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第二章

025「新屋敷ゆずの現在」

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 彼女の名は、新屋敷ゆず。

 15歳中学3年生。彼女の朝は夜明けよりも早い。



【AM4:30】

 いつもの時間に起床。

 すぐに朝の日課ルーティンである『お兄ちゃんのお部屋チェック』を済ませる。


(よし、異常なし)


 私は指差呼称を交えて小声で確認完了の言葉を呟く。

 小声なのは、お兄ちゃんをこんな時間に起こしてしまうのは迷惑かけてしまうし、かわいそうだし、こんな時間に部屋に侵入している言い訳が苦し過ぎるし(※本音)⋯⋯などなど、いろいろと気を遣っているからだ。

 私はお兄ちゃんが大好きだ。大好物と言っても過言ではない。むしろ、言い足りない感が常に心を支配する。まーそれくらい『お兄ちゃんラブ』な私である。

 そんな『お兄ちゃんラブ妹』としては、常にお兄ちゃんに『変な虫』がついていないかのチェックは怠らない。こんな初歩的なことを怠るような『自称お兄ちゃんラブ勢』がいたら、この手で教育的指導を施したいくらいには覚悟がキマっている。

 そんな私だが、でも普段は懸命に『お兄ちゃんラブ』を徹底的に隠している。

 なぜかというと、そのまま『お兄ちゃんラブビーム』を浴びせてしまったら、お兄ちゃんはたちまち引くと思われるからだ。だって、私のラブビームは熱量増し増しだもの・・・・・・・・・

 ということで、現在は『思春期で難しいお年頃』という免罪符・・・を利用して、ツンデレの『ツンのみ』を全面に押し出してお兄ちゃんとの関係を維持している。結果、お兄ちゃんとの会話では『引き気味な態度』とか『あっさりとした返事』などが目立つので、周囲からは「あんまり仲良くないの?」と心配されることが多い。


 ふっふっふ、これは作戦なのだよ?(ニチャア)


 ただ、ツンのみこればかりだとさすがによくないし、私のストレス(お兄ちゃんを愛でれないストレス)も溜まるので、適度に『お兄ちゃんのこと、本当は嫌いじゃないんだぞ!』くらいの気持ちは出すようにしている。⋯⋯が、たまに想いが溢れすぎて必要以上に『デレ』が漏れることがあるのでそこは注意が必要だ(テヘペロ)。


********************


 今から2ヶ月前——夏休み明けの二学期初日の朝(AM4:30)、私はふとした違和感・・・に包まれた。

 ただ、それが何なのかはわからなかった。それに、その日の朝の日課ルーティンでのチェック自体はいつも通り何も問題はなかった。⋯⋯でも⋯⋯でも⋯⋯直感というか、


「根拠も確証もないけれど、確実にそこにある圧倒的違和感」


 とでも言うしかない。

 そんな初めての感覚に私は朝(AM4:30)から混乱していた。

 結局、今となってもそれがなんだったのかはわからない。

 でも、『圧倒的違和感』があったことは今でも鮮明に覚えている。


 実際、その日を境にお兄ちゃん⋯⋯⋯⋯『新屋敷ソラ』は変わった。


********************


 それは、夏休み明けの二学期初日の朝のことだった。

 その日もいつものように朝食の時間に皆が居間のテーブルに集まり食事が始まる。ちなみに、新屋敷家では『朝ごはんはできるだけみんなで食べるようにする』というルールがあり、それは厳粛に守られている。

 もし、そのルールを『理不尽に(理由なく)破った者』は、母の『52の関節技サブミッション』による処刑が約束されている(※いいよね、キ○肉マン!)。

 直近だと、父さんが母の『52の関節技サブミッション』の一つ『地獄の卍固め』を食らっていた。

 母さんは普段、外見どおりいつもニコニコしていてただただ優しい。また母さんに向かってバカにするようなことを言う連中に対しても、母さんは特に怒ることなくいつもニコニコしている。

 そんな母さんだが、ただし大切な家族や友人に理不尽が降りかかると『豹変』する。


 一度、お兄ちゃんが小学校で理不尽ないじめにあったとき、母さんはお兄ちゃんをいじめた相手の家に行って、当事者の子供と両親、それと、そいつらの家ごと・・・潰した。

 ん?「家ごとってどういうことだ」ですって?

 字面どおりよ?

 母さんがその当事者の家を『拳一つ』で破壊したの。

 あ、一応誤解がないよう言っておくけど、母はいきなり破壊したわけじゃないからね?

