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第二章
069「討伐隊結成」
しおりを挟む「よし。では⋯⋯⋯⋯行くぞぉぉぉ!!!!」
「「「「「おおおおおおおおおおおお~~~~~~っ!!!!!!」」」」」
一時間前——炎呪の呼び出しに集まったD級ランカー以上の探索者たちで結成された『討伐隊』。それらを率いて炎呪がダンジョンへと足を踏み入れた。
「皆の者、足を止めるな! 一気に38階層まで走るぞ! 遅れる者は構わん。自分のスピードで降りてこい! ついていける者は私についてこいっ!!」
「「「「「はいっ!!」」」」」
炎呪はそう言って、全速力で駆けていき、そんな炎呪の後ろには十数名の探索者たちがついてきている。その中には、
「炎呪さん、速ぇぇ!!」
「そりゃそうよ! だって、炎呪さんだもの!!」
唐沢と胡桃沢(炎呪推し)もいた。
ちなみに、炎呪についていけている周囲の人間はほとんどがS~C級ランカーで、D級ランカーは唐沢と胡桃沢二人しかいなかった。
そんなD級ランカーの二人が炎呪のスピードについていけてることに周囲は言葉には出さないが感心していた。すると、
「おい、二人とも」
「「あ、竜ヶ崎(くん)!」」
声のほうを振り向くと、そこには竜ヶ崎真司がいた。
********************
「——なるほど、そうだったのか」
唐沢と胡桃沢が竜ヶ崎に説明する。
「しかし、それだとしてもソラ君の今回の行動はあまり褒めたものとは言えないと思う。こういっちゃなんだけど、無謀極まりないというか⋯⋯」
「⋯⋯あ、ああ」
「そう⋯⋯ね」
竜ヶ崎の意見に二人とも納得する。
「いくら、ここ最近破竹の勢いで成長しているとはいえ、まだD級ランカーだ。まー実際、探索者ランクの適正レベル以上の強さを持っているのだろうけど⋯⋯。とはいえ、それだって高が知れているだろう。⋯⋯正直、ソラ君は最近有名になって調子に乗っているんじゃないかと僕は心配するよ」
と、竜ヶ崎が心配しているかのように苦い顔をする。
「そ、そんなことは⋯⋯っ!!」
「無い⋯⋯と言えるかい? 正直、今回のソラ君の独断について二人とも思うところがあるんじゃないか?」
「⋯⋯お、お前」
「例えば⋯⋯⋯⋯せめて魔物暴走の侵攻を遅らせるというのなら、どうして私たちに助けを請わなかったのか、とか」
「「っ!!!!」」
「図星かな? そりゃ、そんなの僕だって思うよ。だって、魔物暴走の侵攻を遅らせる目的なら当然一人よりも二人、二人よりも三人⋯⋯数が多いに越したことはないだろうからね。そうでしょ?」
「「そ、それは⋯⋯」」
唐沢と胡桃沢が再び苦い顔をする。
「その心の驕りが命に関わる——正直、ソラ君のことが心配だよ」
「「⋯⋯」」
二人はもはや竜ヶ崎の話をただ聞いていることしかできなかった。
「今、炎呪さんの呼びかけと迅速な行動で報告から1時間足らずでこうやって討伐隊を編成して向かっているけど、正直、ソラ君の状況は厳しいだろう。下手したら、もう彼はすでに⋯⋯」
「お、おい、竜ヶ崎っ!! てめえ、そんなこと言うんじゃ⋯⋯」
「冷静な状況判断の話だ! 感情的に突っかかるんじゃないっ!!」
「⋯⋯くっ!?」
竜ヶ崎の言葉についカッとなり胸ぐらを掴む唐沢だったが、すぐに竜ヶ崎から痛いところを指摘されると、その手を弱々しく離す。
「唐沢君や胡桃沢さんの気持ちもわかるが、一応覚悟はしておいたほうが⋯⋯⋯⋯いいと思う」
「「⋯⋯」」
二人は竜ヶ崎の言葉に何も言い返せなかった。
炎呪が中心となって1時間という短時間で討伐隊を結成し、魔物暴走鎮圧に向けて動いているのはとても迅速ではあった⋯⋯⋯⋯が、しかし、言い方を変えればソラは1時間も魔物暴走の渦中にいるということを意味する。
それはあまりにも絶望的な1時間であることは誰の目にも明らかだった。
竜ヶ崎はそれを指摘し、そして、唐沢も胡桃沢もちゃんとそれを理解していた。だから、何も言えなくなったのである。
(ソラはあの時自分たちのことを考えて「俺一人のほうが逃げられる」などと言ったのだろう。わかってはいた、わかってはいたが⋯⋯でも、心のどこかで⋯⋯ソラならもしかしたらこの魔物暴走を一人でも食い止められるんじゃないかという期待があった。それは胡桃沢も同じだろう)
(なぜなら、これまでソラを一緒にダンジョン探索をした数日間見ていたから)
(なぜなら、これまでまだ一度もソラの底を見たことがなかったから)
(しかし、それはやはり間違っていたのだろうか?)
(勘違いだったのだろうか?)
(正直、竜ヶ崎に指摘される前からその不安はあったが、今改めて考えるとやっぱりソラの今回の行動は軽率だったのは間違いない)
(だって、俺たちはまだD級ランカーの探索者でしかも新人だ。いくらソラが強いと言っても、竜ヶ崎の言う通り『高が知れている』だろう⋯⋯。だって、炎呪さんより強いわけがないし、下手したら竜ヶ崎以下かもしれない)
(だから、ソラが自分の強さを『過信』していたというのはあり得ない話ではない)
(別に「有名になりたい」とかそんな願望はないと思う。だけど、自分の強さに対しての過信はあったかも⋯⋯と竜ヶ崎に言われた時、俺は否定できなかった。それは、おそらく胡桃沢も同じことを考えていただろう。だから、竜ヶ崎の言葉に反論できなかったんだと思う)
唐沢は竜ヶ崎の言葉を聞いて、「あの時強引にでもソラを捕まえて転移水晶で地上に戻ればよかった」と後悔していた。——その時だった。
「皆、止まれぇ!!」
先頭の炎呪が突然声を上げた。それを聞いた討伐隊の進軍が止まる。
「何かが⋯⋯⋯⋯近づいてくる」
「「「「「っ!!!!!」」」」」
炎呪の言葉に隊に緊張が走った。
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