暗黒騎士物語

根崎タケル

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第1章 勇者を倒すために魔王に召喚されました

第11話 自由戦士

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「もう少しで勇者達がいる聖レナリア共和国に辿り着くんだよね? ナット?」

 クロキは肩に座っているナットに話し掛ける。

「はい。もう少しのはずですでヤンス。クロキ様」

 ナットは前に聖レナリア共和国の近辺まで来た事があるらしい。
 そのためクロキ達は迷う事なく、ここまで来る事ができた。
 ナルゴルを出て二か月。
 クロキはレイジ達がいる聖レナリア共和国まで旅を続けている。
 途中でスキュラに襲われたり、エルフの親子に出会ったりした。
 長い旅だったとクロキは思いながら歩いている時だった。
 クロキは何者かがこちらに走って来るのに気付く。

「あれ? クロキ様。人間ヤーフとゴブリンの鳴き声が聞こえるでヤンス」

 ナットは街道の先を見て叫ぶ。

「確かにそうだね。行って見よう」

 クロキは鳴き声がした方に向かう。
 街道の真ん中で一人の男が五匹のゴブリンに囲まれている。
 男は剣を振り回してゴブリンを追い払いながら何とか逃げようとしている。

「うわ~。いかにも、弱そうな人間ヤーフでヤンス。このままだとゴブリンの餌になっちゃうでヤンスよクロキ様」

 ナットは人間の男を見て笑う。
 男は闇雲に剣を振り回しているだけで、ゴブリンに当たらない。
 クロキ達は木の陰からこっそり男の戦いぶりを見る。
 男は強くない。このままではゴブリンの手に掛かり死ぬだろう。
 もっとも、それはクロキがいなければの話だ。

(どうしよう?)

 助けるべきか? クロキは迷う。ナルゴルの外のゴブリンはモデスの支配下にはない。
 だからと言って殺しても良いとはクロキは思わなかった。
 ゴブリンも人間も等しくこの世界で生きているだけだ。どちらに肩入れをするつもりはなかった。

(それになぜだろう……。この世界の人間を見ても自分と同じとは感じられない)

 この世界の人間は別の種族。ただ姿が似ているだけ、そんな気がするのだ。
 クロキは旅の途中で、何度かこの世界の人間と触れ合った。
 そして、この世界の人間の生命はあまりにも薄く感じられた。
 どうしても同じ人間とは思えないのである。

(もしかして、モデスに召喚されたからだろうか? 魔王に召喚された事で人間を人間として見る事ができなくなったのだろうか?)

 クロキの中で色々な考えが思い迷う。目の前の男は今にも死にそうだ。

(だけど、これから向かう国の人間かもしれない。助けたら案内してくれるかもしれないな)

 結局クロキは助ける事にする。

「仕方がない。助けるか」
「えっ? 助けるでヤンスか? クロキ様?」

 クロキが言うとナットは不思議そうな顔をする。

「うん助ける。ナットは少し離れていて」
「何で人間ヤーフを助けるのかわからないでヤンスが、わかりやしたでヤンス、クロキ様」

 そう言ってナットはクロキの肩から降りる。
 クロキはナットが離れると、飛び出して、男を庇うように前に立つ。

「あっ? あんたは?」
「助けます」

 クロキは腰の剣を抜く。
 魔剣ではない。どこにでもある普通の剣だ。魔剣の力は強大すぎて目立つ。そのため、クロキは旅の途中で普通の剣を調達したのである。
 先頭のゴブリンが迫ってくる。 武器は石斧だ。
 クロキが学んだ知識では、例外を除きゴブリンは火を使う事ができない。
 そのため他から奪わない限り、鉄製の武器を持つことはない。

(遅すぎる) 

 クロキは、襲ってきたゴブリンの石斧を剣で横に弾く。

「ゴアアアアア」

 横からきたゴブリンの石槍を躱すと、足で蹴る。

(ちょっと面倒くさいな。ならば魔法だ)

 クロキは恐怖スケアの魔法を使う。
 恐怖の魔法は精神系魔法の一つである。使われた対象は言い知れぬ恐怖を感じる。 
 魔法を使われたゴブリンの顔が恐怖に染まる。

(抵抗できなかったみたいだ。思った通り強くないな)

