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第二章

078幕間「時は動き出した(それぞれの思惑)①」

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「新屋敷⋯⋯ソラ」

 男は目の前にある100インチ大型ディスプレイに映し出された人物を見てボソッと呟く。

「⋯⋯賢者ワイズマン
「何だ?」

 男に声をかけたのは、全身黒装束の人物。体の線からして女性のようである。

「新屋敷健二様から『早急にソラとの面談を』とのご連絡が⋯⋯」
「うむ、わかった。もはや、時は動き出した・・・・・・・ようだからな。来月の各国ギルドの来日前の⋯⋯そうだな、1月5日で準備するよう伝えろ」
「はっ!」

 返事をした黒装束はその場から消えた。


 彼女が消えた後、男⋯⋯賢者ワイズマンは再度大型ディスプレイに映る新屋敷ソラを見つめる。

「⋯⋯転移者か。私がこの世界⋯⋯『並行世界線イフライン』に来たのが2004年だからちょうど20年前ということになるか。フフ⋯⋯ずいぶんと経ったような、あっという間だったような⋯⋯」

 男は一人笑う。

「さて⋯⋯今回、新屋敷ソラが表舞台に立ったことで各国の探索者シーカーギルドの顔役たちが動き出すだろう。また、それに呼応するように新屋敷ソラ以外の四人の転移者たちも動き出すだろうな。そして⋯⋯」

 男は手元にあるグラスを手に取り口に含む。

「⋯⋯謎の秘密結社『朧』。奴らも何らかのアクションがあるはず。そして、それは『朧』の首領ドンである『裁定者ジャッジメント』が表に現れる可能性もあるということだ」

 男はそう言って、拳に力を込める。

「『裁定者ジャッジメント』。今度こそ見つけ出し、私の手で確実に⋯⋯⋯⋯仕留める!」


********************


——某国/地下施設

「首尾はどう?」
「はっ! 滞りなく!」
「うんうん」

 男の問いかけに即答する部下を見て満足そうな顔をして歩を進める。

朧子おぼろねちゃ~ん!」
「ちゃん付けすんなしっ! バカタツっ!!」

 ドゴン!

 決して、ささやかじゃないゲンコツを『バカ辰』にお見舞いする朧子おぼろね

「痛い! 痛いよ、朧子おぼろねちゃ~ん⋯⋯」
「コラコラ、朧子おぼろねちゃん。朧辰おぼろたつ様は『組織の第一席』⋯⋯ですからね? もう少し、言葉遣いに気をつけなさい。あと、殴るのもダメよ?」
「だってぇ~朧巳おぼろみ姉さ~ん!! バカ辰の奴が私のこと『ちゃん付け』するから~。私、何度もバカ辰にちゃん付けされるのは嫌だって言ってるのにぃぃ~」

 幼女のような姿の朧子おぼろねが妖艶極まりない朧巳おぼろみの豊満な胸に泣きつく。その際、バイ~ンという効果音が聞こえるくらいには朧巳おぼろみの胸が揺れたのを『バカ辰』こと⋯⋯『朧第一席』である『朧辰おぼろたつ』はしっかりとそのまなこに捉えていた。

「うんうん、わかりました。じゃあ、私のほうから行っておきますね⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯朧辰おぼろたつ様?」
「(びっくぅぅ⋯⋯っ!?)は、はいぃぃ~~っ!!」
朧子おぼろねちゃんは朧辰おぼろたつ様にちゃん付けで呼ばれるのは嫌だそうです」
「⋯⋯はい」
「しかも、何度も嫌だと言っているとのことですがそうなんですか?」
「あ、いや~、それは~⋯⋯⋯⋯朧子おぼろねちゃんの照れ隠しかな~って⋯⋯」
「つまり、言っていたということですね?」
「っ!? は、はいぃぃ~~っ!!!!」

 朧辰おぼろたつは今『蛇に睨まれた蛙』のように朧巳おぼろみの睨みを一身に受け、身を縮こませていた。実際、朧巳おぼろみは『巳=蛇』なので本当に『蛇に睨まれている』と言っても過言ではない。⋯⋯まーその睨まれている対象は『蛙』ではなく『辰=龍』なので、だいぶ『ことわざ』とは異なるのだが。

朧巳おぼろみぃぃ~~~っ!!!!」
「はっ! 朧虎おぼろこ様!!」

 すると、突然怒鳴り声が施設内にこだました。

 その怒鳴り声の張本人は『朧第二席』の『朧虎おぼろこ』。ちなみに、朧巳おぼろみは『朧第五席』で朧子おぼろねは『朧第八席』である。

首領ドンより指令が入った。今度、日本に集まる各国の探索者シーカーギルドが集まる中でターゲットが三人現れる。そいつらを⋯⋯⋯⋯攫うぞ!」
「かしこまりましたっ!!」
「え? 仕事っ?! 虎兄ぃ~、仕事なのぉ~っ!!」
「だ~~~暑苦しいぃぃ~~っ!? いちいち毎回くっついてくるなぁぁ~~っ!!!!」
「だってぇ~! 虎兄ぃ~!」
「グ、グリグリすなぁ~っ!!!!」
「⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」

 朧子おぼろね朧虎おぼろこがイチャついてた。というより、朧子おぼろねが無理矢理朧虎おぼろこにくっついていた。そんな二人をジト目で見る朧辰おぼろたつが一言。

「えーと⋯⋯⋯⋯泣いていいかな?」
「ああ、いいぞ」

 そう言って、朧辰おぼろたつがオイオイ泣き出した⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯朧巳おぼろみの胸に顔をうずめて。


 ドゴッ! ボグッ! グシャァァ~⋯⋯っ!!


 そんな朧巳おぼろみの足元には涙だけでなく血や謎の液体を吹き出し肉塊と化した⋯⋯かつて『朧辰おぼろたつだったモノ』が無造作に転がっていた。
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