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第三章
113「人工魔物」
しおりを挟むそもそも、ドックに収容されて乾電池になっている俺がどうしてエアーフリートを操作できるんだろう。
これがギア・フィーネ、ギア3から使える『ハッキング』。
ギア4になっていることで、精度と効果範囲が広がっている。
俺如きの知識でもここまでのことが容易くできるのだから、ギア4の恐ろしさと危険性は相当だ。
万能感とはこういうことを言うんだろう。
「ぐっ」
でも、あまりもたない——!
鼻と目と耳から、血が止まらなくなってきた。
毛細血管がぶちぶちいっているのがわかる。
神経が敏感になり続けて、熱い。
これ以上続ければ、本当に人間辞めそう。
『あれぇ? もう人間辞めちゃうの? 早くない?』
「! デュレオ……?」
『レナの歌をもっとよく聴きなよ。それとも俺の歌の方がいい? どっちでもいいから、歌い手の歌をよく聴きな。確かに歌い手はブースターではあるけど、それだけじゃない。ちゃんと聴くことができれば、脳波の同調を整える力もある』
「……!」
『ちゃんと深呼吸して、口で。肺に酸素入れて、心臓で血を全身に行き渡らせて——感じて。歌を』
その波動を。
「っ!」
海? いや、大地、地平線?
青い、青い空……夕焼け?
違う、朝焼け……青い、群青の空に、なんだ?
時間がすごい速度で進んでる?
俺は今どうなってるんだ!?
『驚いた。こんなに早く“ここ”に辿り着くなんてな』
『兄さんはずいぶんあなたを気に入ったんですね』
「!?」
ハッとした。
目の前には真っ白な空間。
ど、どこだここ!?
あたりを見回すと、一人の男が近づいてきた。
群青色の髪と不適な笑みを浮かべた金の目の男。
こいつ、知ってる。俺。
いや、初対面といえば初対面なんだが、全身がゾワゾワと泡立つ。
でも、もう一人女の子みたいな声がしなかったか?
男以外を見ようにも、白光りしていて明確に姿を確認できたのはこの男だけ。
「こ、ここは、なんだ!? 俺はエアーフリートの中のイノセント・ゼロの中にいたはずなのに!」
『イノセント・ゼロ。やっぱりまた四号機か。あれだけなーんでおかしいんだろうなぁ? 設計スタンスは五機とも同じなんだけど』
『育った環境ではありませんか? 四号機はよい登録者に恵まれ、すぐに“歌い手”を得ましたから』
『そういうものか。だが、存外お前の考えた“歌い手”システムは上手くいっている。導入は正解だったな』
「……なんの、話をしている!? お前は誰だ!」
先ほどの万能感を一瞬で取り上げられたのだ、警戒もする。
それに、多分これ肉体ではない。
これは、なんだ?
精神体?
本当にどこだよ、ここ!
いくら俺が美人に弱いからって、今回ばかりは揺るがされたりしないぞ。
『そうそう、普通そういう質問をするんだよ! ここにこられるのは各機各登録者一回きりなんだからさ! それなのに二号機と五号機の登録者としたら、今忙しい、ってさっさと帰っていくんだから』
「っ」
茶化されている?
二号機と五号機って、シズフさんとラウト?
今忙しいって帰っていくって、容易に想像がつくなぁ。
『ここはブレス・トワ・アース。現代を生きるあなたたちが、結晶大陸と呼ぶ世界の中心部』
『そして俺様こそがギア・フィーネの創造主にしてブレス・トワ・アースで世界を“運営”する代理神の一人! 王苑寺ギアン様だ! 崇め奉れよ!』
「……」
ああ……ああ……!
なんかそんな気はしていたけど、やっぱりこの男が王苑寺ギアン!
それにしても、どうしてこんなに吐き気が止まらないんだ。
この男が、気持ち悪くて仕方ない!
デュレオが人を殺したのを見た時以上の拒絶感。
思わず口を押さえてしまう。
「どうして俺をここに……」
『どうして! それは違う! ギア・フィーネはギア4に上がった時点で登録者をココへ招くようプログラムしてあるんだ。登録者はわけもわからず選ばれて、世界の都合で戦わせられるだろう? でもそれは仕方ない! 愚かな為政者どもが、ギア・フィーネの真の価値を理解しないまま戦わせるのだから!』
「そんなことを聞いてるんじゃない! ここはいったいなんなんだ!? なんで俺はここに連れてこられてるんだよ!」
『ハハ! 頭の悪いガキだな。ここは、最初で最後の俺への謁見の場! 聞きたいことになんでも答えてやろう。たとえばどうしてギア・フィーネを作ったのか、とかな! みんな知りたいだろう?』
テンション高っけ。
それに、なぜか異様な嫌悪感を抱く。
一刻もここから立ち去りたい。
もしかして、シズフさんとラウトもこんな気持ちだったのかな。
でも、それなら誰よりも早くここにきたであろう、三号機の登録者——ザード・コアブロシアと、さっきから名前の出ない四号機の登録者、アベルトさんはなにかを質問したのか?
っていうか、なんだよ、ブレス・トワ・アースとか、惑星の中心部とか。
「聞きたいことは、山のようにある、けど……質問制限とかあるの?」
『ないぜ』
『でも、あなたの体はあまりギア4に耐えられていません。一つだけにした方がいいと思います。もしくは、このままなにも聞かずに戻るのを推奨します』
「っ」
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