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第一章 幼少編
008「レコの考察」
しおりを挟む——一週間前
「失礼します」
「訓練で忙しい中、すまないね⋯⋯レコ君」
それは、クラリオン王国騎士団団長アルフレッド・ヴェントレーからの突然の呼び出しだった。
私の名はレコ・キャスヴェリー。
キャスヴェリー領領主であるマイルス・キャスヴェリーの長女にして、最年少の上級魔法士として現在は騎士団に所属している。
普通の同い年の子供であれば、まだ騎士団養成機関である『クラリオン王国騎士学園』にさえ入学していない年齢だが、一年前⋯⋯⋯⋯五歳の時に私は豊富な魔力と天性の魔法センスで上級魔法をすべて習得した為、上級魔法士という称号をもらい『飛び級』で騎士団に特例入団となった。
周囲の同年代の子からは「魔力が豊富な天才は努力とかせずとも簡単に上級魔法士に入れていいよなー」などと平気で言われた。いくら魔力が豊富でも努力しなければ上級魔法士などなれない。私は周囲の期待に必死に応える為、努力に努力を重ねて上級魔法士という称号を獲得したのだ。
なのに、周りは「天才なら当たり前」という言葉で簡単に片付ける。むかつく。すごい嫌だ。周囲の期待に応え続けるのがどれだけ大変なことかわかっていないくせに!
そんな、五歳の子供が騎士団に入団すると、やはり⋯⋯というか予想通り、周囲の年上の同期やその上の団員からの風当たりは強かった。
上級魔法士ということと年齢が五歳ということもあったので、私の場合、訓練は武器なしの魔法特化の訓練となる。そして私は数少ない上級魔法士ということもあったので魔法特化の訓練では同期やその上の団員にも圧倒した強さを見せた。
最初、年上相手に圧倒する自分の力に酔っていたこともあり、私は意気揚々と訓練で相手を蹴散らしていた。しかし、それは次第に周囲との『大きな溝』を作ることとなり、気づいた頃には『生意気なガキ』だの『身の程知らずのガキ』だの陰で言われるようになり、団員から敬遠されるようになった。
調子に乗った私も悪かった⋯⋯でも、そこまでイジメられるようなことをしたつもりはない!
そうして私は、陰口と敬遠を受け続ける騎士団生活が始まった。
そんな騎士団で悶々としていた生活が一年ほど経った今日⋯⋯⋯⋯アルフレッド騎士団長より呼び出された。
*********************
話を聞くと、どうやら私指名の調査依頼が入ったとのことだった。
通常、単独での調査依頼というのは騎士団の中でも腕の立つ団員が受けるのが普通であり、ましてや『指名依頼』となれば腕の立つ団員の中でもさらに有能な団員や、『二つ名』の付く団員じゃないと指名されることはない。
私は「何かの間違いでは?」と団長に問い正したが私で間違いないとのことだった。
騎士団に入ったばかりの私が、指名での単独調査依頼を受けるのはもの凄いプレッシャーではあったが、でも、自分の努力が認められたのだと思い「喜んでお引き受けします」と団長に伝えた。
そう⋯⋯私は「認められた」のだと思っていたのだが、蓋を開けてみると、
「え? 家庭⋯⋯教師⋯⋯?」
「実は、私の親友から頼まれてね⋯⋯」
話によると、団長の親友という人が自分の子供の家庭教師を頼んできたということだった。
「ど、どういうことですか? その団長の親友のお子さんの家庭教師が⋯⋯どうして調査依頼なんですか? しかも指名なんて⋯⋯」
「あ、いや、その⋯⋯その子が少し変わった子みたいでね。それで家庭教師という形でその子のことをいろいろ調べて欲しいそうだ」
「え? それって⋯⋯どういう?」
「あ、あくまで⋯⋯あくまで仮定の話だし、私だってさすがに彼の勘違いだと思うのだが、しかし彼が言うにはその子は五歳にして独学で⋯⋯⋯⋯⋯⋯魔法を習得しているかもしれないと」
「えっ?! ご、五歳でですかっ?! し、しかも、独学⋯⋯っ?!」
「⋯⋯ああ。ただ、普段の生活ではそういう素振りは一切見せないらしい。五歳の子供が⋯⋯だ。 普通の子供なら自慢したがるものだが、その子はあえて自分の力を隠し、普通の子供を演じているようにさえ見えると彼は言っている」
「な⋯⋯!? ふ、普通の子供を演じる? 五歳児が⋯⋯ですか?」
「最初は彼が直接息子に聞こうかと思ったようだが、それだとうまく誤魔化される可能性が高いということで私に依頼があったのだ。ただ、大人の私がそこに直接行って話を聞いても誤魔化される可能性が高いので、そこでその子供と年の近い君ならそこまで警戒されないだろうということで指名があったのだ」
「は、はあ⋯⋯」
なるほど。そういうことか。
団長は親友に何か弱みを握られているのだろう。だから、断りきれなくて仕方なく引き受けた。そして、そんな親友の勘違い⋯⋯いやもっと言えば『親バカ親友の盛大な勘違い』なのだろう。そんな個人的で勘違いな依頼を一人前の騎士団員に頼むのは気が引けるということで、そこで私のような新米でしかも六歳という子供になら『依頼任務』という形でお願いできるだろうと考えて私に声をかけた⋯⋯そんなところか。
だって、どう考えたって、そんな『規格外』な子供いるわけないんだから。
五歳で上級魔法士になった私でさえ独学での魔法習得なんて無理だ。だって魔力のコントロールなんて特に独学なんてあり得ないもの! だって「体内にある魔力を認識する」なんて誰かに習わないとわかるわけないじゃないっ!
指名依頼されたということで、さっきまで「一人前として認められたんだ」と勝手に勘違いして舞い上がっていた自分を殴りたい。
でも、まあいい。どうせ、騎士団にいても『腫れ物』扱いなのだ。ちょうど嫌気もさしていたし、何ならこの依頼で『ヘタ』を打って、そのまま『退団』になるのもいいかもね。
その時の私は半ば自暴自棄だったが、そんな感情を表に出さないよう必死に抑え、
「わかりました。この依頼、喜んで引き受けさせていただきます」
と、平静を装って団長に快諾の意を伝えた。
この時の私は「結局、団長も周囲と同じで私を認めていないんだな⋯⋯」などと、一年前、私のことをあれだけ熱っぽく騎士団入団の勧誘をしてくれた団長に失望していた。
しかし⋯⋯⋯⋯それは私の大きな勘違いだったと、後に身を持って知ることとなる。
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