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暗闇を照らしてくれたのは明るい太陽でした。

隠せない気持ち

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「というのは冗談だ」

 場内全員の目が点になり、会場になんとも言えない空気が流れる。

「麗子! お前冗談なのかよ!」

 隣の真司が声を荒らげる。

「悪ふざけに付き合わせてしまったな、すまないことをした」

 まだ状況が呑み込めてない人が多くいる中、麗子一人だけ笑っていた。
 
「お前ら、定例会始める前から、人を殺しそうな目をしてたからな。ちょっとしたジョークだ」

 確かに、定例会前よりも少し空気が軽くなった気がする。
 少々やり方が荒いが、あのギスギスした空気の中で会議をするよりよっぽどマシだ。

「お前らもう少し落ち着けないか? 審議会延びて怒られるの私なんだぞ」

 すると場内の人達が各々返事をする。

「よし、じゃあ予算審議会始めるよ」

 麗子の挨拶と共に予算審議会が始まる。
 始めてすぐは意見が飛び交いまとまるのか心配だったが、二時間も経つとある程度の予算案が決まった。
 というのも例年より予算額が増えたのと、去年の振り分けとほとんど一緒だったからだ。
 最後まで揉めたのはやはり真司だったが、六千億円という事で収まった。

「じゃあ、予算はこの通りで。前期定例会を終了する、解散!」

 定例会がこれまで早く終わるのは初めてだった。
 今回は研究の発表なども特になかったのも一つの要因だ。
 
「亜里沙はこれからどうするんだ?」

「私は学院に用事があるのでそっちに行きます」

「待ってようか?」

「大丈夫です。帰りは自分で帰ります」

 会議場を出て亜里沙と別れ、一人駐車場へと向かう。

「翔太さーん」

 声の主は鈴音だ。

「どうした?」

「お昼ご飯食べに行きません?」

 時計を見ると三時になろうとしていた。
 昼食の事を考えると、少しお腹が減ったように感じる。

「いいけど、どこに行くんだ?」

「うーん、最近行ってないじゃないんですか七々草ななくさ

「そうだな、行くか」

 二人は七々草へ歩き出す。
  
「最近新メニューが出たんですよ、大根おろしとしそが入ったさっぱりしたやつ」

「ふーん、それは美味しそうだな」

 七々草の新メニューについて会話に花を咲かせていた。

「翔太先輩!」

 後ろから声が聞こえる。
 最初は他の人間かと思っていたが、周りに人はいなかった。
 どうやら声の矛先は自分らしい。
 振り返ると、女の人がこちらに手を振って走ってきた。
 透き通るような銀髪に、黄色と緑色の左右非対称の綺麗な瞳、鼻が高く、小さな口が可愛らしい。
 綺麗とかわいいの中間にいるような顔立ちだ。
 身長は一五〇センチくらいだろうか、少し小柄な印象がある。

「翔太先輩ですよね、初めまして私は風間涼風かざますずかって言います。私先輩の大ファンなんですよ!」

「ああ、どうも」

 突然声をかけられるので少々戸惑った。
 今まで挨拶程度の会話はあったが、ここまで距離を詰められることは無かった。

「翔太さん、誰ですか? 彼女さんですか?」
 
 鈴音は耳元で囁く。
 
「いや、聞いてたか? 今初めましてって言ってたじゃん」

「ふーん」
 
 頬を膨らませ、少し不機嫌そうだった。

「翔太先輩、お隣の方は彼女さんですか?」

「いや、学院の後輩だ」

 足を踏まれる。犯人は考えるまでもなく鈴音だ。
 嘘はついてない、なんで踏んだんだ。
 というかこの子は、なぜ俺を知っている。

「先輩は学院の主席だったじゃないですか。誰でも知ってますよ。」

「俺いま聞いたか?」

「いや、顔に『なぜ知ってる?』って書いてありました。」

  そんなに分かりやすかっただろうか、自分では確認しようがない。

「翔太さん 、私先に行ってますね」

 少し声が低く明らかに機嫌が悪い。
 先に行こうとする鈴音を引き止める。

「ちょっと待ってよ、なんで先行くの」

「私、お腹すいたんで」

「先輩方はこれから昼食ですか?それなら私も連れてってください」

 話のペースを完全に持ってかれてしまう。
 初対面とはいえ断ることはできないため、涼風も連れていく。
 学院から一五分もかからないため、あっという間に着いた。
 カウンターが空いているが、三人いるのでテーブル席へと向かった。
 テーブルには椅子が左右に二席づつあり、鈴音が先に座る。
 その向かい側に座ると、涼風が横来た。
 鈴音の視線が突き刺さってくる。
 そんな目で見ないでくれ、席を選んだのは俺じゃない。

「翔太先輩は何にするんですか? 私ここ来るの初めてなんですよ」

「俺はいつも明太クリームだな」

「明太クリームですか、私もそれにします!」

「鈴音は決まってるのか?」

「私はおろしにします」

 鈴音は少しぶっきらぼうに答える。
 どうしたら機嫌が良くなるのか。
 さっきから鈴音に足を踏まれ続けている。
 無言の圧が地味に怖い。

「翔太先輩はよくここに来るんですか? 」

「学院に通ってた頃はよく行ってたな。毎回明太クリーム食べてたぞ」

「そうなんですか、楽しみです」

 しばらくすると料理が届く。

「美味しそうですね!いただきます」

  涼風はパスタを少量フォークに巻き付け、小さな口の中に入れる。
 口にあるものを飲み込むと、目を輝かせながらこちらを向く。

「めちゃくちゃ美味しいです! クリームが濃厚で明太子にとてもマッチしてます!」

 まるで食レポみたいな感想だ。

「喜んでくれたなら良かったよ」

 涼風のコミュニケーション能力の高さに感心しながら食事を始める。
 鈴音も食べ始めたが、店内では一言も話さなかい。
 二人とも食べ終えると少し休憩して店を後にした。

「それじゃあ先輩、この後予定があるので帰ります。ごちそうさまでした!」

 涼風は一人先に帰って行った。
 
「翔太さん、デレデレしてましたね」

「いや、そんなことないぞ」

 なんて言っているが、自覚がないだけかもしれない。
 あそこまで明るく接してもらって嫌という人は少ないだろう。若干距離は近い気がしたが。
 それはいいとしてどうやって機嫌をとろうか、帰りまでこの調子じゃもたない。

「なあ、なんでそんなに怒ってるんだ?」

「別に、怒ってません」

 鈴音は少し早足に学院へ戻ろうとするので腕を掴む。
 振り向いたその顔は少し悲しげで、目尻が光っていた。
 その顔を見て気づいた。ただ自惚れだったらと考えると確信は持てなかった。

「悪かったって」

「何が悪いかわかってますか?」

「うん、わかってるつもりだけど」

「じゃあいいです。その代わり明日デートしてください」

 先程考えていたことが確信に変わる。
 しかし、鈴音のことをそんな風にに考えたことはなかった。
 鈴音の気持ちにどう向き合うべきなのか、その答えはまだ分からなかった。
 だがそれを確かめるいい機会でもあった。

「いいよ、行こうか」

「うん! じゃあ明日十二時に学院で! 明日は準備あるから朝ごはんは作れないからよろしくお願いします!」

 鈴音は満面の笑みで答えた。

 
 

 
 
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