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第16話『呪いの勇者、首狩りの王を撃破せよ』

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 「テメェ、キモ過ぎるだろ!」

 人差し指を突き立てて、首狩りの王へ高らかに宣言する。気色悪いったらありゃしない。俺の目の前には、本当に首狩りの王何だろうか、深海から来たオカマでは無かろうかと考えるばかりです。

 俺の声は、ダンジョン内に響き渡り木霊する。誰もこの場において、口が裂けても言えないであろう禁句を代わりに言ってやったんだ。褒めて欲しいくらいだぜ。

 キモい深海魚は、俺の罵倒によりかなり気が立っていたようだが、何やら少し警戒をしている。一体、どうしてしまったのだろうか。

 「魔王クラスの邪気を放つのは、坊やだったようね。イカすじゃない興奮しちゃうわ~ん」

 「怖気づいてんのか? ガタイに似合わず貧弱だな」

 「何言ってんの? 怖気づく訳無いでしょ。むしろ皆殺しにしてアンタを食ってやりたいぐらいだわ~ん」

 なるほど、弱肉強食って訳かい。俺ほどの邪気を出す奴はお前らから言わせればご馳走みたいなものなんだろうな。警戒を怠らない様にしておこう。

 回復したのか、智治が立ち上がり剣先を首狩りの王に突きつけ戦闘態勢に入っていた。何やってんだろうなあの馬鹿は。敵いっこないのに、やる気だけはあるようで呆れてしまった。

 「あら? さっき仲間を盾にして見捨てたゴミ虫ちゃんじゃな~い。死にたくなっちゃった~?」

 「黙れ! 俺が貴様を討伐する。上級ソードスキル、ライトニングソード!」

 仲間だった頃に見たあの技は、誰でも倒してしまいそうな程、とても強い聖なる剣だと思っていた。今思うと、ただピカピカした弱そうな剣技にしか見えないのは、コイツが弱いのかそれとも俺たちが強いのか分からなくなっていた。

 直撃はしていたのだが当然、効いている訳も無く、首狩りの王自身も何が起こったのか分からない様子であった。

 「今の何かしら~ん? 眩しかったわね。まだ何かあるのかしら?」

 「嘘……だろ……。俺の最強の一撃があんな容易く……?」

 「もう攻撃は終わりかしら? じゃあ私も反撃しちゃうわよ~ん」

 「やばい! エリィ、マリエル、アリア、攻撃が来るぞ! 避難しろ!」

 「何言ってんの? もう既に切られているというに」

 「ーー何だと!?」

 エリクシアやその他全員は、首にうっすらと赤い線が入ってほんの少しだけ出血をしていた。いつ切ったかも分からないその妙技に、俺達は困惑するばかりである。

 まるで、遊んでいるかのように俺の仲間を傷つけたことは怒り狂う程許せないが、そうも言ってられない事態が起きてしまった。

 俺だけが胸元から大量の出血をしていた。わざと、俺だけを狙い撃ちにしたんだろう。この場において、一番の脅威は俺だけなんだからな。

 そっと傷口に手を当てると、何かの違和感を感じていた。本来あるべきものが無いんだ。傷口が痛むのもあるけど、この喪失感に俺は冷や汗が止まらない。

 「あら? このピンク色の豆、何かしら~ん?」

 俺が日頃から見ていてよく知っている物を、首狩りの王は摘んで遊んでいる。その光景を見て俺は、頭が真っ白になりそうだった。

 「ーーおい、それなんだよ」

 「誰のか分からないチクビね」

 「ふざけやがって! それ俺のチクビだろ! 返しやがれ!」

 「あら? あんたには要らないでしょ?」

 「要るとか要らないとかの話しじゃねー!」

 「分かったわよ。またつければくっ付くから」

 「お前、人のチクビで取ったり付けたりしてんじゃねー! 何が首狩りの王だ格好つけやがって。ただのチクビ狩りのオカマじゃねーか馬鹿にしてんじゃねーぞ!」

 「うるさい男ね。いいじゃない一つや二つ」

 二つしかないんですよ。半分持っていってんじゃねーか。俺の怒りが頂点に達した頃、僕の愉快な仲間達は俺と目を合わせてくれません。勘弁してくれよ、今回は俺なんにもしてないじゃん。

 気まずい感じをなんとか払拭して、俺らも戦闘態勢に入る。私情が挟むがアイツだけは絶対に許さねぇ。

 「テメェだけは絶対にぶっ殺してやる!」
 
 「やれるもんならやってみなさ~い」

 「ーーマリエル、詠唱開始!」

 「はい! スロー・ギアクル!」
 
 「馬鹿にされちゃ困るわ~ん。遅延魔法が聞く訳ない……」

 ーーブン!!

 神速をも超える一閃が、首狩りの王にクリティカルヒットした。いくら魔王軍幹部であろうが、これなら即死しただろう。

 諸刃の剣の代償により、極限まで体力を減らしてしまったのでエリクシアが俺に熱いキスをしてくれた。ネットリと舌を絡ませてキスした事で、すっかりと体力を回復させたのだが智治やら綾香がドン引きしていた。

 無理も無いよな。戦闘中だってのにキスしてんだから。コイツらには理解出来んだろう。

 「カケルさん、やったんでしょうか?」

 「多分、やったんじゃないか? アリア、綾香達を避難させておいてくれ」

 「カケル様、かしこまりました!」

 指示を出してアリアドネが去った後、残った俺らで死体の確認をしようと思ってたんだが、中々にしぶとい。あの斬撃で致命傷に至っていなかったのだ。タフ過ぎるだろ。

 「ほ、本当に、死ぬかと思ったわ。なによあれ、私の装甲が粉砕しちゃったじゃない。はっきり言って規格外よ!」

 「お褒めに預かり光栄だな。お前こそなんであれで生きてんの? 化け物過ぎるだろうがよ」

 「次は本気で殺しちゃうから覚悟するのよ~ん」
 
 「その前に一つ聞きたいことがある」

 聞かなければならない事とは、コイツが本当にアクアの両親を殺したかについてである。そこだけは、しっかりと確認しておきたい。返答次第では、八つ裂きじゃ済まさないからな。

