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第二章

077「竜ヶ崎真司の苦悩と決断」

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「何だ! 何なんだ、あいつはっ!? 新屋敷⋯⋯ソラ! な、何であいつは、あんなに⋯⋯⋯⋯強いんだっ!!!!」

 そんな憎しみのこもった言葉を発して机を叩いたのは、ギルド本部にある副ギルドマスター『橋爪茶涼はしづめさりょう』の部屋にいた竜ヶ崎真司。

「え、ええ、そうですね⋯⋯正直驚きです。まさか、新屋敷ソラがあそこまでの強さだったとは⋯⋯」

 そして、この部屋の主人である橋爪茶涼も竜ヶ崎に同情の意を示す。

「あ、あいつ⋯⋯さっきの記者会見で「レベル60ぅ⋯⋯」という言い方をしていた。それってつまりレベルが60以上あるって言っているようなもの⋯⋯。僕でさえ、まだレベルは49だというのに⋯⋯一体どうやってそこまで強く⋯⋯」

 竜ヶ崎が椅子に座りながら頭を抱えてそう呟く。

「新屋敷ソラがレベル60以上というのははっきりしていません。とはいえ、その確認をする術もないですが⋯⋯」
「ステータスの公開を要求できないのか?」
「要求はできます。でも、探索者シーカーがその要求に応じる義務はありません。なんせ、探索者シーカーがギルドに探索者シーカーレベルを報告する義務なんてありませんので⋯⋯」

 そう、ギルドへの探索者シーカーレベルの報告はあくまで『任意』である。

 ただ、その分協力してくれる探索者シーカーには、それなりの給金を渡すらしい。

「チッ! 使えないな!!」
「⋯⋯申し訳ございません」


********************


「真司様」
「なんだっ?!」
「真命様⋯⋯⋯⋯お父様から何か話を聞いていないですか?」
「ん? 話? 何のことだ?」
「何と! まだ聞いていないのですね!!」

 橋爪がワザとらしくリアクションする。

「そんなのはいい! このタイミングでなぜそんなことを言う? 新屋敷ソラの強さの話と何か関係があるのか?」
「⋯⋯さすが、真司様。鋭いですね。はい、仰る通り関係のある話でございます」

 そう言って、橋爪が自身の机から立ち上がり窓の近くへ歩き外を眺める。

「今、真司様が飲まれている『魔力強化薬』ですが⋯⋯最近はいかがですか?」
「む? 魔力強化薬だと? そうだな⋯⋯最近は効き目をあまり感じないな」
「⋯⋯やはり、そうでしたか」
「どういうことだ?」
「おそらく、真司様の今の体ではこれ以上魔力強化薬を飲んでも魔力が増えることはないでしょう」
「何っ!?」
「真司様は、これまでお父様が開発中の『魔力強化薬Ver.2.0』を飲むことで高い魔力量を得ることができ、他を寄せ付けない圧倒的な成長スピードでC級ランカーへとなられた。しかし、この薬の効果が効かない今はその魔力量がこれ以上増えることはないため、現在の『C級ランカー上位』からの成長スピードは望めないかと」
「⋯⋯⋯⋯やはり、そうか」
「! 真司様もお気づきだったんですか?」
「⋯⋯ああ、まーな。ただ、誰かから聞いたわけではない。あくまで感覚的にではあるが⋯⋯」
「そうですか」
「⋯⋯⋯⋯」

 二人の間に一瞬の沈黙が流れる。

「真司様。実は真命様から『言付け』を頼まれております」
「言付け?」
「はい。『もし真司が望むのであれば、魔力だけでなく身体能力も含めて大幅に向上する薬を用意する』とのことです」
「何! そんなものがっ?!」
「はい。その薬は『覚醒ポーション』というものだそうです」
「覚醒⋯⋯ポーション」
「はい。ただし、この薬は『副作用』が激しいらしいので慎重に考えて欲しいとのことです。効果は著しいが無理はしてほしくないとのことですが⋯⋯」
「そうか。お父様がそのようなご心配を⋯⋯僕に⋯⋯」
「はい」

 お父様が私の身をそこまで案じてくださるとは⋯⋯。

 ならば、それこそ! 僕はお父様の期待に応えたいっ!!

「わかりました。では、お父様に伝えてください⋯⋯⋯⋯真司は『覚醒ポーション』を欲していると!」
「⋯⋯よろしいのですか?」
「ああ、問題ない。薬の副作用よりも成長スピードが止まることのほうが⋯⋯僕には辛い」
「⋯⋯わかりました。では、そのように真命様にご報告いたします」
「頼む」


 僕は新屋敷ソラには負けない!


********************


「ふふふ⋯⋯うまくいきましたよ、真命様」
「そうか。真司が受けてくれたか」
「はい。真命様の予想通りの反応・・・・・・・でした」

——ここは竜ヶ崎真命の会社『竜ヶ崎ファーマ』の社長室

 橋爪は真司とのやり取りの後、真命からの呼び出しで『竜ヶ崎ファーマ』に来ていた。

「⋯⋯それにしても、私が言うのもなんですがいいのですか?」
「何がだ?」
「真司様は真命様のご子息ではございませんか。そんなご子息様に『人体実験』をするというのは⋯⋯」
「ん? 真司は確かに息子ではあるが血は繋がっておらんぞ?」
「は?」
「奴は、研究所で用意した培養人間⋯⋯『贋作フォージュリー』に過ぎん」
「な、何とっ?! それはつまり、真司様のような子を複数人用意しているということですか?」
「そうだ。表向きには一人息子としているがな」
「な、なるほど⋯⋯」

 橋爪は真命の言葉に背筋を凍らせたが、相手に悟られないよう『何食わぬ顔』を続ける。

「とにかく⋯⋯この『覚醒ポーション』の人体実験は初めて・・・だ。詳細の記録⋯⋯頼むぞ、橋爪」

 そう言って、真命がギラリと睨みをきかす。

「かしこまりました、真命様」

 橋爪は涼しい顔を崩さず、真命に了承の返事をする。



(やれやれ⋯⋯。竜ヶ崎真命——敵に回すとやっかいだということを再認識させられましたね)



 第二章 完
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