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第二章
026「胡桃沢星蘭の現在。それと・・・」
しおりを挟む彼女の名は、胡桃沢星蘭。
16歳。都内の高校に通う1年生。
彼女の朝は執事のモーニングコールから始まる。
【AM5:30】
本来、朝が弱い私ではあるが、いつもモーニングコールをしてくれる執事の『袴田』が私のことを熟知しているおかげで朝寝坊することなく起きることができている。ありがたい。
袴田は学校以外では、常に私の側にいて何でもテキパキ仕事をしてくれる超有能な『女性』だ。そう⋯⋯『女性』なのだが、彼女は外見は『男性』にしか見えない。しかも顔が良いだけに『普通にイケメン』なのだ。
本来、彼女はとてもきれいな顔立ちをしているので女性としてもすごく魅力的なのだが、「仕事に女は邪魔」という理由で長いロングの黒髪を普段からオールバックにして結っている。その姿はたしかに『男性然のイケメン』なのだが、私的には彼女の『女性としての可愛らしさ』を前面に出して欲しいと思っている。
私は『イケメンな彼女』より『美少女な彼女』のほうが好きなのだから。
私は何度も「女性らしくしなさい!」と言うのだが、袴田は「いえ、星蘭お嬢様をお守りするにはこの格好が最良ですので」と聞く耳を持たない。しかも普段、私には甘い両親もこの事については「袴田が正しい」ということで私の要望は却下された。
何よ、もう~! 袴田はすっごい美少女なのにぃぃ~!!
********************
私の父、胡桃沢勝己は『KZインダストリー』という探索者に必要な道具や便利な道具などを販売している会社を経営している。役職は『代表取締役社長CEO』という長ったらしい役職があるが要するに経営者、社長ってことよ。
国内32箇所、海外144拠点と世界規模で事業を展開。『探索者向け商品』の市場においてNo.1のシェアを誇っているわ。いわゆるグローバル企業ってやつね。
そんなお父様なので、日本に滞在していることは少ない。だから、お父様に会える日はとても楽しみでしょうがないわ。学校の友人とかモデル仲間からは「セイちゃん、マザコ~ン」と言って馬鹿にするけど、私からしたらその子たちが「きゃー、イケメーン!」と言って、しょうもない顔だけの男たちにバカ騒ぎしているのがよっぽど見てられないわ。
え?「友達に冷たくないか」ですって? 別に友達じゃないわよ。だって、学校の友人もモデル仲間も私の『父目当て』でお付き合いしているのは態度や雰囲気を見ればわかるもの。
小学校から近寄ってくるのはそんなんばっかだったし⋯⋯。まーでも、学生生活を送る上でそういうのも必要だと思ったからつきあっているだけよ。⋯⋯もう慣れっ子よ。
とにかく、『お父様の会社に泥を塗るようなことはしないように生きていく』『少しでも周囲との軋轢を生まないよう利口に生きていく』⋯⋯⋯⋯これが私の生きる道よ。
と、中学まではそう思っていた。
でも、高校に入学した時⋯⋯⋯⋯彼を見つけた。
「新屋敷ソラ」
初めて彼を見た時の話は前にもしたので省略するけど(※8話)、とりあえず、その後、彼とは友人関係にまでなった。私の一方的なプッシュで。
まーでも、それくらい私は彼になぜか惹かれていた。
ちなみに一度、お父様に会う機会があったときソラ君のことを話したら、
「そ、そうか! お、おほん⋯⋯! で、では、今度家に遊びに連れてくるといい。その時は事前に父さんに必ず連絡するんだよ? 私も会ってみたいからな」
と、信じられないことを言っていた。
だって普段、世界中を飛び回って多忙なはずなのに、ソラ君の話をしたらお父様のほうから「私も会いたいから事前に必ず連絡しなさい」なんて言ってきたのよ! 特に『必ず』を強調して!⋯⋯⋯⋯こんなの初めてだわ。
「どういうつもりかしら⋯⋯お父様?」
もしかすると、ソラ君が実は『高校生探索者』であることを言ったからだろうか?
