85 / 157
第三章
085「食事会④」
しおりを挟む「さて、色々と話をしたが細かい話はまたこの後するとして⋯⋯。とりあえず、君たちをここに呼んだのはそんな我々の活動に協力してほしいということなんだ」
と、健二が三人に説明をする。
「ちなみに私たちは組織で動いている。その組織の名は⋯⋯⋯⋯『天罰』」
「「⋯⋯『天罰』」」
「そして、敵は『朧』という秘密結社の組織で、その組織をまとめているのが『不穏因子』の奴でそいつは『裁定者』と呼ばれている」
「「朧⋯⋯裁定者⋯⋯」」
「ああ、そうだ。こいつらは探索者を敵視している者たちで構成されている。ちなみにこれまでも有名探索者たちがこの『朧』に狙われたりすることがあったが、今年は特にその動きが活発化するだろうと私たちは考えている」
「「えっ!?」」
「そういったわけで、今は君たちはもちろん他の有名探索者や探索者集団にも声をかけている最中だ。これからはこれまでのようにただ待つではなく、こちらから仕掛けていこうと思っていてね。だからその時は君たちにもぜひ協力して欲しい」
「ソ、ソラ君はともかく、私や唐沢はそんな期待されるほどの実力なんてありません」
「そうです! 俺や胡桃沢ではとてもそんな役に立てるなんて思っていな⋯⋯」
「そんなことはないぞ、星蘭、唐沢君!」
「っ!! お父⋯⋯様?」
「⋯⋯勝己さん」
「お前も唐沢君も十分な戦力だ。それは間違いない。だからそのことについては心配せずしっかりと胸を張りなさい」
「! お、お父様⋯⋯」
「は、はい!」
胡桃沢は勝己の言葉に驚きつつも嬉しそうな笑みを浮かべ、唐沢は憧れの勝己にそんな言葉を貰って手放しに喜んだ。さらに勝己が続ける。
「はっきり言ってソラ君だけじゃなく、お前たちの今の力も十分戦力になる。ただもっと言えば、今以上の成長にも大いに期待しているのも確かだ。だからどうか⋯⋯⋯⋯力を貸して欲しい」
「お父様!」
「っ!? そ、そこまで⋯⋯勝己さんが俺や胡桃沢のことを⋯⋯」
胡桃沢も唐沢も勝己のその発言に魂を大きく揺さぶられる。
「唐沢君。君が私のファンだということは娘から聞いている。嬉しいよ」
「い、いえ⋯⋯そんな⋯⋯」
「であれば、私のことはよく知っているだろう?」
「は、はい! お、俺は、勝己さんの『男気』が大好きなんです! 俺も勝己さんのような『男気のある探索者』になりたいですっ!!」
「うむ。良い目をしているな。君なら大丈夫だ! 私のように⋯⋯いや私以上になれるだろう!!」
「ええっ!? そ、それは、さすがに⋯⋯」
唐沢は、勝己のあまりの手放しな褒めっぷりに嬉しさ以上に戸惑ってしまい最終的に⋯⋯⋯⋯思考を投げた。
「お、お父様! 唐沢があまりの嬉しさに頭をショートさせてしまったじゃないですかっ!?」
「ハッハッハ! すまん、すまん! まーとにかくだ。我々としては君たちを戦力として考えているし、同時に敵から襲われても大丈夫なように抱え込みたいとも思っている。だから、君たちには我々の組織に入って欲しい」
と、勝己がソラだけでなく『新進気鋭』三人の力を戦力として考えていると同時に保護するためでもあるという話をして、改めて組織の加入を進めた。
「俺は入ります!」
「わ、私も!」
すると、唐沢と胡桃沢が同時に組織への加入を表明する。
「そうか、ありがとう⋯⋯」
そう言って、勝己が唐沢と胡桃沢と握手を交わす。そして、
「さて、残るはソラ君だが⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
「お、おい、ソラ?」
「ソラ君?」
唐沢と胡桃沢は、ソラも自分たちと同じように組織に入ることをすぐに了承すると思っていただけにソラがすぐに返事をせず考え事をしていることに少し驚いていた。
「そうですね。一つ尋ねたいんですけど⋯⋯⋯⋯」
「何だね?」
「組織の活動に協力はするけど加入はしない⋯⋯⋯⋯ってのはダメですか?」
「ええっ?! ソラ、お前入らないのかっ?!」
「ソラ君っ!!」
「ん? ああ、そうだな~⋯⋯本来ならソラ君にも組織に加入して欲しいのだが、ただまあ、さすがにソラ君は二人とは事情が違うからな~」
「⋯⋯⋯⋯」
そう言って、ニカッと笑いながらソラに顔を向ける勝己。そして、その勝己の言葉に静観するソラ。すると、
「⋯⋯勝己。ここからは私とソラの二人だけで話す」
「そうか? ま、そうだよな。じゃあ、唐沢君と星蘭は私と健二で向こうで食事をしようか」
「「え? え?」」
勝己が唐沢と胡桃沢に声をかけると強引に部屋から連れ出した。唐沢と胡桃沢は突然の退出に戸惑うもあれよあれよと部屋から出される。
