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【第二章 ハズレモノ旺盛編】
026「シャルロットの苦悩。そして⋯⋯」
しおりを挟む【第二章 ハズレモノ旺盛編】
「はぁ~⋯⋯」
私は窓の横にあるテーブルに腰掛けながら、ずっと外を眺めていた。
外は太陽が燦々と降り注ぐ雲一つない青空⋯⋯⋯⋯なのに、私の心はずっと重く仄暗く厚い雲に覆われたままだった。『クサカベ様』が死んでからずっと⋯⋯。
私は一週間前の『クサカベ様の死の報』を聞かされてから、ショックのあまりずっと部屋で寝込んでいた。その間、『王宮の間』には姿を出さず、ずっとずっと部屋に閉じこもっていた。
そんな落ち込んでいる私だったが、心の中では絶えずある疑問が吹き荒れていた。
「どうして、私はこんなにも『クサカベ様』に心惹かれているのだろう⋯⋯」
異世界から召喚されたのは全部で七人。
そして、その中には『勇者』の称号を獲得したヒイラギ様がいた。ほかにも『剣聖』や『聖女』といった、錚々たる称号を獲得していた者ばかり⋯⋯。
なのに、その中で『クサカベ様』だけは『ハズレモノ』という聞いたことのない称号を獲得していた。しかも、そのステータスはこの世界の一般人と同等かそれ以下のステータス⋯⋯。
本来であれば、『勇者』の称号であるヒイラギ様に惹かれるものと思っていたけれど、私はなぜか『ハズレモノ』のクサカベ様に強く惹かれた。
その後、クサカベ様と話すようになると、クサカベ様本人の人柄に惹かれていった。自分で言うのも恥ずかしいけど、たぶん一目惚れ⋯⋯⋯⋯だと思う。
「一人の救世主様を贔屓してはならない」⋯⋯⋯⋯そんなこと百も承知だ!
なのに! どうして! 彼と話すと⋯⋯⋯⋯心が弾む!
ウキウキする!⋯⋯ドキドキする。
気づくと私は、いつも彼とばかり話してしまっていた。
もっとお話しがしたい! もっとクサカベ様のことを知りたい!
そんな、私の心を奪ったクサカベ様が『死んだ』と⋯⋯⋯⋯突然聞かされた。
目の前が真っ暗になった。
その後、ヒイラギ様たちが王宮に戻ってきて経緯を説明した。
私は話を聞いてすぐにショックのあまり気絶しそうになった。だが「私はエルクレーン王国の女王。そんな私が倒れるわけにはいかない!」と自分に言い聞かせ、何とか気力を振り絞り、ヒイラギ様の報告を聞いた。
ヒイラギ様から語られた内容は「ぜんぜん成長しないクサカベ様が、やけになってヨシムラ様を脅して自分勝手に単独で魔物討伐に向かったが、魔物に襲われ最後は崖に落ちて命を落とした」というものだった。
正直、ヒイラギ様の話はまったく信じられなかった。
確かに成長しない自分にショックを受けていたことは知っていた。けど、クサカベ様はいつも楽しそうにこれからの将来のことを話していた。
そんな彼が『成長しない自分』に焦って、そのような行為に及ぶとはとても信じられるものではなかった。
しかし、他の救世主様や一緒に同行した先生方も「クサカベ様がいなくなったのは事実である!」とヒイラギ様の言っていることは間違っていないと言及する。
次第に「もしかしたら、私が『クサカベ様の死』にショックのあまり、事実を受け入れられないだけかもしれない」と思った私は、一旦冷静になってヒイラギ様の報告を受け入れた。
その後、憔悴し気力もボロボロになった私は、フラフラした足取りで部屋へ行き、それから⋯⋯⋯⋯閉じこもった。
——そして、今に至る
クサカベ様や他の異世界の救世主様たちを召喚したのは私だ。
そして、その救世主様たちの力をお借りしないと『邪神復活阻止』は成し得ない。その為に覚悟して異世界召喚をしたはず。⋯⋯⋯⋯なのに、私は『クサカベ様の死』を目の当たりにすると、クサカベ様が死んだという事実と、あまりの自分の重責に気持ちが参ってしまっていた。すると、
