暗黒騎士物語

根崎タケル

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第1章 勇者を倒すために魔王に召喚されました

第4話 謎の暗黒騎士登場

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 勇者レイジとその仲間達は魔王の宮殿を目指してナルゴルを進む。
 空には星がまたたき、平野を照らす。彼等はナルゴルとの境界であるアケロン山脈を越えてから、太陽の光を浴びていない。
 ナルゴルは常夜とこよの世界であり、頭上に太陽が輝く事はないからだ。
 勇者の仲間であるチユキは星空を眺めながら、この世界の天体は地球とは違う事を改めて思い知らされる。
 太陽の代わりに空に輝くのは白いオルギスの月。
 太陽の女神ミナと月神オルギスは光の神々の生みの親である。
 そして、この地を支配する魔王モデスは太陽の女神の血を引かない闇の神。
 そのためか、この地は暗いままなのである。

「もう少しですね、チユキ先輩」

 くるくると踊りながら、リノが言う。
 リノの動きに合わせてツインテールの髪が同じようにくるくる回る。とても、楽しげだ。
 チユキが聞いたところによるとリノは元の世界でモデルをしていて、さらに歌って踊れるアイドルを目指していた。
 そのためか、踊りが上手(うま)い。

(最近、彼女はこの世界の人間から舞踏の女神と呼ばれ始めている事を知っているのだろうか?)

 チユキはそんな事を考える。
 リノは人の街を歩くときに、どこでも踊るので人々の注目の的になっている。
 問題は彼女がミニスカートっぽい服装を好む事にある。
 そのため多くの男性のいかがわしい視線にさらされる事が多い。
 チユキがその事を言うと、慣れているから別に構わないよと言って、気にもしてないようだ。
 モデルというのは、そういう視線に慣れなければできない仕事なのだろう。真面目なチユキには、とても耐えられない事である。

「そうね、本当にもう少しね、リノさん」

 リノの言葉にチユキは頷く。
 チユキ達はもう少しで魔王の住む宮殿へと辿(たど)り着くはずであった。
 そこにいる、魔王モデスを倒せば元の世界に帰ることができるはずである。
 そうすれば、長かったこの旅も終わりだ。

