婚約破棄ですか? ならば国王に溺愛されている私が断罪致します。

久方

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奴隷商人に相応しい断罪を

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 私、カーリー・フェレットは家族に身売りされ、奴隷商人の元で人権もなく虐げられています。食事も満足に貰えなく、体力が落ちてぐったりしていると、ムチなどの道具を使い私を殴りつけるのです。

 「ほら! 誰が寝て良いと許可した? さっさとみっともなく働け!」

 この男、マードル・ルイスは何処かお偉い生まれの貴族であるらしい。裏家業として人身売買など、この世界では違法な手段で金儲けをしていて背は高く細身、白髪で髭を生やしそれでいて清潔感もある。

 高価な装飾をいくつも身につけているマードルは、まるで人をゴミ同然に扱い私達、奴隷を苦しめているサディストだ。

 そんな私達もいろいろな人に買われていき、とうとう私は一人になってしまったのです。

 私は『売れ残りの粗悪品』らしい。

 某日、私はいつもの様に檻の中でぐったりしているとマードルが食事を運んで来た。食事と呼べるものでは決してなく、泥の様な見た目でしたが。

 「餌だ。 食っておけよ」

 何の感情も無く、いつもなら食事を置いてすぐ立ち去るのだけどこの日だけは違いました。その品のない目つきに私は恐怖したのです。

 「服を脱げ」

 「い、いやです! なんで私が脱がなきゃいけないんですか!!」

 バチン! と私の頬をマードルが平手打ちをしてきたのです。

 私の檻にマードルが侵入し、衣服を無理矢理剥がしてきたのですが、まるで獣のようでした。

 身体を弄ばれて恥辱され、身体に男のそれで無理矢理私を貫いたのです。

 「い……  いだい! やめて……  ください! 離して!!」

 されるがまま。私の心と身体は蹂躙されて気付けば廃人の様になっていたのですが、ある日の早朝に誰かが現れました。
 
 執事の方でしょうか?

 ご老体であろう姿だけど、凛としていて美しい。

 「酷い仕打ちを受けてきたのですね。 私が助けますから安心しなさい」

 その老紳士は、マードルを呼びつけて金額の交渉をしている。私にそんな価値など無いのにね。大丈夫なのかと不安もありました。

 「いいだろう、気に入った。 こんなゴミでも高く売れるんだな!」
 
 マードルの心無い言葉に老紳士は激昂し、執事の人は胸元の襟に掴みかかる。その勇猛さに私は感動してしまった。

 「この瞬間から私の物になったのだ! 彼女は決してゴミなどではない!!」

 「離せよ、いてーな! 悪かったよ、金だけ置いてさっさと失せな」

 老紳士は、私を檻から連れ出して一年振りの外へ案内しずっと頭を撫でてくれていた。この人なら、私のことを愛してくれるかもしれないと考えてしまいそうでした。

 「ねぇ、おじさん。 私を……   助けてよ……」

 枯れたはずの涙だったけどこの瞬間だけは、真っ当な人間に戻れたような気がしたんです。

 「勿論ですよ、カーリー。 私は、とあるお嬢様姉妹に雇われている執事です。 お嬢様の元でメイドとして働きなさい。 必ず幸せにしてみせますから」

 こうしてカーリー・フェレットは、今現在において、お嬢様姉妹のメイドとして日々奮闘しています。私を認めてくれる、安心して毎日を過ごせる、そんな暖かい日常を皆様に頂けています。

