上 下
16 / 52
【第一章 ハズレモノ胎動編】

016「邪悪な者たちはこうして嘘をつく」

しおりを挟む


——3階層/柊木たち

「ヒイラギ様っ!?」
「せ、先生⋯⋯」

 魔法担任が柊木に声をかけると、柊木は⋯⋯⋯⋯泣いていた。

「ど、どうしたのですか、ヒイラギ様?」
「先生ぇ⋯⋯瑛二が、瑛二が⋯⋯」
「オ、オヤマダ様! しっかり! クサカベ様がどうしたんですか?!」

 小山田が泣き崩れながら魔法担任にしがみつく。魔法担任は小山田に冷静になるよう促しつつ、瑛二の話を聞こうとした。すると、

「先生⋯⋯」
「っ!? ヨシムラ様! クサカベ様は! クサカベ様は無事なんですか!?」
「先生⋯⋯せんせぇ⋯⋯せん⋯⋯せ⋯⋯うわぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!!!!」

 吉村はその場で膝を崩すと、激しく泣き叫んだ。


********************


——十分後

 開けた場所でみんなで休憩を取っていた。

 特に戦いの疲労があったわけではないが、泣き崩れていた柊木、小山田、吉村の三人を落ち着かせるためという目的で休憩をとっていたのだ。

 そんな中、吉村は立ち上がると全員のほうへ体を向けて事の経緯を説明した。

「瑛二君は⋯⋯⋯⋯魔法攻撃で倒れたハイオークに押される形で崖から落ちたようでした」
「⋯⋯そうですか」

 魔法担任は吉村の言葉に、ただ相槌だけを打つ。

「あの時、俺がパニックになって、魔法を打ったから⋯⋯。先生の言葉が耳に入らないぐらいにテンパって⋯⋯だから、俺のせいで瑛二が死んだんです。悪いのは⋯⋯俺⋯⋯です。お⋯⋯俺が⋯⋯瑛二を⋯⋯殺し⋯⋯たんです⋯⋯」

 吉村は、そう言って再び泣き崩れた。

「違います! それは違いますよ、ヨシムラ様! あなたは助けようとしただけです! そんな優しさを持つヨシムラ様がクサカベ様を殺しただなんて⋯⋯! そんなことは絶対にありませんっ!!!!」

 魔法担任は泣き崩れる吉村に必死に言葉をかける。

「いえ、そんなことない! 俺が⋯⋯俺が⋯⋯瑛二を殺したんですっ!!!! うわぁぁぁぁぁぁ~~~~!!!!!」

 その後、魔法担任だけでなく全員で泣き叫ぶ吉村を何度も慰めた後——ダンジョンを後にした。


********************


——『王宮の間』

「え? クサカベ様⋯⋯が⋯⋯?」
「⋯⋯はい」

 ダンジョンから帰ってきた後、すぐにその足で担任も一緒に王宮の間へ足を運ぶが、その前にブキャナン宰相の部屋へと出向き、事の経緯を説明。その後、ブキャナン宰相と共に王宮の間に入り、ブキャナン宰相の口からシャルロット女王へ『瑛二の死』を告げた。

「そ、そんな⋯⋯クサカベ様が⋯⋯」

 そのまま、倒れそうになるシャルロットをブキャナンがすぐに支える。

「シャルロット様! お気をたしかに!」
「あ⋯⋯は、はい。すみま⋯⋯せん⋯⋯でした⋯⋯」

 そう言うと、シャルロットは歯を食いしばり、己に気合いを入れると、ブキャナンの手から離れ、自分の足でしっかりと立ち直した。

「お見苦しいところを⋯⋯お見せしました」

 そう言って、シャルロットが深く頭を下げ、そして、再び口を開く。

「クサカベ様の命が失われたことは、とても⋯⋯とても⋯⋯残念です。クサカベ様の死は救世主様たちをこの世界へ召喚した私の責任でもあります。本当に申し訳ありませんでした⋯⋯」

 シャルロットはそう言って、柊木たちに再度、深々と頭を下げた。

「クサカベ様が亡くなったという事実は、同時に救世主様方にも今後その可能性があるということでもあります。それは、救世主様たちにとって、とても目を塞ぎたくなる事実だと思います⋯⋯。ですが、我々もこれ以上、救世主様たちから犠牲者が決して出ないよう、万全を期してサポートさせていただきます! なので、どうか、これからもお力をお貸しくださいませ! お願いします!」