「ああ、苦しかったこの旅も終わりだ。すまない、みんなを巻き込んだ」

 先頭を歩くレイジが振り返り謝る。
 そもそも、この世界に来たのはレイジが勇者として召喚されたからだ。
 チユキ達はそれに巻き込まれただけである。

「そうね、でも結構楽しかったわ」

 チユキがそう言うと。レイジは笑う。

「そうだな。結構楽しかったな」

 光の勇者として召喚されたレイジにとって、この世界は実際に楽しかったのだろうとチユキは思う。
 いやレイジだけではない。全員が楽しんでいた。
 チユキ達がアルレーナという女神を名乗る女性によって、この世界に召喚されたのは一年前の事だ。
 通称レーナと呼ばれる女神はチユキ達に魔王を倒す事をお願いしてきた。
 まるで、マンガみたいな状況である。
 正直チユキは不満だった。レーナがやった事は誘拐である。とても許される事ではない。元の世界で大騒ぎになるだろう。
 だが、元の世界に帰してとレーナに言う事はできなかった。
 美女の頼みを聞くのは当然とレイジがあっさり、魔王討伐を引き受けたからだ。
 そのため他の女の子達も付き合わされる結果になった。
 ただし、不満だったのはチユキぐらいで、レイジとリノとナオなどはゲームの中のような世界に入れたと大喜びだった。サホコとシロネは少し戸惑っていたが、結局反対はしなかった。
 それでも、チユキが了承したのは、召喚された日と同じに日に帰還が可能だと聞いたからである。
 それならば、しばらく滞在してから判断しても問題ない。
 こうして、チユキも冒険に付き合う事になったのである。
 それでも、最初は不安だった。
 魔王のいる世界だ。危険なのではとチユキは思ったのである。
 しかし、その心配は杞憂(きゆう)に終わる。
 この世界でのチユキ達は強い。
 まず、この世界に来てから身体能力がすさまじく向上していた、まるで超人のようである。
 この身体能力の向上は、元の世界の能力に比例して高くなっているとチユキはみている。
 なぜそう思ったのかというと、元の世界で身体能力が高かったレイジやナオがチユキ達の中でもっとも身体能力が高いからだ。
 チユキ達の仲で一番身体能力が低いサホコでも、この世界の平均的な大人の男性を数人ぐらいなら、投げ飛ばす事ができる。
 そして、もう一つ、魔法だ。
 チユキが調べた情報によると、魔法はこの世界の一握りの人間しか使う事ができないらしい
 しかし、その魔法をチユキ達は全員使える。それも、この世界の人間では太刀打(たちう)ちできないほどの最高レベルの魔法を使う事ができた。
 レーナによるとチユキ達はこの世界で最強の種族である神族と、同じぐらいの魔力を持っているらしい。
 なぜ、そうなのかは、元の世界に魔法がなかったのでチユキにもわからない。
 そして、その魔法についてもわからない事があった。
 全員が同じ魔法を使うことができなかったのである。
 チユキはリノのように精霊を使った魔法をうまく使う事ができないし、サホコのように治癒の魔法は得意ではない。その代わりリノやサホコはチユキが使える転移等の魔法が使えない。
 その事もチユキには謎だった。
 そういったゲームにくわしいナオが言うには、リノは精霊系魔法使いで、サホコは治癒系魔法使い。そして、チユキは魔力系の魔法使いなのだそうだ。
 理由はわからないが、こうした能力を駆使することができるチユキ達はこの世界で最強の存在となった。
 特に光の勇者と呼ばれるようになったレイジの戦闘能力はすさまじく。チユキを含む五人が束になってもレイジには勝てなかった。レーナが言うには戦闘力だけなら光の神王オーディスに匹敵するらしい。
 レイジを除く女の子だけだったら危ないところも、レイジがいるおかげで簡単に乗り越えることができた。
 結局冒険が面白く、一年もこの世界で過ごす事になったのである。
 その旅ももうすぐ終わりだ。 
 今にして思えば、もう少し欲を出しても良かったのではないかとチユキは思う。 
 元の世界に帰してくれるのは当然として、何か報酬を要求しても良かったのではないだろうか?  レイジがさっさと安請け合いしたため何も報酬を確約する事ができなかったのだが、後からでも報酬を要求しても良いのではないだろうか? 
 そう考えたところでチユキは首を振る。
 レイジが拒否をするかもしれないからだ。
 その優しさを同性にも向ければとチユキは思うが、その気はないらしい。
 レイジに言わせれば、男は自らの問題は自力で解決しなければならないそうだ。
 ただ、チユキの目にはピンポイントで可愛い女の子のみを助けているように見える
 もっとも気のせいかもしれないが。

「魔王宮の様子を見てきたっすよ~」

 偵察に行ってきたナオが戻る。
 ナオはチユキ達が通っていた学園の陸上部のエースであり、レイジ並みに身体能力が高い。
 学園の野生児などと言われているが、実際に付き合ってみると、かなり可愛い女の子である事をチユキは知っていた。
 ナオはゲームで言うところのレンジャーやシーフという役職を自認し、こういった偵察を行うのは彼女の役割である。

「ナオさん。様子はどうだった?」
「ん~特に罠もないし、兵隊で守りを固めてなかったっす。このまま進んでも大丈夫と思うっす」
「変ね、最後の本拠地なのに?」
「私達に恐れをなして引きこもっているのじゃない?」

 リノが楽観的に言う。

「もしかすると、もう守るだけの兵隊がいないのかも? ほらこの間、暗黒騎士団って奴らをやっつけたじゃない。あれで最後だったのかも……」

 自信なさそうにシロネが言う。
 シロネは実家が剣道場を営んでおり、シロネ自身も剣道をしている。
 この世界では今や最強クラスの剣士の一人であり、この中で魔法を使わない戦いならレイジの次に彼女が強い。
 チユキは実際にシロネが戦っている姿を見た事があるが、ポニーテールが躍動的に動きまるで踊っているかのようだった。
 そんなシロネは動きやすいよう軽装の鎧を着ている。
 レイジがビキニ鎧をすすめたが、さすがに断ったようだ。
 シロネが言う暗黒騎士団は四日前にチユキ達と戦った相手である。
 その時、レイジが別行動を取っており、レイジ抜きで戦ったため、チユキ達は苦戦をしいられた。
 特に騎士団長を名乗るランフェルドとかいう奴は強敵で、剣の腕ではシロネと互角、魔法抵抗も強く苦戦した。
 もっとも、危機に気付いたレイジが駆け付けた事により形成は逆転。ランフェルドは命からがら逃げ帰った。
 そのレイジの活躍で残った暗黒騎士はほぼ壊滅、その残党が少し残っているだけのはずであった。

「私も何もないのが一番だと思うのだけど……」

 そう言ったのはサホコである。
 サホコは仲間達の中で何よりも争い事を嫌う性格である。
 治癒魔法に長(た)けたサホコは病気や怪我をしている人を暇があれば癒している。
 今ではサホコは聖女などと呼ばれている事をチユキは知っている。

「確かにこのまま抵抗がないのが一番ね、弱い奴らが出て来ても面倒くさいだけだしね」

 チユキはサホコに同意する。

「まあ行ってみればわかることだ。みんな行くぜ!!」
「「おー!!」」

 レイジの掛け声にリノとナオが賛成の声を上げる。
 こうしてチユキ達は魔王の住む宮殿へと歩を進める。
 数分後。
 巨大な建造物がチユキ達の前に現れる。

「何あれ? すごく大きい」

 リノが目の前に現れた建造物を見て目を丸くする。
 確かに大きいとチユキも思った。
 チユキが知るどの人間の都市よりも、遥かに大きかった。
 巨大な湖に浮かぶ黒い宮殿は星空を映し、夜がそのまま降りて来たかのようだった。
 そのまま進むと、巨大な正門へと続く橋の前へと辿(たど)り着く。
 橋は巨大で、巨人であっても渡る事ができそうだ。
 その巨大な橋の前に守備隊はいない。

「誰もいないみたいね? 籠城戦でもするつもりなのかしら? それにしても静かね。城壁の上にも誰もいないみたいだし。どういう事かしら?」

 チユキは首を傾げる。

「いや、待ってくださいチユキさん! 誰かいるっすよ!」

 目の良いナオが指差す。
 良く見るとナオの指差した場所に、漆黒の鎧に、漆黒のマントを身に付けた者が一人立っている。

「暗黒騎士……?」

 チユキは呟く。
 それは、この前に戦った暗黒騎士達と似たような恰好だった。

「兜で覆われて顔が見えないが、ランフェルドではないようだな」

 レイジの言葉にチユキは頷く。
 暗黒騎士の鎧は全て形が違っていた。
 目の前の暗黒騎士の鎧はランフェルドのものではない。
 そして、今まで見たどの暗黒騎士の鎧よりも怖ろしげであった。

「でも、ランフェルドよりも強そうに見えるよ……。なんだかすごく怖い感じ。空気がすごくぴりぴりしてる」

 シロネはそう言って暗黒騎士を睨む。
 その暗黒騎士はチユキ達の前に静かに立っている。
 兜のため表情がわからない。
 その兜の目の箇所には赤い宝石でも嵌(は)めこまれているのか、赤く光っている。
 その赤い光がチユキ達を捕えている。

「怖れる必要はないぜ、シロネ。俺達は強い。それに、たかが暗黒騎士が一人いるだけだ」

 レイジの言う通り、暗黒騎士は一人だけで周りに誰もいない。目の前の暗黒騎士がどんなに強くても光の勇者であるレイジには敵わないはずだ。
 チユキはそう思い安心する。

「そうね。でも、なぜ一人なのかしら?」

 チユキを含む全員が疑問に思う。

(魔王は何を考えているのだろう?)

