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第四章
145「ある少年(1)」
しおりを挟む私の名は『唐沢桃華』。小学4年生。
お兄ちゃんは探索者をやっていて、今は『乾坤一擲』というすごい有名な探索者の人たちと一緒に活動している。
ウチはお父さんがいなくて、だからお兄ちゃんは高校生になってから探索者を始めた。始めの頃は口では言わなかったけど、お兄ちゃんは探索者になれるかどうかすごく不安だったみたい⋯⋯。
でも、ソラさんというお兄ちゃんのクラスメートの人と友達になってからしばらくして、お兄ちゃんは探索者の試験に合格した。
それからというもの、お兄ちゃんが探索者ですごい記録を打ち立てて、あっという間に有名人になった。ちなみにすごい記録というのはなんかよくわかんないけど『すごい早く強くなった』⋯⋯みたいな感じ?
それからお兄ちゃんはすごくお金を稼ぐようになった。そして、しばらくすると高校もやめることになった。だって、今の時点ですごいお金を稼ぐようになったから。お兄ちゃんすごい!
でも、有名になりすぎたおかげ?⋯⋯で、私や中学生のお姉ちゃんも少し学校に通えないことがあったけど、学校に通えるようになってからは私も有名人になっていた。
学校に行ったらいろんな人からお兄ちゃんのことについて色々聞かれたり、写真撮ってきて欲しいとか、本当にいろいろお兄ちゃんのことを聞かれた。
すごいビックリしたけど注目されたのは少し嬉しかったな⋯⋯えへへ。
そんな騒ぎも今ではすっかり落ち着いて、いつも通りの学校生活に戻っていた。
——そんな矢先のことだった。
********************
「初めまして、唐沢さん」
「えっ?! あ、初めまして⋯⋯。えっと⋯⋯」
え? 誰だろ、この男子? 初めて見るんだけど?
「ああ⋯⋯ほら、唐沢さんが1週間くらい学校を休んでいたときに転校してきた⋯⋯」
「え? あーーー! 思い出した。湊くん!」
「うん。初めまして。改めて⋯⋯湊修二です」
と、その少年がニコッと笑ってもう一度挨拶をした。
彼⋯⋯湊修二くんはマッシュルームカットの髪型をしている。あと、すごくきれいな顔立ちをしていて、パッと見は女の子にも見えなくなもないと思う。
それにしても、さっきまでは「誰?」と全くわからなかったのに、湊くんに話しかけられたらパッと記憶が蘇った。うーん、おかしいなー⋯⋯私、記憶力は良いほうなんだけどなぁ⋯⋯。
これが、湊くんとの初めての最初の出会いだった。
その後、湊くんとはよく話をするようになった。席も⋯⋯私の席は教室の入口から奥の『一番後ろの手前の席』なんだけど、湊くんはその私のすぐ後ろだったので気づけば仲良くなっていた。
そんな湊くんといつものように話をしていたときだった。
「そう言えば、桃華ちゃんのお兄さんって、あの唐沢利樹さんっていう探索者だよね?」
ふと、湊くんがお兄ちゃんの話をしてきた。そういえば、湊くんがお兄ちゃんの話をするのはこれが初めてだ。普通、他の人たちはお兄ちゃんの話を真っ先に聞きたがるのに⋯⋯何か意外だった。
「うん、そうだよ。最近は『乾坤一擲』っていう人たちと一緒に活動しているって言ってた!」
「へ~、すごいね。『乾坤一擲』って探索者集団で一番有名なクランじゃない!」
そう言って、湊くんがパァッと顔が綻んだ。可愛い顔してるなぁ⋯⋯。
「そうなの? 私あんまり探索者とか知らないけど⋯⋯」
「そうなんだ。うん、『乾坤一擲』は有名な人たちだよ。やっぱり、すごいね、桃華ちゃんのお兄さんは!」
「そ、そうかなぁ~⋯⋯えへへ」
何かくすぐったいな。でも、湊くんにそう言ってもらえるのは⋯⋯嬉しい。
「そう言えば、お兄さんはいつも家に帰ってくるの? それともずっと出ていることが多い?」
「うんとね、家にいることが多いよ。ウチはお父さんがいないから、それでお兄ちゃんはできるだけ家に帰るようにしているみたい⋯⋯。でも、お兄ちゃんはそんなこと口に出したりはしないけどね」
「良いお兄さんだね」
「⋯⋯うん」
湊くんがお兄ちゃんのことをすごく褒めてくれた。
「そう言えば、湊くんは探索者とか詳しいの?」
「うん、そうだね。僕も高校生になったら探索者になりたいと思っているからね。でも、本当は、そもそも探索者とかダンジョンが好きなだけ何だけどね!」
そう言って、湊くんがイタズラっぽい表情をしながらパチリとウィンクをする。
何だか王子様みたいで⋯⋯かっこいい。
「そ、そそ、そうなん⋯⋯だ!」
私は頬がカーッと赤くなったのを感じたので、おもわず両手で顔を塞いでごまかすように返事をする。
「一度、会ってみたいなぁ~⋯⋯お兄さんに。でも、忙しいよね⋯⋯」
「え? えーと⋯⋯ううん、事前にお兄ちゃんに言っておけば会えると思うよ! お兄ちゃんに会ってみたいの?」
「うん。あ、でも、別にサインをねだるとか写真を撮りたいとか、そういうんじゃないからね。あくまで探索者の憧れの人として話したいだけだから?!」
そう言って、湊くんがあたふたしながら言葉を並べる。
どうやら「ミーハーな気持ちで会いに行くわけじゃない」ということを言いたいようだ。そんないつもはスマートな湊くんが慌てるところが見れて私は内心「ラッキー」と思った。
「うん、わかった。じゃあ、今度お兄ちゃんに話しておくね!」
「ありがとう、桃華ちゃん」
こうして、私は湊くんにお兄ちゃんを紹介することになった。
私は、何としてでもお兄ちゃんには湊くんに会ってもらえるよう頑張ろう⋯⋯と一人気合いを入れた。
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