147 / 157
第四章
147「ある少年(3)」
しおりを挟むそして、そこから階段で2階に上がるとそこがメインの生活エリアになる。ちなみに湊くんはちょうど2階の入口から中に入ってきたところだ。
「す、すごい家ですね⋯⋯」
「ありがとう!」
湊くんが第一声でそんなことを言ってくれた。嬉しい。
「探索者の第一線で活躍している方って、やっぱりすごく稼ぐんですね!」
湊くんが目を輝かせてお兄ちゃんに聞いてくる。
「まーそうだな。でも、俺は運が良かったよ」
「運⋯⋯ですか?」
「ああ。そもそも探索者としてデビューできたのもソラと出会ったおかげだし、その後のあれだけの急成長もすべてソラのおかげだよ」
「ソラ⋯⋯って、新屋敷ソラさんですよね?
「ああ、そうだ。ソラはすごい奴だよ。ソラは知っているだろ?」
「も、もちろんです?! 唐沢さんたち探索者集団『新進気鋭』のリーダーにして最速でS級ランカーになった方ですよね!」
「おお、そうだ。よく知ってるな! 俺や胡桃沢はソラがいなかったら探索者になんて絶対になれなかったと思うよ」
「へ~、ソラさんって、そんなにすごい人なんだ」
「そうだぞ、桃華。ソラはすごいんだぞ」
「ふ~ん」
私はお兄ちゃんの仕事や探索者について、正直そこまで興味がないからその手の話をほとんどしたことがなかった。そんな私が興味を示す態度を取ったからか、お兄ちゃんが嬉しそうに私のほうを見た。
「ふ~んって⋯⋯桃華ちゃんは知らないの、新屋敷ソラさん?」
「えっ!? し、知っているよ! あ、あれでしょ! お兄ちゃんと一緒に活動しているチームのリーダーさんの⋯⋯」
「う、うん。まーそうなんだけど⋯⋯ソラさんはかなり有名人だよ。まさか、唐沢さんの妹だからてっきりソラさんのこと知っているかと思ったけど⋯⋯」
「まーしょうがねーよ。桃華は俺の仕事や探索者自体にあまり興味ないからな。兄としてはもうちっと興味持って欲しいと思ってんだけどな⋯⋯ははは」
そう言って、お兄ちゃんが湊くんに苦笑いしながら愚痴をこぼす。
「そうなんですね~。僕としてはすごく羨ましい環境だと思うんですけどねぇ~⋯⋯」
そして、湊くんもまた私を見て何だか『残念』な表情でお兄ちゃんに返事を返す。
「ちょ、ちょっとぉー?! 何で私が悪者みたいな感じになっちゃうのよー!」
「はは、冗談だよ、冗談。そんなに怒るなよ、桃華」
「ごめん、桃華ちゃん。つい調子に乗っちゃった」
そう言って、2人が「揶揄ってごめん」と謝った。
「それにしても湊くんとは何だか気が合うな~」
「そ、そんな! 恐れ多いですよ!?」
「いやいやいや、本当、本当。それに湊くんは桃華と同じ小学4年生なのに、妙に大人びていると言うか、しっかりしていると言うか⋯⋯あと相手の話もちゃんと聞いているし。あと自分の意見もしっかり持っているじゃん。正直、こんな小学生見たことねーよ」
「い、言いすぎですよぉ~?!」
「いや、マジ、マジ! 湊くんすげーって!」
「⋯⋯⋯⋯」
お兄ちゃんと湊くんが、何だか目の前ですごいイチャイチャしてる。⋯⋯何これ?
「いや~、それがよ~、探索者になって初めて入った関東C24のダンジョンでな~⋯⋯」
「え~! そうなんですか!? すごいですね!!」
「⋯⋯⋯⋯」
その後、私はお兄ちゃんと湊くんのイチャイチャタイムを約30分間見せられる羽目になった。
「ナンダカ タノシソウ デスネ」
「「あ⋯⋯⋯⋯」」
二人がやっと私の存在に気が付いてくれた。
「ご、ごめん⋯⋯桃華ちゃん」
「ううん、気にしないで。だって、湊くんはお兄ちゃんとお話がしたかったんだから何も問題ないよ?」
「わ、悪ぃ⋯⋯桃華」
「お兄ちゃん。話すのはいいけど、私のことほったらかしにするってどうなの?」
「「⋯⋯ごめんなさい」」
二人が声を揃えて土下座して謝った。
あれ? 湊くんまでお兄ちゃんと一緒に謝っちゃった。
そんなつもりじゃなかったんだけど⋯⋯まーいっか。
「それじゃあ、そろそろ⋯⋯」
「え? 湊くん、もう帰るのぉ?」
「うん。遅くなるとお母さんが心配するからね」
「うん、えらい! やっぱり湊くんはしっかりしてるな~。うちの桃華とは大違い⋯⋯」
「うっさい!」
「痛ぇっ!?」
むかついたので、お兄ちゃんの脛を蹴ってやった。
「ははは⋯⋯。今日はありがとう、桃華ちゃん。そして、唐沢さん⋯⋯今日は貴重な話を聞かせていただいてありがとうございました!」
「いいって、いいって。そんな大層なことじゃないから!?」
「そう、そう。本当に大したことないんだから」
「⋯⋯おい、桃華。お前が言うと何だかニュアンスが変わるんだが?」
「何よー!」
「ふふ⋯⋯本当に仲が良いんですね、二人とも」
「「よくない!」」
「ふふふ⋯⋯では、これで失礼します!」
「あ、駅まで送る⋯⋯」
「いいよ、桃華ちゃん。駅まですぐだし。それじゃあ、失礼します!」
そう言って、湊くんは帰って行った。
「⋯⋯湊くん、いい子だな」
「うん」
「もし、またウチ来たいって言うなら構わないからな」
「いいの?!」
「おう! 俺も湊くんは気に入ったしな!」
「ありがとう、お兄ちゃん!」
どうやら、お兄ちゃんも湊くんのことを気に入ってくれたようだ。
これで、次も家に呼ぶことができる。やったー!
********************
「⋯⋯あれが唐沢利樹、か」
その言葉を吐いたのは、唐沢の家から駅へと向かっている湊修二。
「なるほど。ソラのおかげでこの短期間で強くなっているな、面白い⋯⋯くくく」
湊はそんなことを特に小声でもなく普通にしゃべりながら歩いていた。通常、そんな他人に聞こえる声量でひとり言を言っていたら危ない人だとジロジロ見られそうなものだが⋯⋯しかし、周囲の人間は湊がそもそもそこに存在していることを認識できていないような⋯⋯そんな振る舞いをしていた。
「さて、これからしばらくは唐沢家に出入りして信頼関係を築きながら、ソラのところへ案内してもらおうかな? くくく⋯⋯ソラは私を見て気づいてくれるかな? いや~楽しみだ」
0
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇
藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。
トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。
会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ
Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」
結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。
「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」
とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。
リリーナは結界魔術師2級を所持している。
ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。
……本当なら……ね。
※完結まで執筆済み
冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで
一本橋
恋愛
ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。
その犯人は俺だったらしい。
見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。
罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。
噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。
その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。
慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる