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第三章
111「新屋敷ソラと転移者と」
しおりを挟む「よし、みんな集まったようだな⋯⋯」
ゲオルグ・シェフチェンコが周囲を見渡して確認する。
ここは、会場内にある『特別会議室』。
そこには『円卓』があり、それぞれの顔役が座っていた。
右から、イギリス総本部のメイベル・ホワイトとメイド衆と、ギルド受付部総長にして世界ランキング9位、『金髪黒縁メガネ美女の有志』という絶大な数のファンを持つイライザ・タンゼントが鎮座。
その隣には、ロシア本部のゲオルグ・シェフチェンコと黒髪ドレッドヘアーの派手な髪型でゲオルグの懐刀として一目置かれている実力者、S級ランカー世界ランキング7位の『ミハエル・アンドリュース』。
次に、腕を組んでドカッと座っているのは、アメリカ本部のジョー・ウェインと『アメリカン・ヤンキー』のランス・バーネット。
その横には、少し疲労の顔が見える中国本部の王明凛と、ソラに良い印象を抱いていない李翠蓮、そして、中国本部のマスコットキャラとして絶大な人気を誇る世界ランキング8位の『劉蘭蘭』が座る。
そして最後に、日本本部の倶利伽羅炎呪、不知火不師斗、唐沢利樹、胡桃沢星蘭、新屋敷ソラ⋯⋯⋯⋯と、
「久しいな、皆の者」
賢者。
錚々たるメンバーが円卓を囲んでいた。
しかし、そんな円卓の中には探索者関係者ではない二つの『異分子』も混ざっており、その二人は日本本部のメンツに並んで座っていた。
「誰? あいつ?」
「ん? ああ⋯⋯『賢者』。前回の『生き残り』だ」
「ああ⋯⋯あれが」
その『異分子』である転移者『鏑木誠也』と『早乙女涼』が空気を読まない会話をし、ただでさえ不穏な空気を悪化させていた。
そんな、穏やかじゃない雰囲気の中、賢者が話を始める。
********************
「諸君。今回の『朧』の突然の襲撃⋯⋯予想はしていたので対策をしたつもりだったが結果的に襲撃を許してしまった。これについて、どう思う?」
賢者がいきなり皆に質問から始めた。
「その前によ~⋯⋯」
と言って、アメリカ本部のランス・バーネットが立ち上がると、
「この怪しすぎる二人は何なんだよ! まずはそこからだろっ!!」
激おこである。
無理もない。
「あ? んだ、コラ?」
すると、ランス・バーネットと同じ匂いのする転生者の鏑木が立ち上がるとランスに思いっきりメンチを切る。当然、ランスもイケイケなので引くことはない。
「どーすんの、これ?」
俺が半ば呆れていると、賢者が説明を始めた。
「そのことなんだが⋯⋯⋯⋯はぁぁぁ~⋯⋯ランス、やっぱ説明しなきゃダメかね?」
「たりめーだろ! 正体不明の奴らがいるところで話するのがそもそもおかしいだろが!」
「いや、正体不明というわけではなくてだな⋯⋯二人が『ここにいる理由』はちゃんとあるんだ。ただ⋯⋯」
「ただも、へったくれも、ねーんだよ! ちゃんと順序立ててやれやぁ!」
ど正論である。
「はぁぁぁぁぁ~~⋯⋯わかったよ。じゃ、先に説明するよ」
賢者が何かすんごいへこんでる。
あ、まーサングラスで表情は見えないんだけど、雰囲気が⋯⋯ね。
「じゃあ、説明するが⋯⋯⋯⋯ちなみにこの話は絶対に他言無用だ。⋯⋯唐沢君、胡桃沢さん、君たちにもこれからの話を聞いてもらう。まーいずれ話すつもりだったのだが、まさかこんなにも早く話すことになるとはね⋯⋯」
「え⋯⋯?」
「それって、どういう⋯⋯?」
「じゃあ、改めて説明する。ここにいる二人、鏑木誠也と早乙女涼両名は⋯⋯⋯⋯⋯⋯別の地球からこの世界にきた『転移者』だ」
「「え? えええええええええっ!!!!!」」
「べ、別の⋯⋯地球⋯⋯?」
「な、何を⋯⋯言って⋯⋯?」
「「「「「⋯⋯⋯⋯」」」」」
唐沢と胡桃沢の二人が賢者の言葉に激しく動揺するも、他の面々は「でしょうね」という感じで実に淡々としていた。
賢者は、唐沢と胡桃沢の戸惑う反応を見つつも、覚悟を決めてさらに話を続ける。
「⋯⋯⋯⋯そして、二人は自分たちと同じこの世界に転移してきた仲間を探している中で『新屋敷ソラ』を見つけ、今回探索者世界会議にやってきた」
「⋯⋯え? ソ、ソラが⋯⋯転移してきた⋯⋯仲間?」
「ソ、ソラ君が⋯⋯この世界に転移⋯⋯してきた⋯⋯? な、何を言って⋯⋯」
唐沢と胡桃沢が完全に固まった。
「⋯⋯今回二人から私の元に連絡があった。それは、ソラと同様、我々『天罰』に加入するという話だ」
「なっ⋯⋯?! 何ですって?!」
「加入だとぉぉ~~っ!!!!」
ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ⋯⋯。
この賢者の発言には、さすがに他のメンツも動揺を露にする。
「私は二人の申し出を受けた。理由としては、彼らが大きな戦力であることはもちろん、それ以上に『今回の5人の転移者』の捜索に大きなアドバンテージとなるからだ」
賢者の言葉に、周囲の者たちは納得いっていないのがほとんどであったが、しかし、この『天罰』の大きな目的の一つである『現転移者の捜索』のアドバンテージが取れるということが彼らを困惑させていた。
「おい⋯⋯賢者よ~。それってよ~、確かに『現転移者の捜索』には役立つかも知れねーが、同時に組織内部に『爆弾を背負い込むような状況』にもなるんじゃねーのか?」
ランスは鏑木へのメンチを切ったまま、賢者に訴える。
「あ? 何が言いたいんだ、おめー?」
「あ? わからねーか? じゃあはっきり言ってやるよ! お前らのことなんか信用できるかって話だぁっ!!」
「ランス!」
ランスがいよいよ手を出しそうだったのを感じて賢者が声を上げて止める。しかし、
「悪いけど私もランスの意見に賛成よ?⋯⋯⋯⋯⋯⋯すんごい不本意だけど!」
「! メイベル・ホワイト⋯⋯」
「まーそりゃそうなるぜ、賢者のおっさん」
「ジョー⋯⋯⋯⋯ウェイン」
ロシアのゲオルグや中国の王はランスやメイベル、ジョーに対して何も言わないが同時に止めることもしなかった。つまり、それはランスやメイベルたちと同意見であるということを示していることでもあった。
そんな中——、
「で? お前はどうなんだ⋯⋯⋯⋯⋯⋯新屋敷ソラ?」
「!」
朧の襲撃についてや、今後の話云々をする前に、現場はすでに一触即発の状況となっていた中、ランスの矛先がソラに向けられると、皆の注目が一斉にソラへと集まった。
(何か、めっちゃ見られてるんですけど⋯⋯⋯⋯はぁぁぁ)
そう言って、心の中で大きなため息をつくソラ。しかし、
(まーでももう悠長なことは言ってられないってことか。実際賢者が唐沢や胡桃沢の前で『俺が転移者』という話をするくらいなんだからな⋯⋯)
ソラは一度、大きく深呼吸をする。そして、
「そうだな。たぶん今が『話すべき時』⋯⋯⋯⋯なんでしょうね」
ソラはそう言って、話す覚悟を決める。
「賢者の言う通り、俺はこの二人と同じように別の地球からこの世界に転移してきた⋯⋯⋯⋯『転移者』だ」
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