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第三章
097「質疑応答②王明凛/ゲオルグ・シェフチェンコ」
しおりを挟む「意義あり! 中国の王明凛のソレは質疑とは関係ないもの! 質疑は中止させろー!!」
「そうだ、そうだ! 関係ない話をこんなところでするなー!」
「王明凛っ! 品がないぞぉー!!」
会場の数人が立ち上がり、「王明凛を退場させろー!」と声を上げる。すると、
「だーーーーらっしゃい!! このヘチマどもがぁぁ~~っ!!!!!」
突然、王明凛が物凄い大声量で威勢の良い言葉を放ち、会場で立ち上がった者たちを一瞬で黙らせた。
「まだ質疑時間はあるだろう~が、あぁ~?! 今はオープニングトークだろうが! それくらい、わかれや、ドシロートがぁ~~~っ!!!!」
先程まで、『儚げ美女』としてソラのまなこに映っていた彼女はもういない。むしろ、見た目とのギャップに恐怖さえ覚える、ソラ。ちなみに彼女の二つ名は『氷結女帝』⋯⋯まるで粉雪のような儚げな美しさとそこに滲み出る暴力が同居するという探索者の中でも超有名人の一人である。
「おほほほ⋯⋯。失礼しました、ソラ。さてさて、お話の続きはまた今度ということで⋯⋯。では早速、今回の『魔物暴走』についてのお話を⋯⋯」
王明凛はすぐに最初の『儚げ美女』に戻るも、ソラ的には『時すでに遅し』となっていた。それは空だけでなく、会場も「どうせビジネスの話とかそんなんだろっ?!」などと⋯⋯⋯⋯完全に油断をしていた。
「⋯⋯さて、新屋敷ソラ。あなた、魔法やスキル以外に別の能力を持っていたりしませんこと?」
「っ!!!!」
さっきまでのおちゃらけた内容から一変! いきなり核心的な質問を仕掛けた王明凛。完全に油断していたソラや『恩寵』を知っている関係者の表情が一斉に困惑色に染まる。
「あら? あらあらあら? 良い表情しますね~。⋯⋯なるほど。持っているのですね? これは、これは」
「あ、いや⋯⋯別にそんな⋯⋯こと⋯⋯は⋯⋯」
必死に否定するソラだったが、しかし、
「ええ、ええ、大丈夫ですよ、ソラ。私は『秘密を守れる女』ですから。否定とかそんなのは大丈夫ですよ。今度またビジネスパートナーとしてお会いしましょう。私の質問は以上です」
「ちょ、ちょっと⋯⋯王さんっ!?」
まるで役者が違った。
ソラは王明凛の巧妙な仕掛けに完全に敗北を喫した。
「中国本部ギルドマスターの王明凛か。⋯⋯⋯⋯ある意味、一番恐ろしい人物だ」
ソラは最初っから王明凛の手のひらの上だったことを体験し、王明凛の強さを知るものの、むしろ⋯⋯『畏怖』のような、恐れ敬う想いのようなものが湧き上がるといった不思議な感覚に包まれていた。
これが後に、長い付き合いとなる王明凛との最初の出会いだった。
********************
「質疑応答はこれで最後となります。最後の質問者は⋯⋯⋯⋯ロシア本部ギルドマスターにして、探索者世界ランキング第1位。世界最強の男ゲオルグ・シェフチェンコぉぉ~~~っ!!!!」
ウワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ~~~っ!!!!!
