12 / 15
諦めるには程良い
しおりを挟む
いつかはこんな日が来ると思ってた。
「すまない!お医者様を呼んで来てくれ!」
「ちょ、ちょっと、大袈裟だってば…っ」
ある日、ジグがマリン様をお姫様を扱うように大事に抱えて帰って来た。
魔物の襲撃中に怪我をしたらしい。侍女さんと兵士さんたちが大慌てしている。
本当にこの旅に同行してから「らしい」って情報しかないな、あたし。
怪我をしたなんて一大事なのに、壊れ物を扱うかのようにジグに痛む個所を確認されて、顔を赤くしてるマリン様を見ていられなくて目を逸らす。
いつの間に人の心配もできなくなったのだろう。
魔物の毒が足首にかかってしまったという話だけど、お医者様が言うには数日被れる程度だと塗るお薬を渡されたが、あたしが体力・魔力を分けたらすぐに完治した。
聖女は元々病気や毒に強い体質のため、魔力が満たされてその優れた自己治癒能力が迅速に働いたのだろうと。
「良かった…あなたにもしもの事があったら、俺は俺が許せない」
「だから大袈裟だって。いつもちゃんと守ってくれてるでしょ」
「……ちゃんとじゃない。マリン様に怪我をさせてしまった」
「あーのーねーっモンスターが襲ってくるんだから危険は当たり前なの!怪我だってある程度は覚悟してる!ジグたちのお陰で死ななくて済んでるの、わかる?」
マリン様に叱られて、ジグがたじろいだ。
ジグは悪くないって言ってるのに、聞き分けない子ね!って子供のように諭されて、俺成人してるんですがって苦笑いしてる。
叱って、叱られて、気まずそうにして、目が合って笑ってる。
つられて周りの人たちも笑い出して…。
ああもう、ダメかもしれない。
あたしが居ない時に育んだ絆を見せられて、身体が冷たくなっていく。
「アンヌ様、顔色が優れないようですが」
女騎士のサーニャさんが心配そうにこちらを伺っていてはっとした。
皆賑やかな中であたしだけが黙っていた。
サーニャさんに顔色が優れないと言われて皆があたしの方を見る。
「あ…ごめんなさい。なんだかぼうっとして」
「アンヌ?もしかして私に魔力分けたせい…?」
「毎日だったもんな。頼りっぱなしで悪かった」
「え、いえ、そんなことは…」
さっきまでの明るい雰囲気を壊してしまったようで居心地が悪くなる。
あたしは聖女様の心配しなかったのに、皆はあたしの心配をしてくれる。
もう嫉妬とか罪悪感で心がばらばらになりそうだった。
「お部屋に戻られますか?温かいスープでも飲んで休まれた方が宜しいかと」
サーニャさんの提案に乗って、あたしは宿屋の自室に戻ることにした。
またあの輪から外れてしまう不安感、入り切れない雰囲気から逃げ出せた安心感がぐるぐる回る。
もう自分の感情すら掴めなかった。
「…聖女様と勇者様のことでお悩みでしょうか」
部屋まで送ってくれる途中、サーニャさんに尋ねられた。
「私の立場では何も申せませんが、話を聞くことくらいは出来ます。よければ……」
言い終わる前に、あたしはサーニャさんの胸に飛び込んで泣きじゃくった。
サーニャさんはあたしの肩を優しく抱きながら、ゆっくり部屋まで誘導してくれ、家鍵まで掛けてくれた。
話を聞いてくれると言われても、何も話せることが無い。
だってだって、全部あたしの我が儘だ。
ジグが危ない目に遭わないか心配で、聖女様とか他の村や街の女の子に取られたりしないか不安で、半分くだらない理由で無理やり旅に付いて来たのは自分なのに。
皆とちゃんと仲良くなれてないとか、聖地まで一緒に行けないとか、いつもあたしは置いていかれて話に入れないとか、そんな恥知らずなこと誰にも言える訳がない。
言える訳がないから、サーニャさんには迷惑だけどただただ泣きまくった。
――お父さんお母さんに会いたい。村の人たちに会いたい。
いつも寝る前に両親宛ての手紙を書いて気持ちを切り替えていたけど、今日だけは帰りたいって情けない言葉を添えてしまいそうで書けなかった。
「すまない!お医者様を呼んで来てくれ!」
「ちょ、ちょっと、大袈裟だってば…っ」
ある日、ジグがマリン様をお姫様を扱うように大事に抱えて帰って来た。
魔物の襲撃中に怪我をしたらしい。侍女さんと兵士さんたちが大慌てしている。
本当にこの旅に同行してから「らしい」って情報しかないな、あたし。
怪我をしたなんて一大事なのに、壊れ物を扱うかのようにジグに痛む個所を確認されて、顔を赤くしてるマリン様を見ていられなくて目を逸らす。
いつの間に人の心配もできなくなったのだろう。
魔物の毒が足首にかかってしまったという話だけど、お医者様が言うには数日被れる程度だと塗るお薬を渡されたが、あたしが体力・魔力を分けたらすぐに完治した。
聖女は元々病気や毒に強い体質のため、魔力が満たされてその優れた自己治癒能力が迅速に働いたのだろうと。
「良かった…あなたにもしもの事があったら、俺は俺が許せない」
「だから大袈裟だって。いつもちゃんと守ってくれてるでしょ」
「……ちゃんとじゃない。マリン様に怪我をさせてしまった」
「あーのーねーっモンスターが襲ってくるんだから危険は当たり前なの!怪我だってある程度は覚悟してる!ジグたちのお陰で死ななくて済んでるの、わかる?」
マリン様に叱られて、ジグがたじろいだ。
ジグは悪くないって言ってるのに、聞き分けない子ね!って子供のように諭されて、俺成人してるんですがって苦笑いしてる。
叱って、叱られて、気まずそうにして、目が合って笑ってる。
つられて周りの人たちも笑い出して…。
ああもう、ダメかもしれない。
あたしが居ない時に育んだ絆を見せられて、身体が冷たくなっていく。
「アンヌ様、顔色が優れないようですが」
女騎士のサーニャさんが心配そうにこちらを伺っていてはっとした。
皆賑やかな中であたしだけが黙っていた。
サーニャさんに顔色が優れないと言われて皆があたしの方を見る。
「あ…ごめんなさい。なんだかぼうっとして」
「アンヌ?もしかして私に魔力分けたせい…?」
「毎日だったもんな。頼りっぱなしで悪かった」
「え、いえ、そんなことは…」
さっきまでの明るい雰囲気を壊してしまったようで居心地が悪くなる。
あたしは聖女様の心配しなかったのに、皆はあたしの心配をしてくれる。
もう嫉妬とか罪悪感で心がばらばらになりそうだった。
「お部屋に戻られますか?温かいスープでも飲んで休まれた方が宜しいかと」
サーニャさんの提案に乗って、あたしは宿屋の自室に戻ることにした。
またあの輪から外れてしまう不安感、入り切れない雰囲気から逃げ出せた安心感がぐるぐる回る。
もう自分の感情すら掴めなかった。
「…聖女様と勇者様のことでお悩みでしょうか」
部屋まで送ってくれる途中、サーニャさんに尋ねられた。
「私の立場では何も申せませんが、話を聞くことくらいは出来ます。よければ……」
言い終わる前に、あたしはサーニャさんの胸に飛び込んで泣きじゃくった。
サーニャさんはあたしの肩を優しく抱きながら、ゆっくり部屋まで誘導してくれ、家鍵まで掛けてくれた。
話を聞いてくれると言われても、何も話せることが無い。
だってだって、全部あたしの我が儘だ。
ジグが危ない目に遭わないか心配で、聖女様とか他の村や街の女の子に取られたりしないか不安で、半分くだらない理由で無理やり旅に付いて来たのは自分なのに。
皆とちゃんと仲良くなれてないとか、聖地まで一緒に行けないとか、いつもあたしは置いていかれて話に入れないとか、そんな恥知らずなこと誰にも言える訳がない。
言える訳がないから、サーニャさんには迷惑だけどただただ泣きまくった。
――お父さんお母さんに会いたい。村の人たちに会いたい。
いつも寝る前に両親宛ての手紙を書いて気持ちを切り替えていたけど、今日だけは帰りたいって情けない言葉を添えてしまいそうで書けなかった。
48
お気に入りに追加
106
あなたにおすすめの小説
自称地味っ子公爵令嬢は婚約を破棄して欲しい?
バナナマヨネーズ
恋愛
アメジシスト王国の王太子であるカウレスの婚約者の座は長い間空席だった。
カウレスは、それはそれは麗しい美青年で婚約者が決まらないことが不思議でならないほどだ。
そんな、麗しの王太子の婚約者に、何故か自称地味でメガネなソフィエラが選ばれてしまった。
ソフィエラは、麗しの王太子の側に居るのは相応しくないと我慢していたが、とうとう我慢の限界に達していた。
意を決して、ソフィエラはカウレスに言った。
「お願いですから、わたしとの婚約を破棄して下さい!!」
意外にもカウレスはあっさりそれを受け入れた。しかし、これがソフィエラにとっての甘く苦しい地獄の始まりだったのだ。
そして、カウレスはある驚くべき条件を出したのだ。
これは、自称地味っ子な公爵令嬢が二度の恋に落ちるまでの物語。
全10話
※世界観ですが、「妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。」「元の世界に戻るなんて聞いてない!」「貧乏男爵令息(仮)は、お金のために自身を売ることにしました。」と同じ国が舞台です。
※時間軸は、元の世界に~より5年ほど前となっております。
※小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!
たまこ
恋愛
エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。
だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。
私のことは気にせずどうぞ勝手にやっていてください
みゅー
恋愛
異世界へ転生したと気づいた主人公。だが、自分は登場人物でもなく、王太子殿下が見初めたのは自分の侍女だった。
自分には好きな人がいるので気にしていなかったが、その相手が実は王太子殿下だと気づく。
主人公は開きなおって、勝手にやって下さいと思いなおすが………
切ない話を書きたくて書きました。
ハッピーエンドです。
本日はお日柄も良く、白い結婚おめでとうございます。
待鳥園子
恋愛
とある誤解から、白い結婚を二年続け別れてしまうはずだった夫婦。
しかし、別れる直前だったある日、夫の態度が豹変してしまう出来事が起こった。
※両片思い夫婦の誤解が解けるさまを、にやにやしながら読むだけの短編です。
身代わりーダイヤモンドのように
Rj
恋愛
恋人のライアンには想い人がいる。その想い人に似ているから私を恋人にした。身代わりは本物にはなれない。
恋人のミッシェルが身代わりではいられないと自分のもとを去っていった。彼女の心に好きという言葉がとどかない。
お互い好きあっていたが破れた恋の話。
一話完結でしたが二話を加え全三話になりました。(6/24変更)
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
あなたは愛を誓えますか?
縁 遊
恋愛
婚約者と結婚する未来を疑ったことなんて今まで無かった。
だけど、結婚式当日まで私と会話しようとしない婚約者に神様の前で愛は誓えないと思ってしまったのです。
皆さんはこんな感じでも結婚されているんでしょうか?
でも、実は婚約者にも愛を囁けない理由があったのです。
これはすれ違い愛の物語です。
おかえりなさい。どうぞ、お幸せに。さようなら。
石河 翠
恋愛
主人公は神託により災厄と呼ばれ、蔑まれてきた。家族もなく、神殿で罪人のように暮らしている。
ある時彼女のもとに、見目麗しい騎士がやってくる。警戒する彼女だったが、彼は傷つき怯えた彼女に救いの手を差し伸べた。
騎士のもとで、子ども時代をやり直すように穏やかに過ごす彼女。やがて彼女は騎士に恋心を抱くようになる。騎士に想いが伝わらなくても、彼女はこの生活に満足していた。
ところが神殿から疎まれた騎士は、戦場の最前線に送られることになる。無事を祈る彼女だったが、騎士の訃報が届いたことにより彼女は絶望する。
力を手に入れた彼女は世界を滅ぼすことを望むが……。
騎士の幸せを願ったヒロインと、ヒロインを心から愛していたヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:25824590)をお借りしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる