紙の中のヒロイン

謎の養分騎士X

文字の大きさ
上 下
12 / 17

過去と彼女③

しおりを挟む
 絢香は取り上げたはずのビール瓶を取り返すと、それを一気に飲み干す。

「だいたい幸樹もなんで私がこんなに迫ってるのに、なんで何もしないわけ!」

 彼女は、空になった瓶を台所の上に叩き付ける。
 おいおい、傷がついたらどうするんだよ。
 
「ねえ! 幸樹ってば聞いてる?」

 そう言いながら、彼女は急に腕を背中に回し、抱き着いてくる。
 酒のにおいと、彼女の甘い香りが、鼻孔をくすぐる。
 というか、この状況はいったい何なんだ。

「なあ、いったん落ち着こうよ」

「やだ」

 「子供か!」と思わず突っ込みたくなる。
 俺も男だ、このままだといろいろと反応してしまう。
 去年と何も変わっていない。
 変わったといえば、場所と年齢だけだ。
 中身そのものは、何も変わっていない。

「とりあえず、戻ろうよ」

 彼女の腕を何とか引き離し、腕をつかみソファーへと連れていく。
 というか、なんで女の人ってこんなに肌がすべすべなんだ。
 もう少し触っていたいなんて思ったが、それは彼女を意識しているみたいで恥ずかしいので、やめておく。
 いや、もう意識し始めてるのかもしれない。
 普段はもう少しガサツな印象なのに、こういう時に限って妙に色気がある。

「ねえ、私のこと好き?」

 いきなり何を聞いてくるんだよ。
 そんなこと考えたこともない……よな?
 そういえば、俺は彼女のことをどう考えてたんだろう。
 今までは、友達としか思っていなかったが、もしかすると彼女を女として意識していたのか?

「それにはお答えできません」

「なんで?」

「なんでと言われても······」

 なんて答えればいいんだ。
 好き? いや、これは違う。
 かといって嫌いなわけでもない。

「友達として、好きだよ」
 
 緊急回避行動発動。
 頼む、この回答で満足してくれ。
 絢香の顔色をうかがう。
 
「ああ?」

 その顔に笑みはなかった。
 例えるならそう、般若みたいな顔だった。
 いや、冷静に分析している場合ではない。

「ごめんなさい、許してください。今の俺にはこれが限界なんです」

「絶対に許さん」

 胸ぐらをつかまれる。襟元が苦しい。
 ヘタレでごめんなさい。
 いや、だって無理じゃん。なんて言ったら満足するの。

「ねえ、仲直りには何をするのがいいと思う?」

「いや、わかりません」
 
 たぶん答えはわかってる。
 ただ、これを答えるわけにはいかない。

「正解はね······」

「はい! ここまで!」

 最後までは言わせない。
 何とかこの均衡を、守り抜かないといけない。
 ソファーから立ち上がり、自室へと歩いていく。

「どこ行くの?」

「ちょっと用事、すぐ戻る」

 そう言って、自室へと入っていく。
 扉を閉めると、その場で座り込み、ドアにもたれる。
 危なかった、あと少しで誘惑に負けるところだった。
 なんで酒飲むとあんなにくっついてくるんだよ。
 表では冷静を装ったが、胸の鼓動は自分に正直だ。
 どうにかして短時間でこれを落ち着かせる。
 大きく肩を上げながら息を吸って、一気に吐く。
 少しだけ気分が収まったような気がした。
 鼓動も徐々に安定してきたので、リビングへと戻る。
 扉を開けるとそこには、目を疑うような光景が広がっていた。

「何やってんの、戻るの遅い」

 そこには下着姿の絢香がソファーに寝転がっていた。
 淡い水色の下着が、白く透き通った肌にとても似合っている。
 出るとこが出ていて、とてもバランスがいい。
 というかそれどころじゃない。

「何やってるはこっちのセリフなんだけど······」

 もう何から突っ込んでいいかわからない。
 下着姿の絢香か、机の上に置かれているビール瓶か、はたまたそれに反応してしまっている自分のに対してなのか。
 とりあえず一つずつ対処していこう。
 空になったビール瓶3本を、キッチンへ持っていく。
 続いてキッチンで何とかムスコを鎮める。
 最後に、散らばった服を回収して、絢香に着せようとする。

「いやだ! 着たくない!」

 着せようとした服を投げ捨てる。

「頼むから、おとなしくしてくれ······いろいろと」

 もう収集がつかなくなってきている。
 これだから彼女に酒を飲ませたくないのだ。
 おかしい、同窓会の時はにならなかったのに。
 投げ捨てられた服を回収して、もう一度着せる。

「はい、服を着せますよー」

 観念したのか、両腕を上げる。これですべてが完了する······
 そう思われたが、それは違った。
 服を着せようと顔が近づいた瞬間、彼女は両腕が通った状態の服で、頭を寄せてそのままキスをする。
 抵抗しようとしたが、がっちり固定されてなかなかはずれない。
 しまいには、口内に舌を入れだす。
 先ほどまで抵抗していたのに、頭がとろけそうだ。
 「クチュクチュ」といやらしい音が聞こえてくる。
 第一フェイズが終わると、息つく暇もなく第二フェイズへと突入した。
 第二フェイズの途中で、インターホンが鳴り響く。
 ホールドされている頭を何とか横にずらし、画面を確認する。
 しかし、そこには誰も映っていなかった。
 安心したのもつかの間、インターホンを鳴らした主はそのままドアを開けてきたのだ。
 カギをしていなかった。一生の不覚。
 何とかこの拘束を解こうとしたが、なかなか解けない。

「絢香、頼むから離してくれ」

 彼女は横に首を振り、拘束を解こうとしない。
 そんなことをしている間にも、少しづつ足音が近づいてくる。
 そしてついに扉が開かれる。
 あ、終わった。
 扉を開けた人と目が合う。
 その人は、持っていたビニール袋を落とす。

「何してるんですか?」

 怒りと悲しみが混じった声を、二度と忘れることはないだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

新しい派遣先の上司が私のことを好きすぎた件 他

rpmカンパニー
恋愛
新しい派遣先の上司が私のことを好きすぎた件 新しい派遣先の上司は、いつも私の面倒を見てくれる。でも他の人に言われて挙動の一つ一つを見てみると私のこと好きだよね。というか好きすぎるよね!?そんな状態でお別れになったらどうなるの?(食べられます)(ムーンライトノベルズに投稿したものから一部文言を修正しています) 人には人の考え方がある みんなに怒鳴られて上手くいかない。 仕事が嫌になり始めた時に助けてくれたのは彼だった。 彼と一緒に仕事をこなすうちに大事なことに気づいていく。 受け取り方の違い 奈美は部下に熱心に教育をしていたが、 当の部下から教育内容を全否定される。 ショックを受けてやけ酒を煽っていた時、 昔教えていた後輩がやってきた。 「先輩は愛が重すぎるんですよ」 「先輩の愛は僕一人が受け取ればいいんです」 そう言って唇を奪うと……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

由紀と真一

廣瀬純一
大衆娯楽
夫婦の体が入れ替わる話

処理中です...