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第三章
113「人工魔物」
しおりを挟む「私のほうは⋯⋯朧申と朧丑の二人だったけど、そいつらの実力もなかなかだったわね。ウチのメイド衆もだいぶ苦戦していたし⋯⋯」
と言葉とは裏腹に涼しげな顔をして話すメイベル・ホワイト。
「何よ。それって、あなた自体は苦戦しなかったってこと?」
そこに王明凛がツッコんでくる。
「そこそこ、ね。『通常モード』ではキツかったから『ギア』を上げたけど⋯⋯まーその程度で対応はできたわ」
「ふ~ん⋯⋯⋯⋯雑魚だったのね」
「は? 喧嘩売ってんの?」
なぜか、そこで明凛とメイベルが喧嘩モードに入る。
「おいおい、やめろ。あと今のは明凛の言葉が悪いぞ」
「はいはい、すみませんでした(ブスッ)」
どうやら、自分だけ『朧辰』という強敵にあたって苦戦したのが気に食わない様子の明凛。
「まー、明凛は『朧辰』に当たったからな」
「それを言うなら、俺だって朧辰に当たってしんどい思いしたぞ」
「あーうるさい、うるさい」
そんな明凛に賢者がフォローを入れると、横からもう一人の被害者ジョー・ウェインが口を挟む。しかし、明凛はそんなジョーの絡みを面倒くさいとでも言うように軽くあしらう。
「とりあえずはメイベルのほうは問題なかったようだな。では、次はソラ⋯⋯⋯⋯お前のほうはどうだった?」
「俺のほうは朧亥、朧戌⋯⋯あと、朧虎と朧午って奴がきたな」
「多っ!?」
「そんなにかっ!?」
ソラの報告に周囲がざわざわする。
「とは言っても、俺が倒したのは朧亥って奴くらいで、朧戌はここの⋯⋯⋯⋯鏑木がやったし。不意打ちだけど」
「おい、あれは事故みたいなもんだ! ワザとじゃねぇ! 風評被害だ!」
そう言って、鏑木がソラに猛抗議する。
「はいはい、お母さんは信じてますよ」
「おい、コラァ!」
ソラのボケに鏑木が軽快にツッコむ。
「まー、とにかく、いろいろやってきたけど全員倒したとかそういう話じゃないので。実際、後からやってきた『朧虎』と『朧午』の二人がかなり強そうでしたけどね」
「ああ。その二人は朧十二衆の第二席と第三席だからな」
「なるほど。道理であれだけの威圧だったんですね」
「ほう? やはり強そうだったのか?」
「まーそうですね。やってみないとわからない⋯⋯⋯⋯と思うくらいには強いと思います」
「へっ! まーお前自体が弱けりゃ話にならねーけどな」
と、ここで今度はアメリカン・ヤンキーのランス・バーネットがソラに絡んできた。
「⋯⋯まーそうですね」
「あ? 何、余裕こいてんだ、コラ?」
「おい、やめろ。ランス! 話の腰を折るな!」
「へー、へー、わーったよ!」
ソラはそんな喧嘩腰のランスに特に触れることなく、話を続けた。
「あと、賢者。質問⋯⋯⋯⋯というか、ちょっと気になったことがあったんだが⋯⋯⋯⋯」
「なんだ?」
「どうして地上に魔物が? あと、『朧』の奴らはその魔物を操っていたように見えたけど、どういうことですか?」
「ああ。あれは『人工魔物』だ」
「人工⋯⋯魔物?」
「ああ。字面そのままの意味だ。人工的に作り出した魔物だ。『朧』の奴らの兵器の一つだ」
「そ、そんなことができるのか⋯⋯? 人工的に魔物を作り出すなんて⋯⋯」
「ああ。ただし、その技術はウチにはない。『朧』独自の技術だ」
「一体、何者なんですか。『朧』って⋯⋯?」
「詳細はわからん。わかっているのは『世界支配を企んでいる』ってことだけだ」
「それって、つまり『何もわかっていない』ということですよね?」
「まーそうだな」
「⋯⋯⋯⋯」
賢者は、特に誤魔化すでもなく言葉にした。
「現在、『天罰』で情報を追っているが、いまだに謎が多い組織だ」
「⋯⋯そうですか」
賢者の言葉に嘘はないように感じるものの、いまいち賢者の言葉を信用できないソラだった。
********************
「とりあえず『朧』については、今後、各国共に情報共有していきながら奴らのアジトを見つけ次第叩くってことでいいんだよな?」
「ああ、そうだ⋯⋯」
ランスの質問に賢者が答え、そろそろ解散という空気が流れた時、
「すみません。情報共有について一つお願いがあるのだが⋯⋯」
早乙女が賢者に質問を振った。
「実は、私たち『転移者』は全員で5人いるのですが、どうしても1人だけまだ見つかっていないものでして⋯⋯」
「ああ、それはこちらでも把握している」
「な、何と!⋯⋯そうでしたか」
「だが、まったくと言っていいほど足取りは掴めていない。正直、本当にあと一人いるのかとさえ思うほどだ」
「そ、そうですか⋯⋯」
「あ! あとよー、俺からもいいか?!」
「何だ?」
今度は鏑木のほうからも質問が入る。
「俺らが調べた中では新屋敷ソラ以外にもう一人この『天罰』に転移者がいるって聞いたんだがそいつは今いるのか?!」
「ああ、いる⋯⋯⋯⋯が、今ここにはいない」
「えっ?! ちょ、ちょっと待て!『天罰』の中に俺以外に『転移者』がいるのか?!」
賢者の言葉に「初耳なんだが!」と言いたげなソラが聞き返す。
「うむ。言ってなかったか?」
「言ってねーよ!」
ソラは賢者がそんな重要なことをサラリと言ったことに驚くと同時に「前回の食事会の時に教えとけよ!」と心の中で愚痴る。
「そうか。とりあえず、じゃあその一人とは会えるんだよな?」
「ああ、また日を改めて⋯⋯となるがな。あと、ソラにもその時に紹介する」
「わかった」
「では、とりあえず『朧』については引き続き情報共有をよろしく頼む。では、特に何もなければこれで解散⋯⋯」
——その時だった。
「すみません、突然失礼しますっ!!」
と、ここで琴音さんが慌ただしく中に入ってきた。
「どうしたの、石川さん?」
炎呪が尋ねる。
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