上 下
110 / 157
第三章

110「大波乱の幕切れ」

しおりを挟む


「⋯⋯何者だ、お前ら?」

 ソラが突然現れた二人に問いかける。

「お前が新屋敷ソラだな?」
「だったら、なんだ」
「ようやく会えたぜ! 俺もこいつも転移者でよ」
「何っ?!」
「俺の名は『鏑木誠也かぶらぎせいや』。で、こいつが『早乙女涼さおとめりょう』⋯⋯」
「初めまして。早乙女です」
「⋯⋯⋯⋯」
「いや~、やっと会えたぜ! これまで俺たちなりにいろいろ探したんだぜ、お前をよ~!」
「⋯⋯⋯⋯」

 グイグイと話しかけてくるヤンキー男が『鏑木誠也かぶらぎせいや』で、横にいるシュッとしたメガネイケメンが『早乙女涼さおとめりょう』というソラと同じ転移者と言って話しかける。

「目的は何だ?」
「え? 目的?」
「だってそうだろ? 実力者の探索者シーカーがたくさん集まる世界会議にわざわざ乗り込んで喧嘩売るなんてリスク犯すんだ。⋯⋯⋯⋯よっぼどの目的があると思うのが普通だと思うが?」
「特にはねーよ。とりあえず自分たちと同じ『転移者』を探しているだけだ。で、もし見つかるならこんな探索者シーカーが集まる場所とかにいるかもなーと思ってきただけだよ」
「い、いやいや!? だからって、襲撃するようなマネは危険じゃねーか!!」
「まーそれはそうですが、我々には『恩寵ギフト』がありますからね。そのおかげで、レベルも上げてスキルや魔法も得てS級ランカーくらいにはなったのので、まーいけるかなと⋯⋯」
「ざ、雑すぎ⋯⋯だろ?!」
「とはいえ、実際は俺たちが侵入する前にこの『おぼろ』っていう連中が襲撃したんだけどな。で、俺たちはそこに便乗・・しただけだ。それに結果的にお前を助けたような感じだろ?」

 どうやら、さっき朧戌を襲撃したヤンキー男こと鏑木は俺が朧戌に襲われていたから結果的に助けになっただろ、ということを言っているらしい。

「う~ん、まー確かに襲撃されたのはそうだけど、あの時は特に交戦中ってわけでもなかったし、むしろ、俺の言うことに従って動いている状況だったからな~」
「え? そうなのか!? じゃあ、それって、俺が不意打ちで殴った卑怯者なだけってこと?!」
「まーそうなるな」
「ガーン!」

(おお、初めて見たよ。口に出して『ガーン』って言った奴)

 などと、ソラが心の中でそんな呑気にツッコミを入れていると、

「なんだぁ、おまえらぁぁぁ!!!!」

 そこに、また別の奴が現れた。これまた朧亥のような2メートル以上あるような大男だった。

「何者だ?」
「さあ?」
「ああ⋯⋯えーと、確かその人は⋯⋯⋯⋯『朧』の第二席ですね。名前は、えーとたしか⋯⋯」

 早乙女がそう言って、思い出そうとする仕草をする場所へその者が襲いかかる。⋯⋯⋯⋯が、早乙女は特に問題なくスッとその場から離れた。

「朧十二衆、第二席『朧虎おぼろこ』だ。おい、そこに二人! 新屋敷ソラはわかるが、お前ら二人は何者だ、コラ?」

 朧虎おぼろこは、最初こそ威嚇のように大声を出したものの、すぐにソラ以外の二人の実力に気づき、冷静になっていた。

(な、なんだ、この二人は⋯⋯? かなり強いぞっ?!)

 本来であれば、朧虎おぼろこはソラを攫う予定でいたが、ここに来て『正体不明の存在アンノウン』が出てきたことによって、どうすればいいかを思考をフル回転させていた。

「そう⋯⋯ですね。詳しくは話せませんが、とりあえずは新屋敷ソラさんの『味方』ということでお見知りおきを」
「え? そうなの!?」

 鏑木は早乙女の発言に驚くも、

「まーそうだな。別に『敵』ってわけじゃないからな。ま、そういうことで!」

 と、鏑木もすぐに早乙女と同じくソラの仲間ということを示した。

「⋯⋯なるほど。ということは、お前らは我ら『おぼろ』の敵ということだな?」
「は? 別にお前らなんて敵も何も知らねーよ! ただ、新屋敷ソラに何かする⋯⋯ていうんなら『敵』になるだろうな」
「ええ。鏑木の言う通りです」
「⋯⋯そうか。ちなみにお前らの名前を教えてくれるか?」
「早乙女です」
「鏑木だ!」
「いや、答えるのかよ!?」
「え? まー聞かれましたから⋯⋯」
「い、いやいやいや!? そんな名前なんて教えたらこいつら組織に狙われるってことになるぞ?」
「構わねーよ! 別に『こいつら』になんて負ける気しねーし!」

