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華麗なる断罪
しおりを挟む「エミア・ローラン! 俺はお前との婚約を破棄する!」
サンブルグ伯爵家主催の舞踏会の中心で、人々の注目を浴びながら私に向かって言葉を放つ。
婚約破棄を突き付けて来たのは、メイザス・フォールド
家柄のいい名家、フォールド子爵家の長男である。
この男、メイザス・フォールドは小汚い容姿に肥満気味、自己中心的で、上から目線が鼻につき、不快さが際立つ。
正直、私の好みでは無い。
「婚約破棄とはどう言う事でしょうか?」
「ふんっ! お前みたいな女と婚約してる事が心底馬鹿らしくなったからだ! 婚約しているにも関わらず、身体を求めても一切応じ無かったではないか! そんな女は俺に相応しくないんでね!」
|(心底気持ち悪い!)
婚約の条件に純潔を捧げるのは、式の終わった夜からだと記載があったはずなのに、このエロじじいは発情期真っ盛りなのでしょうか?
「どうして私の純潔を、今の段階で捧げなければいけないのですか?」
「婚約者なんだから俺に奉仕するのが当たり前だろが!」
この頭のおかしいクソ猿は、数々の暴論を言葉にして怒り狂い、私を巻くし立てる。
もう取り返しのつかない言葉を、この男は吐いたのだ。
だったら、相手の心が折れるまでこっ酷く惨めな醜態を晒してやろうと私は決意する。
「どうでもよろしいのですけど、この縁談は国王が選んで結ばれた婚約であることをご存じではなかったのですか?」
メイザスは、服毒したかのように体を震わせて私を鋭く睨みつけていた。
「何だと!? どうして国王陛下が俺の縁談に絡んでいるんだ?」
この男は、本当に理解していないんだろうと呆れてしまう。
名家フォールド子爵家の長男であるために、国王が彼に素質があるか見極めようと、かりそめの婚約を命じていたのだ。
勿論、この話はフォールド子爵家にも伝わっているはずなのだが、まるで分かっていない口振りに嫌気が刺す。
「貴方は国王に試されていたのですよ、メイザス・フォールド。 そして私は、貴方の監視役も担っておりました。 ですが、相応しい方であるならば、本当に婚約するつもりでしたのよ?」
「そんな事あってたまるか! ましては、俺は貴族だぞ? 試されるような筋合いなんかない!」
私は我慢ならなくなり、腹を抱えて笑い出してしまう。
本当にこの馬鹿は、懲りていないようだ。
「本当に心当たりがないのですか?」
「当たり前だ! お前が俺に純潔を捧げないのがいけないんだ! よってこの婚約破棄は正当なものだ!」
ここで、私のとっておきの秘策を披露する。
この『毒』は、あのクソ猿を破滅へと誘うであろうと思うと、顔がニヤついて笑いを堪えるので精一杯になってしまう。
「そうですか、ならば聞きましょう。 昨日の夜はどちらに行かれたのですか?」
「何だと? 俺は昨日の夜はずっと家にいたが?」
「そうですか。 外出は、していないと?」
「さっきから何なんだ! お前に教える必要なんてないだろう!」
「教える必要があるのですよ。 貴方は、夜道を歩く女性を犯そうとしていたのですから!」
私の大きな声は、会場の隅から隅まで響き渡る。
急に顔が真っ青になるメイザス・フォールドは、驚きと困惑が混じった顔つきになり、油汗をかきながら震えだした。
「い、言いがかりも大概にしろよ! 俺はそんなことしていないぞ!」
「へぇ、そうなのですね。 ではある人を呼んでいるので登場してもらいましょうか」
ある人とは、私の妹マリー・ローランである。
なぜこの場に呼んだのかと言うと、この男メイザス・フォールドに、私の妹が犯されそうになったと教えてくれたからだ。
縁談の詳しい詳細や、私の家族構成など、まるで知らなかったのだから無理もない。
妹はあの男を知っているが、あの男は自分が襲った相手が、私の妹だと知らないのですから。
「コイツです! 私、お姉様の婚約者に犯されそうになりましたの!」
ビシッと、人差し指を突き立てる。
その真実の宣言によりメイザスが、尻餅をついて挙動不審になる様を姉妹の目の前で見せつけられた。
「わ、わ、悪かった! 悪気は無かったんだ! 婚約破棄は取り消してやるから許してくれ!」
「婚約破滅を取り消す? こちらからお願い下げよ!」
この期に及んで、上から目線で語るメイザス・フォールドは、今の状況が分かっているのかと私は呆れてしまう。
だったら良いでしょう。
私が綺麗に断罪して魅せますわ!
