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第二章 騎士学園編
107「広がる波紋」
しおりを挟む決勝トーナメント一回戦終了後——三十分の休憩が入った。観客席の至る所で、先ほどの『カイトの告白』の話でざわめいていた。
「な、なあ⋯⋯今の試合だけどカイト・シュタイナーって、魅了魔法にかかっていたよな?」
「んん~? どうだろう⋯⋯?」
「いや、何か最後、『魔法解くことができてよかった』みたいなこと言ってたけど⋯⋯何か、棒読みというか、実はかかっていなかったみたいな素振りだったんだけど⋯⋯」
「え? じゃあ、あの告白は嘘だったって言いたいのか?」
「いや、ま、う~ん⋯⋯」
「お、おおお、俺も思った!」
「え、何? じゃあ、あいつが言ってた『元騎士団長と副団長の息子』っていうのは嘘ってことか?」
「で、でも、そんな嘘をわざわざつく理由は何だよ?」
「し、知らねーよ! でも、言っていることが本当だとしたら、それはそれで、何でわざわざ魔法にかかったフリしてそんなこと言うんだってことになる⋯⋯何でだ?」
「「「「「うう~ん⋯⋯」」」」」
そんな周囲の反応を観客席で静かに見据える者が一人呟く。
「う~む、マズイですね。まさか、こんな形でベクターやジェーンの話題が出てしまうとは。この会場の者達に二人のことを『認識』させてしまいましたね。いやはや、また術を展開しなければ。それにしてもカイト・シュタイナー⋯⋯ベクターとジェーンの息子ですか。全くのノーマークでしたね。私としたことが⋯⋯」
そう言って、少し苦笑いをしていると横に黒装束の者が突然現れる。
「ジェイコブ様⋯⋯」
「ああ、ナンバー9。どうでしたか?」
「今のカイト・シュタイナーの言ったこと⋯⋯間違いありませんでした」
「そうですか。いやはや、そうですか」
「いかがいたしましょう?」
「ま、いいでしょう。今は様子見ということで。ただし、これからはあのカイト・シュタイナーの監視をもっと徹底的にお願いしますね」
「⋯⋯御意」
そう言うと『ナンバー9』と呼ばれた黒装束はフッと姿を消す。
「まあ、多少の問題は発生しましたが、明日になって再度『存在阻害』を展開すればまた元に戻るでしょう」
男の表情にいつもの柔和な笑顔が戻る。その笑顔を見れば、誰もが好印象しか抱かないほどに。
「さて、カイト・シュタイナー君は今後どういう動きをするのかな? お手並み拝見といきましょう⋯⋯」
そう言うと、男は観客席から姿を消した。
********************
「ん? あいつは⋯⋯」
「どうしました、父上?」
ケビン・カスティーノが何かに反応した父親ルドルフ・カスティーノを見て声を掛ける。
「いや⋯⋯何でもない」
「??」
「それにしても、面白くなってきたじゃねーか」
「カイト・シュタイナーの⋯⋯⋯⋯告白ですね?」
「ああ。俺たちは事前に知っていたが、それ以外の多くは知らなかったし、まさか、カイト・シュタイナー本人がベクター先輩とジェーン先輩のことを口にするとはな」
「そうですね。そして、観客もカイト・シュタイナーの発言でベクター様とジェーン様の存在を認識しましたしね」
「ああ、そうだ。俺たちのようにベクター先輩とジェーン先輩とつながりがある奴であれば二人を忘れることはないが、それ以外の奴らには忘れ去られているからな⋯⋯⋯⋯何者かの工作によって」
「⋯⋯そうですね」
「どうせ、また二人の存在は希薄にさせられるんだろうな。——ったく、どこの誰が、どうやって、こんな大規模な『存在阻害』をしているんだ? 魔法なのか、魔道具なのか、それとも、それ以外の何かなのか⋯⋯」
「私のほうでも騎士団の信頼ある部下を使って情報を集めてはいるのですが、今のところ、まったく手がかりはないですね」
「まあ、可能性としては精神干渉系である闇属性魔法だとは思うが、しかし、そんな闇属性魔法聞いたことねー。となると、誰かが独自に作り出した魔法となるが、それが、闇属性魔法の使い手なのかどうかもわからんしな⋯⋯」
「はい。ただでさえ使い手の少ない闇属性魔法ですので、わかる範囲ですぐに調べることはできましたが、今のところ、そのような魔法を使う者はみつかっていません」
「はーーそうだよなー」
そう言って、ルドルフは苛立ちを頭をクシャクシャっとして発散する。
「とりあえず、まだ調査中ですし、今は闇属性魔法の使い手以外にも、捜査範囲を広げています」
「引き続き頼むぞ、ケビン。さて、それにしても、あのカイト・シュタイナー⋯⋯⋯⋯想像以上の強さだな」
「ええ。正直、まともにやって私でも勝てるかどうか⋯⋯」
「ほう? 実質、騎士団の『五本の指』に入るお前でもか?」
「⋯⋯はい。父上はいかがですか?」
「むう、何とも言えんな。確かにあの相手の初動を止める芸は凄かったが、あの程度の芸当⋯⋯できないわけでもない。少なくとも、対戦相手のハルカラニ家の娘くらいの相手ならな。まあ、それを十歳の小僧がやってのけてることに驚いてはいるが。ただ、勝負となると、まだカイト・シュタイナーの実力がどれほどか掴めんから⋯⋯⋯⋯『やってみないとわからん』といったところだな」
「ち、父上の口から『やってみないとわからん』という言葉が出るとは⋯⋯。それほどの腕前だと⋯⋯見ているんですね?」
「もちろんだ。じじいが『推薦シード』とした分には俺も評価してるよ」
そう言って、ルドルフがニカッと笑う。
「さてさて⋯⋯この大会が終わったら、いろいろと大きく動き出しそうだな?」
「はい。学園長が我々に『見に来い』と言ったくらいですからね。もしかすると、学園長はこの大会を利用して⋯⋯いえ、もっと言えば、この大会とカイトシュタイナーを利用して、何か大きな発表でもするんじゃないですかね?」
「ふむ。その可能性は大だな。まあ、あのじじいが何を発表するかはわからんが、何かやることは間違いないだろう。さて、そうなると⋯⋯だ。その学園長のやろうとしていることによっては、ジャガー財閥やそいつらとつながっている貴族や官僚⋯⋯そして、あの宰相あたりに喧嘩を売るようなことになるのかもな」
「ま、まさか?! そこまでですか!!!!」
「わからんがな⋯⋯。ただ、あの学園長のことだ。おそらくカイト・シュタイナーともつながっているだろう。なんせ、ベクター先輩とジェーン先輩の息子だからな。それにお前らの騎士団長様もいるし⋯⋯」
「まあ、そうでしょうね。あと、最年少上級魔法士で今、教鞭をとっているレコ・キャスヴェリーもですね」
「⋯⋯あの『規格外の天才』か。そうなると、キャスベリー家の⋯⋯そいつの父親のマイルスも噛んでいるのか?」
「さあ、どうでしょう。今のところ、マイルス様の名前は聞いてないですね。というか、マイルス様は父上と同級生で学園時代はベクター様たちと一緒によくつるんでいた仲だったんですよね? 父上のほうこそ、何か聞いてないんですか?」
「知らん。ここ一年位会ったことがないからな。それに、ちょっとケンカもしてるしな⋯⋯」
「ああ、そうでした⋯⋯ね、ハハ」
ケビンが苦笑いをする。
「とはいえ、これからの動きではレコ・キャスヴェリーも大きく関わってくるのは間違いないだろう。気は進まんが、早めにマイルスとも会わなければな⋯⋯⋯⋯まったく気が進まないが」
「クス⋯⋯お願いします」
そう言って、ケビンの苦笑いにルドルフが睨みを効かす。
カイトの告白により、波紋を呼んだ第六試合。
そして——決勝トーナメント準々決勝がはじまる。
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