 死のうと考えたこともありました。

 そんなことは、間違いだったんですね。

 私は今、こんなにも幸せなんですから。


♦︎


 「エミア・ローラン 婚約を破棄させて貰えないかな?」

 サンブルグ伯爵家主催のお茶会にお呼ばれされた私、エミア・ローランは周りの貴婦人らに笑われ、後ろ指を刺されながら婚約破棄を宣言された。

 婚約破棄を突きつけてきたのは、ハイド・カーネル。

 家柄も当然良いのだが、ハイド・カーネルは一代にして莫大な富を築き上げたカリスマである。

 カーネル伯爵家の長男でもあり、並の子爵よりも身分が高い故、女性人気も凄まじい。

 この縁談においても私は、国王から前もってハイド・カーネルの情報を仕入れている。その情報とは、ハイド・カーネルは人身売買を受け持つ奴隷商人であるという話しだ。

 人身売買はこの国ではタブーとされており、バレれば処刑ものである。そんな彼、ハイド・カーネルは一切の痕跡も残さず隙が無い。

 証拠が一切出てこないのだ。カリスマであり、頭もキレるのであろう。

 でも私は知っている。

 カーネル伯爵家長男ハイド・カーネルがマードル・ルイスと名乗る奴隷商人であることを。

 「婚約破棄とはどう言う事でしょうか?」

 「すまないね、エミア。 いくら国王が用意した縁談であっても流石に身分が違いすぎる。 君に膨大な僕の資金管理が出来るのかい?」

 なるほどね、と私は相槌を打つ。

 言い分は正しいのだが、私から逃げ切るので精一杯なのである。クスッと笑い、私はハイドを追い詰めた。

 「どうしてそんな事を言うのですか? 私は悲しいです。 私と婚約をすれば国王が用意した縁談ですよ? ハイド様の貿易もよりスムーズになります。 更に資産を上げる事だって出来るのは浅はかな私でも分かりますが、何か他に理由でもあるのですか?」
 
 「いいや。 不満という程ではないよ。 あなたはとても美しい。 だがね、エミアよりも相応しい娘は沢山いるんだよ。 残念だが諦めてくれないか?」

 自分の犯した罪から逃げるように、言い訳を並べる外道に吐き気がする。

 この男は、人の皮を被ったクリーチャーだ。

 逃がさないよう私も追撃をかます。

 「いいえ。 あなたは私が婚約者だと都合が悪いんではないんですか? 何とは言いませんけどね」

 危険を察知したかのようにハイドは、生唾を呑みこみ血相を変えた。バレると不味い何かを誤魔化す様に、ポーカーフェイスを気取っている。

 「何の……  ことだい?」
 
 「本当に分からないのですか? ハイド・カーネル!」

 「分かる訳がないだろう!」

 自白もせず逃げるだけ。それで誤魔化しているつもりになっているのが心底呆れるけど、だったら仕方ないですね。

 ならばいいでしょう。
 私のとっておきを披露して差し上げます!

 「まぁ、それはおいといて。 最近メイドを雇いましたの」

 「すまないがそんな話しは興味が無いのだけれど」

 「黙って聞きなさい! ハイド、あなたには紹介しなければなりません。 この娘です。 名をカーリー・フェレット。 可愛いでしょ?」

 取り乱すのを必死に抑えているルイスを見るのは、実に滑稽だ。私は、この男だけは絶対に許せないのである。

 家族として愛しているカーリーをゴミ呼ばわりしたことや、何よりこんな外道が彼女を傷物し心を蹂躙させた事、大体の内容は私の執事グレイ・マッケンリーから話しを聞いている。

|(絶対に許してなるものか!)

 全てを理解した上でこの男、ハイド・カーネルと対峙している。

 「おや? どうしたのです? 顔色がよろしくありませんが」

 「ほっといてくれたまえ。 紹介されたところで初対面だぞ? だから何なんだとしか言えないな」

 顔の口角が上がり、今にでも笑いだしそうだ。どうやら分からせてやらないと、自分のした悪行が理解出来ないらしい。

 「初対面ではないわよねカーリー?」

 「そうですね。 私は、伯爵のハイド・カーネルに奴隷として売られておりました!!」

 ビシッと、カーリーはハイドに人差し指を突きつける。会場はどよめき、貴婦人同士でなにやらブツブツと小声で話しをしている。そんな中ハイドだけは冷静さを保っていた。

 というか勝ち誇った面になっていたんです。

 「僕が奴隷商人だって? 嘘はいけないよお嬢さん。 度がが過ぎると、ローラン家に懲罰をかけないといけないからね? だって証拠が無いんだから!!」

 返す言葉も見つからず、カーリーは当時のトラウマを思い出し、身体がすくみ塞ぎこんでしまった。先手を打たれてしまったかと内心ヒヤヒヤしたが、証拠を求められては仕方がない。

 ここで、もう一つのとっておきを披露する。

 この『毒』はハイドの首元を喰らいつき、必ず服毒させるであろう。

 だったらいいでしょう。
 私が華麗に断罪して魅せますわ!

