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ゴースト令嬢メリッサの困惑
しおりを挟む地縛霊(ぢばくれい)とは、自分が死んだことを受け入れられなかったり、自分が死んだことを理解できなかったりして、死亡した時にいた土地や建物などから離れずにいるとされる霊のこと。あるいは、その土地に特別な理由を有して宿っているとされる死霊。
ある日私は、公爵令嬢メリッサとして過去一ハマってしまった乙女ゲームに転生してしまっていた。
でも、私は知っている。
公爵令嬢メリッサが『悪役令嬢』であることを。
数々の破滅フラグが発生したこの世界で、フラグをへし折ってやろうとしたこの一年間、私は重大なミスにより処刑される運びとなった。
「その汚らわしい手をどけなさい、この無礼者! わたくしは公爵家令嬢にして、この国の未来の国母よ 気安く話しかけないでちょうだい あなたとわたくしでは住む世界が違くてよ? 身の程をわきまえなさいな!」
必死の抵抗も虚しく散っていき、私の首は民衆に笑い者にされながら切断された。
◆
まるで眠っていたかのようだったが、この感覚は久しぶりだ。
よく眠れていたのでしょう、とても気持ちよく快眠できていたからか、寝起きがスムーズでした。
辺りを見渡すと、令嬢としては物珍しくもあり、はたまた現代人として懐かしい景色が広がる。
よくある、一般的なリビングにキッチン、そして寝室がある。
「う…… 嘘!? 私、現代に帰れたの?」
嬉しいのか、悲しいのか、複雑な心境だけれど、もう推しに会えなくなると思うと、心苦しくもある。
ですが、そんな事を言えるのも今だけでして、ここが誰の家であるかは、全く検討がつきません。
「私の部屋では絶対にないわね 気味が悪いわ!」
カツン…… カツン……
外から、階段を登る音が聞こえる。
部屋の時計は一時を知らせており、外は真っ暗な深夜であろうにも関わらず、足音は私の部屋の前で停止した。
ガチャ! と音を鳴らしながらその男は、玄関を開けて侵入する。
「たくっ…… どんだけ残業させんだよクソ上司がよぉ! これが日本のブラック企業って奴ですかね」
(やさぐれた奴がキター!)
愚痴をこぼす男から隠れようと思ったが、時は既に遅かったようで部屋の電気を灯されて、男と私はバッチリと目が合ってしまった。
「お、おかえり…… なさい?」
顔から感情が抜け落ちた男は、淡々と寝支度を始める。
「いやいや、こんなに疲れてたなんて思ってなかったよ 幻覚と幻聴のダブルパンチじゃないか 俺好みの令嬢服で、可愛い女の子が出迎えて、おかえりなさいなんて言うものか! 明日は仕事を休んで病院に行こう 少しでも身体を休めないとな……」
一人言をブツブツ呟いていた男は、一瞬でイビキをかき眠りについた。
(嫌ぁ!こんな男と同じ空間に居たくない!!)
私は急いでこの部屋から抜け出そうと、玄関のドアノブを取ろうとしたのだが……。
「掴めない!? どうしてよ! それに外にも出られないし…… まさか私、ゴーストになっちゃった!?」
この狭い空間に、私と名も知らない社会の荒波に揉まれた男は、朝まで幽閉されたのだった。
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