 チユキがそう思った時だった暗黒騎士が剣を向ける。

「勇者レイジよ! 一騎打ちを所望する!」

 ◆

「勇者レイジよ! 一騎打ちを所望する!」

 暗黒騎士の鎧を身に纏ったクロキはそう言い放ちレイジ達の前に立つ。
 クロキの手には一振りの剣。
 黒血の魔剣。
 そう呼ばれる魔剣だ。
 これも鎧と同じくモデスが渡してくれた魔剣である。
 この魔剣は両手持ち用の大剣で、黒い剣身に赤い紋様が入っている。
 その赤い紋様が蠢くように動く。まるで生きているみたいだった。

(本当に不思議な剣だな。持ち主に合わせて大きさを変えるなんて……)

 最初クロキに渡された時は三メートル近くあった。
 しかし、クロキが持つと大きさが変わり、最終的に一メートルより少し長いぐらいに収まった。

(さすがに竹刀と違うな)

 クロキは以前に日本刀を握ったことがあるが、それに似ていた。
 剣を向けられたレイジが獰猛(どうもう)な笑みを浮かべる。
 それを見たクロキの背筋に冷たい汗が流れる。

(こっ、怖い! どうしよう? また無様に負けるのかもしれない)

 鏡を見ていないが間違いなく、情けない顔をしているだろう。
 クロキは兜で顔が見えない事をありがたく思う。
 モデスが与えてくれた暗黒騎士の防具の一つである兜は頭全体を覆うタイプなので顔は見えない。
 よって、シロネにクロキとは気付かれないはずであった。
 また、声を変える魔法を使っている。
 そのため、声を聞いてもクロキとはわからないはずだ。
 馬鹿な事している。その事をシロネにバレたくなかった。
 その兜の下からクロキは勇者達を見る。
 レイジの取り巻きは全員が美少女だ。
 レイジの隣に立つシロネ。
 クロキはレイジの隣にいる姿は正直見たくなかった。
 次にクロキはレイジを見る。
 純白に金の模様が入った鎧を身に付け、背中には高価そうなマントを着けている。
 まさに女神に呼ばれた光の勇者にふさわしい恰好である。
 正直、カッコ良いとクロキは思う。
 それに対してクロキは魔王の手先。しかも仲間はいない。たった一人だ。

(何だろう、この差は。正直泣けてくる)

 クロキは兜の下でそっと涙を流す。

「みんな下がってくれ。俺だけで充分だ」

 レイジは仲間の女の子を後ろに下げる。
 クロキはそれを見てほっとする。女の子と戦いたくはなかったからだ。
 レイジもまた剣を抜く。両手でも使えるように柄(え)を長くした長剣である。 
 その剣身が光り輝く。
 レイジの持つ剣もまた魔法の剣なのだろうとクロキは思った。
 対峙すると圧力を感じる。

(何で断らなかったんだよ? これは殺し合いなのに! 死ぬ覚悟なんかできていないのに! 馬鹿だ! 自分は大馬鹿だ! 今からでも剣を捨てて相手に頭を下げろ! いや、このまま逃げても良いかもしれない!)

 今更ながら、クロキは後悔し、心が恐怖で押しつぶされそうになる。
 しかし、そんなクロキの想いとは別に、体はなぜか剣を構えてしまう。
 クロキにもわからないが、なぜかそうしてしまうのだ。

「一撃で終わらせる」

 レイジは爽やかに笑う。その笑みは絶対に負けるわけがないという自信の表れである。
 クロキとレイジが戦うのはこれで二度目だ。
 あの時もこんな感じでレイジは笑っていた事をクロキは思い出す。
 対峙して数秒。
 クロキとレイジの間に時間が流れる。
 ほんの僅かな時間であったのにもかかわらず、クロキにはその時間がとても長く感じられた。

「来ないのならこちらから行くぜ!」

 先に動いたのはレイジ。
 レイジは地面を蹴ると一気に間合いを詰めてくる。その速度はランフェルドよりもはるかに速い。
 だが、クロキには以前と変わらないように見えた。
 レイジはクロキの前までくると突如消える。

(右横から来る?)

 クロキは素早く体を捻ると剣を右横へと振るう。
 キン!
 衝撃波が剣身に伝わってくる。
 すかさずクロキはすり足と腰の回転と手首のひねりを使ってレイジの攻撃を剣で受け流した。
 レイジはそのまま態勢を崩すかに見えた。

「おっと!」

 普通ならば、そこで態勢を崩すだろう。
 しかし、レイジは伊達に勇者と呼ばれる者ではなかった。
 レイジは力に逆らうことなくそのまま縦に回転し立ち上がると態勢を整える。

(まるで猿のような動きだ! どういう運動神経をしているのだろう?)

 クロキは相手の運動神経に舌を巻く。
 レイジは態勢を直すとそのまま正面から斬りこんでくる。
 クロキはその剣をそのまま受け止めるのではなく、重心を崩さぬようにすり足で横に移動すると剣を回転し打ち弾く。
 この地面を滑るような動きは長い練習の末に最近ようやく習得したものだ。
 レイジは態勢を崩されそうになるが、横に回転し態勢を立て直す。
 そのまま再び剣を構える。

「くそ! やるな! ではこれならどうだ!」
 
 レイジの全身が光り輝くと、その動きを加速させる。
 レイジが剣を素早く振ると複数の光の刃(やいば)がクロキを襲う。

(ちょ? ほわ? ちょ?)
 
 クロキは魔剣を振り、体を捻りながら、光の刃を何とか凌(しの)ぐ。

「ちょこまかと動きやがって! 守るだけか貴様は!?」

 レイジが苛立つ。
 しかし、それは仕方のない事だった、クロキには反撃の余裕はない。
 レイジは息を切らせることなく攻撃をしてくる。
 クロキは守るだけで精いっぱいだった。
 しかし、クロキは気付く。レイジの攻撃が次第に雑になっている事に。
 剣戟の音が高く響く。
 ナルゴルの星の下で闇と光が交差する。

「くらえ!」

 ちょっとあせったような声とともに繰り出さるレイジの一撃。
 それは、とても雑な攻撃だった。
 クロキはその攻撃をぎりぎりで躱しながら、重心を崩さぬようにすり足を行い、体を回転させて左下から右上へと剣を振るう。
 クロキの手に何かを斬り裂く感触が伝わってくる。
 時が止まったような感覚。
 クロキの振った剣は右腰から斜め上にレイジの体を斬り裂いていた。
 体を二つに切断する事はできなかったが、それでも重傷だろう。
 傷から血が噴き出す。

「えっ……」

 レイジは自分の胸を見て信じられないという顔をする。
 そして、ゆっくりと仰向けに倒れる。

「嘘! レイジ君が負けるなんて!」
「レイ君!」
「レイジ先輩!」
「レイジさん!」
「レイジ君!」

 悲鳴が五つ上がる。
 レイジの仲間である彼女達が動く。
 クロキは殺気を感じ、あわてて後ろに下がる。
 その瞬間、クロキが立っていた場所に炎の塊がぶつかる。
 いつの間にかクロキの前に巨大な炎の巨人が立っている。
 その傍らには一人の少女が立っている。

「火の国に住む猛き巨人よ! 虹の橋を越えてリノに力を貸して! 行け! 炎の王!」

 彼女が叫ぶと、炎の巨人が攻撃してくる。
 やばいと思ったクロキは剣を持たない左手を前に出す。

「黒炎よ!」

 クロキの手から黒い炎が出て炎の巨人の攻撃を防ぐ。
 この戦いの前に覚えたばかりの魔法である。

「レイ君!  癒しの風よ! かの者の傷を癒したまえ!」

 吉野沙穂子が倒れたレイジの傍へと駆け寄る。

「みんな! レイジ君の側に集まって!」

 水王寺千雪のあわてた声に少女たちはレイジの側に集まる。

転移テレポート!」

 その掛け声とともに眩しい光がほとばしる。
 そして、光が消えた時、炎の巨人は消えて、誰もいなくなっていた。

「勝ったのか……」

 呟くと、体が震える。
 そのままクロキは地面に膝を付く。
 そして、兜の中で思いっきり吐くのだった。
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