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第一章

016「接触」

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「やあ、新屋敷ソラくん⋯⋯だっけ?」
「!」

 朝、ホームルーム前。登校して席に着いた瞬間、『竜ヶ崎真司』に声をかけられた。

「ああ、新屋敷ソラだ」
「僕のことは知っている?」
「竜ヶ崎真司⋯⋯」
「知ってるんだ、僕のこと! 光栄だな~」
「⋯⋯⋯⋯」

 と、爽やかな笑顔を向け、人懐っこい仕草で話しかけてきた竜ヶ崎。

 唐沢から話を聞いていなければ、俺はこの『爽やかスマイル』に騙されていたことだろう。

「そんな⋯⋯竜ヶ崎のような有名人なら誰だって知ってるよ。だって、君は『高校生探索者シーカー』じゃないか」
「あ! 本当に知っててくれてたんだ! ありがとう、嬉しいよ!」

 竜ヶ崎はそう言って人懐っこい笑顔を向ける。⋯⋯しかし、やはり少しうさんくささを感じる。

「で?」
「で?」
「いや⋯⋯俺に何か用事があるのかなって。だから話しかけたのでは?」
「え? あ、ああ⋯⋯そうそう! 用事! そう、用事があったんだよ~⋯⋯⋯⋯」
「?」

 そう言って、竜ヶ崎は笑いながら俺の耳元に顔を近づけた。

(僕、知ってるよ? 君も探索者シーカーだってこと)
(っ!!!!!)

 そう言うと、竜ヶ崎は耳元から顔を離してニカッと笑う。

「なぜ⋯⋯」
「ああ、僕の父がね⋯⋯あ、僕の親が経営している会社内で最近大きなニュースがあってさ。それが何かと聞いたら『この地区からまた一人、高校生探索者シーカーが誕生した』って話だったんだ。それで詳しく聞いたら、その高校生探索者シーカーが君⋯⋯新屋敷ソラくんだっていうからさ。それで一目見ようと押しかけたってわけ」
「なるほど」
「でも、ビックリしたよ。まさか『高校生探索者シーカー』がウチの学校の生徒で、しかも同じクラスメートだっただなんて⋯⋯」
「⋯⋯まあ、竜ヶ崎くんほどの実力はないから『高校生探索者シーカー』といっても君と一緒というのはすごく気がひけるよ。なんてったって君は『3ヶ月でC級探索者シーカーに昇格した有名人』だからね」
「そうかい! ありがとう!」

 俺は竜ヶ崎が喜びそうな言葉を並べた。こいつを敵に回すのはやっかいだと感じたからだ。

「俺は『高校生探索者シーカー』とはいってもF級だし、君とは違って才能もないからC級なんて夢のまた夢だよ。竜ヶ崎くんは頑張ってね。B級昇格応援してるよ」

 俺は、そう言って『話はこれまで』というつもりで立ち去ろうとした。しかし、

 ガシ!

「そうだ、新屋敷くん! 今日のランチ一緒に食べようじゃないか!」
「は?」
「僕がこれまで培ったダンジョンの情報とか探索者シーカーの情報とか教えてあげるよ! どうかな!」
「え、えーと⋯⋯」

 それは悪い話じゃないな。情報をもらえるのはありがたい。

「わ、わかった。じゃあ、今日のお昼、参加します」
「よし、決まりね!」


********************


——お昼休み

 俺はいつもの『お昼ルーティン』で屋上に行こうとした。すると、

「やー、新屋敷くん!」
「竜ヶ崎」
「さあ、こっちへ!」
「⋯⋯⋯⋯」

 俺は竜ヶ崎に言われるがまま、竜ヶ崎とその取り巻きのいる席に座らされた。

「新屋敷くん、聞いたよー。君も高校生探索者シーカーなんだって?」
「!」

 俺は「どうしてしゃべったんだ?!」と竜ヶ崎の顔を見た。すると、

「ごめーん、新屋敷くん! でも、大丈夫! 何も恥じることじゃないよ! 高校生探索者シーカーなんて、むしろ誇りに思うものじゃないか!」
「⋯⋯いやでも」
「いやーそうだぜ、新屋敷! 高校生探索者シーカーなんてすごいじゃんか! てことはお前も竜ヶ崎みたいに強いんだべ?」