 そう言って、シャルロットは深く頭を下げ、三度の謝罪を行った。しかし、三度目はこれまでと違い、頭をずっと下げたままだった。

「シャ、シャルロット様⋯⋯そこまで⋯⋯!?」

 ブキャナンは異例中の異例とも言える『女王の三度の謝罪』、そして、頭をずっと下げたままの姿を見て、激しく動揺する。すると、

「頭を上げてくれ、シャルロット!」

 声をかけたのは、柊木拓海。

「たしかに、シャルロットの言う通り、私たちはあなた方の勝手な理由・・・・・でこの世界に召喚されました。そう言う意味では日下部の死に責任を感じるのはわかります。ですが、それは私たちも同じです!」
「ヒイラ⋯⋯ギ⋯⋯様?」
「ダンジョンで日下部が自分のレベルを上げたいがため・・・・・・・・・・・・・・に、吉村に強引にパーティー登録をさせ、みんなから抜け出した。そして、レベルが上がった日下部は一人でも魔物が倒せると過信し、自分から吉村をパーティー解除して、一人で魔物討伐に行き、そして⋯⋯結果⋯⋯帰ら⋯⋯ぬ⋯⋯人と⋯⋯なっ⋯⋯た⋯⋯」
「っ!? ヒ、ヒイラギ様っ!!!!」

 柊木は涙を流しながら、話を続ける。

「日下部の⋯⋯身勝手で無責任な行動ではありましたが、しかし、その日下部の行動を私たちは⋯⋯止めることが⋯⋯できなかった! 日下部の身勝手な行動を気づいて止められてさえいれば⋯⋯彼を⋯⋯失うことは⋯⋯なかった⋯⋯」

 泣き崩れた柊木がその場で膝をつく。すると、

「「「「拓海君!」」」」

 すると、吉村と小山田が柊木の元に行き、肩を貸して立ち上がらせる。

「私たちは日下部の死を無駄にはしない! 彼の分まで救世主としての使命を果たし、この世界に平和を取り戻します!」
「ああ、そんなことを言っていただけるなんて⋯⋯。私はてっきり「救世主をやめる」と言い出すのではないかと⋯⋯。もし、そうなら⋯⋯もう私には止めることはできないと⋯⋯」

 シャルロットは今回の『瑛二の死』で、救世主たちがこの国から出ていくとまで思っていた、と告げた。

「そんなことはありません! 我々はこれからもシャルロットがいるこの国で力をつけ、邪神復活を阻止します!」
「ヒ、ヒイラギ⋯⋯様⋯⋯⋯⋯っ!?」

 すると、柊木が突然、シャルロットの前まで歩いてきた。一瞬、兵士が止めようとするが、ブキャナンがそれを静止。柊木はブキャナンが「許可した」と察し、そのまま、シャルロットの目の前へ行くと、シャルロットの手を掴んだ。

「シャルロット⋯⋯。日下部の死は本当につらいことだ。だが、それは私たちも同じです。そして、シャルロットも私たちも彼の死をずっと悲しんでいるだけでは前へ進むことなどできない。それに、そんな足踏みは何よりもあいつが⋯⋯⋯⋯死んだ日下部が悲しむでしょう」
「ヒイラギ様⋯⋯っ!!!!!」
「前を向きましょう! 歩み出しましょう! 私たちは強くなって邪神復活を必ず阻止します! この世界を、この国を⋯⋯⋯⋯いや、シャルロット様をが守りますっ!!!!」
「「「「「ワァァァァァァァァァァーーーーーーーっ!!!!!!!!」」」」」
「救世主様ぁぁぁーーーー!!!!!」
「救世主ヒイラギ様ぁぁぁーーーー!!!!!」

 すると、その場にいた兵士や官僚、学園の先生、そしてクラスメートたちも柊木の言葉に一斉に喝采を浴びせた。

——二人・・を除いては。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

死にたくない、若返りたい、人生やり直したい、還暦親父の異世界チート無双冒険譚

克全
ファンタジー
田中実は60歳を前にして少し心を病んでいた。父親と祖母を60歳で亡くした田中実は、自分も60歳で死ぬのだと思ってしまった。死にたくない、死ぬのが怖い、永遠に生きたいと思った田中実は、異世界行く方法を真剣に探した。過去に神隠しが起ったと言われている場所を巡り続け、ついに異世界に行ける場所を探し当てた。異世界に行って不老不死になる方法があるかと聞いたら、あると言われたが、莫大なお金が必要だとも言われた。田中実は異世界と現世を行き来して金儲けをしようとした。ところが、金儲け以前に現世の神の力が異世界で使える事が分かり、異世界でとんでもない力を発揮するのだった。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

元剣聖のスケルトンが追放された最弱美少女テイマーのテイムモンスターになって成り上がる

ゆる弥
ファンタジー
転生した体はなんと骨だった。 モンスターに転生してしまった俺は、たまたま助けたテイマーにテイムされる。 実は前世が剣聖の俺。 剣を持てば最強だ。 最弱テイマーにテイムされた最強のスケルトンとの成り上がり物語。

人間不信の異世界転移者

遊暮
ファンタジー
「俺には……友情も愛情も信じられないんだよ」  両親を殺害した少年は翌日、クラスメイト達と共に異世界へ召喚される。 一人抜け出した少年は、どこか壊れた少女達を仲間に加えながら世界を巡っていく。 異世界で一人の狂人は何を求め、何を成すのか。 それはたとえ、神であろうと分からない―― *感想、アドバイス等大歓迎! *12/26 プロローグを改稿しました 基本一人称 文字数一話あたり約2000~5000文字 ステータス、スキル制 現在は不定期更新です

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...