2 / 5
人生の敗北者
しおりを挟む夜が明けて、太陽が登り出した。
男のセンスが微塵も無いスマホのアラームが、部屋中に響き渡る。
私は、眠くもならないし、お腹も空かない、退屈な夜をこんな冴えない男と過ごすハメになったのだ。
何としてでも、文句の一つぐらい言いたいものです。
「えぇい! 起きぬか、一般庶民! うるさくて機嫌が悪くなってしまいますわ!」
寝ぼけた顔で飛び起きた男は、まだ現状を理解出来ていないらしい。
「ヤバい、幻覚と幻聴がまだ治ってないな…… 病院に行く準備をしようかな」
(ちがーう!幻覚じゃなーい!信じてよ!)
寝癖を戻さないまま、男は外へ外出した。
一人になってしまった。
いや、私は最初から一人だ。
転生前は、あの男と似たような女だったし、現実から逃げていた。
芋臭い私は、仕事が出来ず先輩や後輩から笑われて、二十八歳にも関わらず男性経験もない、地味な女と自覚もしている。
そんな現状から逃げる為に、私はこの乙女ゲームにどっぷりと沼に落ちていく。
所謂、人生の『敗北者』というやつだ。
転生を果たして、華やかな人生を送れると思ったのに現実は残酷なものですね。
私の好きなゲームの世界なんだから、それぐらい知ってるわよ! 『悪役令嬢』になってしまうなんて。
起こる破滅フラグなんて全部知ってるし、それらを回避するなんて簡単だと思ってました。
それが、慢心だったのです。
私は、このゲームのエンディングを知らないから。
そのせいなのか、破滅フラグを回避すればするほどに、事態は悪くなる一方で私は処刑されてしまいました。
死んだかと思えば、現実に帰り、そして幽霊になってしまうなんて、仕打ちが酷すぎる。
私は自分の姿が鏡に映るのか気になって洗面台のミラーに身体を寄せた。
「何これ!? 公爵令嬢メリッサのままじゃない!」
◆
「躁鬱…… かぁ 明日会社に報告しなきゃなぁ」
どうやら、本当に精神病らしい。
男は、家に帰るなりベッドへ転がりまた一人言を呟いていた。
「いい加減わたくしを無視するのはやめない!」
ビクッと反応する男はゆっくりと、私に目を合わせる。
「やっぱり、幻覚じゃないよな…… 昨日から無視して悪かった!」
「現実を見なさい! なんでわたくしから、この無礼者に声を掛けてやらねばならないのよ 人とお話しすることも出来ないのかしら?」
「悪かったなコミュ障で! そもそも、ここは俺の家だ 用が済んだら帰ってくれ!」
「帰れないのよ! 物は持てないし、外にも出られない」
「ははは! 地縛霊みたいだな!」
「殺しますわよ下衆のくせに」
「そんな可愛い顔して殺すとか言うなよ…… 興奮しちゃうだろ?」
「はぁ、変態だったとは知りませんでしたわ……」
この男の名は 貴崎 小次郎(きさき こじろう)
私は、この男から確信を突かれてしまう。
「転生に失敗したんだろ? 栗山さん」
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

初対面の婚約者に『ブス』と言われた令嬢です。
甘寧
恋愛
「お前は抱けるブスだな」
「はぁぁぁぁ!!??」
親の決めた婚約者と初めての顔合わせで第一声で言われた言葉。
そうですかそうですか、私は抱けるブスなんですね……
って!!こんな奴が婚約者なんて冗談じゃない!!
お父様!!こいつと結婚しろと言うならば私は家を出ます!!
え?結納金貰っちゃった?
それじゃあ、仕方ありません。あちらから婚約を破棄したいと言わせましょう。
※4時間ほどで書き上げたものなので、頭空っぽにして読んでください。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日

【短編】「これが最後でしてよ」と婚約者に言われた情けない王子の話
宇水涼麻
恋愛
第三王子である僕は学園の卒業パーティーで婚約者シルエリアに婚約破棄を言い渡す……
ことができなかった。
僕はこれからどうなってしまうのだろう。
助けを求めた僕にシルエリアはこう言った。
「これが最後でしてよ」
4000文字のショートストーリーです。

【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな
みねバイヤーン
恋愛
「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」「喜んで!」
タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。田舎領地で育ったタリーシャ子爵令嬢が、ヴィシャール第一王子殿下の婚約者に決まったとき、王国は揺れた。王子は荒ぶった。あんな少年のように色気のない体の女はいやだと。タリーシャは密かに陛下と約束を交わした。卒業式までに王子が婚約破棄を望めば、婚約は白紙に戻すと。田舎でのびのび暮らしたいタリーシャと、タリーシャをどうしても王妃にしたい陛下との熾烈を極めた攻防が始まる。

悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる