔法はエリオスの神々でも神王オーディスしか使う事ができない魔法である神威の光砲だ。
レイジが初めてその魔法を使ったときにレーナが驚き説明してくれたのをチユキは思い出す。
「いくぜ――――!!」
レイジの魔法陣から光があふれ出て鎧を飲み込んでいく。
「ガアアアアアアアアアアアアア!!」
断末魔の咆哮。鎧が光の中で消えていくのがわかる。
鎧を消し飛ばした光はそのまま暗い夜空を遠くまで輝かせる。
鎧の消えた後の空には、レイジとレイジの太陽だけが残る。
辺りを静寂が包む。
そしてしばらくして大きな歓声が上がる。
チユキやナオの周りには誰もいないが、その喜びの声が聞こえてくる。
その歓声はレイジを讃える声であり、その声は国中に鳴り響くのだった。
シロネは20体を倒したところで数えるのやめる。
そもそも、数えるのは意味がない。
斬り刻んでもゾンビ達は失った部位を別のゾンビと合体する事で補っていく。
つまり、きりがないのである。
また、燃やしても、スケルトンになるだけで、またこれも斬っても集合する。
そのため、シロネの目の前には集合したスケルトン達の巨人がいくつもいる。
「もうだめだ……。あんただけでも逃げるんだ……」
シロネの後ろでガリオスがきつそうな顔をして言う。
力があるうちに家を何軒か壊し、バリケード作ってゾンビを防いでいるが、正直もう限界かもしれない。
「そうですよ、シロネ様。私達はもう逃げられそうにありませんがあなたならきっと逃げられます」
ニムリが言う。
「貴方達……。だけどダメ。逃げる事はできないわ」
シロネは断る。
勇者の仲間として、恥ずかしい真似はできなかった。
それに、この国全体に結界が張られているのを感じていた。
おそらく逃げる事は出来ないだろう。
「それに大丈夫よ、みんなレイジ君が何とかしてくれる!!」
シロネはガリオス達を元気づけるように言う。
(レイジ君を信じるしかない。レイジ君はヒーローだ。こんな危機なんか跳ね飛ばしてくれるに違いない)
これまでもシロネ達は何度も危機的な状況に陥った事があった。
しかし、勇者であるレイジの力によって乗り越えてきたのである。
「何とかなる。クロキと喧嘩したまま終わるなんて嫌だもの」
こんな時だというのに、シロネは幼馴染の事を考える。
シロネの幼馴染であるクロキはレイジのようにワクワクはさせてくれない。
だけど、穏やかでほっとさせてくれる。
シロネはそんな彼にもう一度会いたいのである。
それが今みたいなピンチの時はシロネの心を勇気付ける。
(こんな所で終わってたまるか!!)
シロネは剣を取る。
黒い霧の影響だろうか力が出なくなっていた。
それでも、シロネは最後まで戦うつもりであった。
「みんな、もう少しだけ耐えて!!」
シロネは声を出す。
その声に何人かが這ってでも動こうとする。
(私も体がだるい。先程から剣を振るうのがやっとだ。だけど私だけ倒れるわけにはいかない)
仲間達を思い出す。
他の仲間も頑張っているはずであった。
「光だ!!」
突然、誰かの声がする。
シロネは頭上に暖かい何かを感じる。
「黒い霧が消えていくぞ」
周りを見ると黒い霧が消えていくのがわかる。
そして頭上にはレイジの太陽が輝いていた。
その光を浴びると、シロネは力が湧いてくるのがわかる。
黒い霧が晴れた今、その光は国中を照らしている。
その光を浴び、倒れていた人達も起き上がる。
そして、この光でゾンビ達も消滅していく。
どうやら助かったみたいだ。
「やっぱり、レイジ君に助けられちゃった」
シロネは嬉しそうに笑うのだった。
◆
「ごめんなさい力が使えないの……」
サホコがチユキに謝る。
「精霊さんが呼んでも来ないの……」
リノが悲しそうに言う。
「そう……」
チユキは残念そうに首を振る。
横には意識を失ったナオが寝かされている。
チユキは地上に戻り、サホコ達と合流した。
ナオの回復を頼んだが、サホコは力が使えなくなっていた。
(おそらく、この黒い霧をなんとかしないとどうにもならないみたい。この霧を発生させている原因を何とかしないとどうしようもないわね。やっぱり地下かしら?)
そう考えたチユキは再び地下に戻る事にする。
「2人ともナオさんをお願いね」
「どこに行くのチユキさん?」
「地下通路に戻るわ。そこにこの黒い霧を生み出している何かがあると思う」
2人と違いまだチユキはまだ魔法が使える。
だからここは自身が何とかしなければならないと考える。
「1人じゃ危ないよチユキさん! ナオちゃんをこんな目に会わせた人がいるんでしょ!!」
「ごめんなさいサホコさん。地下には1人で戦っている人がいるの。彼を助けてあげないと」
「「えっ?」」
サホコとリノが驚いた声を出す。
「戦っている人がいる……? みんな力が出なくなっているのに……」
「リノ達でもきついのに」
サホコとリノが信じられないという顔をする。
「おそらく……探していた変質者じゃないかな、彼は」
チユキは推測する。
今この国にはチユキ達以外に異世界の人間がいる。
地下で見せたあの力。彼がその変質者なら納得であった。
(でも、なぜ姿を隠すのかわからない。何か事情があるのだろうか? でも、その彼が地下で1人戦っている。あの仮面の男は危険だ。助けにいかないと……)
チユキが地下の入り口に入りかけた時だった。
「あっ、光が……」
チユキの後ろからリノの声がする。
その声でチユキは空を見上げる。
黒い霧でぼんやりとしか見えなかったレイジの太陽が完全に姿を現しチユキ達を照らす。
周りを見ると黒い霧が消えていくのがわかる。
(彼が地下で何かをしたのだろうか?)
そうとしかチユキは考えられなかった。
「やるじゃん、変質者……」
◆
「レイジ様……」
後ろでアルミナの不安そうな声が聞こえる。
だけど、今のレイジには答える余裕はない。
対峙している戦士ザグバーは強敵であった。
もちろん、レイジを倒した暗黒騎士に比べれば弱い。
いつものレイジなら簡単に倒せていただろう。
しかし、今のレイジは本来の力を出せないでいる。
そのため苦戦している。
「ほう? さすがにやるな勇者? まだこれ程の力を残しているとはな。オルアよ力を貸せ」
「はいザグバー様」
ストリゲスのオルアが魔法を唱える。
黒い影がザグバーを覆う。
夜の衣の魔法を重ね掛ける事で光の魔法に対してより強い耐性を持つ事が出来る。
レイジは光の魔法に特化しているが他の属性の魔法は得意ではない。
そのため、自身の得意とする魔法を封じられた事で、歯噛みする。
「よく調べているじゃないか。だが、これぐらいではやられはしないぜ」
レイジは自身の剣に魔力を込める。
すると剣がさらに光り輝く。
レイジは剣を構えると相手に迫る。
ザグバーは当然大剣で迎え撃つ。
「はあ!」
レイジは大剣をくぐり抜け、光の剣で相手の胴を斬る。
しかし、胴を斬られたはずのザグバーは気にする事なく、懐に入ったレイジを斬ろうとする。
レイジは大剣を避け、後ろに下がる。
「何度やっても無駄だ、勇者よ。黒い霧はこの国の者達の生命力を吸い取り、この身を復元してくれる。この国の者共が死滅しない限り、この身は不死身なのだよ」
ザグバーが笑う。
レイジの斬った箇所の鎧が復元していく。
それは、何度も見た光景だ。
レイジはザグバーを何度も斬っても鎧は元に戻る。
「成程、回復でなく復元か……。なるほどな、その鎧は装備じゃなくて、本体か?」
リビングメイルという生きた鎧の魔物がいる。
レイジはザグバーの正体を突き止める。
「いかにもその通りだよ勇者。そして、この下には幾人もの人間の戦士達が詰まっている。貴様もこの中に入れてやるぞ。さてそろそろ終わりにしようか、オルア!!」
そう言うとザグバーは振り返りオルアの胸に剣を突き立てる。
いきなりの事にオルアは何も出来ない。
「な、なぜ……。ザグバー様」
「貴様の力を吸わせてもらう。安心しろ、貴様の復讐は必ず果たしてやる」
ザグバーの大剣に纏わりつく霊気が脈打つ。
オルアの魔力を吸っているのだ。
オルアの体が干からびていく。
そして、ザグバーが剣を引き抜いた時には、完全にミイラと化す。
「勇者がよほど憎かったのだろうな。かなりの魔力を貯めていたようだ。有効に使ってやるから安心しろ」
そう言うとザグバーの鎧が形を変えて大きくなる。
胸甲の部分の飾りが顔に変化して笑い出す。
兜の部分に顔があるのではない、これがザグバーの本当の顔であった。
「いくぞ勇者!」
オルアの力を吸ったザグバーがレイジに向かう。
「くっ! さっきよりも速い!」
レイジは大剣を何とか受け止める。
いつもなら簡単に受け流せるのだが、今のレイジは体が鉛のように重くなっている。
防ぐのがやっとだった。
「どうした勇者? これで終わりか? ん?」
そこでザグバーは異変に気付く。
自らの力が落ちている事に。
そして、レイジも周囲の気配が変わっている事に気付く。
黒い霧が薄くなっているのだ。
「馬鹿な!? どういう事だ!?」
ザグバーが驚きの声を出す。
「決まってるだろう! チユキ達が何かしたのさ! 俺の女達は全員優秀なんだよ!!」
レイジは自らの内から力が湧いて来るのを感じる。
(さすがチユキだ! 愛してるぜ!)
レイジはチユキが黒い霧を払ったと思っている。
そもそも、レイジがこれまで戦ってこれたのは仲間達を信じているからだ。
「行くぜ!」
レイジは光の剣を掲げザグバーに挑む。
ザグバーは大剣で受け止めようとするが、本来の速さを取り戻したレイジの剣には間に合わない。
先程と同じように胴を斬り裂かれる。
「ぐうううううう!」
ザグバーは苦悶の声を上げる。
もはや、黒い霧による守りはない。
例え夜の衣の魔法があっても、レイジの光の剣を防ぐ事は出来なかった。
ザグバーは後退する。
「レイジ先輩!!」
「レイ君!!」
間を置かずレイジの名を呼ぶ声がする。
リノとサホコの声だ。
もちろんレイジの加勢に来たのである。
「形勢逆転だな」
レイジはにやりと笑う。
もはや、勝利を疑っていない笑みであった。
それはザグバーも同じだ。
敗北を確信したザグバーは逃げる事にする。
「喰らえ!」
ザグバーは落ちているルクルスの剣をレイジの方に蹴る。
狙いはレイジの後ろにいるアルミナだ。
「おっと!」
当然レイジはアルミナに向かう剣を落とす。
そこに一瞬の隙が生まれる。
浮遊の魔法で浮かぶと天上を突き破る。
「大丈夫か、アルミナ」
レイジはアルミナに微笑む。
既にアルミナは回復しており、立ち上がる事が出来るようになっていた。
「レイジ様……。魔物が……」
「大丈夫だ、アルミナ姫。奴は、もはや俺の敵ではない。だから、ここで待っていてくれ」
「わかりました。レイジ様。ご武運を」
レイジとアルミナが見つめあう。
「レイ君!!!」
「レイジ先輩!!」
いつの間にかリノとサホコがたどりついていた。
2人は見つめあっているレイジとアルミナを見て不機嫌そうだ。
「サホコ、リノ。魔物を追う。アルミナを頼むぜ!!」
そう言うとレイジはアルミナから離れザグバーが突き破った天井から空へと飛びだす。
「ちょっとレイジ先輩!!」
「もうレイ君ったら……」
2人の文句を言う声が聞こえるが構っている暇はなかった。
レイジはザグバーを追うために飛翔の魔法で飛ぶ。
残されたリノとサホコは上を見上げるしかない。
「ううっ……」
そんな中でレンバーは呻き声を上げる。
2人はその声に気付きこちらを見る。
「あれっ。サホコさんこの人怪我してるよ?」