 竜ヶ崎の隣にいたチンピラっぽい奴が雑に・・話しかけてくる。

「⋯⋯俺はまだF級だからそんな大したことはない」
「あれ? そうなの? ていうか、F級? それって底辺探索者シーカーじゃん。ウケる~」
「⋯⋯⋯⋯」

 そのチンピラは、まーわかりやすく俺を煽ってきた。すると、

「ええー! そうなのー? リュウちゃんはもうC級探索者シーカーって言ってたからてっきりD級くらいかな~って思ってたんだけどそれでもないの~? 弱々っしょ! てか、高校生探索者シーカーって一流になる素質があるって聞いたから~、てっきり新屋敷っちもD級くらいヨユ~かな~って思ってたんだけどぉ~、そうじゃないってことは、つまり才能ナッシングってことでオーケー的な~?」
「⋯⋯⋯⋯」

 今度はそのチンピラの横にいたバカっぽい女子⋯⋯『バカぽ女子』が、アホ喋りでそんなことを言って煽ってきた。その時、

「おい、やめろ。ちぃちゃん!」

 竜ヶ崎が止めに入ってきた。⋯⋯⋯⋯今頃。

「だって~、リュウちゃんが探索者シーカーになってすぐにC級になったじゃん? それって高校生探索者シーカーは一流の才能があるからでしょ? それだったら『新屋敷っち』も一流の才能があるからD級くらいにはなっていると思っただけだけどぉ~?」

 とりあえず、この『バカぽ女子』に「新屋敷っちって言いにくくないですか? ソラっちでいいですよ?」と言ってあげたい。まーそれくらい、俺にはバカぽ女子やあのチンピラの煽りは何も響かなかった。

 なぜなら、竜ヶ崎を含めた三人の『茶番』があまりにもしょーもないくらいわかりやす過ぎたからだ。しかし、竜ヶ崎もチンピラもバカポ女子もそんな『茶番』に俺が気づいていないと思っているのか、まだ話を続けている。

「そ、そんなことないって!? 高校生探索者シーカーって言っても個人差はあるんだから! 誰でも一流なんてことは⋯⋯」
「ええ~? それってつまり、リュウちゃんは一流で新屋敷っちはそうじゃないってことぉ~?」
「い、いや、そんなことは⋯⋯」
「ヒャハハハ! おいおい、ちぃ! そんなはっきりと『実力差』のこと言うんじゃねーよー!」
「だって、そうじゃーん」
「お前ら、もういいかげんにしろ! ごめん、新屋敷くん⋯⋯」
「⋯⋯はあ」
「こいつらも、別に悪気があったわけじゃないんだ」
「そうそう! 悪気なんてこれっぽっちもないぜ! だから、気にすんな!」
「うん。あーしも悪気なんてないよー。何か嫌な思いさせちゃったらゴメンね~」
「ああ、問題ない」

 とりあえず『茶番』は終わったようだ。竜ヶ崎はまだ俺がこの茶番に気づいていないと思っているのか、「それじゃ。約束があるんで」と俺が席を立った瞬間、かすかに笑みを零していた。

 これを見て「なるほど、唐沢の言っていたことは事実だったんだな」と、俺ははっきりと確信した。

 は~⋯⋯実にしょーもない時間だった。

 それにしても、そこまで俺に対してマウントを取りたいと思っていたとは⋯⋯。

「唐沢の言う通り、かなり面倒くさい奴ってことはよ~くわかった。竜ヶ崎こいつと関わるのだけは全力で避けよう」

 そう、心に決めた俺でした。まる。
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