一応、『ソラ君が高校生探索者であること』は、事前にソラ君にお父様に伝えていいか確認をして了承を得ていたのでその話はした。でも、
「話してよかったのかしら⋯⋯? まさか、お父様があれほど食いつくなんて思ってもみなかったもの⋯⋯」
まー確かに『高校生探索者』は珍しいといえば珍しいけど、ただそれだけでお父様が「ソラ君に会ってみたい」なんていうのはどうしたっておかしい。それをいったら『乾坤一擲』の蓮二さんのほうがソラ君より『格』も『希少性』も上だもの。
でも、お父様は普通に蓮二さんが会いたいと言っても断ることは多々ある。というか、そもそもお父様から「会ってみたい」なんて言葉を引き出すこと自体が異常なのだ。
「ソラ君にはお父様を惹きつける何かがあるってこと?『高校生探索者』だけじゃない、他にも何かが⋯⋯?」
その後いろいろと思考を巡らしたが、結局私の中ではその疑問の答えは見い出せなかったので一旦保留とした。
「まーとりあえず、ソラ君が家に遊びに来るまでには、何としてもその秘密を⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯っ!?」
と、ここで私は『ある事実』にやっと気づいた。
「ちょ、ちょって待って?! ソラ君の秘密以前にそもそも、どうやってソラ君を家に誘えばいいのよ! しかも女性から自分の部屋に誘うってどうなの!? 乙女的にそれはアウトなのでわっ!!!!」
お父様が「私も会いたいから家に連れてきなさい」と言ったことに驚いてすっかり失念していたわ。
ソラ君を誘う?
家に?
どうやって?!
「で、ででで、でも、ソラ君とはもはや学校ではつるむほどの仲良しさんじゃない? だったら、別に友達の家に遊びに行くとかフツーよ、フツー。女性とか男性以前に私とソラ君は『お友達』なのだから! 私が家に誘ってもはしたないことなんてないわ! うん! そうよ! 絶対そう!」
目の前にぶら下がる『ソラ君ご招待』を前にして、もはや私の『乙女道』など脆くも崩れ去った。
「乙女道? は? 何それ、おいしいの?」
そうして、私は「どうやったらソラ君を自然な形で家に招き入れることができるか」という命題の解を求め、ノートを開き計画を練る。
********************
「ふ~⋯⋯『ソラ君』か。まさか星蘭の口から彼の名前が出てくるとはな⋯⋯」
タバコをふかしながらそう言う彼は、右手に持ったウィスキーのグラスを口へと運ぶ。
「いや~私も驚きましたよ。まさか、勝己さんの娘さんからウチの息子の名前が出てくるなんて。てか、あいつ、いつの間に⋯⋯。かなりの人見知りで友達がいないみたいで心配だったが星蘭ちゃんと友達になったのか。親としてはうれしい限りだ」
そう言って、男の横で果汁100%オレンジジュースを飲む一人の男性。
「しかし、すでに友達だったとは⋯⋯⋯⋯これは偶然か、健二?」
「さーてね。しかし、まさかウチの息子があの『関東C24』のダンジョン主トロール・オークを狩った『高校生探索者』だったとはね⋯⋯。正直、現役時代の自分でも探索者になって2ヶ月でトロール・オーク倒すなんてあり得ないからな~。あいつ、すごいな⋯⋯」
「それは俺も同じだ。あの特殊な皮膚で刃物を簡単に通さないトロールオークを、デビュー2ヶ月の新人がセールで売ってるような安物の剣で一刀両断なんてあり得んわ!」
そう言って、二人がソラの功績について感想を述べる。
「まーだからこそ、それだけの強さを持つソラが、例の噂の確証となる可能性が出てきたわけですけどね⋯⋯」
「ああ。今まで上がっている情報がすべて事実ならまず間違いないだろう。『賢者』が言っていた『共通点』とほぼ一致するからな」
そう言って、グビっとウィスキーを一気に飲み干すのは胡桃沢星蘭の父⋯⋯⋯⋯胡桃沢勝己。そして、
「⋯⋯新人にしては異様なまでのあの強さと成長速度。やはり、息子は間違いなく『並行世界線に選ばれし転移者』って奴なんだろうな」
そう言って、ゴクッと残りの100%オレンジジュースを流し込んだのはソラの父親⋯⋯⋯⋯新屋敷健二。
「さーて⋯⋯これから忙しくなるぞ、健二!」
「わかってますって。まーでも、しばらくは『知らないフリ』を通しますがね」
「もちろんだ。⋯⋯⋯⋯悟られるなよ?」
「その言葉、そっくりそのままお返しします」
物語は『水面化』で動いていた。
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