 クロキはそう判断する。
 実はクロキは精神系の魔法は得意ではない。
 同等の魔力を持つ者に対しては効かないはずである。
 その魔法に簡単にかかったのだ。ゴブリン達の魔力はかなり弱い。

「ギャアア!」

 突然叫ぶとゴブリン達は逃げ出す。
 そんな逃げ去って行くゴブリンを見送った後、男を見る。

「た、助かった? ありがとう。強いんだな、あんた」

 男は信じられないという目でクロキを見る。

「大丈夫ですか?」
「ああ。大丈夫だ。俺の名はドズミっていうんだ。見ての通り自由戦士をしている。あんたは?」

 男が立ち上がり名乗る。
 クロキはドズミと名乗った男を見る。
 長細く頬骨が出た顔には無精ひげが生えている。
 黒い髪は整えられておらず伸び放題、汗を防ぐためか額に布を巻いている。
 体は痩せていて、筋肉はあまりついていない。
 そして、お世辞にも立派とは言えない粗末な皮鎧レザーアーマーを身に付けて、腰には剣を携えている。  
 確かに自由戦士のような格好だ。
 脅威となる魔物が多いこの世界において、人間の男は戦士となる事を求められる。
 そして騎士や兵士が公的な戦士なら、自由戦士は民間の戦士だ。
 単に戦士と呼ばれず、自由戦士と呼ばれるのは、戦士だけだと騎士や兵士も含まれるからである。
 また、騎士や兵士が国の命令で動くのに対して、自由戦士は依頼で動く。
 命令には服従する義務があるが、依頼は受ける、受けない、の自由がある。
 それが自由戦士の名の由来だ。
 自由戦士は市民皆戦士制を取っていない国ならばどこにでもいる。
 クロキも自由戦士に会うのは初めてではなかった。

「自分の名はクロです。同じく自由戦士です」
 
 クロキは念のために偽名を名乗る。
 魔王側の者であり、人間の希望であるレイジを探るために来ているのだから当然である。
 格好も暗黒騎士の姿をしていない。
 旅用のフード付の外套に背負い袋。鎧こそ身に付けていないが、服もこの辺りの一般人と同じで、長袖のチュニックにズボン。腰に革のベルトに革製の旅人の靴である。
 自由戦士と言うには武装が貧弱だが、防具にはお金がかかるので、装備していない自由戦士もいる事をクロキは知っている。だから問題ないだろうと判断する。

「そうか……、あんたも自由戦士か、もしかして、これから聖レナリアに行くのか?」
「はい、そうですが? それが何か?」
「いや、俺は聖レナリアに住んでいるんだ。良かったら案内できるぜ」

 それを聞いて、クロキは運が良いと思う。
 しばらく聖レナリア共和国に滞在するつもりだ。これで現地住民の案内を手に入れる事ができた。

「それは助かります。ところでどうしてここにいるのです?」

 クロキが聞くとドズミは力なく笑う。

「どうしてだって? はは、ただ置いていかれただけさ……」

 ドズミは説明する。
 ドズミは積荷の護衛として聖レナリア共和国から、隣国に行く途中だった。
 しかし、途中でゴブリンに襲われた。
 そして、積荷を運んでいる仲間はドズミを置いて逃げてしまったのである。

「そうだったのですか」

 要するにドズミは仲間から見捨てられたのだ。クロキはドズミの態度から何となく察した。

「まあ、良いさ。それよりも聖レナリアに行きてえんだろ。助けてくれたお礼に案内するぜ」

 その言葉に首を傾げる。

「あの? 仲間は追いかけなくても良いのですか?」
「多分大丈夫だ。俺の任務は安全に積荷を運ぶ事だ。俺が囮になってゴブリンを食い止めたからな、積荷は無事なはずだ。それに今から追いかけたら途中で夜になっちまう。それなら、引き返した方が良い」

 そう言ってドズミは歩き出す。
 城壁のない場所で夜を過ごすのは危険だ。夜を過ごすにしても、かなりの数の戦士が交代で見張りをしなければならない。ましてや一人で夜を過ごせば死ぬだろう。
 ドズミの言っている事は正しい。クロキは黙って付いていく。
 聖レナリア共和国までもう少しだった。
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