「この人……確かレンバー卿って人じゃないかしら?大丈夫ですか?」
ようやく気付いてもらえた事にレンバーは安どする。
はっきり言って大丈夫ではない。
先程も勇者やアルミナから忘れられていたようにレンバーは思う。
正直死にそうであった。
サホコが治癒魔法を唱えると、レンバーの体から痛みが消えていく。
何とか命だけは助かりそうだと泣くしかないのだった。
◆
「ナオさん、大丈夫?」
チユキが聞くとナオは頷く。
黒い霧が晴れ、ナオは目を覚ました。
サホコの魔法である程度は回復したが、まだきつそうだった。
サホコとリノはまだ戦いが続いているようであろう、王宮へと向かった。
そして、チユキとナオはまだ地下通路の入り口にいる。
それはチユキ達を助けた彼を出迎えるためだ。
(おそらく彼が、あの仮面の男を撃退したのだわ、彼のおかげで助かったわ)
チユキとナオは彼に礼を言おうと思い、待ち構えているのだった。
本当は地下に入ろうかと思ったが、回復していないナオを連れていけないし、1人にもできなかった。
そのため、入り口で待っているのだ。
もちろん、あまり時間がかかるようなら地下に入ろうとも思っている。
「チユキさん……」
ナオがチユキを呼ぶ。
チユキが横を見るとナオが空を見上げている。
ナオが見上げた先に黒い何かが飛んでいるのがわかる。
「あれは何? 鎧?」
レイジの太陽の下、黒い靄を纏った何かが飛んでいる。
明るい中を飛んでいるのでその鎧は目立っていた。
「あっ、レイジ先輩!!」
ナオが指差す。
鎧が出てきた所から光を纏った1人の人物が出て来る。
出てきたのはレイジであった。
鎧はレイジから逃げようとしているみたいだが、飛ぶのは苦手らしくすぐに追いつかれる。
黒い鎧と対峙するレイジ。
「このままやられると思うな勇者! この国の人間ごとぶっ飛ばしてやる!」
鎧は叫ぶと、その体が膨れ上がる。
その声に含まれる暗い感情はこの国の人々を恐怖させるのだろう、所々で怖れる声がする。
ロクス王国の人々全体が空を見上げている事にチユキは気付く。
「この俺がいるかぎり! そんな事をさせるか―――!!!」
今度はレイジが叫ぶ。
レイジの声はとても良く響く。
チユキは以前歌を聞かせてもらったが、本当にうまかった事を思い出す。
「これでも喰らえ!」
鎧から複数の闇の塊がレイジに向かう。
「そんな物が効くかよ―――! 千列の光弾!」
レイジの周りに沢山の光の球が浮かぶ。
その光の球が飛び巨大な羽矢を撃ち落とす。
レイジの魔法である千列の光弾だ。
「今度はこっちの番だ!!!」
レイジが叫ぶと、その前に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
「あれは……」
チユキは思わず呟く。
レイジが使おうとしている魔法はエリオスの神々でも神王オーディスしか使う事ができない魔法である神威の光砲だ。
レイジが初めてその魔法を使ったときにレーナが驚き説明してくれたのをチユキは思い出す。
「いくぜ――――!!」
レイジの魔法陣から光があふれ出て鎧を飲み込んでいく。
「ガアアアアアアアアアアアアア!!」
断末魔の咆哮。鎧が光の中で消えていくのがわかる。
鎧を消し飛ばした光はそのまま暗い夜空を遠くまで輝かせる。
鎧の消えた後の空には、レイジとレイジの太陽だけが残る。
辺りを静寂が包む。
そしてしばらくして大きな歓声が上がる。
チユキやナオの周りには誰もいないが、その喜びの声が聞こえてくる。
その歓声はレイジを讃える声であり、その声は国中に鳴り響くのだった。
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