 お兄ちゃんをいじめた奴の家に言って、最初は「ウチの子が何か悪いことしたんですか?」って丁寧に聞いたのよ。

 え?「なんでそこまで細かく知っているのか」って?

 だって私もその時一緒にいたからね。ていうか、その日のことは『あまりにショッキングな出来事』だったから今でも覚えているわよ。

 で、話を戻すけど、ウチの母が「ウチの子が何か悪いことしたんですか?」て聞いたら、お兄ちゃんをイジメてた子供と父親⋯⋯あと母親までもが、

「ソラの奴がいつも何もしゃべらないし、スカしているからムカついたんだ! みんなと違って一人で本ばっか読んで生意気だったからその本を取り上げてやったんだ! そしたら、あいつすげー怒って向かってきたからシャテーに命令して懲らしめてやったんだよ! スカしているあいつが悪いんだ。俺は悪いことなんてしていない!」
「新屋敷さん、これはソラ君に問題があると思いますよ? というか、むしろみんなに溶け込むためにウチの子が声をかけたというのが真相でしょう⋯⋯。ウチの子は素直で優しい子ですからね。あと、ウチの子がそちらのお子さんを殴って手をケガしたみたいなので慰謝料を要求します」
「ソラくんは失礼ですけど協調性がないのでは? 正直、そんな自分勝手な子供は周りが迷惑です! 悪影響しか与えません! 一体、新屋敷さんの家ではお子さんにどんな教育をなさっているのですか?」

 こんな感じで聞く耳持たないどころか、自分達の子供の非を一切認めなかったわ。ちなみに母は先生たちからも「あの子の両親は父親が政治家で、母親が元官僚だからあまり事を荒立てないでほしい」とも言われていたみたい。


 そんな理不尽が溜まりに溜まって、ついに母が⋯⋯⋯⋯プッツン。


 気づけば、その子供も両親もボッコボコのケチョンケチョンにして最終的に家屋破壊に至ったって感じ。

 え? そんな上級国民みたいな奴にそこまでして大丈夫だったのかって?

 ええ。何でも母の『昔の知り合い』って人に頼んで、この件は無かったこと・・・・・・になったみたい。あと、その子供も両親も散々殴り散らかした後、後日、『古い知り合い』に頼んで傷を全快・・させたらしいわ。

 でね?⋯⋯私が思うにその母の知り合いって、たぶん『探索者シーカー』なんじゃないかって思うの。だって『傷を全快させる』なんて絶対に『治癒魔法』の効果だと思うもの。で、そんな『治癒魔法を使える人』なんて『探索者シーカー』しかいないじゃない?

 間違いないわね。母さんは否定しているけどいつか証拠を掴んでみせるわ。

 え?「イジメをしていたあいつらはどうなったのか」って?

 あの後、三日くらいしたら両親と一緒にウチに『菓子折り』持って謝罪に来てたわ。

 とにかく、ウチの母を怒らせたらかなりやばいから気をつけてね。


********************


 あれ?

 そう言えば何の話だっけ?

 あ、そうそう、お兄ちゃんの話だ! お母さんの話はどうでもいいの!



 そのお兄ちゃんが変わったって話なんだけど、何だか前よりもさらにカッコ良くなってたのぉぉぉ~~~~!!!! キャァァァァァ~~~~~っ!!!!

 そんなカッコ良くなったお兄ちゃんを見て私は一層『お兄ちゃんラブ』を心に誓ったわ(ギラリ)。

 前からカッコ良かったのはカッコ良かったんだけどぉ~、二学期になって、何か『より優しくなった』というか『頼もしくなった』というか、とにかくそんな感じ!!

 はうあっ!?

 も、もしかしたら『朝のお兄ちゃんのお部屋チェック朝ルーティン』で感じた違和感って『お兄ちゃんのイケメン覚醒が起こったから』ってことっ!?

 あ、でも待って!⋯⋯もし『お兄ちゃんイケメン覚醒』が事実なら世間にバレてしまうっ!!!!

 マズイ。⋯⋯それはマズイわよ、ゆず!

 私だけが知っているお兄ちゃんの『隠れイケメン』が世間にバレてしまうなんてっ!!

「何か手を打たなきゃ⋯⋯」

 だって、ソラお兄ちゃんは私のものだもの。

 お兄ちゃんを守るのは妹の義務だもの。

 オッケーだもの!



 そんな私は、今日も『お兄ちゃんラブ道』を突き進む。
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