コンコンコン⋯⋯。
「どうぞ」と許可をすると、ブキャナン宰相が入ってきた。
「シャルロット様、今日こそは救世主様たちに元気なお姿を見せてやってください」
ブキャナンが静かに言葉をかける。そして、私は今の気持ちをそのまま伝えた。
「ブキャナン⋯⋯やはり異世界召喚は間違っていたのでしょうか?」
ブキャナン宰相は、そんな不安げな顔をする私の目を真っ直ぐ見て答える。
「間違ってなどいません。邪神復活を阻止するにはその邪神が封印された場所をみつけ、復活前に邪神を封印、または葬る必要があります。そして、その実現にはあの強大な力を持つ『魔族』たちを相手にせねばなりません。それは、この世界にいる力ある者たちだけでは絶対に成し得ない。⋯⋯だからこその『異世界召喚』です」
そう。この世界にも『規格外』や『化け物』と呼ばれるほどの実力者はいる。しかし、その者たちだけではどうしても邪神を阻止できない。理由は『邪神を封印・葬るには異世界人の聖なる力が必要』と千二百年前の邪神と戦った時の内容が記された聖典にそう書かれているからだ。
「『アガルタ創世記』⋯⋯千二百年前に邪神との戦いを記した聖典⋯⋯」
「そうです。その『アガルタ創世記』の記述にあるように、『異世界人』は『救世主』として邪神復活を阻止する鍵です。そして、その『アガルタ創世記』を記したのは、千二百年前——邪神を封印した我らエルクレーン王国の国王であり、世界の英雄となったシャルロット様のご先祖様であります。同時に、この『異世界召喚魔法』はエルクレーン王国の王しか使えない一子相伝の魔法なのです」
そう言うと、ブキャナン宰相は少し笑みをこぼしながら呟く。
「あなたは、かの偉大な英雄のご子孫なのですよ、シャルロット様。この世界を救うのはあなたです。そして、私はそんなシャルロット様を守る騎士で在り続けます」
「ブキャナン宰相⋯⋯」
「早くにお父上様が亡くなってしまい、15歳という若さで女王という責務を負うことになったかもしれませんが、しかし、シャルロット様には人を惹きつける力があります。お父上様にも負けないほどのカリスマ性もある。そして『異世界召喚魔法』を成功させるだけの膨大な魔力も⋯⋯。そんな、シャルロット様がいるこの現代で邪神復活を阻止し葬るのです! 救世主たちも必ずや我らに協力し、その目的は達せられるでしょう! さあ、シャルロット様、部屋を出ましょう!」
そう言って、ブキャナンがそっと手を出す。
ブキャナン宰相がこんなことを言うのはこの部屋にいるときくらいしかないが、私にとってブキャナン・ジオガルドはお父様がわりのような存在だ。
普段はブスッと難しい顔ばかりしているが、二人の時にはこうして優しく、そして力強く励ましてくれる。本当に頼りになる騎士だ。
「わかり⋯⋯ました。もう一度、頑張ってみます⋯⋯」
「その意気です、シャルロット様」
私はブキャナンの手をとって、三日ぶりに部屋を出た。
********************
私は、ブキャナン宰相と共に『王宮の間』にやってきた。
ここに来ると、一週間前の苦い記憶が蘇り、また倒れそうになるが、しかし、このままじゃいけない。私は王のだから⋯⋯。
そんな気持ちで『王宮の間』に入った時だった。
「女王様!」
突然、兵士が血相を変えて『王宮の間』に入ってきた。
「どうした突然! 何事だっ!」
ブキャナン宰相が兵士に怒鳴りつける。兵士はそのブキャナンの迫力に気圧されつつも、興奮まじりに言葉を吐いた。
「ク⋯⋯クサカベ様⋯⋯が⋯⋯」
「えっ?!」
私は兵士の言葉に思わず身を乗り出す。
「エイジ・クサカベ様が、ダンジョンから生還され⋯⋯⋯⋯城に戻ってまいりましたぁぁぁーーーーっ!!!!」
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