 「そんなに証拠とやら・・・・・が欲しいのですか?」

 「何が言いたい?」

 「あるのですよ。 決定的な証拠がね?」
 
 暗雲立ち込める表情を出すハイドは、不安を隠し切れないみたいだ。

 「なら、出してみろよ。 証拠とやらをね?」

 「いいでしょう。 証拠とは私の執事・・・・なんですけどね!」
 
 私はグレイを呼びつけて、ハイドの前に召喚させる。だがハイドはなんだか安心した様子で、その訳はまたくだらない逃げ道を思いついたのだろう。

 「呼ばれて参りました。 はて、あなたは確かマードルではありませんか? 何故こんな所に?」
 
 「ふふ、残念だったねエミア・ローラン。 僕はそんなおっさん知らないぞ?」

 「いいえ、あなたは私の執事を知っています。 だって、胸ぐらを掴まれる程の喧嘩・・・・・・・・・・・・をしたのでしょう?」

 「いやいや、知らないね。 僕は今まで一度も喧嘩などしたことなど無いのだよ」

 やっと追い詰めた。これが最後の決めてとなるであろう。

 覚悟を決めて私は口にする。

 「カーリーを買ったのはグレイで間違い無いのです。 手形もありますからね。 これでマードルという人物から奴隷を買った証明になります。 ところで、胸は痛くないのですか?・・・・・・・・・・・

 「それがどうしたのかね。 一切傷まないが?」

 「そうですよね。 あなたはマードルではないのですから。 宜しければ胸を見せては頂けませんか? グレイが掴み合いの時に爪で皮膚を傷つけたと言っていたので、気になってしまいましたの」

 冷徹に睨みつけるハイドは、悟ったかの様に不自然に思うが自分の罪をサラッと自白した。

 「僕の負けだ。 よく追い詰めたねエミア・ローラン! この僕が奴隷商人のマードル・ルイスだ!!」

 「簡単に自白されるのですね。 処刑されるというのに」

 「完膚なきまでに叩きのめされたのだから仕方ない。 大人しく負けを認めるよ」

 実際、そんなことどうでもいいのだ。私はそれ以上に、腹を立てていることがあるんだから。

 「そうでしたか。 では一発殴られて下さい。 婚約を破棄させて頂きます!!」

 ハイドの顔面を渾身の力で殴り飛ばした。それはもう力いっぱい殴ってしまったので、後に私の右拳は骨折するんですけどね。

 「ぐはっ!」

 「お前なんかがカーリーの純潔を奪いゴミ同然に扱ってコケにしていたこと。 絶対に許してなるものかこの外道が! 私が必ず処刑台に送ってやる!」

 急所を殴られていたのもあるんだろうが、私のあまりの迫力にハイドはその場で倒れ込み失神した。

 「服毒、致したようですね」

 拳が痛むのを我慢して私は広げた扇子をパン! と片手で閉じ込めて、捨て台詞を吐きカーリーとグレイを呼び寄せてその場を後にした。

♦︎

 この騒動は多くの者に知れ渡り、人身売買の大元を叩き潰したこともあって、数々の組織は壊滅したらしい。

 家族にも見捨てられ、外道に蹂躙される様な子供を決して生み出してはいけない。

 まだ完全とは言えないけれど、過去のトラウマを克服してきてる私の愛しいカーリーは今現在、家族同然なのだから。

♦︎

 ハイド・カーネルの処刑の日、私は彼を処刑台に送っていた。

 「私の家族に手を出したお前を絶対に許さない! 地獄で反省するのねこの外道!!」

 何故か笑っているハイドにムカついてしまった。

 『お前も同じ穴の狢だろ?』

 彼の言葉を聞いたのはそれで最後だった。意味が理解出来ないが恐らくは、苦し紛れの冗談であろう。要件も終えて私は、帰路につくことにしました。

♦︎

 お屋敷に帰宅した私は、妹のマリーとメイドのカーリーそして執事のグレイを呼びつけてある提案を出しました。せっかく全員揃っているのだし息抜きがしたくなったのです。

 「お茶会をしましょ。 三人で!」

 「いいわね、お姉様! カーリーちゃんも来なよ」

 「えっと、ありがとうございます。 では失礼します!」

 「では、執事の私も是非!」

 私たち三人で仲良くお茶がしたかったのに、なんて不粋なんでしょう。みんなで仲良く、空気の読めないグレイに言葉を残した。

 『グレイ! ここは男子禁制ですよ!』




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