ここで、質疑応答の最後の質問者として登壇したのは、
「ありがとう! 声援ありがとう、皆の者!」
インフィニティロシア本部ギルドマスター、そして『世界最強の男』という唯一無二の二つ名を持つ探索者⋯⋯⋯⋯ゲオルグ・シェフチェンコ。
そんな『世界最強の男』の登場に、会場内が異様な興奮に包まれる。
「で、でけえ⋯⋯。わかっていたけど、間近で見ると本当にでけぇ~」
「」
舞台に上がったゲオルグ・シェフチェンコを見て、ソラが一言⋯⋯、
「き、巨人⋯⋯かな?」
身長175センチあるソラでも上を見上げるほどの巨体。そんな、ゲオルグ・シェフチェンコの身長は脅威の210センチ。もはやクマーである。
「はじめまして、ミスターソラ。会いたかったデス!」
そう言って、巨体がニッコリ笑顔で挨拶をする。
「ど、どうも⋯⋯」
あまりの体格差に「とりあえず、無難に遣り過ごそう」と決めるソラ。
そして、後の質問者として登壇したゲオルグ・シェフチェンコが静かに話を始めた。
「皆、今日は集まってありがとう。昨今、世界各地で『魔物暴走』が増えてきている。皆もそうであろう?」
ゲオルグの問いに、会場の誰かが元気よく相槌のような返事を返す。
「確かに、ソラ君の強さを知りたいのはわかる。しかし、それよりもまず最近の『魔物暴走』についての話も大事だ。そうだろ? そこでだ⋯⋯ソラ君。君にその時の魔物の状態をいろいろと教えて欲しいんだ」
「魔物の⋯⋯状態?」
「そうだ。魔物は狂化状態だったと思うが、他に気になった点などはなかったかね?」
「気になった点⋯⋯ですか? そうですね~⋯⋯」
(う~ん、何かあっただろうか?)
「そう⋯⋯ですね⋯⋯俺がダンジョンボスを倒した後、狂化状態のはずの魔物が逃げるような行動していたとか⋯⋯ですかね?」
「何っ!? 狂化状態の魔物が⋯⋯逃げるだとっ?!」
「はい」
「バ、バカな⋯⋯そんなの聞いたことないぞ? 狂化状態の魔物が逃げるなんぞ⋯⋯」
ゲオルグはソラの言葉にさっきまでの余裕を無くしていた。
「ソ、ソラ君から逃げるため⋯⋯ということか。ふ~⋯⋯なるほど。どうやら君は私たちが思っている以上にトンデモない化け物のようだね?」
「え、ええっ?! そ、そんなこと、ないですよぉ~~っ!!」
(い、いやいや、クマーなあんたに『化け物』とか言われたくないんですけどぉー!)
「フッ⋯⋯前言撤回だ。やはり、まずはこの『新屋敷ソラ』が何者かというのを知ることが最優先かもしれんな(ニィィッ!)」
そう言って、ゲオルグが怪しげに微笑む。
「い、いやいやいや⋯⋯! 俺は何も悪いことなんてしてませんから! そんな⋯⋯獲物を狩るような目はうやめてもらっていいっすかぁ!?」
ソラがゲオルグの射抜くような視線にクレームを申告する。
「ハッハッハ⋯⋯冗談、冗談だよ、ソラ君!」
「な、な~んだ。は⋯⋯はは⋯⋯は⋯⋯」
「会議の閉幕後に行われる『腕試し大会』。今年は私もぜひ参加しよう! ソラ君、負けないぞっ!!」
「え? あ、俺、今日はちょっと体調が⋯⋯持病の痛風が⋯⋯」
「ハッハッハ! そこまで体ができているやつが痛風なわけないだろう! 全く、可笑しなことを言う! 大丈夫! 君なら大丈夫だ、ソラ君! そういうことで、レヴィアス共々後ほどな、ソラ君っ!!」
「えっ!? あ、ちょ、ちょっとぉ~~っ!! ゲオルグさ~んっ!!!!」
ソラは声を張り上げ、ゲオルグを必死に止めようとするも、ズンズンと席に戻っていった彼を止めることはできなかった。
こうして、日本初開催となった『探索者世界会議』の最後は、ソラがレヴィアス・アークシュルトとゲオルグ・シェフチェンコという探索者世界ランキング第1位と第2位から対戦相手として熱烈指名を送られるという前代未聞の出来事で幕を閉じたとさ。
めでたし、めでた⋯⋯し⋯⋯?
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