最後に、部屋から出ようとした健二が一度足を止めると、
「⋯⋯賢者」
賢者に声をかけた。
「なんだ?」
「ソラを⋯⋯⋯⋯よろしくお願いします」
「!」
神妙な面持ちで声をかけた健二の言葉に込められた想いを察して賢者が目を見て返事をする。
「ああ、まかせろ」
その賢者の言葉を聞いて安心した健二は最後にソラに言葉をかけた。
「それじゃあ、ソラ。またあとでな」
「⋯⋯あ、ああ」
そうして、二人を残して皆が部屋から出ていった。
********************
「さて、ソラ⋯⋯さっきの話の続きになるが、実は君には組織加入を⋯⋯⋯⋯求めてはいない」
「何っ?!」
いきなり、さっきの勝己の話とは違うことを言う賢者に驚くソラ。
「まー組織に入ってもらってもかまわんが、しかし君もいろいろ考えているんじゃないか? 例えば⋯⋯⋯⋯君と同じ転移者の捜索とか?」
「! まーそうですね」
「ふむ。であるならば、やはり君は組織に属するよりも自由にしたほうがいいと私は思っているんだ。まーその辺が勝己や健二とは異なる意見なんだがね⋯⋯」
「そう⋯⋯なのか?」
意外だった。てっきり、この『天罰』という組織は賢者が頂点⋯⋯リーダーと思っていたからだ。
「まー勝己もそうだが、健二は特に君の父親だからね。そりゃ過保護になるのもわかるだろ?」
「まーたしかに」
「ふむ。だが、君はまた違うだろ、ソラ? 私もそうだったがこの『並行世界線の地球』での家族はまったく同じではあるのだが、しかし⋯⋯⋯⋯やはりどこか『他人』の感じを受けてしまうだろ?」
「なっ?!」
賢者が言ったその言葉はソラがこれまでずっと内に抱えていた『誰にも言えない不安』だった。そう、賢者の言う通り、ソラはこの世界⋯⋯『並行世界線の地球』の家族への『違和感』がどうしても拭えていなかった。とはいえ、普段はそんなことを考えないよう無理矢理にその気持ちを表に出さないようにしていた。
「まー無理もないが、ただ一つだけ言っておこう。お前のその『違和感』は別に間違ってはいない。⋯⋯普通だ」
「⋯⋯え?」
賢者の意外な発言に少し戸惑いを見せるソラ。
「この世界はダンジョンや魔法といった元いた世界の地球には絶対にない『ファンタジー』が常識となった世界だ。そして、それが人々の常識にある以上、家族だけでなく目に入るものすべて違和感だらけなはずだ。だから、その認識で正しい。だが、家族に対しての違和感に罪悪感を抱えることは一切ない!」
「!」
「考えてもみろ? 今お前はまだこの世界に来て1年も経たないんだぞ? そんな奴が外国の文化や常識にすぐに慣れると思うか? しかも、この世界は外国に暮らすのとはワケが違うレベルの文化や常識が存在する世界だ⋯⋯そうだろ?」
「⋯⋯た、たしかに」
「だから、罪悪感なんて抱えるなって言ってるんだ。それにその『違和感』を持っているのは良いことだ。防衛本能と言えるものだからな」
「防衛⋯⋯本能」
「そうだ。さっき私が敵の説明で『不穏因子』と言っただろ? あれはお前も気づいたと思うが我々『転移者』のことを差している」
「っ!!!! ちょ、ちょっと待てっ!?」
「ん? どうした?」
「い、いや、どうしたも何も! 我々って、あんたも敵も『転移者』なのかっ?!」
「あれ、言ってなかったか? ああ⋯⋯言ってなかったな。すまない、すまない。そうだ、私も敵も転移者だ⋯⋯⋯⋯⋯⋯20年前のな?」
「に、20年前ぇぇ~~~っ!!!!」
いきなり、サラッととんでもない情報をぶっ込んできた賢者であった。
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……
Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。
優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。
そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。
しかしこの時は誰も予想していなかった。
この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを……
アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを……
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる