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カイルの在籍してる騎士訓練所に通ったのだけれど、目的であるエマニュエルの姿はなかった。
リックさんの騒ぎから一週間、どうやらエマニュエルは外出禁止させられてるようだ。
それもそうだろう。訳有りで安く売り出されていたとはいえ、一等地の敷地に新しい店を建て何のノウハウもなく始めた商売は難航しているようで、ヤーコブ商会が慌てて手を貸しているようだが道を挟んだ向かいにもヤーコブ商会系列の店があり下手をすれば食い合うだけであまり利点もない立地である。
更に件のリックさんの事件だ。
本来主力かつ看板になるはずだったリックさんを、アンゲルス鍛冶屋に泥を被せ損ねた挙げ句に悪評を一身に集めたため解雇としたのも大きいだろう。
もし悲劇の男としての宣伝が成功していたなら、もっといい意味で注目を集められたのだろうが…。
これだけやらかしてお咎めなしと言う程甘い親ではなかったようだ。
――そして今日。
ようやく外出禁止が解かれたらしいエマニュエルが他のファンを押し退けカイルに纏わりついているのを確認し、余裕な足取りを心掛け近付いて行く。
「イーリィ」
カイルに声を掛けようとした時、相手の方から気付いてくれた。
無表情からのあたしを見つけた途端の微笑み。
見せつけられるようにあたしに甘くして欲しいとは頼んだが、ここまでの合格点を叩き出してくれるとは。
エマニュエルの方を伺えば暗い影を落としたような表情になっている。
まずまずの出だしね。
「カイル。お疲れ様」
「おう。今日は気分的にビールでも行きたい気分だ。酒場にでも寄るか」
「お酒飲むのはいいけどあたしに絡まないでよ。あんた酔うとベタベタ触ってくるんだから」
「触られてまずいことねぇだろ。嫌か?」
「…嫌じゃないから困るの。外でああいうのは恥ずかしいわ」
カイルの言葉に演技じゃなく恥ずかしくなって目を伏せれば、肩を抱かれ目蓋に口付けられる。
もう、上出来すぎて困るわ。
そのまま手が腰に移動し、引き寄せられる。
人前だからもうちょい加減を…いや、今日はトドメを刺さなきゃいけないんだからこのくらいで恥ずかしがってちゃ駄目ね。
「なぁ、これ終わったら本当に飲みに行こうぜ」
「祝杯ってこと?いいわね」
至近距離でコソコソと話をする。
騎士目当てで集まっていたファンの集団からの視線が痛い。
「ちょっと!何してんのよ!!」
甲高い声があたしたちの雰囲気を裂く。
ここからが正念場ね。
「カイル様どういうことなんですか、二人は別れたんでしょう!?」
「別れてないとちゃんとお伝えしたはずですが」
「けど…その女が…!!それにハンカチ!受け取って下さったでしょう!?」
「ああ、それなんですけど、てっきり怪我の手当て用に親切で貸して下さったのだとばかり思っていまして。これはお返しいたします」
カイルがあたしの懐を探ってハンカチを取り出し、そのままエマニュエルに渡す。
ハンカチをあたしが所持していたことも、他のファンの目もある中で突き返されたことも信じられないのか、差し出されたハンカチを受け取ろうともせず呆然と見つめている。
こいつがいるのに告白の意味が込められた物は受け取れないので、とカイルが説明しているが耳に届いているだろうか。
「カイル、それ貸して」
カイルの手からハンカチを取り上げあたしの手でエマニュエルにもう一度突き出すと、彼女はその瞬間人を殺しそうな形相になった。
――もう一押し。
あたしはエマニュエルの手を強引に取り、ハンカチを無理やり渡した。
「この刺繍薔薇のつもり?虫かと思ったわ」
ごく小さな声で囁く。
でもこの距離ならあなたには届いたでしょう?