 ソラが朧虎に名前を聞かれて即答した早乙女にツッコミを入れたが、二人は「だからどうした?」と大した問題じゃないように言う。

「随分、舐めたこと言うじゃねーか、小僧⋯⋯」
「あ? んだ、コラ? やんのか、おっさん?」
「いいだろう⋯⋯。俺自らの手で貴様をぶち殺して⋯⋯」
「はい、ストップ、ストーーーーーップ」
「「「「っ!!!!」」」」

 すると、そこにさらに別の何者かが割り込んできた。

「⋯⋯朧午おぼろうま!」

 その男は朧虎おぼろこと同じくらいの長身だが、だいぶ細身でヒョロっとした体躯をしている。

「やーやー兄貴。悪いが撤退命令だ」
「何っ?! 新屋敷ソラはどうすんだ!!」
「悪いけど、今回の拉致計画の3人は全員断念となる。失敗だ」
「なっ?! バカな!! じゃあ、せめて目の前にいる新屋敷ソラなら⋯⋯」
「ダメだ、兄貴! むしろ、新屋敷ソラこそ無理だ!」
「なぜ⋯⋯っ!?」
「新屋敷ソラは私たちが想定していた以上に強かったのと、あと、そこにいる二人の強さも正体も謎すぎる!」
「⋯⋯くっ! それは朧辰あのバカも了承済みか?」
「ああ。むしろ、これは辰兄の判断だ」
「⋯⋯わかった」

 そう言って、二人が俺たちに背を向ける⋯⋯⋯⋯その前に乱入してきた『朧午おぼろうま』が声をかけた。

「新屋敷ソラ、また会おう。あと、そこの早乙女と鏑木というお二方も、いずれまた⋯⋯」

 そうして、朧虎おぼろこと、気絶している朧亥おぼろい朧戌おぼろいぬを担いだ朧午おぼろうまは去っていった。


********************


 その後、他でも戦闘があったようだが何とか凌いだらしく死者はゼロだった。

「やー、無事か。新屋敷ソラ?」
「ゲオルグさん⋯⋯はい、大丈夫です」

 ゲオルグがソラを見つけ、声をかける。

「さて、疲れているところ悪いが、今回の『おぼろ襲撃』の件で情報収集も兼ねて、今から幹部を集めて話し合いをする。そこにソラ君も参加して欲しい」
「え? 俺が⋯⋯ですか?」
「ああ。連中の話では今回の襲撃は拉致計画のようで、その拉致の標的となった一人が君だからな」
「⋯⋯わかりました」
「それと、そこの二人⋯⋯⋯⋯君たちも同行願いたい」
「え? 俺たち?」
「いいのですか?」

 と、横にいた転移者の二人⋯⋯⋯⋯鏑木と早乙女にも声をかけた。

「良いも何も、君たちソラ君を助けてくれただろ? ということは、少なくとも私たちの敵ではないと思っているし、今後のことを考えたら必要だと思ってね。どうだい? それに君たちにとっても悪い話じゃないだろ?」
「!⋯⋯⋯⋯なるほど。私たちのことをある程度は知っているようですね?」

 早乙女がゲオルグの物言いに何やらピンときたのか反応を示す。

「⋯⋯詳しくは中で話そう」

 そう言って、ソラたちはゲオルグに引き連られ会場を後にした。



 こうして、『探索者世界会議シーカー・ワールド・フォーラム』初の日本開催は、秘密結社『おぼろ』の襲撃と謎の二人組の乱入と大波乱の中、幕を閉じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します

カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。 そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。 それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。 これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。 更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。 ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。 しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い…… これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。

女体化入浴剤

シソ
ファンタジー
康太は大学の帰りにドラッグストアに寄って、女体化入浴剤というものを見つけた。使ってみると最初は変化はなかったが…

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで

一本橋
恋愛
 ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。  その犯人は俺だったらしい。  見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。  罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。  噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。  その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。  慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──

処理中です...