「少々お痛を、いや、女遊びが過ぎたのではないですか?」
「何のことだ!」
「貴方は、この縁談の詳細について知ることが出来なかったのでは無いですか? だって貴方は、自宅にほぼ帰ることはないし、夜は外泊をなさり、貴族である事をいいことに数々の女性を襲っていたのですから!」
場が凍りつく。
凍りついたのは一瞬で、会内で多くのものが罵声を広げる。
不正事実を追求されて、しおらしくなる男に会内の人々らが大バッシングをしているようだ。
「静粛にしなさい!」
あまりにも長く罵声が止まらないので、音を遮る様に大きな声で場を静けさせる。
「何でそんな情報をお前が知っているんだ!」
「国王には筒抜けだったみたいですよ? 相当なまでに目をつけられていたのでしょうね」
「そ、そんなぁ……」
「あと、言い忘れていました。 私の愛する妹に手を出す様な下劣な人に、私の純潔は捧げられません。 婚約を破棄させて頂きます!」
泡を吹き失神したメイザス・フォールドは、地べたに這いつくばる様な形でその場に倒れ込む。
「服毒、致したようですね」
広げた扇子をパン! と片手で閉じ込めて私は捨て台詞を吐き、その場を立ち去った。
♦︎
舞踏会も無事に終えて、私は妹のマリーと帰る準備をしていた。
「お姉様! あの男は本当にクズでしたわね! 危うく私は犯されそうになりましたし、最悪でしたよ」
「ごめんね、私がもっとしっかりしていればあんなことにはならなかったのに」
「お姉様は悪くありませんわ! 私は私で昨日の夜にクズの股間を蹴り上げてやりましたから」
|(私の妹がこんなにパワフルだなんて知らなかったわ!)
「お姉様もかっこよかったですわよね! 『私が綺麗に断罪して魅せますわ!』なんて痺れてしまいましたよ。 普通の殿方なら惚れてしまいますよ?」
「最愛の妹を傷物にしようとしたのよ? 当たり前じゃない! あんなのまだぬるい方よ?」
私がこれでもかと言うほど、妹マリーを溺愛しているかを語っていると、疑問を投げかけられた。
「いつから、国王陛下と仲良くなったのですか? 何で好かれているのかよく分からないのですけど……」
「死んだ孫娘に似ているかららしいわよ?」
「え? そんな理由で?」
「なんか、嘘っぽいわよね。 私も何で国王に好かれているのかが分からないのよ。 何か企んでいるのかもしれないけど、よく縁談は持ってくるし、縁談相手の情報はしっかり流してくれるのよね」
「お姉様が羨ましいですわ! 私にも縁談が欲しいのに!」
「こらこら、まだあなたは成人していないでしょ? 気が早くてよ」
姉妹同士で仲睦まじく『婚約破棄騒動』を終えて私達は、帰路に着いた。
♦︎
あれからメイザス・フォールドは、国王陛下による招集命令に駆り出され、自分の悪事を白状したらしく、厳しい罰と貴族の位を剥奪されたと後日談でサンブルグ伯爵に聞かされた。
『悪事を働く貴族に天誅を』が口癖の国王陛下は、何故か私のことが好きらしい。
勿論、異性としてではなく気に入れられている方ではあるのだけど。
「今度はどんな縁談を持ってくるのかしら」
妹のマリーとアールグレイを嗜みながら、私は笑顔で微笑んだ。
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