ごき、と自分の顔から鈍い音がした。
手を上げてくれれば助かるとは考えてたけど、平手じゃなくて拳で来るなんて。
なかなかやるじゃないエマニュエル。
リックさんの騒ぎから一週間、どうやらエマニュエルは外出禁止させられてるようだ。
それもそうだろう。訳有りで安く売り出されていたとはいえ、一等地の敷地に新しい店を建て何のノウハウもなく始めた商売は難航しているようで、ヤーコブ商会が慌てて手を貸しているようだが道を挟んだ向かいにもヤーコブ商会系列の店があり下手をすれば食い合うだけであまり利点もない立地である。
更に件のリックさんの事件だ。
本来主力かつ看板になるはずだったリックさんを、アンゲルス鍛冶屋に泥を被せ損ねた挙げ句に悪評を一身に集めたため解雇としたのも大きいだろう。
もし悲劇の男としての宣伝が成功していたなら、もっといい意味で注目を集められたのだろうが…。
これだけやらかしてお咎めなしと言う程甘い親ではなかったようだ。
――そして今日。
ようやく外出禁止が解かれたらしいエマニュエルが他のファンを押し退けカイルに纏わりついているのを確認し、余裕な足取りを心掛け近付いて行く。
「イーリィ」
カイルに声を掛けようとした時、相手の方から気付いてくれた。
無表情からのあたしを見つけた途端の微笑み。
見せつけられるようにあたしに甘くして欲しいとは頼んだが、ここまでの合格点を叩き出してくれるとは。
エマニュエルの方を伺えば暗い影を落としたような表情になっている。
まずまずの出だしね。
「カイル。お疲れ様」
「おう。今日は気分的にビールでも行きたい気分だ。酒場にでも寄るか」
「お酒飲むのはいいけどあたしに絡まないでよ。あんた酔うとベタベタ触ってくるんだから」
「触られてまずいことねぇだろ。嫌か?」
「…嫌じゃないから困るの。外でああいうのは恥ずかしいわ」
カイルの言葉に演技じゃなく恥ずかしくなって目を伏せれば、肩を抱かれ目蓋に口付けられる。
もう、上出来すぎて困るわ。
そのまま手が腰に移動し、引き寄せられる。
人前だからもうちょい加減を…いや、今日はトドメを刺さなきゃいけないんだからこのくらいで恥ずかしがってちゃ駄目ね。
「なぁ、これ終わったら本当に飲みに行こうぜ」
「祝杯ってこと?いいわね」
至近距離でコソコソと話をする。
騎士目当てで集まっていたファンの集団からの視線が痛い。
「ちょっと!何してんのよ!!」
甲高い声があたしたちの雰囲気を裂く。
ここからが正念場ね。
「カイル様どういうことなんですか、二人は別れたんでしょう!?」
「別れてないとちゃんとお伝えしたはずですが」
「けど…その女が…!!それにハンカチ!受け取って下さったでしょう!?」
「ああ、それなんですけど、てっきり怪我の手当て用に親切で貸して下さったのだとばかり思っていまして。これはお返しいたします」
カイルがあたしの懐を探ってハンカチを取り出し、そのままエマニュエルに渡す。
ハンカチをあたしが所持していたことも、他のファンの目もある中で突き返されたことも信じられないのか、差し出されたハンカチを受け取ろうともせず呆然と見つめている。
こいつがいるのに告白の意味が込められた物は受け取れないので、とカイルが説明しているが耳に届いているだろうか。
「カイル、それ貸して」
カイルの手からハンカチを取り上げあたしの手でエマニュエルにもう一度突き出すと、彼女はその瞬間人を殺しそうな形相になった。
――もう一押し。
あたしはエマニュエルの手を強引に取り、ハンカチを無理やり渡した。
「この刺繍薔薇のつもり?虫かと思ったわ」
ごく小さな声で囁く。
でもこの距離ならあなたには届いたでしょう?
ごき、と自分の顔から鈍い音がした。
手を上げてくれれば助かるとは考えてたけど、平手じゃなくて拳で来るなんて。
なかなかやるじゃないエマニュエル。
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