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第32話『呪いの勇者は、悪党の美学を分からせる』
しおりを挟む「パパ、かっこいー!」
「やめろ恥ずかしくなるだろうが! 安心しな、ママは絶対助けてやるからよ」
大量の下っ端共に囲まれてしまった。この状況を突破するには、奴らを素早く一網打尽にするしかないよな。魔物相手じゃないからどうとでもなるんだけど、どういう制裁を加えてやろうか。
諸刃の剣を振ってしまえば確実に殺してしまうし、やっぱり手加減するなら拳だろう。みんな殴り飛ばして、ママを救い出せば俺達のミッションは成功だ。
さっさと盗賊団をブッ飛ばして、アクアに身柄を渡してやろう。俺はあの親子を、無事に再会させてやらないといけないんだからな。
「マリエル、詠唱開始!」
「はい! スロー・ギアクル!」
神速をも超える速さで、次々と下っ端共を拳で蹴散らしてやった。相手が人間で、逆に良かったのかもしれない。一々この人数を諸刃の剣で相手にしてたら、体力が幾つあっても足りないからな。
幹部の奴らも退けて、親分と呼ばれていた盗賊団の親玉らしき人物を残し、諸刃の剣の剣先を前に掲げて牽制する。仲間を失い、もう逃げようもないだろう。完全制圧をしてやり、盗賊団の親玉は切羽詰まっていた。
「チェックメイトだ、悪党。大人しくママを返しやがれ!」
「けっ! 誰が返してやるかよ。お前只者じゃないな。どうせ、金等級の冒険者だろ? 化け物みたいな動きしやがって!」
「俺らは、ビギナーの冒険者だけどな。まぁ、どうでもいいけど、ママを返さねぇってならお前も叩き潰してやるよ」
「それで初心者だってのかい。随分舐めた嘘吐いてくれるじゃねぇか。面白れぇじゃねぇかよ出来るもんなら、やってみな!!」
完全に詰んでいた悪党の親玉は、横たわるララのママを人質にして逃げの態勢に入っていた。人質なんて姑息な真似しやがって。悪党なんか腐る程見てきたが、コイツのやってる事は美学もクソも無い。
自分の逃走の為に、犯罪を犯すのは最も悪党として、最低な行為であり恥ずべきことだ。本物の悪党は、自分のケツぐらい自分で拭く。分からせてやるとしよう。
ーー本物である悪党の美学ってやつをな。
人質なんか考慮せずに俺は、親玉にジリジリと詰め寄り睨みを利かせる。親玉は動揺していたが、段々と恐怖し始めてララのママに刃物を突きつけていた。
今更、そんな脅しが効くかよ。俺は呆れ返り、しっかりと拳を構えて圧力をかけていった。
「いやー! ママを離してー!」
「こ、コイツがどうなってもいいのか!? 本当に殺すぞ!」
「殺す気あんならもう殺してるだろ、生贄で使うんだからな。それよりも気に入らねぇ。悪党の美学に反することしゃがって。俺が教えてやる、本当の悪党って奴をよ」
「な、何を……。ぐ、ぐぁー! 痛てぇ!」
そっと、俺のポーションを親玉の顔にかけてやった。この毒はエリクシアの毒であり、普通の人間で有れば即死するだろう。今回の仕込みで、エリクシアに少し弱めの毒を用意して貰ったのが役に立ったようだ。
だけど、それなりに強い毒だから半日も有れば死ぬだろうけどね。奴は必死になって懇願するだろう。助けて下さいってな。
「ひぃー! 痛い、痛い、痛い、痛い!」
「そんなに痛いのか? 助けてやろうか?」
「助けてくれてー! 人質なら返すから!」
「だよなー。助けないと、このまま君死んじゃうもんな」
「早くしてくれー! 死ぬー!」
どこまでも都合のいい野郎だよ。人の命を簡単に踏みにじりやって、自分の命の危機には命乞いを始めるクソ野郎だ。まぁ、どうせここには、アクアを呼び出すつもりだし殺すつもりもないけどね。
多少は、地獄の苦痛を味わいながら、反省して貰いたいものです。奴を絶望させる為だけに仕込んだんだ。きっちり罪を償って貰おう。
「ありがとうな、おっさん。人質は回収するよ」
「じゃあ、助けてくれるんだよな?」
「ーーは? 何言ってんだお前。俺は助けるなんて一言も言ってないんだけど?」
「お前! 俺様をハメやがったな!」
「ハメられる方が悪い。悪党の鉄則だろ? 俺はお前をいつでも殺せたんだ。精々、地獄で反省しな」
「クソー! 覚えてやがれー!!」
ララのママを保護して、盗賊団を縛り上げてから、アクアの居るギルド本部に連絡を入れた。無事に再開させてあげられて、本当によかったよ。
子供の笑顔って悪くないかもなと、思ってしまう俺がいた。
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