81 / 145
第二章 騎士学園編
081「予選トーナメント三回戦(5)」
しおりを挟む「合同魔法授業以来だな、カイト・シュタイナー」
「はい、お久しぶりです」
俺は一瞬、驚いたがすぐに落ち着き、レイア姫に対応する。そう言えば、合同魔法授業のときもこうやってレイア姫から話しかけてきたな。偶然だろうか?
「しかし、驚いたぞ、カイト・シュタイナー。まさか、学園長からの推薦で『Aクラスシード』とは⋯⋯」
「は、はい。僕も驚いています」
「決勝トーナメントでは、ぜひ対戦してみたいな」
「い、いえ、自分なんて恐れ多いです」
「そんなことはない。君はもっと自分の強さに自信を持った方がいい。合同魔法授業のとき、魔力暴走したこともあったが、それでも上級貴族のカート・マロンも圧倒し、ガス・ジャガーにも勝ったじゃないか」
「いえ、あれはきっとカート様やガス様がCクラスの生徒ということで手を抜いていただいたのだと思ってます」
「なんと! そうか⋯⋯君は相変わらず『謙虚』だな。まーそれが『愛くるしい部分』でもあるが⋯⋯」
「え? 何か言いましたか?」
「あ、いや⋯⋯っ!? な、何でもない! と、ところで、今、舞台に上がっている生徒、ザック・カーマイン君だったか⋯⋯彼は君とよく一緒にいる生徒だよね?」
レイア姫は、ごまかすように舞台に目を向けながらザックの話を始める。
「はい、そうです」
「あの生徒も下級貴族だったと思うが、それにしては一回戦のあの身体強化の効果はとても魔力量の少ない下級貴族とは思えなかった。彼は入学当初からあれだけの実力者だったのですか?」
「いえ。僕の魔力コントロールを教えてから今の魔力量を身につけました」
「え⋯⋯? 僕の? そ、それは、つまり通常の魔力コントロールとは違うということですか?」
「はい。僕独自の魔力コントロールです」
「カ、カイト・シュタイナー独自の⋯⋯っ!? え? え? そ、それはどういう意味⋯⋯?」
「え? そのままですよ? 僕の魔力コントロールは通常のものとは違っていてですね、で、その魔力コントロールを利用することができれば魔力量や魔法威力が成長するみたいで⋯⋯たはは」
「あ、あの⋯⋯カイト・シュタイナー? 今、すごくサラッととんでもないこと言ってる自覚は⋯⋯ありますか?」
「え? さあ、どうでしょう? ま、とりあえず、友人の役に立ててよかったです」
この後のことも考えて、しっかりアピールしなくちゃな。宣伝、宣伝。
「そ、それって⋯⋯もしかして、イグナス・カスティーノもそうなのか? 以前は上級貴族の子にしては魔力量が極端に少ないということで悩んでいたと聞いているが、今日の試合を観て驚いた。あれも?」
「はい。もっと言えば、ガス様、ディーノ様、カート様も僕の魔力コントロールを身につけました」
「⋯⋯な、なるほど。たしかにあの三人、すごく強くなっていた。し、しかし、それにしても、そんな非常識な⋯⋯いや、前代未聞というべきか⋯⋯」
「はい。力になれてよかったです」
レイア姫は、カイトから出てくる言葉がすべて「常識外」なことばかりなため、呆然としながら話を聞いているが、カイトは特に気づいていないようで、ただ淡々と話を続けていく。
しかし、この時! 呆然としていたレイア姫に『天啓』が訪れる。
「あ、あのぉー!」
「(ビクゥ!)は、はい?!」
「もし、君が良いのであれば、その君の⋯⋯カイト・シュタイナーの魔力コントロールを⋯⋯私にも教えてくれないだろうか!」
「え? レイア姫様に?」
「ダ、ダメだろうか!」
「っ!?」
レイア姫はグッと一気に距離を縮め、紅潮した顔を近づけて懇願する。⋯⋯ち、近い。
「ダ、ダメじゃ⋯⋯ないです」
「そうか! ありがとう、カイト・シュタイナー!」
すると、レイア姫がニッコリといつもの凛とした顔を綻ばせる。⋯⋯あ、かわいい。
「お! 君の友達の試合がちょうど始まるぞ、カイト・シュタイナー!」
そう言うと、レイア姫は何事もなかったかのようにすぐに舞台に目を移した。レイア姫は特に気にしていないようだが、俺の心臓はずっとバクバク鳴りっぱなしで大変だった。
********************
「さあ、間もなく第七試合を開始します。選手は開始位置に立ってください」
司会の学園アイドル(自称)のフェリシア・ジャスミンが、開始前のアナウンスをする。
「よ、よろしくお願いします」
「⋯⋯フン。下級貴族の分際で、私と試合などと忌々しい」
「え?」
「私は嫌いなんだ。身分も弁えずシャシャリ出てくるような奴がな」
「そ、それは、どういう⋯⋯」
「なんだ、その程度も理解できないのか? 下級貴族のくせに上級貴族に戦いを挑むということ自体が不敬だって言ってんだよ」
「そ、そんな⋯⋯騎士学園の三年間は身分関係なく接するという『学園ルール』じゃないですか!?」
「ああ、そうだ。まったく⋯⋯この『学園ルール』とやらはすぐにでも廃止にするべきだ」
「は、はあ⋯⋯」
「まあいい。とにかく上級貴族と下級貴族の身分関係もない『学園ルール』というのがあるのなら、この試合でも同じことが言えるな」
「? そ、それは、どういう⋯⋯」
「では、その『学園ルール』とやらに則って⋯⋯⋯⋯全力でやらしていただく!」
「っ!?」
ニヤリ。
ドレイク・ガリウスが不敵な笑みを浮かべる。
「それでは第七試合、試合開始ーーーっ!!!!」
ゴーーーン!
