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すれ違う

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 あたしは魔法の習得、ジグは剣の稽古でその後も会いに行く暇なんて全然無い。
 たまに時間を作ってもマリン様に先を越されてしまう。
 でもマリン様はあたしの所にも時々遊びに来て差し入れをくれた。

「甘いもの好き?勉強にはやっぱ糖分よねー」

 凄く高そうな紅茶に豪華なお菓子は、魔法の勉強に必死になっているあたしには凄く有難くて…。
 マリン様は、あたしが寝込んでいるときにもお見舞いに来てくれていたらしい。
 あまりにも辛そうだから部屋には入らず、花と精の付く飲み物を差し入れてくれていたそうだ。
 ジグも訓練の予定がぎっちり詰まっていたのでお見舞いこそ来れなかったが、お城に勤めている人にあたしの様子を聞いてたそうだ。
 
 でもこんなに親切にしてくれてる聖女様のことをちょっと恨みそうになったりして、自己責任でしかない疲れが溜まっていった。

 ――あたしがジグを好きな事、なんとなくわかるでしょ?
 ――なんでそんなにジグにべったりするの。あたしは全然話せてないのに。

 無理やり付いて来て、勝手に苦労して、挙げ句に優しい聖女様に向かってこんな卑屈な事を考えてしまっている自分に嫌気が差す。
 でも、どんなに感情を制御しようとしても仲良さそうなジグと聖女様の姿が焼き付いて離れない。

 あたしがしっかり魔法を使えるようにならなければ、このまま置いてかれてしまう。
 そうなると、ジグとマリン様で旅に…。
 見えない不安に急き立てられるようにあたしは魔法の練習をした。
 
 ジグの方は正式に選ばれた勇者ゆえか、短期間でめきめき実力を付けているって話が入って来る。
 あたしはアーノルドに助けられながら、なんとか使い物になるくらいに魔法が使えるようになった。
 そして訓練を終え、三か月が経過した頃。
 
 王様から直々に挨拶をされた後、大勢の王都の人々に見守られながら旅立った。
 
 身の回りの世話をしてくれる侍女さんが数人と、何十人もの兵士さんもお供に付いて来てくれたが、その人たちはマリン様とジグ様と訓練中に仲良くなった人たちばかり。
 ここへ来てもあたしは除け者ような気分を味わっていた。

 でも別に兵士さんたちもあたしに積極的に話しかけてくれたり気を遣ってくれたりして、別に不便があった訳じゃない。ただただあたしの気持ちの問題。
 せめてアーノルドがいてくれたらなあ。もうちょっと気が楽だったかも。
 
 大体ただくっ付いて来た村娘と聖女様と勇者様となれば扱いに差が生まれるのは当然だし。
 だからこそどうしようもなくて辛い。

 更に追い打ちで、侍女さんたちはジグとマリン様がくっついたら素敵なんて考えてそうなのだ。
 休憩や食事の時間には度々二人きりにしようとしている。

 あたしだって自分に無関係の話だったら、勇者と聖女が恋人になるなんてロマンチックって思ったかもしれない。
 けど、ジグは……。

「どうしたのアンヌ、ぼーっとして。もしかして調子悪い?」
「い、いえ!ちょっと考え事を…」

 あーあ。
 せめて、マリン様が嫌いになれるくらい嫌な人だったら良かったのに。
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