 アクアの仇打ちの為、約束の為、首狩りの王を撃破する為の最後の確認だ。

 「あー、あの時の。だってこのダンジョンに入って来たのよ? ここに聖剣を隠してたのがバレちゃってね。見せしめの為に頭をぐちゃぐちゃにしてエルムーアに送りつけちゃったわ~ん」

 「嘘……なんて酷いことを……」

 「カケル、やっぱりこいつ許せない」

 「口封じの為ってことかい。随分、手の凝ったことしやがる。教えておいてやるよ、この世で最も恐ろしいのは人間の憎悪だってな」

 「あらあら、やる気になっちゃって。もういいのかしら殺しちゃって」

 「かかって来いよ、糞オカマ!!」

 首狩りの王の本気は凄かった。クリスタルの透過率を利用して素早く動き周り目眩しをしている。これじゃ、まるで影分身の術だ。どこから、攻撃が飛んで来るかも分からない。

 「カケルさん。新技いきますよ!」

 「おう! 任せた!」

 「コンフュージョン・ギアクル!」

|(混乱デバフか! 何が起こるんだ?)

 至って変化などなく、首狩りの王は各場所を飛び回っている。どう活かせば良いのだろうか。

 「続けていきます。スロー・ギアクル!」

 起動力まで兼ね揃えた俺に首狩りの王の補足など容易いが、諸刃の剣の兼ね合いもあるので、絶対に外せない。意識を集中する他無いだろう。

 「カケルさん! 恐らく、必中になっていると思います。思いっきり行って下さい!」

 「任せろぉぉ!!」

 ーーブン!!

 飛びかかって来た首狩りの王と、俺の諸刃の剣がカチ合う様に衝突して辺り一面に衝撃波が放たれた。どうやら、マリエルの新技は、クリティカル率を最大まで上げる効果があったらしい。これならば、確実に倒せるだろう。

 「危ない剣ね。でも残念、私には届かない!!」

 首狩りの王は、最強の防御魔法の展開に成功していたらしく、盾は破壊出来たのだが直撃にまでは至らなかったのだ。

 「じょーだんだろ。あれで直撃じゃないなんて」

 エリクシアやマリエルと距離を離れて過ぎてしまっていて、回復をする手段もなければ、デバフ支援も出来そうに無い。

 ーー完全に、詰みの状況である。

 「あんたの剣が私に届いていれば、きっと私を殺せたでしょうね。運が悪かったと諦めるのね、首を狩り取ってあげるわ!」

 「ーー俺の剣は、届いたさ。とっておきの一撃がな!」

 「何ですって!? そんなものどこにあるってのよ!」

 「アリア! 砲撃開始ー!」

 「聖母マリアに捧げる。死者を天に還す力を今、解放します。頑張ってねコキュートス。セイクリッド・プレアデス!」

 ーープチュンッ!!

 アリアドネが間に合ってくれて本当に良かった。綾香達を無事に逃した後で、首狩りの王の不意を突く決定打にする為に、狙撃ポイントに待機をさせていた。

 タフな野郎だからな。念には念をで良かったと今なら思うのです。

 「ギィャー!! 溶けちゃうわ~ん!」

 アリアドネが不意を突いた瞬間を見計らって、エリクシアが俺にキスをする。体力を回復し、首狩りの王に最後の一太刀を浴びせる為、俺はゆっくりと歩き寄る。

 「届いたろ、俺の剣はよ。アクアの怒りや悲しみ、憎しみや後悔、全部まとめてお前にぶつけてやるよー!」

 ーーブン!!

 普段よりも、諸刃の剣は重かった。人の業を乗せたその一閃は、悲壮な音を奏でて怨みの元凶をねじ伏せたのだった。

♦︎♦︎♦︎♦︎

 「首だけは残ってんだな」

 「まぁ、これじゃどうせ私はすぐ死ぬでしょうけどね」

 「聖剣はどこにあるんだ?」

 「馬鹿じゃないの? 教える訳ないじゃない。魔王様を倒すことが出来る唯一の武器何だから。私が死んだらこのダンジョンば消えて無くなり、聖剣は二度と現れないわよ。残念だったわね! もうこの世界は救えない! 私たち魔王様に支配されるのだから!」

 「ヘェー、ソウナンダー」

 「何で鼻ほじってるのよ! アンタ勇者でしょ!」

 「知ったこっちゃねぇんだよ。この世界が滅ぼうがオカマが増えようがな。それよりも、目の前の大事なもん護ってた方が数億倍マシだ」

 「変わってるわね。全く何者よ? 強すぎるし、匂いで分かる。アンタ、同族を殺したでしょ」

 「お前なんでそれを……」

 「大丈夫よ、あの娘らには黙っておくわ」

 それだけ言い残し、生首は言葉を喋る事は無くなった。

 「カケルさーん! 何してるんですかー! ダンジョンが崩壊しています。置いていきますよ?」

 「分かった。すぐ行く!」

 見透かされているんだな。隠す程の理由でも無いけれど、いつか時が来たら皆んなに話そうと思う。

 ーー土産の首を担ぎ、アクアに吉報を知らせよう。
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