「はっ!」
開始早々、ザックが素早い動きでドレイク・ガリウスの懐に入り攻撃を仕掛けた。しかし、
「ぬん!」
ガキィィン!
ドレイクが両手を交差してザックの拳を防ぐ。
「何っ!?」
「何を驚いている? お前は確かに速いが⋯⋯⋯⋯ただそれだけだ」
「え⋯⋯」
「お前がどこを攻撃するのかわかれば、防ぐのは簡単だということ⋯⋯⋯⋯だ!」
ガシ!
「な!? 手を!」
ドレイクは防いだザックの拳を掴むと、
「はぁ!」
スパーーーーン!!!!
「ぐはぁぁっ!!!!」
ドレイクが鞭のようにしならせた右足のハイキックをザックの顔に綺麗に入れる。
「ザック!」
正直、この試合もザックが余裕で勝って決勝トーナメントに行くだろうと思っていた俺は、ドレイクの強さに衝撃を受ける。
「ふむ、さすがはドレイク・ガリウスだな」
しかし、レイア姫の言葉を聞く限り、目の前のドレイク・ガリウスの強さは納得のいくもののようだ。
「レ、レイア姫様。その⋯⋯」
「っ!? な、ななな、何かな、カイト・シュタイナーきゅん!」
「きゅん?」
「カイト・シュタイナー君!」
レイア姫が何か、顔を赤くしてしどろもどろとなっている。ドレイク・ガリウス⋯⋯余程の強さということか?
「あ、その、ドレイク・ガリウスという方は強いのですか?」
「あ、ああ。強い。一回生の中で優勝候補と言われているガス・ジャガーと同じくらいには強い。特に武闘術と身体強化を中心とした戦い方で高いパフォーマンスを発揮する男だ。ちなみに武闘術クラスは『拳闘士』だ」
「なるほど」
つまり、武闘術クラスは予選にいたのと同じ『拳闘士』だが、魔力量が高いぶん身体強化の高いパフォーマンスを発揮できるということか。そりゃ、ザックの攻撃が簡単に入らないわけだ。
「そう言えば、レイア姫様の試合観ました! 武闘術すごいですね! 武闘術ランクも『武闘士』とは驚きました!」
「え!? 私の試合見たの!」
「え?」
「あ⋯⋯コホン。私の試合見たんだね?」
「は、はい! レイア姫様も武闘術が得意なんですね」
「ああ、そうだ。魔法はどうも性に合わないのでな」
ふむふむ。可愛い顔をしているが『武闘派』と。
「ちなみに、ドレイク・ガリウスと戦ったことはありますか?」
「ああ、何度かある。ドレイクは強いが私はもっと強い。負けたことはない」
「おお!」
「ただ、あのドレイク・ガリウスという男はしつこい性格でな。私に勝つまで何度も挑んできて辟易したことがあったよ」
「へー」
そうなんだ。そんな『しつこい男』には見えんが。
「まあ、私は王族なので、すぐにドレイク家に苦情を言って諦めさせることができたがな。とはいえ、本人はまだ根に持っていると思うが」
「なるほど」
「さて、彼の実力自体は本物だ。ザック君が彼に勝つのはかなり苦しいと思うよ?」
レイア姫が少し挑発気味に俺に視線と笑みを送る。
「ザックも強いです。このままでは終わりません」
1
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
暗殺者から始まる異世界満喫生活
暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。
流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。
しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。
同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。
ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。
新たな生活は異世界を満喫したい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる